罪人のシュラ   作:ウソツキ・ジャンマルコ

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山2

 

「カイト、調査って言っても一体、何を探すんだよ?」

 

「ああ…今、考えてるところ」

 

「キメラの事、何か知ってたりしないのか?」

 

「俺は大して知らないなぁ…」

 

「バニラは?」

 

バニラは首を横に振る。

 

「そうか……巣とかあるのかな?」

 

「それくらいは、あるだろ。

 飯も食えば、うんこもするだろうし…」

 

「じゃあ…そういうのを、探す?」

 

「でも、どんな巣なのかわかるか?」

 

「…いや」

 

「どんなうんこか、知ってるか?」

 

「…いや」

 

「そういう事だよ」

 

「じゃあ、どうするんだよ…」

 

「さあね…とりあえず山ん中を歩いて、何か変なものがないか探そうぜ」

 

「変なものって……」

 

三人は、山を三時間ほど探索した。

 

そして、カイトが休憩だと言って、木陰に腰を下ろし、

エリーが用意してくれた、弁当を二人に配る。

それを食べながら、マキオがカイトに話しかける。

 

「カイトは、えっと……キメラだっけ?」

 

「ああ」

 

「見た事は、一度もないのか?」

 

「ないよ…だって、夜の山や森にしかいないんだぜ?

 わざわざ命の危険をおかしてまで、バケモノを見ようとは思わないよ」

 

「そうだよね…

 でも、なんで夜の山なんかにいるんだろうな。

 だって、元々は罪人を殺す為に、このシュラにいるんだろ?

 夜の山なんかじゃなくて、昼間の街の方が、罪人は溢れてるだろ?」

 

「俺も最初はそこに疑問を持ったよ。

 だけど、キメラはやっぱり動物なんだから、その習性みたいなもんで、

 夜行性に戻ったり、山を好んだりするって聞いたぞ」

 

「ふーん……じゃあ、ある意味、失敗作なんだな」

 

「失敗も成功も、人間が生き物を作るって事が間違いなんだよ」

 

「……そうだね」

 

三人は、午後も三時間ほど探索をして街に帰った。

その日の収穫は、何もなかった。

 

次の日も、三人で探索に出かけた。

 

マキオは、山を歩きながらカイトに話しかける。

 

「カイト…キメラは子供しか食べないのか?」

 

「さぁ…何でもたべるんじゃないのか?

 山には、鹿とかイノシシとか、いっぱいいるんだし」

 

「じゃあさ…罠とか仕掛けてみるのは、どう?」

 

カイトは、立ち止まる。

 

「いいな…それ!」

 

「…そう?」

 

「バニラ…お前よく狩りをしてるだろ?

 罠を作れるか?」

 

「…いいけど、エサは?」

 

「ああそっか…じゃあ、まずエサになる動物を取るか」

 

三人は、バニラの指導のもと、鹿やイノシシを捕まえる罠を作って仕掛けた。

バニラが二人に言う。

 

「これで明日まで待つ」

 

「明日かよ…じゃあ、今日はまたなんか探して歩くか…」

 

昼ごろまで歩き、昼食をとる。

 

カイトが、おにぎりを食べながら、手についたご飯粒を、

指で弾いて、バニラに飛ばす。

バニラは、無言でついたご飯粒を取る。

カイトは、それでもしつこく続けて、

ケラケラと楽しそうに笑っている。

バニラも、何の反応もせずに、ついたご飯粒を取る。

 

マキオはその二人を見て、

 

( この二人って、あんまり喋らないけど、仲いいのかなぁ?

  バニラが喋らないのは、カイトに限った事じゃないけど…

 

  でも、俺が初めてロデオソウルズに来た時も、この二人が世話してくれたんだよね。

  やっぱり、隊長同士だから信頼してるって事か。

  それ以上の仲だったりしないのかなぁ……? 

  

  まぁそんな事、聞けるわけないし、考えるのやめとこ )

 

その日も一日中探索したが、何も見つからなかった。

 

翌日、まずは罠を見に行くと、イノシシがかかっていた。

カイトが興奮している。

 

「すげーじゃん、バニラ!

 マジで、イノシシ獲れてるし…」

 

イノシシの足には、針金がかかっていて、三人が近づくと、

大暴れしている。

 

「バニラ…コレどうすんの?」

 

カイトが聞くと、バニラは何も言わずに、背中から弓矢を取り出し、

暴れるイノシシに放つ。

矢は、イノシシの眉間を突き刺し、やがて動かなくなった。

 

カイトとマキオは、バニラの姿に呆然とした。

 

「…すげーな…バニラ」

 

カイトのもう一度、そう呟いた。

 

三人は、バニラの指導のもと、イノシシをエサにして大きめの罠を作った。

カイトが、バニラに言う。

 

「これで、また明日か?」

 

バニラはうなずく。

 

三人は、昨日と同じように昼食をとり、夕方まで探索をして戻った。

収穫は、イノシシだけだった。

 

次の日、三人はまず昨日しかけた罠を見に行く。

しかし、罠はしかけたままで、何もかかってはいなかった。

カイトがつぶやく。

 

「失敗か…バニラ、この罠は何日かもつか?」

 

「たぶん……」

 

「じゃあ…しばらくこのままで、様子をみるか…」

 

その日も、山を探索して、一日を終えた。

次の日も、その次の日も、何も収穫はなかった。

数日が過ぎた。

三人の間には、諦めムードと、若干の飽きが感じられた。

 

ある日、マキオがいつものように神社に向かうと、先に来ているバニラと一緒に、

なぜか医療班のコノハもいた。

 

「おはよう」

 

バニラとコノハが、マキオに挨拶をする。

 

「二人とも、おはよう…あれ?コノハ、どうしたの?」

 

「うん、私は山菜を取ろうと思って、バニラに話したら、一緒にくればって」

 

「あ…そう…でも、バニラ…危なくないかな?」

 

「大丈夫…私が守るから」

 

「…そっか」

 

マキオは、そう言いながら、危ないって言ったって、何もでないもんな…

本当にキメラはいるのかなぁ…?

 

そう思っていた。

 

しばらくすると、カイトも来て、今日は四人で山に入った。

歩きながら、カイトが、

 

「コノハ…ついてくるのはいいけど、気をつけろよな。

 遊びじゃないんだから」

 

「わかってるよ。

 それに、バニラちゃんもいるから、大丈夫だよ。

 ねぇバニラちゃん?」

 

バニラはうなずく。

マキオは、バニラの顔が心なしか、いつもより楽しそうに見えた。

 

( やっぱりバニラも、女の子がいると楽しいんだな。

  なんか、俺も嬉しいや )

 

コノハは、カイトに、

 

「遊びじゃないって言うけど、カイトの背中にあるのは何なの?」

 

「こ…これは…」

 

マキオも思っていた。

今日、カイトは背中にバーベキューセットを背負っていた。

コノハが、つっこむ。

 

「それって、遊びの道具っぽく見えるけど…?」

 

「違うって…

 これは、昼飯の時に使うんだよ…」

 

「ええ?

 昼ごはんは、いつもエリーさんと、私がお弁当を作ってるでしょ?」

 

「そうだけど…山の中は結構、冷える時があるから、たまには温かいものを食べようと…」

 

「ええ?私たちのお弁当に不満があるの?」

 

「そんなんじゃないってば!

 これは、作戦の一つなんだよ」

 

「作戦?」

 

「そうさ…これでイノシシとかの肉を焼けば、匂いにつられてキメラが来るかもって思って…」

 

「ふ〜ん……まぁいいけど…」

 

「ってか、これ考えたのは、俺じゃないからな」

 

「へ?」

 

「バニラだよ…な?バニラ?」

 

バニラは、コクンとうなずいたが、少しだけ赤くなっているように見えた。

コノハは、そんなバニラを見て少しだけ、微笑んだ。

 

「そうなんだ…そういう事か…」

 

その日も、何の収穫もなく昼を迎え、四人はバーベキューをした。

マキオは、ただ楽しかった。

数日の山歩きは、少しマンネリ化していた為、良い刺激になった。

その上で、マキオが気になっている事をカイトに告げる。

 

「ねぇカイト」

 

「…ん?」

 

「もしかしたらさぁ…この山にキメラはいないんじゃないか?」

 

「……マキオもそう思ったか…」

 

「え?じゃあカイトも?」

 

「……まぁな…バニラはどう思う?」

 

バニラは何も言わず、首を傾げた。

わからない、といった感じだ。

カイトが肉を頬張りながら、話し出す。

 

「俺達が山を探索して、もう一週間以上になる。

 でも、何の収穫もない。

 俺の中でも、マキオが言ったように、

 キメラはこの山にはいないんじゃないかって気がしてる。

 

 ただ、子供が行方不明になってるのは、本当だろうから、

 何か他の理由があるって事か……」

 

「他の理由って?

 例えば?」

 

「わかるかよ……俺はコナンじゃねーよ…」

 

「そんな事わかって……」

 

そう言った時、マキオは何か違和感を感じた。

 

後ろか?

 

マキオは振り向く。

 

すると、かなり先の木陰に何かが動いた。

 

「カイト!」

 

マキオは叫んで、走り出す。

マキオのその姿を見て、三人ともマキオを追いかける。

カイトは走りながら、マキオに言う。

 

「どうした!マキオ!」

 

「なんかいたんだよ!」

 

「キメラか!」

 

「わかんないよ!」

 

四人は追いかけたが、先に何かがいるようには見えない。

カイトは叫ぶ。

 

「イノシシとかじゃないのか!」

 

「違う!」

 

10分ほど走ったが、それはどこにも見えなかった。

カイトがマキオに聞く。

 

「はぁ…はぁ…マキオ、足の速い俺達が追いかけて、追いつけないなんて……

 本当に鹿とかでもないのか?」

 

「……ああ、違うよ」

 

「じゃ……一体、何に見えたんだよ?」

 

「…」

 

「…」

 

マキオは、小さな声で呟いた。

 

「……女の子だった」

 

 


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