ベナディール地方の都市部。
アズマ隊は、他の隊4隊と共同作戦中だった。
3組の犯罪組織が合併の会合を開いてい、という情報が入り、
その現場に、傭兵団が踏み込んだ。
ターゲットの隊長クラスの罪人は、三十人以上という大捕物となっていた。
先頭範囲は、都市部一面に広がっている。
ある広い道路で、十数人の傭兵達が、一人の罪人を囲んでいる。
罪人の周りには、傭兵の死体が何体も転がっている。
罪人の男が、野太刀を肩に担ぎ、笑っている。
「どうした…もう来ないのか?」
「くっ…」
傭兵達は、互いに牽制し合っている。
「おい…誰か、行けよ!」
「……俺は…もう少し後で…」
「おい、お前の隊の奴がやられたんだぞ…やり返せよ」
「…あんたらは、助けに来てんだろ…行ってくれ…」
男が、一歩踏み込み野太刀を振り回す。
傭兵達は、後ろに飛び退いた。
「ふん……なんだ、ちょっと野太刀についた血を、
振り落としただけだ。
そんなに、ビビるな!」
「お…おい!誰か、隊長クラスを呼んで連れてきてくれっ」
三人の傭兵が、振り返り走り出す。
男がそれを見て、
「ふん……自分達じゃどうにも出来んから、
ボスに頼むのか?…情けない奴らだ…
お前らに処刑された、部下どもが可哀想だ」
「なんとでも言え!
お前の事はわかってんだ…ヘイズの副団長、ビザン!」
「ふん……だったら、さっさと向かって来い…
俺を倒せば、懸賞金ゲットのチャンスだろ?」
「……」
傭兵達は少しずつ近くビザンに、ジリジリと後退させられる。
そこに、また十数人の傭兵がかけてくる。
「応援か……?…助かった!」
走ってくる傭兵達は、必死の形相だった。
「ち……違う!……あいつらも追われてるぞ!」
傭兵達の後ろには、一人の罪人が斧を片手に走っている。
「ヤバい……あいつは、ドルイドの一番隊隊長、ヤナギだ!」
柳は傭兵に追いつき、二人の頭をかち割る。
「オラオラー!
もっと早く走らないと、もう追いついちまうぞ!」
次第に傭兵達は、ビザンとヤナギに挟まれていく。
その5分後…
ビザンが、野太刀に着いた血を、布でふいている。
「ふん…たった二人に向かっても来れないとは…
情けない奴らだ」
ヤナギが、道に転がっている傭兵達の耳を削ぎ、
首に下げている針金に通していく。
「なぁ、ビザンの旦那。
どうして、会合がバレてんだ?」
「さあな、どうせ誰かが情報を漏らしたんだろう。
あまり乗り気じゃなかった、ヘルマークの奴らの誰かじゃないか?」
「へへっ…まぁおかげで、派手な合併記念になったぜ」
傭兵も、運良く戦歴の浅い奴らばかりみたいだしな」
「ふん…どうせ戦えない罪人を相手にしてきたんだろう…
敵を前に逃げるなど、男の風上にも置けん奴らだったな。
俺は、こういう奴らを見ると、虫酸が走る」
ビザンはそう言って、倒れた傭兵の顔を踏み潰す。
「ひゃー、噂通り、鬼の副団長ビザン様だな!
うちの団の奴らも、音を上げるぞこりゃ…」
「よし、逃走経路はわかってる。
もう行こうか」
「あいよ!あんたがいるなら、心強いぜ」
二人は、南へ駆け出していく。
「なぁ、ビザんの旦那…
最近、傭兵達の勢いが凄くねぇか?
これじゃ、ろくに領地の縄張り争いもやってられねぇぜ?」
「ああ。
だが、その勢いももうすぐ無くなるだろう。
やっとアレが出来るらしいからな」
「本当なのかよ?
どうせ、またデマなんじゃねぇのか?」
「いや、今回は本当だろう。
少なくとも、この合併もそこに加入する為のものだ。
うちの団長は、そう言って合併に踏み切ったんだからな」
「そうかよ…本当なら、ワクワクする話だぜ…」
二人が公園を抜けようとすると、三人の傭兵が休憩している。
「ふん…なんだあいつら、戦闘中にも関わらずサボっているのか!」
「らしいなぁ…呑気なもんだぜ…
おい、しかもベンチに座ってる奴以外は、女じゃねぇか…」
「ふん……ふざけている!
俺は、ああいう男が一番許せんのだ!」
ビザンは、三人の傭兵に向かって行く。
女が、近づいてくる二人に気づき、座っている男の後ろに隠れる。
ビザンが野太刀を光らせながら、男に話しかけた。
「おい……今が戦闘中だとわかっているのか?」
「……」
男は、ただビザンを座ったまま見上げている。
後ろから、ヤナギがつぶやく。
「あ~あ、運が悪かったな…にいちゃん。
ビザンの旦那に見つかるとはなぁ…
おお旦那~、しかもこいつ、刀を杖のようにしてるぜ?
これもマイナス査定じゃねぇか?」
「ふん…けしからん奴だ!」
それでも男は立たない。
「……ビザン?」
「ああ、俺がヘイズの副団長ビザンだ。
懸賞金の為に、戦ってみるか?」
「……あ、いいっす…メンドーなんで」
「貴様!」
ビザンは男に野立ちを振り下ろした。
男ごと、ベンチも真っ二つになった。
と、思ったが男はいつのまにか避けて、立ち上がっていた。
「ほう……面白い奴だな…」
ビザンが少し楽しそうに、笑う。
男は、それを見て二人の女の子に言った。
「君達、もう隊に戻りな。
隊長達が心配するといけないからさ」
女の子達は男を心配している。
「大丈夫?」
「うん」
「じゃぁ…ケガしないでね、クメ君」
二人は逃げていった。
ビザンは、少し感心している。
「ほう……女を逃すとは、意外と悪くないぞ」
「そう……つーか、なんで声かけてくるかなぁ?
追われてるのは、おたくらでしょ…」
「ふん…俺は、貴様のような軟弱な男は許せんのだ。
だから、鍛えてやろうと思ってな」
「大きなお世話だよ。
人の心配するよりも、自分の人生を悔い改めろよな」
後ろから、ヤナギが斧を振り回し、ビザンを囃し立てる。
「旦那~!なかなかの生意気さじゃねぇか?
やりがいがありそうだぜぇ?」
「ふん……まったくだ。
ヤナギ……俺の獲物だ……手を出すなよ!」
「了解!」
二人がそう声を掛け合った時には、二人の首は跳ねあげられ、
宙を舞っていた。
クメが、刀についた血を、布でぬぐう。
「…ヤナギ?
こいつも、隊長クラスだったかな…
今夜は、アズマさんに褒めてもらえそうだな…」