罪人のシュラ   作:ウソツキ・ジャンマルコ

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推測

 

アズマがトイレから戻り、テーブルにつこうと思ったら、

クメには女の子が集まり、スグリには上司が集まり、

ダイゴには、男が集まっていた。

 

アズマは、そのまま誰もいないテラス席に行き、椅子に腰掛ける。

空は薄曇りのようで、星も月も見えなかった。

ふとポケットをさぐり、タバコを取り出してくわえた。

マッチを探すが、どのポケットにも入っていない。

 

鼻からため息を抜くと、横からライターの火が差し出された。

見上げると、大神少佐がいた。

 

大神少佐は、シノノメに入ったばかりの頃から、アズマを目に掛けてくれている。

アズマが最も信頼を寄せている、上司だった。

 

アズマは少し微笑んで、タバコに火をつけた。

 

「大神さん…すみません」

 

「いいさ…今回のMVPだしな」

 

大神は、隣の椅子に腰を下ろし、自分もタバコを取り出し、火をつける。

アズマに微笑みかける。

 

「調子は良さそうだな…アズマ」

 

「ええ…百人隊長に推薦してくれた大神さんに、恥じないようにやってますよ」

 

「別に、私じゃなくてもアズマなら、誰かが推薦してたよ」

 

「どうですかね」

 

「まぁ、アズマのおかげで私の株が上がってる事は、間違いない事実さ」

 

「少しでもお力になれているなら、嬉しいですよ」

 

「ああ…ところで、今回の相手はどうだった?」

 

「ええ、特別警戒するような罪人はいませんでしたので、無難な方だったと思います」

 

「そうか、今日の相手でその位余裕を持ててるという事は、

 やはり強さは百人隊長の中でも、早くもトップクラスのようだな」

 

「言い過ぎですよ」

 

「いや、最近は特に忙しかったはずだが、それでも大丈夫だったんだ。

 自信を持っていいさ」

 

「ありがとうございます」

 

「上層部も、アズマを含め若い隊長達が良く育ってると、喜んでるよ」

 

「主に、ミツイの事だとは思いますが?」

 

「まぁ、それはあるだろうが、彼の怪我で出来た穴も、皆がうまく埋めてくれている。

 そういえば、ミツイもそろそろ退院じゃないのか?」

 

「ええ、この前、葵に聞いたら来週のはじめにでも退院の予定だそうです」

 

「そうか、大事に至らなくて本当に良かったよ」

 

「そうですね…ただ、しばらくリハビリをしてからの復帰になるようですよ」

 

「ああ、だがミツイなら、復帰してまたバリバリやってくれるだろう」

 

「ええ、俺達はまた引き立て役に逆戻りです」

 

「豪華な引き立て役だな…まったく。

 あ……そうだ、アズマの耳にも入れときたい話があるんだったよ」

 

「?」

 

「まだ噂の範疇ではあるんだが、近々、シュラに大きな動きがあるかもしれん」

 

「どのような?」

 

「大きな罪人団体や組織が集まって、対傭兵団専用の部隊を作る計画しているらしい」

 

「傭兵専用…ですか?」

 

「ああ…過去にも何度か噂は出ていたんだが、実現はしていない

 ただ、今回は可能性が高いようなんだ」

 

「…その理由があるのですか?」

 

「理由と言えるのかはわからないが、今の各傭兵団の戦力が充実している事が、まず一つの要因だろう。

 証拠として、一時期は低迷していた罪人の処刑数も、現在は過去最高に並ぶほどに回復してきている。

 罪人にとっては、ありがたくない話だろう」

 

「そうですね…大神さん達の成果という事ですよね」

 

「まぁな…だからある意味、良い傾向の副産物のようなものでもある。

 しかし、もし実現した時は警戒しなければならん

 今までにない、驚異になる可能性もあるからな」

 

「どのようなクラスの罪人が組織されるか、予想はあるんですか?」

 

「いいや…まったく不明だよ」

 

「例えば…前回の……ノクターンとか…」

 

「フフフフ…それはないだろう。

 ノクターンの属するマスカレードは、罪人達からも憎まれている。

 連合組織にとっても彼らは、シュラのガン細胞のような存在になるだろう」

 

「では…どのような罪人が?」

 

「そうだな…私の推測にしかならないが、シュラの四天王と言われる団、

 

 『ニューワールド』『ジュライ』『ディアボロス』『ネクロマンサー』

 

 これらからの選抜が、核なんじゃないか、というぐらいだな。

 後は、危険指定に入っている、

 

 『ケルベロス』『バスタード』『プッシーキャット』

 

 等が協力する可能性は高いな」

 

「…」

 

「まぁ、まだ決まったわけじゃない。

 一応、可能性を知っておいてほしいという段階だ」

 

「しかし、何も対応策は考えてられてはないのですか?」

 

「さぁな…少なくとも私は聞いてないよ。

 対抗して、各傭兵団から選抜隊でも作るぐらいは、考えられるがね」

 

「……そうですか」

 

「いつだって、問題は起きるものだ。

 私も頭が痛いよ」

 

「少佐になったとしても、大変なんですね」

 

「ああ……君も覚えておいた方がいい」

 

アズマが空を見上げると、いつのまにかぼんやりと月が顔を覗かせていた。

 

 


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