「カイト、調査って言っても一体、何を探すんだよ?」
「ああ…今、考えてるところ」
「キメラの事、何か知ってたりしないのか?」
「俺は大して知らないなぁ…」
「バニラは?」
バニラは首を横に振る。
「そうか……巣とかあるのかな?」
「それくらいは、あるだろ。
飯も食えば、うんこもするだろうし…」
「じゃあ…そういうのを、探す?」
「でも、どんな巣なのかわかるか?」
「…いや」
「どんなうんこか、知ってるか?」
「…いや」
「そういう事だよ」
「じゃあ、どうするんだよ…」
「さあね…とりあえず山ん中を歩いて、何か変なものがないか探そうぜ」
「変なものって……」
三人は、山を三時間ほど探索した。
そして、カイトが休憩だと言って、木陰に腰を下ろし、
エリーが用意してくれた、弁当を二人に配る。
それを食べながら、マキオがカイトに話しかける。
「カイトは、えっと……キメラだっけ?」
「ああ」
「見た事は、一度もないのか?」
「ないよ…だって、夜の山や森にしかいないんだぜ?
わざわざ命の危険をおかしてまで、バケモノを見ようとは思わないよ」
「そうだよね…
でも、なんで夜の山なんかにいるんだろうな。
だって、元々は罪人を殺す為に、このシュラにいるんだろ?
夜の山なんかじゃなくて、昼間の街の方が、罪人は溢れてるだろ?」
「俺も最初はそこに疑問を持ったよ。
だけど、キメラはやっぱり動物なんだから、その習性みたいなもんで、
夜行性に戻ったり、山を好んだりするって聞いたぞ」
「ふーん……じゃあ、ある意味、失敗作なんだな」
「失敗も成功も、人間が生き物を作るって事が間違いなんだよ」
「……そうだね」
三人は、午後も三時間ほど探索をして街に帰った。
その日の収穫は、何もなかった。
次の日も、三人で探索に出かけた。
マキオは、山を歩きながらカイトに話しかける。
「カイト…キメラは子供しか食べないのか?」
「さぁ…何でもたべるんじゃないのか?
山には、鹿とかイノシシとか、いっぱいいるんだし」
「じゃあさ…罠とか仕掛けてみるのは、どう?」
カイトは、立ち止まる。
「いいな…それ!」
「…そう?」
「バニラ…お前よく狩りをしてるだろ?
罠を作れるか?」
「…いいけど、エサは?」
「ああそっか…じゃあ、まずエサになる動物を取るか」
三人は、バニラの指導のもと、鹿やイノシシを捕まえる罠を作って仕掛けた。
バニラが二人に言う。
「これで明日まで待つ」
「明日かよ…じゃあ、今日はまたなんか探して歩くか…」
昼ごろまで歩き、昼食をとる。
カイトが、おにぎりを食べながら、手についたご飯粒を、
指で弾いて、バニラに飛ばす。
バニラは、無言でついたご飯粒を取る。
カイトは、それでもしつこく続けて、
ケラケラと楽しそうに笑っている。
バニラも、何の反応もせずに、ついたご飯粒を取る。
マキオはその二人を見て、
( この二人って、あんまり喋らないけど、仲いいのかなぁ?
バニラが喋らないのは、カイトに限った事じゃないけど…
でも、俺が初めてロデオソウルズに来た時も、この二人が世話してくれたんだよね。
やっぱり、隊長同士だから信頼してるって事か。
それ以上の仲だったりしないのかなぁ……?
まぁそんな事、聞けるわけないし、考えるのやめとこ )
その日も一日中探索したが、何も見つからなかった。
翌日、まずは罠を見に行くと、イノシシがかかっていた。
カイトが興奮している。
「すげーじゃん、バニラ!
マジで、イノシシ獲れてるし…」
イノシシの足には、針金がかかっていて、三人が近づくと、
大暴れしている。
「バニラ…コレどうすんの?」
カイトが聞くと、バニラは何も言わずに、背中から弓矢を取り出し、
暴れるイノシシに放つ。
矢は、イノシシの眉間を突き刺し、やがて動かなくなった。
カイトとマキオは、バニラの姿に呆然とした。
「…すげーな…バニラ」
カイトのもう一度、そう呟いた。
三人は、バニラの指導のもと、イノシシをエサにして大きめの罠を作った。
カイトが、バニラに言う。
「これで、また明日か?」
バニラはうなずく。
三人は、昨日と同じように昼食をとり、夕方まで探索をして戻った。
収穫は、イノシシだけだった。
次の日、三人はまず昨日しかけた罠を見に行く。
しかし、罠はしかけたままで、何もかかってはいなかった。
カイトがつぶやく。
「失敗か…バニラ、この罠は何日かもつか?」
「たぶん……」
「じゃあ…しばらくこのままで、様子をみるか…」
その日も、山を探索して、一日を終えた。
次の日も、その次の日も、何も収穫はなかった。
数日が過ぎた。
三人の間には、諦めムードと、若干の飽きが感じられた。
ある日、マキオがいつものように神社に向かうと、先に来ているバニラと一緒に、
なぜか医療班のコノハもいた。
「おはよう」
バニラとコノハが、マキオに挨拶をする。
「二人とも、おはよう…あれ?コノハ、どうしたの?」
「うん、私は山菜を取ろうと思って、バニラに話したら、一緒にくればって」
「あ…そう…でも、バニラ…危なくないかな?」
「大丈夫…私が守るから」
「…そっか」
マキオは、そう言いながら、危ないって言ったって、何もでないもんな…
本当にキメラはいるのかなぁ…?
そう思っていた。
しばらくすると、カイトも来て、今日は四人で山に入った。
歩きながら、カイトが、
「コノハ…ついてくるのはいいけど、気をつけろよな。
遊びじゃないんだから」
「わかってるよ。
それに、バニラちゃんもいるから、大丈夫だよ。
ねぇバニラちゃん?」
バニラはうなずく。
マキオは、バニラの顔が心なしか、いつもより楽しそうに見えた。
( やっぱりバニラも、女の子がいると楽しいんだな。
なんか、俺も嬉しいや )
コノハは、カイトに、
「遊びじゃないって言うけど、カイトの背中にあるのは何なの?」
「こ…これは…」
マキオも思っていた。
今日、カイトは背中にバーベキューセットを背負っていた。
コノハが、つっこむ。
「それって、遊びの道具っぽく見えるけど…?」
「違うって…
これは、昼飯の時に使うんだよ…」
「ええ?
昼ごはんは、いつもエリーさんと、私がお弁当を作ってるでしょ?」
「そうだけど…山の中は結構、冷える時があるから、たまには温かいものを食べようと…」
「ええ?私たちのお弁当に不満があるの?」
「そんなんじゃないってば!
これは、作戦の一つなんだよ」
「作戦?」
「そうさ…これでイノシシとかの肉を焼けば、匂いにつられてキメラが来るかもって思って…」
「ふ〜ん……まぁいいけど…」
「ってか、これ考えたのは、俺じゃないからな」
「へ?」
「バニラだよ…な?バニラ?」
バニラは、コクンとうなずいたが、少しだけ赤くなっているように見えた。
コノハは、そんなバニラを見て少しだけ、微笑んだ。
「そうなんだ…そういう事か…」
その日も、何の収穫もなく昼を迎え、四人はバーベキューをした。
マキオは、ただ楽しかった。
数日の山歩きは、少しマンネリ化していた為、良い刺激になった。
その上で、マキオが気になっている事をカイトに告げる。
「ねぇカイト」
「…ん?」
「もしかしたらさぁ…この山にキメラはいないんじゃないか?」
「……マキオもそう思ったか…」
「え?じゃあカイトも?」
「……まぁな…バニラはどう思う?」
バニラは何も言わず、首を傾げた。
わからない、といった感じだ。
カイトが肉を頬張りながら、話し出す。
「俺達が山を探索して、もう一週間以上になる。
でも、何の収穫もない。
俺の中でも、マキオが言ったように、
キメラはこの山にはいないんじゃないかって気がしてる。
ただ、子供が行方不明になってるのは、本当だろうから、
何か他の理由があるって事か……」
「他の理由って?
例えば?」
「わかるかよ……俺はコナンじゃねーよ…」
「そんな事わかって……」
そう言った時、マキオは何か違和感を感じた。
後ろか?
マキオは振り向く。
すると、かなり先の木陰に何かが動いた。
「カイト!」
マキオは叫んで、走り出す。
マキオのその姿を見て、三人ともマキオを追いかける。
カイトは走りながら、マキオに言う。
「どうした!マキオ!」
「なんかいたんだよ!」
「キメラか!」
「わかんないよ!」
四人は追いかけたが、先に何かがいるようには見えない。
カイトは叫ぶ。
「イノシシとかじゃないのか!」
「違う!」
10分ほど走ったが、それはどこにも見えなかった。
カイトがマキオに聞く。
「はぁ…はぁ…マキオ、足の速い俺達が追いかけて、追いつけないなんて……
本当に鹿とかでもないのか?」
「……ああ、違うよ」
「じゃ……一体、何に見えたんだよ?」
「…」
「…」
マキオは、小さな声で呟いた。
「……女の子だった」