八雲の部屋に、八雲と片桐がいる。
二人のもとを、ステイゴールドの幹部が訪れた。
二番隊隊長のサラスと、副長のイオナだ。
数日前、会議で二人に会っていたが、
他の幹部とは違い、二人とも少し若い。
また、積極的に自分たちの強さや成果を誇示する幹部とは違い、
控えめながら、その戦闘報告は正確であり、
その成果にも目を見張るものがあった。
片桐が、ステイゴールドの中では特に、この二人を高く評価していた事を、
八雲は先日聞いている。
サラスは、八雲から勧められた椅子に腰を掛けながら、話を始めた。
「すみません、八雲団長、片桐副団長。
突然お邪魔してしまい…」
片桐は窓際に立ち、八雲はベッドに腰掛けながら話を聞く。
「いや、私たちの方が世話になっているんだ。
気にしないでほしい」
「ありがとうございます。
ロデオソウルズは、若い団員が多いのですね」
「そうだな…でも、ヒューガにいた頃は、大人の人も多かったよ」
「そんなんですね…
ステイゴールドは、年配も多いですから、
若い人が大勢来られて、みな喜んでますよ。
団が明るくなりました」
「そう言ってもらえると、私達も嬉しいよ。
ね…片桐」
八雲は片桐に目をやる。
「ええ、物資の少なかった我々をこうして世話してくれているんです。
少しでも、お役に立てているなら、我々も気が楽になります」
「年寄りは、若い人達が好きですからね。
ただ歳を重ねると、人間…難しくなる事もあるんです」
サラスは、少しうつむく。
後ろに控えているイオナも目をふせた。
「…まぁ…わからなくはないが…」
八雲と片桐は、目を合わせ互いに、
この団に何かある事を悟った。
「八雲殿は、メイジ団長と親しいのですよね?」
「ああ、前に同じ団で一緒だった」
「その頃の、メイジ団長はどんな方でしたか?」
「……ああ…
当時、メイジは隊長をやっていた。
厳しい人間でね、私を含め若い団員は、ずいぶん説教をされたよ。
50歳をとうに超えていたが、怒らせると怖い男で皆ふるえていたな。
だが、面倒みが良いから若い団員も父親のように慕っていた。
メイジは、結婚にも子供にも、縁がなかったようだから、
隊員を自分の子供のようだと言っていた。
仲間思いの良い隊長だったよ。
きっと君らの事も、自分の子供のように思ってるんじゃないか」
「…そうですか…
それでは…やはり、メイジ団長は少し変わってしまったのかもしれませんね…」
「変わった?」
八雲は少し、首をかしげる。
「……実は…八雲殿にお願いがあってまいったのです。
メイジ団長を…説得してもらいたいのです」
「…説得」
八雲は片桐と、顔を見合わせる。
すると、今まで後ろで黙っていたイオナが口を開く。
「そうです…八雲団長!
お願いします……このままでは…
ステイゴールドはブラッドベリーに潰されてしまう…!
それは…最近来たばかりのあなた方にもわかりますよね!?」
八雲はイオナを見つめたまま、何も言わない。
代わりに片桐が、話を受ける。
「…しかし、一万人以上も団員がいるレッドベリーに対して、
半分の規模もないステイゴールドが、
よく善戦していると、我々も感心しているのですが…」
「今だけです!
なんとかギリギリで戦ってきたのです!
ステイゴールドには…年配の兵も多いですから…だからいずれ…!」
「イオナ」
少し興奮するイオナをサラスが制す。
八雲は、先をうながす。
「……それで?」
「この争いの原因は、団長のワガママなんです」
「?」
サラスは、苦い顔で話す。
「団長には…若い恋人がいます。
まだ二十歳のタニアという美しい女です」
片桐は、少し目を開く。
「ほう…二十歳とは…
メイジ団長もお元気ですね」
八雲は、片桐に冷たい目を向ける。
片桐は目を反らした。
サラスは、話を続ける。
「タニアは、元々ブラッドベリーにいました。
当時タニアは恋人関係にあったブラッドベリーの幹部を殺し、
逃げてきたんです。
それをメイジ団長が、かくまい…この争いの原因に…」
片桐は、少し目を細める。
「…きっかけは、団長の恋……ですか…」
「ええ……それでも初めはブラッドベリーもタニアを渡せば、それだけでいいと言っていました。
私達は、タニアを渡すようメイジ団長に頼んだのですが…」
八雲は、ため息まじりに答えた。
「…聞き入れてはもらえなかった…という事か」
「…ええ…私達は、タニア一人の為に多くの団員が危険にさらされてもいいのかと言いました…
団長は悩まれてはいましたが……結局タニアを手放しはしませんでした。
メイジ団長は、還暦を過ぎてる為、自分には…これが最後の恋だと…」
「……それで、今からタニアを渡せば、ブラッドベリーは納得して、
引き下がってくれるのか?」
「……正直それは、わかりません。
かなり、時間は経っていますし、争いで両方に犠牲も出ていますから…」
八雲と片桐は、目を合わせる。
片桐は、少しおどけるような感じで、両手を少しあげた。
団長の好きにどうぞ、というような仕草だった。
八雲は足を組み、少し黙った後、ゆっくりと答える。
「…話はわかった。
だが、説得は無理だ」
サラスとイオナに、落胆の色が浮かぶ。
「まず、私が説得したところで、メイジはタニアを離さない。
メイジの大事な団員である、君らが頼んでもダメだったんだ。
可能性はゼロと言っていい」
イオナが、美しい眉をひそめながらうつむいた。
「でも…このままでは…一人の女のせいで……皆の…4千人の命が……」
八雲は少し声を張り、答える。
「…まだ落ち込むのは早い。
ロデオソウルズも世話になってるんだ。
協力はする」
少しの沈黙の後、サラスは立ち上がり一礼をする。
「………八雲殿、
…無理をお願いして…申し訳ございませんでした…では、
失礼します」
二人は、肩を落とし部屋を後にした。