カイトは槍を構えるヒマもなく、ビエイラのレイピアは襲ってきた。
かいとは、なんとかかわすのが精一杯だった。
ビエイラは、突きを繰り出しながら笑っている。
「嬉しいね!有名人に!会えるってのは!」
「ああ…そうかい!…じゃサインあげるから!…この剣を!…収めてくれよ!」
カイトは、なんとかかわしながら、強がりを言う。
「ハハハっ!サイン!いいね欲しいねぇ!
ついでに!辞世の句も!書いておいてよ!
君の血で!」
男の突きのスピードは、速さを増してくる。
しかも、確実に急所を狙ってきている。
カイトは、得意の槍を振る為に、間合いをとりたかったが、男の速さは尋常じゃないため、
どんなに下がっても、間合いがとれなかった。
なんとか、一瞬の隙をついてビエイラを蹴り、
槍を構えた。
「いい槍だね、だけどここは廊下だよ?
狭い場所で、その長い槍は君の首を絞めちゃうんじゃない?
ま、そう思ってここに決めたのは、僕だけど…」
ビエイラの攻撃がくる。
なんとか槍で受けるが、剣先は一点のため、槍で受ける事も困難だった。
カイルは持ち前の身軽さで、剣先をギリギリでかわしていくが、
その度に、剣先は確実に目や、ノドといった急所をついてくる。
「どうした?ロデオソウルズの二番隊隊長、閃槍のカイトとは、
この程度か!」
長い廊下の中央で始まった戦いだが、ビエイラが繰り出す高速の突きにより、
避けてばかりのカイトは一気に廊下の端に追いやられた。
カイトはもう下がれない。
「行き止まりだねぇ、カイト…さぁチェックメイトだ!」
ビエイラが最後の突きを出した瞬間に、カイトは槍を後ろの壁に突き、
その反動で、ビエイラの頭上を越え、背後に飛び、距離を取った。
「面白いことをやるね…まだダンスを続けたいんだな!」
ビエイラは、疲れを知らないのか、再び高速の突きを繰り出す。
軽いレイピアだとしても、これだけ、連続で突きを繰り出せるとは、相当なスタミナだ。
避け続けるカイトだが、次第にビエイラの剣先はカイトの頬や首筋を傷つけ始める。
「おや?綺麗な顔に傷が増えてきたねぇ?
そろそろ、限界なんじゃない?」
カイトは、反撃に出たいが、狭い廊下のため、槍を振り回すことは不可能だ。
「君の、得意な槍技が見れなくて、残念だよ…
まぁ、ゆっくりと痛ぶってあげるから、傷だらけの天使にでもなりなよ!」
カイトはビエイラの突きを避けた瞬間、とっさに両側にあった窓ガラスを、槍を回転させて割る。
「何を!」
二人の身体には、ガラスの破片が飛び散り、ビエイラは一瞬だけ怯んだ。
その隙をついてカイトは、後方に全速力で走り出した。
「ははは、ついに逃げ出したか?
だが、残念だったね、
とっくに中央にある階段は過ぎてる、君の逃げ場はない!」
カイトは、廊下の端まで行くと振り返る。
ビエイラがこちらに向かって猛スピードで走って来る。
カイトは、先ほどの兵士に投げたように、
ビエイラめがけて、体をしならせて槍を全力で投げた。
槍はビエイラの身体に当たる……
その直前でかわされた。
「最後の抵抗で一本しかない武器を投げるとは…
勝負を投げたのと同じだ!
死ねカイト!」
ビエイラの最後の突きはカイトに届く五歩前に…
カイトの槍がビエイラの身体を貫く。
「…な……なぜ!?…槍は…一本しか…」
ビエイラは、自分に刺さっている、槍を引き抜いて気がついた。
「…み…短い………折ったのか?……ハハ……」
「見たかったんだろ?俺の槍…
それ記念にやるよ…じゃあな」
カイトは、頬の血をぬぐいながら、ビエイラの亡骸から離れて行く。