イオナが、目を覚ますと、見慣れた天井が見えた。
「イオナ」
声がした方に顔を向けると、サラスがいた。
そして、気を失う前の出来事を思い出し、
自分が、談話室のソファに横になってる事を認識した。
起き上がろうとして、全身に走る痛みに気づく。
サラスが近寄って、そっと手を添えて起こしてくれた。
ありがとう…と言いたいが、全身の痛みで声が出せず、
呻くような音が口から漏れた。
サラスが、優しく語りかける。
「大丈夫か?
何も喋らなくていい。
あと、身体は痛いだろうが心配するな、
調べてもらったが、怪我はしてないから」
サラスにそう言われて、イオナは思い出した。
気を失う前のことを。
…そうだ、ニーナに向かっていった時、
刀をかわされて、何か当て身のようなものをくらったんだ。
この痛みは、その時のものだ。
イオナは、痛みに耐えるために閉じていた目を開けると、
その部屋には、サラスの他にロデオソウルズの幹部達がいた。
イオナの体は、反射的に強張った。
そのイオナの反応を見て、サラスが説明する。
「大丈夫だ。
彼らの事は心配ない」
サラスの後に、ニーナが口を開く。
「イオナ、さっきは悪かったね。
……でも、良い太刀筋だった」
イオナは、少しだけうなずいた。
そして、サラスが説明を続ける。
「イオナ、混乱していると思うけど、
今から彼らに、今の状況を説明してもらうから、
イオナも俺と一緒に聞いてくれ…いいかい?」
イオナは、サラスの目を見て、ゆっくりうなずく。
それを見て八雲が、片桐に目で合図をすると、
片桐が話を始める。
「サラスさん、イオナさん、
突然、こんな事になり驚かせてしまって、すみませんでしたね。
これから簡単にですが、説明しますね。
理解できないかもしれませんが、聞いておいてください」
二人は、顔を見合わせてうなずいた。
「我々ロデオソウルズは、ワケあって、イグニス地方に向かっております。
ただ、ここからイグニスに行くには、ブラッドベリーの領地を通らなければなりませんでした。
そこで、八雲団長と知り合いのメイジ団長率いるステイゴールドに協力する形で、
お互いに便宜を図るつもりでした。
しかし、残念な事に、そちらの幹部の方が、我々を裏切ってしまったんです。
敵に情報を流されてしまい、そのおかげで、うちのカイトが危険な目にあいました。
そんな事をされて黙っていられる程、うちの団長は大人ではありませんから…そし」
そう言った所で、片桐の頭に空のペットボトルが当たる。
片桐は、無反応で話を続ける。
「…そして、二人ともご覧になった通り、裏切り者はニーナが始末しました。
しかし、それではステイゴールドの戦力は大きく落ちます。
我々は、協力すると言った手前、このままでは申し訳ないので、
協力の形として、ブラッドベリーの幹部も始末をしてきました。
全員ではありません。
一番隊隊長のガレインは生かしてます。
理由は、二つ。
一つ目は、ステイゴールドの敵を我々が全て倒すのは、少し筋が違うかも、という事。
二つ目は、ブラッドベリーにも1万人以上の人がいますから、その人々が、
突然幹部が全員死んで、混乱しないように、というのが理由です。
まぁ…これで混乱するなというのは、無理な話かもしれませんが…
ちなみに、こちらに残った幹部は、あなた方二人だけですので。
本当なら、一番隊隊長のマークスさんも、裏切り者ではなかったのですが、
何故か行方不明になっています。
まぁ…というわけで、我々ロデオソウルズは、ここにいる理由も、もうありませんから、
今から、イグニスに向かいます。
あと、最後に一応、原因と言いますか、この話が嘘じゃないという証拠と言いますか…」
片桐がそう言うと、バニラが重そうに、大きなズタ袋を引きずってきた。
袋の口を、バニラがナイフで切ると、中から手足をしばられ、さるぐつわをされた、
ブラッドベリーの団長の深見が転がって出てきた。
「!?」
驚く二人に、片桐が話をする。
「深見団長です。
八雲団長の好意で、生かして持ってきました。
今現在、ステイゴールドの代表はサラスさん、あなたですから。
一応お渡ししようかと思っているのですが…
いります?」
サラスは、どう答えて良いのかわからなかった。
「ええっと…いりますと聞かれても…」
「あの…幹部はほとんど始末しましたが、
ステイゴールドと、ブラッドベリーの争いは、決着したワケではないので、
もしかしたら、今後あなたが、何かの交渉に使うかと思いまして…」
「いえ…結構です……自分達で何とか方法を…考えますから…」
サラスのその言葉を聞いて、片桐は少し困った顔をした。
すると八雲が少し口の端をあげて、片桐に言った。
「…だよね?
ほら、だから言ったんだ…片桐。
サラスは、そんな手は使わないと思うっ…て。
良いよ…片桐、こっちにもらおう」
そう言うと、八雲は立ち上がって、部屋を出て行く。
サラスが、八雲を呼び止める。
「八雲団長、ちょっと待ってください。
どうして俺達に黙ってたんですか!
どうして…こんな方法を…!
相談してくれれば、きっと…他に…手が…」
「ああ…そうかもな。
でも私は、私が決めた事をやっただけだ。
これからは、サラスが自分で思う事をやればいい」
「そんな事を急に言われても…」
「いや…サラスは私に言ったはずだ。
守っていく覚悟があるって…」
サラスは、ハッとして何も言えなかった。
八雲は何も言わず、そのまま部屋を出ていった。
片桐は、バニラともう一度、深見を袋に詰めながら言った。
「サラスさん…勘違いしてはダメですよ?
八雲団長は、正義の味方じゃありませんからね?
絶対に…」