シノノメテラス。
日本に8箇所ある、シノノメ傭兵団の所有する団員専用の宿泊施設の一つ。
施設内は、高級ホテルのようになっており、団員は自由に使用できる。
主に、シュラに近い西日本に建てられいる。
施設内のカフェで、アズマが隊員のスグリ、クメ、ダイゴと話をしている。
副長のスグリ、がタブレットを操作しながら、
「アズマくん、今回の団「バリケード」戦は、記念すべき戦いになりましたよ」
アズマが、カフェオレを飲みながら尋ねる。
「記念?……何の事?」
「今回のバリケード、ガライ団長で、アズマ隊の結成から数えて、ちょうど五十人目の団長処刑です」
それを聞いて、ダイゴがジョッキを片手に、アズマと肩を組んではしゃぐ。
二人の顔を見て、スグリも微笑む。
「しかも、それだけじゃなくて、団の壊滅もちょうど30組になってます」
「オオッ!すげーじゃねぇか!アズマ!
そうだ!
今日と明日は、ちょうど休息日だから、隊員集めてハデに騒ごうぜ?」
クメが、ドーナツを食べながらダイゴに冷たい視線をおくる。
「ダイゴさんは、いつもハデに騒いでるじゃないですか…追跡中だって…」
「うるせぇよ、クメ!
そんなツッコミはいいから、お前は他の隊にいる、お前のファンの女達も呼べ!」
「ダイゴさんに言われたって、嫌ですよ…
まぁアズマさんがやるって言うなら、呼びますけど……」
「やるよな?アズマ…なぁやろうぜ?」
ダイゴがアズマの肩を揺する。
「ハハハ…そうだなぁ…
でもスグリ、前もそんな事言ってたけど、
よくそんな数字わかるね。
どこかに掲示してあったっけ?」
スグリが、タブレットを抱きしめて答える。
「いいえ!
全て、副長である私が、毎戦もれなく計測していますので!
アズマくんの事は全て、この私の頭の中に入っております!
星座から、好物、趣味趣向、好きな色、犬派猫派、姓名判断、動物占い、尻フェチまで!
アズマくん……褒めて…くれます?」
「あ…そう…なんだ…ハハ。
あ…りがとね…スグリ」
アズマは苦笑いをする。
「はい!」
スグリは嬉しそうだ。
クメが、メロンソーダのストローをくわえて話す。
「でも、今回で50って、結構ペース早くないですか?
スグリさん、2ヶ月前に30いくつとか言ってましたよね?」
スグリが、タブレットに目を落とす。
「ええそうよ。
この1ヶ月で……14人も追加されたから」
クメが、背中を椅子にあずけて、軽く息を吐く。
「やっぱり、そうか。
どうりでなんか最近、疲れるなぁって思ってたんですよ。
アズマさん、ハイペース過ぎですよぉ。
僕は、のんびりハントが好きだなぁ…」
スグリが、少し困った顔で答える。
「仕方ないでしょ?
最近アズマ隊に入ってくる情報や要請が、
一気に増えてるから」
それを聞いて、ダイゴが肩を組んだまま、アズマに尋ねる。
「それは、やっぱりあいつの怪我が原因か…
アズマ、病院には見舞いに行ったんだろ?
どうだったんだ?」
「ああ…
ミツイは、元気だったよ。
入院は1ヶ月くらいだって言ってた」
ダイゴは、少し心配そうな顔をしながら、
「そうか……まぁ、あいつも働き過ぎだったからな、
少し長めの休暇だと思ってればいいさ。
な?アズマ?」
「ああ、ミツイもそう言ってたよ。
心配しないで欲しいってさ」
スグリが、タブレットに目を移す。
「でも、一気にこれだけ情報が増えるって事は、
それだけ、ミツイ隊が忙しかったって事ですね。
だって、現在もミツイ隊は、葵副長が引き継いで、
休隊にはしてないんだから」
アズマが、カップに砂糖を足しながら答える。
「ああ、葵も頑張ってるよ。
ミツイがいなくても、まだ他の隊よりも忙しそうだった」
すると、クメがアズマに微笑む。
「うちは、アズマさんが休みの時は、
絶対に休隊にしてくださいね……絶対に」
スグリがクメの肩をはたく。
「ちょっと、クメくん!
縁起でもない事を言わないの。
…それよりも、クメくんには隊長試験の要請が、
何度も来てるのに、ずっと受けないままでいるつもり?」
クメは、また椅子にもたれて、ストローをくわえる。
ダイゴが、クメを睨む。
「…なんで俺のとこには来ないのに、後輩のお前だけ、要請が来てるんだよ!」
「…さぁね…知りませんよ、そんな事。
体に比べて、器が小さいのが、ダメなんじゃないですか?」
ダイゴがおしぼりをクメに投げる。
クメは、首を傾けてかわす。
スグリがダイゴをいさめる。
「まぁまぁ…ダイゴさんにもそのうち来ますよ。
アズマくんは、とっくに判定を送ってますから」
アズマは、クメに尋ねる。
「クメは、受けないのか?」
クメは手をひらひらと振る。
「僕は、めんどーな事は苦手ですから。
命令をされる方が合ってますよ」
スグリが言う。
「おかしいわね…
命令を無視してサボってる時もよくあるじゃない。
…アズマくん、せっかくだから、今日は厳しく言いましょう!」
クメは、思わぬ攻撃を受けそうになって、慌てて矛先を変える。
「それは……僕だけじゃなくて…
ダイゴさんも命令無視して、つっこんで行きますよ!
この間も、他の隊のとこまで行って、ターゲットを勢いで殺って、
そこの隊長に怒られてました!」
「クメ…っばか!」
ダイゴが慌てる。
スグリはダイゴを鋭い目で睨む。
「その話は聞いてませんねぇ?
ダイゴさん……どういう事?」
「…そ…それは」
ダイゴはアズマを見るが、知らない顔でカフェオレを飲んでいる。
「ダイゴさん!
そういう事を黙っていると、アズマ隊に迷惑がかかるんです!
向こうにも謝ってないんですからね!」
ダイゴは、190センチを超え130キロの巨体を出来るだけ、小さくする。
「いつの件で、どこの場所で、どういう状況で、誰を殺して、どこの隊に迷惑をかけたのか…
2時間以内に、報告書を提出してください!
いいですね!」
「……はぃ…」
クメは、そのダイゴの姿を見て、足をバタつかせながら、満足そうに微笑んでいる。
「……クメくん」
クメは、スグリを見ると鋭い目だけが、自分に向けられていて、ビクッとなる。
「…あなた、知ってて黙ってたのね…
…報告書…よろしく」
「……」
くわえていたストローが、地面に落ちる。
スグリが、腕を組んで二人をにらみながら、アズマに言う。
「もう…アズマくんからも、何か言ってあげてよ。
アズマ隊のエース達がこれじゃ、他の隊にバカにされますよ…」
知らん顔をしていたアズマだったが、少し姿勢を正し、目をつぶり、
咳払いをした。
「コホン…ええと…二人には、スグリともども期待と信頼を寄せてるから、
厳しく言ってるんだ。
アズマ隊も、もう小隊ではなく百人隊になったんだから、
もう少し、自覚を持ってもらいたい…」
そう言って片目を開けると、シュンとする二人の反省の姿を見て、
スグリも満足そうにしている。
「じゃあ、二人とも報告書をしっかり書いて提出してくれ。
………その後は、
隊員を集めて、騒ぐ準備をしよう」
二人は立ち上がり、報告書を書く為、笑顔で急ぎ、自室に戻っていく。
その後ろ姿を見送って、
スグリは、テーブルに置いていたオレンジジュースのグラスを、
少しだけ上げてアズマに向け、微笑む。
アズマは軽くうなずいて、カップをそっとグラスに当てた。