罪人のシュラ   作:ウソツキ・ジャンマルコ

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屋上3

 

ミツイは、アヤネが嘘をついているとは思えなかったが、

心から信じる事も出来なかった。

自分が命を捧げているシノノメ傭兵団に、裏切り者がいるなんて、考えたくなかった。

 

「その日記を、見せてくれない?」

 

「無理よ」

 

「どうして?」

 

「もう、ないの」

 

「その…ある人が持ってるって事?」

 

「いいえ、渡せなかった」

 

「どうして!?」

 

「兄さんが死んだ次の日、私の家は燃やされたの」

 

「!?」

 

「日記も一緒にね」

 

「家が…?」

 

「ええ。

 その火事で、両親も姉も死んだわ」

 

「……」

 

「私だけ助かったの………でも、見て」

 

アヤネは、着ていたブラウスのボタンを外した。

その体は、胸から腹まで、真っ赤に引きつっている。

見えないが、下半身にも続いている事は、容易に想像できた。

 

「一年間、入院してた。

 そのあと、身寄りのない私は、母方の親戚がロンドンに住んでいて、

 その家に引き取られた」

 

「家を燃やしたのは……」

 

「犯人は逮捕された。

 傭兵じゃなかったわ。

 

 あの、知ってるよね?

 シュラで起きる戦闘で、どっちが勝つかを賭けるギャンブルの……」

 

「えっと……シュラズ・ミリオンの事?」

 

「そう、それで兄さんに大金を賭けてて、負けた男が恨んで燃やしたんだって」

 

「本当なの?」

 

「さぁ……私も一年間入院してたから、調べようもなくって…」

 

「……じゃあ、それで日記も…」

 

「ええ、家は全焼だったから……私が動けるようになってから、すぐに家に行ったら、

 更地になってた」

 

「って事は、証拠は何も」

 

「ええ、何も残ってない」

 

「……そう」

 

「ただ、私はシノノメ傭兵団に入るつもりだったの」

 

「……そうか…それで落とされたって…」

 

「うん、私は傭兵養成所の首席だったから」

 

「……変だね」

 

ミツイは、話を聞いて少し疑問に思った事を尋ねる。

 

「嫌な話をするけど、いい?」

 

「何?」

 

「お兄さんが戦った時の映像があると思うんだけど…観た?」

 

シュラでの戦闘は、全てバグカムで撮られている為、必ず映像が残っているはずだった。

 

「ええ、観たわ」

 

「どうだったの?」

 

「確かに相手は、ノクターンだった」

 

「……でも、アヤネさんは…」

 

「見た目はね」

 

「?」

 

「ノクターンは仮面をつけてるでしょ?」

 

「!」

 

ミツイは、アヤネの言っている事が、真実のような気がしてきた。

確かに、証拠は何もないのだが…

不思議と、何か辻褄が合っているような、

気味の悪い感じだった。

 

「この話を知ってる人は、何人かいるの?」

 

「うん…信頼できる数人だけ」

 

「それで、どうして僕に?

 悪いけど、証拠もない話だよ。

 僕が信じない可能性だって、あるはずだ」

 

「うん…でもミツイ君は、この話を忘れないでしょ?」

 

「え?」

 

「もし信じないとしても、黙ってて欲しいって言ったら、

 きっと喋らないと思ったし…

 

 いずれ、シノノメ傭兵団の顔になる人が、

 この話を知っている…

 それだけでも、話をしてみる価値はあるはずだから…」

 

「……」

 

「ごめんね」

 

「ああ」

 

「…」

 

「…」

 

「部屋に…もどろっか」

 

「…」

 

アヤネは立ち上がり、ミツイの車椅子を押す。

 

「…ごめんね」

アヤネは、もう一度、そうつぶやいた。

 

「………アヤネさん」

 

「?」

 

「車椅子……変わらなくていいの?」

 

アヤネは少し涙目で笑ったが、ミツイには見えなかった。

ただ、ほのかな涙声で、

 

「……また…来てもいい?」

 

「……桃が熟れすぎる前に、おいでよ」

 

 

 


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