イグニス地方、山中の街。
ロデオソウルズは、再びある団と行動を共にしていた。
マキオが街にある広い空き地で、
三人の子供に囲まれている。
「おじちゃん、鬼ごっこしよう」
「しよ、しよ」
「おじちゃんが鬼ね」
マキオは、子供達に手を引っ張られながら、塀に押し付けられる。
マキオは、仕方ないと笑いながら壁に手をつき数を数える。
「1…2…3…」
(やれやれ、もう子供と1時間以上遊んでる気がする……
カイトは何も言ってこないけど、仕事をおしつけてくれないかな…
楽しくないわけじゃないけど…このままじゃ、逃げる事もできないよ。
ふぅ……しかし、鬼ごっこなんて久しぶりだな…いつ以来だかもわからないや…)
10まで、数えたマキオは、逃げ回る子供達を追いかけている。
5分後には、子供達もいつのまにか10人以上に増えていて、
鬼ごっこだったはずが、泥団子をぶつける戦いに変わっていた。
その姿を、バニラと歩いていたコノハが見かける。
「ああ、バニラちゃん見て。
マキオ君が子供達と遊んでるよ。
マキオ君は、優しそうだから子供も懐きやすいのかもだね」
「…うん、そうだね」
コノハには、バニラが少し羨ましそうに眺めているような気がした。
「バニラもさ、もう少し笑顔でいたら、きっと子供にも好かれると思うよ?
可愛いんだし…
ねぇ…ちょっと笑ってみて?」
「…」
「ねぇってばぁ…
照れなくていいから、ちょっと笑ってみてよ…バニラ」
「…笑ってる」
Gaaaan!
「……そっか……
こういのは、得意な人にまかせようか…バニラ。
無理は良くないよね」
コノハは、バニラの顔を見ないようにして、二人は手に抱えていた山菜やウサギを、
街の中に作られている共同厨房の方に持って行く。
その様子を少し離れた二階建ての住宅から、片桐と一人の男が眺めていた。
片桐が男に話しかける。
「本当にこの団は、子供が多いですね…ウノハナさん」
「ええ…住んでいる住民の三分の一が10代以下の子達ですから。
あと、この『デイライト』は、戦いをする団ではなく、生活を共にするというコミュニティですから、
お間違えないように」
「そうでしたね…失礼しました。
しかし……今まで見た組織の中でも、子供の比率がここまで多いところは、ありませんでした。
運営もそうとう大変なのではありませんか?」
「そうですね…しかし、デイライトの始まりは、他と同じような団でしたから。
あなた方の団と同じように、ノマドで動いている時に、子供達と出会い、
世話をしていくうちに、次第にそうなっていき、この場所に落ち着いたんです。
初めの頃に比べれば、人が増えた分苦労もありますが、子供達が多いからとは、
考えていませんね。
むしろ、彼らがいてくれるおかげで、今では大人達もここで生きる意味…というのを見つけている気がします。
助けられているのは、おそらくこっちの方でしょう」
「素晴らしいですね…感服いたします」
「ハハハハ…やめてくださいよ、片桐殿。
しかし、そうは言っていても、我々にもあなたが考えてるように、
頭が痛い事もありますからね…」
「どのような?
もし、私達でお力になれる事でしたら、助力しますよ。
お世話になっているのですから」
「ええ…ですが…」
「…」
「……やめておきましょう…あなた方にも危険が及ぶかもしれない」
「…せめて、お話だけでも…」
「…」
「…」
「…そうですか…では、聞き流していただいて結構ですから…
ご存知の通り、この場所は山に囲まれており、
ほとんどの事は、自給自足で賄う事が出来ています。
しかし山には……奇妙な生物がいるのを、あなた方もご存知でしょう?
子供達には、危険だからと立ち入らせないよう注意しておりますが、
子供というのは、好奇心が強いですから、どうしても山に入ってしまい、
犠牲が出る事も、少なくない。
かといって、対処法も考えつかなくて……ただ怯えるしかないという状況です。
何度か我々も山を越えて、街にある団に力を借りようとしたのですが、
助ける代わりに、子供を何人か差し出せと言う団もありまして……
まぁ……山に住む限り、諦めるしかないとは理解しているのですがね…
目の前にいる子供が犠牲になるというのは………わかっていても非常に辛いものがあります」
片桐は、神妙な表情で話しを聞いている。
「……」
「片桐さん…聞き流して頂きたい。
まぁ、大勢で暮らしているのですから、あなた方と同様、
我々も悩みはあります。
あなた方も、大変ですね………これからイグニスに向かうのは…
今は、かなり荒れていると聞いてますよ。
まぁ、少しでもゆっくりしていってください。
子供達も、新しい仲間ができたとよろこんでる」
「……ええ……お世話になります」
片桐は、同じ表情のまま、頷いた。