次の日。
カイト、バニラ、鳴子の三人は、ブラッドベリー参謀の白河が廃病院に迎えに来て、
街の中心部にある、ブラッドベリーの基地に連れてこられた。
白河が、基地の入り口の前で振り返り、三人に伝える。
「今から作戦会議の為に、団長のいる部屋に向かう。
だがその前に、お前達三人の持っている武器を預かる」
カイトが抵抗する。
「なんで武器を取り上げるんだよ?
俺らは、お前らの仲間になろうって言ってんだから、そんな事する必要ないだろ?」
「いや、深見団長はともかく、まだ俺はお前達を信用していない」
カイトは、少し間をおいて背中の槍を外しだした。
「なんなんだよ…
後でちゃんと返せよ!」
カイトは、しぶしぶ武器を入り口の兵に渡し、
バニラ、鳴子の二人もそれにならった。
部屋に着くと、ブラッドベリーの他の幹部の七名が先にいた。
部屋には、ホワイトボートと長い机が二列向かい合って並んでおり、それぞれ、
ブラッドベリーと、ロデオソウルズに分かれていた。
カイト達が席に着くと、ドアが開き、深見団長に続き、八雲が入ってきた。
八雲は手にグラスとワインボトルを持っている。
八雲が席に着くと、持っていたグラスにワインを注ぎ、
口にする。
ブラッドベリーの幹部らは、クスクスと笑いながら、
小声でしゃべっている。
「大丈夫か…この女?」
「仲間の首を切ったのが、ショックだったらしいぞ…」
「剣も振れないくせに、顔が可愛いだけで、団長になるからだよ…」
「こいつも、俺らと同じ幹部になるのかよ…?」
「…納得いかねぇな…」
八雲は、幹部達の様子を見て、手を上げる。
「悪いな…昨日から、飲まないとやってられなくて…
会議はちゃんと出来るから…気にしないでくれ」
参謀の白河が、ホワイトボードの前に立ち、一つ咳払いをする。
「オホン…では、これからステイゴールド殲滅の会議を始める。
まずは…」
会議は、それぞれの軽い紹介や動員可能な戦闘員数の報告など、滞りなく進んだ。
そして、白河から八雲へ説明が求められた。
「では今回の戦いから、我々の団に入団を希望されているロデオソウルズの団長、
八雲殿から、作戦説明をお願いします」
八雲は立ち上がり、少しふらつきながら、ホワイトボードの前に行く。
そして、マジックを取ろうとして、グラスを落としてしまった。
ガシャンと割れた音が部屋中に響き、
皆、一斉に八雲の方を見る。
その瞬間だった。
ブラッドベリーの幹部達の前に机が降ってきた。
一番隊隊長のガレインは、何が起きたのかわからなかったが、降ってきた机を押しのけ、とっさに腰の剣を抜く。
しかし、なぜか腰の剣に手が触れない。
視線を下におろしたと同時に、隣の光景に目が止まった。
幹部達の首が無くなっていたのだ。
そして、誰かが呼びかけてきた。
「おい」
ガレインは、状況がわからないままで、呼ばれた方を向くと、見慣れた剣先が目の前にあった。
その先に見えるのは、カイトの姿だ。
「…動くな」
そうつぶやいたのは、カイトではなく、八雲だった。
そして、その声を聞いたのは、ガレインだけではなく、もう一人いた。
団長の深見だ。
深見は目の前がぼやけている。
それから、八雲の声が近くで聞こえ、彼女が目の前にいる事がわかった。
八雲との距離が近すぎて、ぼやけているのだった。
そして、八雲の言葉を頭で理解すると、何が起きたかを判断した。
……襲われた!
そう思うと、反射的に対抗心が湧いた。
感覚を研ぎ澄ませると、自分の腰には剣がある事がわかり、
隙を突こうと考えた。
ぼやけた視界の向こうに、八雲の顔が見えている。
そして彼女がまばたきをした瞬間に、右手を腰に動かした。
が、その瞬間、火が着いたように、顔が熱くなる。
「がぁっ……!」
深見が自分の顔に手を当てると、右目に何か硬い物が刺さっている。
それからは、あまりの熱さに何も考えられなくなった。
その頃ガレインは、色んな音や声を聞きながら、じっとしていた。
しばらくすると、誰かに後ろで手をしばられた。
それでも、カイトの剣は当て続けられている。
その剣が、自分の物である事もわかった。
八雲の声がした。
「ガレイン、私はお前の事は知らない。
だが…これから、二つの事を言う。
それに2秒以内で答えろ……いいな?」
…2秒…?と、ガレインは思ったが、とにかく早く返事をした方が良いと判断し、
ガレインは、喉から声を絞り出した。
「…はい」
「私たちに二度と手を出すな」
「はい」
「今日からお前がここの人々を守っていけ」
「はい」
そう言うと、体は自由になった。
八雲達は、何も言わずに、またガレインに目も向けずに、部屋を出て行く。
カイトが、深見を肩に担ぎ上げ、出ていった。
今、ガレインに残ったものは、命が助かったという軽い安心感と、
目の前に広がる血の海だけだった。