シノノメ傭兵団専属病院。
ミツイの病室。
四人の団員の女の子達が、見舞いにきている。
「はい、ミツイさん、りんご切りましたから。
どーぞ、あーん…」
「あ、いや…今はいいよ。
ありがとう……後で頂くね」
「そうですか?
では、色が変わっちゃうから、塩水とってきまーす」
一人は、病室を出て行く。
「でねミツイさん。
そのカフェのパスタがすっごく美味しいんです。
きっと、ミツイさんも好きな味だと思うから、今度いっしょに行きましょ!」
「ああ…退院したら…そのうち…ね」
「そのお店、近くに海があってぇ…
きっと、ドライブとかも楽しい……」
その子を遮って、他の団員が割って入る。
「それより、ミツイさん。
今度私の誕生日なんですけど、
友達が誕生会をやってくれるんです。
で、ぜひミツイさんにも、来て欲しいなぁって…」
「ああ、そうなんだ…おめでとう。
…で…いつなの?」
「今週の土曜日です!」
「…そっかぁ…残念だけど、まだ退院できないな…
花だけでも贈らせてもらうよ」
「そっかぁ…やっぱりむりですかぁ…」
落ち込む女の子を、押しのけて違う子が話しだす。
「ミツイさん、コレどうぞ!」
本をミツイに差し出す。
「あ…ありがとう……何の本なのかな…」
「ミツイさん、病院じゃ面白いこと何もないでしょ?
身体も勝手には動かせないだろうしぃ…」
「…う…ん」
「だから……きっと、あっちの方もぉ…大変だろうなって思ってぇ?」
「あっち?」
「…それでぇ、あたしのぉ…」
女の子は、ミツイの耳元に口をよせる。
「恥ずかしい写真を…アルバムにしましたからぁ…
こっそりぃ…使ってくださいねぇ…」
ミツイは、急いで彼女から離れる。
「あ…そう…機会があれば…ね」
すると、ドアが開き、塩水を持って女の子が入って来る。
りんごを塩水に鼻歌まじりにつけている。
今度は、またさっきの誕生日の子が、
「ミツイさん!じゃあ誕生会を、この部屋でやりましょうよ!
そうすれば、参加出来るじゃないですか!」
「いや…それはまずいよ…ここは病室だから…」
「こっそりやれば、バレませんよぉ!
なんなら…二人っきりでも…」
「ああ!じゃあ、私が飾り付けしますよ!
この部屋、質素でさみしいですよね!
ミツイさん、どんな色の部屋にしたいですか?」
「じゃ!あたし、料理作って来ますねぇ!
ミツイさん、ビーフストロガノフ好きですかぁ?」
ミツイの言葉は、誰も聞かずに、女の子達は騒いでいる。
すると、部屋がノックされる。
「はーいっ!!」
女の子達が一斉に、返事をする。
部屋に、副長の葵が入って来る。
女の子達は、静かになった。
「あの、皆さん…
ミツイ隊長とお楽しみ中、申し訳ないのですが、
今から、アリアケ少佐がお見えになるので、今日はお引き取りをお願いしますね」
「あ……ハーィ…ミツイさん、また来ますねぇ!」
「お大事にしてください、ミツイさん」
「…りんご…食べてくださいね」
「写真…内緒ですョ!」
女の子達は、いそいそと出ていった。
ミツイは、深いため息をついた。
「はぁ…助かったよ。
……アリアケ少佐、一緒に来たの?」
葵は、開けていた窓を閉め、
見舞いで贈られてきた花を束ねる。
「……いいえ、来てないわ」
「え?」
「外に声が聞こえてきてたから…
ミツイが大変そうかなと思って…嘘ついたの」
「なんだ…ありがとう、本当に助かったよ…葵」
葵は、花束の茎を切って、用意していた花瓶に水を入れ、飾っていく。
「…さっき、ナースの人に聞いたけど、毎日あんな感じらしいわね」
「…ああ…まあ…」
「流行ってるパンケーキのお店より、お見舞いの女の子達が多いって言ってたわよ」
「…そう…かな…」
「……ほんとに休めてるの?」
「ああ、ちゃんと静かに…してるよ……僕はね…」
「もう…ミツイは、こういう時でもないと、休まないんだから、
……いっそ、面会謝絶にしてもらおうかな…」
「いや、上層部の人も来るから、それはちょっと…」
「ジョーダンだし……
早く良くなってよね、私が大変なのよ?」
「うん、わかってる…ごめんね」
ミツイは、少しうつむく。
葵は、その姿を見て、微笑んで小さくため息をつく。
「……桃」
「…?……モモ?」
葵が持って来たカバンから、紙袋を取り出す。
「好きでしょ?
………持って来たけど……今、食べる?」
「うん!」
ミツイは、満面の笑みをこぼす。
葵も、笑顔で座り、桃にナイフを入れる。
部屋中に、甘い香りが広がる。
たくさんの花に囲まれた病室で、葵が微笑みながら、桃を切っている。
ミツイは、その景色を見ながら初めて、
入院も悪くないな…と感じていた。