罪人のシュラ   作:ウソツキ・ジャンマルコ

64 / 67
病室の中

 

 

マキオが目を覚ますとそこは、医療班がいる小さな病院のベッドだった。

 

肩に痛みを覚えたが、それでバニラの事も思い出し、急いで体を起こして部屋をでる。

廊下には、数人の団員と一緒に、コノハがいた。

マキオは、コノハに駆け寄る。

 

「コノハ!……バニラは!?」

 

「マキオ君…こっちへ」

 

コノハは、少し悲しそうな顔をして団員に断り、マキオをある部屋へ連れていく。

ドアを開けると、バニラがベッドに寝ている。

口には酸素マスクがつけられ、体から、何本もの細いチューブが出ていた。

 

「!?」

 

マキオは唖然とした。

ベッドに横たわるバニラには、あの儚くも強いバニラの姿はなかった。

マキオは、言葉が出てこなかった。

コノハはバニラに近づき、手を握ってバニラに語りかける。

 

「バニラ…マキオ君が来てくれたよ」

 

横たわるバニラは何も反応せず、酸素の出るシューっという音が部屋に悲しく響く。

 

マキオは部屋の入り口から、それ以上バニラに近づく事は出来ず、下がるように部屋を出て、

近くのベンチに腰を下ろし、頭を抱えた。

コノハがマキオの後を追って、部屋から出てきた。

マキオの隣に腰を下ろす。

 

「マキオ君…落ち込んじゃダメだよ。

 バニラの手術はうまくいったんだからね。

 あとは、回復するのを待つだけ。

 バニラは、すぐに元気になるよ。

 だから……ね?」

 

コノハは、マキオの背中を優しく撫でてくれた。

 

マキオは、自分が情けなかった。

バニラを守る事など、微塵も出来なかった自分が、情けなかった。

弱いって事が、このシュラの世界ではどんなに無力かを思い知った。

 

しばらくコノハは、そのまま背中を撫でてくれていたから、

マキオは顔を上げて、

 

「ありがとう、コノハ。

 大丈夫だよ。

 俺も、バニラが元気になるって信じてるから」

 

と、なんとか笑って見せた。

コノハも、悲しく笑いながらうなずくと、

 

「ちょっと前に、カイトが目を覚まして…

 マキオ君が起きたら、来て欲しいって。

 カイトは、廊下を突き当たって、左の部屋にいる」

 

マキオもうなずき、カイトの部屋に向かう。

ドアを開けると、カイトがベッドに腰かけていた。

カイトの頭や体は包帯で巻かれ、足には大きめのギブスをはめている。

カイトはマキオに気づき、軽く手をあげる。

 

「マキオ…大丈夫か?」

 

マキオはゆっくりと部屋に入り、カイトの隣に座った。

 

「ああ…俺より、カイトの方が重症だろ?

 怪我は、どうなんだよ?」

 

カイトは、無理に笑って見せながら、

 

「全然平気だっつーの。

 辛気臭い顔をしてんなよ。

 足が折れてるのが、ちょっとしくじったかなって程度だ」

 

「そう……元気そうで良かったよ」

 

「ああ……ごめんな、マキオ。

 お前らを守れなくて…」

 

「………いいよ。

 カイトのせいじゃない」

 

「いや、俺がちゃんと前もって指示を出しておかなかったのが、

 こうなった原因だから…」

 

「……違うよ……相手が悪すぎたんだ…」

 

「…」

 

「…」

 

二人は、同時にあの時の事を思い出し、喋れなくなった。

しばらくすると、カイトがマキオに言う。

 

「マキオ、悪いけど俺は動けないから、ちょっと片桐を連れて来てくれないか?」

 

「……ああ、わかった」

 

十数分後、マキオは片桐を連れてカイトの病室に訪れ、起きた事をすべて話した。

片桐は黙って聞きながら、話が終わると静かにこう言った。

 

「……話はわかりました。

 でも、今のままでは団が機能しませんので、少し時間をおきましょうか。

 お二人は、まず怪我を治してください。

 団長には、連絡をしていますから、すぐに戻ると思います。

 対応はそれから考える事にしましょう」

 

そう言って、病室を出ていった。

 

___________________________

 

その3日後に団長とニーナは帰って来た。

キツネは、イグニスで調査を続けているらしい。

 

団長は、カイトの病室にバニラ以外の幹部を集め、今後の対応を考える。

 

カイトが、

 

「団長、今回は本当にすまん。

 俺が先走ってしまった。

 情けないけど……後先を考えている余裕を持てていなかったよ

 決して、キメラをなめていたワケじゃないが……気持ちが強くなり過ぎていた。

 今、冷静に考えて、本当にそれがわかるよ。

 ……悪かった」

 

と、カイトは頭を下げる。

団長は、頭を上げるように言い、

 

「いいや…今回、皆がやってくれた事は間違っていない。

 ただ、相手が悪かっただけだ。

 私がここにいても、きっと同じ事をしたと思うよ。

 

 結果は出なかったが、デイライトのウノハナからもお礼を言ってもらっている。

 バニラも意識を取り戻してるし、時間をかければ、怪我も治る。

 他の団員や自警団の人達もそうだ。

 

 それに、幸いな事に死者は出ていない。

 だから皆、自分を責めるのはやめよう」

 

それぞれは、八雲の言葉に軽くうなずく。

片桐が、八雲に尋ねる。

 

「今後の事ですが、どうしますか?」

 

「ウノハナが言うには、ロデオソウルズには気にせずにココにいて欲しいそうだ。

 十分に、住民の信頼を得ているからと。

 そしてキメラの事は、お互いに諦めようと言ってる」

 

カイトは、何かを言いたいようだが、必死でそれを堪えているようで、

体を小刻みに震わせている。

他の幹部も皆、落胆の色を表していた。

 

片桐が横目でそれを見てから、八雲に言う。

 

「では、団長も今回の件は、ここで終わりにするという判断ですね」

 

皆が八雲に注目する。

 

「……いいや、少し考えている事がある」

 

カイトが急いで答えを求める。

 

「なんだよ?」

 

「……今はまだ言えない、

 だが、このままで終わりにはしない」

 

片桐が尋ねる。

 

「しかし今、戦える人数は限られていますよ。

 あまり危険な事は避けるべきではないですか?」

 

「ああ……わかってるよ…リスクは避けるつもりだ。

 だが、このままでは終わらせない。

 なんらかの決着をつけるつもりだから、皆は少し待っていてくれ

 

 だから、イグニスに向かうのはそれからだ。

 以上だ」

 

八雲は、皆を見ずに席を立ち病室を去った。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。