ある日の午前中。
マキオはカイトに呼び出され、街外れの神社にいた。
マキオが待っていると、そこに来たのは、カイトではなく、バニラだった。
「バニラ?」
「おはよう、マキオ」
「お…おはよう…
どうしてバニラが?」
「今日、私も行くから」
「行くって…どこに?」
「…カイトから聞いてないの?」
「うん…ただここに来いって言われただけで…」
「…そう……今日は、ちょっと危険かもしれないから、覚悟しておいて」
「え?…危険って…何なの?」
「今日は、調査」
「なんの?」
「バケモノ」
「は?」
「今日はこの山にいるバケモノを、調査するのが、私達の目的よ」
「えー!!ど…どうして俺が?……戦ったりできないよ?」
「カイトが、マキオも連れて行くって言ってた」
「なんだよアイツ……どうして説明しないんだよ…」
そう言っていると、カイトがやって来た。
「おっはー、二人とも来てるな。
んじゃ、行くか」
マキオはカイトに詰め寄り、カイトの体をゆさぶる。
「おっはーじゃないよ!!
どうして、バケモノの事を俺には言わないんだよ!」
「ちょっと、マキオ…落ち着けって!
バケモノの事を言うと、お前は嫌がって来ないかもしれないだろ?」
「当たり前だよ!
嫌だよ、バケモノの相手なんて!
戦いもできない俺が行ってどうすんだよ!」
「わかってるって…マキオ…ちょっと、一回落ち着こうぜ?…な?」
マキオは、やっとカイトの体から手を離した。
珍しく興奮しているマキオを見て、バニラもカイトを責める。
「カイト……マキオに内緒にしてたのは、良くないよ」
「ああ…悪かったよ、謝るよ。
ごめんな…マキオ」
「……ああ、こっちこそ取り乱しちゃって…ごめん。
でも、どうして俺なんだよ?」
「説明するよ」
カイトは、石段に腰掛けて、マキオに説明する。
「この間、片桐が、デイライトのウノハナさんに話しを聞いたんだ。
この山に、子供をさらって食べるバケモノがいるらしいって。
んで、世話になってる俺らが、なんとかそのバケモノを退治できないかって、
片桐に相談されたんだよ。
ただ、俺らもどんなバケモノかわからないと、なんとも言えないから、
街の人達に聞いてみたんだよ。
でも、そのバケモノを見た奴はいないんだ。
街の人達が言うには、見たら最後、食われて死ぬだけだから、誰も見てないんだとさ。
だから、バケモノの情報が何もないんだ。
そこで、俺はちょっと思い出したんだよ。
バニラとマキオは、前にいた温泉の村で、団の子供が行方不明になった時、
確か、神社で見たよな?………キメラを」
マキオは、バニラと顔を見合わせると、バニラがうなずいた。
マキオは、キメラを思い出していた。
と、言うよりバケモノと言われた時に、すでに思い出していた。
だからこそ、あの時のなんとも言えない奇妙な姿が頭に浮かび、
その恐怖で取り乱してしまったのだった。
キメラは、マッドサイエンティストの作った生物兵器だ。
その実験で、このシュラに生息させられている。
「ああ……見たよ。
でも、僕がついて行く意味はあるかな?
情けないけど、バニラも見てるから、戦えるバニラがいれば、僕はいらないだろ?」
カイトが首を横に振る。
「バニラにも聞いたよ。
そしたら、もしあのキメラが相手なら、俺ら二人だけで倒せるとは思えないって。
ただ、片桐の話じゃ、キメラは色んなタイプがいるらしい。
もしかしたら、この山にいるのは、あのタイプじゃないかもしれない。
だから、まずは確認をしておいて、対処策を考えようって事になったんだ。
そして、マキオ……お前が必要な理由は、キメラを確認できても、
俺達二人がもし襲われたら、その情報を伝える奴がいなくなる。
だから、足の早いお前に逃げてもらって、片桐に伝えて欲しいんだよ。
それに、お前は勘が鋭いから、キメラを見つけやすいと思ってな。
頼むよ、手伝ってくれ」
マキオは、嫌だった。
あのキメラにも、会いたくなかったし、もしもの時に二人を置いて逃げるのも嫌だった。
「…」
「マキオ、お前に懐いているあのガキどもが、犠牲になるのはお前も嫌だろ?
あいつらの為でもあるんだ。
だから頼むよ、今回の仕事には、お前が必要なんだ」
「……他に一緒に行ってくれる人はいないのか?
大勢で行った方が、倒しやすいだろ?」
「いや、ひとまずは調査をしてからだ。
じゃないと、無駄にこっちの犠牲が増えては、元も子もないからな」
「ニーナさんとかは、手伝ってくれないのか?」
「ニーナは今、団長とキツネの三人で、イグニスの状況を調べに行ってて不在だ。
それに、団の隊長がもしも、三人もやられてしまったら、団が困ってしまうだろ?
今、考えられるベストなメンバーが、この三人なんだよ」
「…はぁ…わかったよ。
最初から、そう説明しておいてくれれば、良かったんだよ。
手伝うけど……本当に俺で大丈夫かな……?」
カイトは石段から飛び上がるように、立ち上がる。
「だいじょーブイ!
よっしゃー!んじゃ行くか」
カイトは、張り切って山を登って行く。
キメラに会うのが、どうやら楽しみなようだ。
その姿を眺めながら、ため息をついているマキオの肩に、バニラがそっと手をかける。
「…大丈夫。
マキオは、私が守るから」
マキオは頑張ろうと決めた。
(……でも…嬉しいけど、本当は俺がバニラを守りらなきゃいけないのにな…
なんか、複雑……)
二人も、カイトの後に続いて山に入って行った。
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