食料節約の為、調理班長のエリーに頼まれ、
マキオとカイトは、川で釣りをしている。
大きな岩の上から、二人並んで竿を立てている。
「ぜんぜん釣れないなぁ」
カイトはぼやく。
「そうだね」
マキオは、針を上げて餌がついているか、確かめている。
「マッキーはさぁ…釣れなかったら、何してくれんの?」
「は?何してくれるって…どういう事?」
「罰ゲームだよ、決まってんじゃん」
「そんなの聞いてないよ…何もしないし…」
「え〜…ノリ悪いなぁ」
「じゃあ、カイトは釣れなかったら何してくれるんだよ?」
「好きなヤツ教えるよ」
「マジで!?」
マキオは、ビックリして川に落ちそうになった。
「カカカッ、何してんだよ、もう…
落ちたら魚が逃げちゃうじゃん」
「いや…カイトがビックリさせるから…」
「別にビックリさせてないし。
マキオが勝手に驚いただけだろ?」
「マジで教えてくれんの?カイト?」
「ああ、いいよ」
「そっかぁ…じゃあ俺も恥ずかしいけど、負けたら言うよ」
「マキオは言わなくていいよ」
「は?なんで?」
「だって、マキオはバニラが好きなんだろ?」
「え〜!ど…どうして?…なんで?」
「カッカカカ…いや、知ってるし」
「誰に聞いたんだよ!」
「別に誰にも聞いてねぇよ。
聞かなくても、みんな知ってんじゃないの?
見てりゃわかるじゃん」
「マジかよ……」
「え?みんなにアピってたんじゃないの?」
「違うよ!
もう…やだなぁ…」
「へぇ…天然だなぁ…マッキーは」
「誰が天然なんだよ!
っていうか、カイトはマジで負けたら教えろよ!」
「いいよ〜別に〜」
「なんでそんな余裕なんだよ…
カイトみたいな騒がしいタイプは、魚釣れないと思うけどなぁ…」
「じゃあ、今からスタートして、先に釣った方が勝ちな。
よーいスタート!」
スタートと同時にカイトは、マキオの竿の先に石を投げた。
大きな水しぶきが上がるのを見て、カイトは笑っている。
「もう!やめろよ!まったく……
でも、カイトも好きな人なんて、いるんだなぁ…
誰なんだろう?」
「いるし。
普通だろ」
「いや、ぜんぜんそんな話しないから、恋愛とか興味ないと思ってたよ」
「そんな男同士で、あんまりそういう話しないっしょ?
ガキじゃないんだから…」
「そんな事ないよ…お酒飲んでる時とか、
みんな、よくそんな話してるよ?」
「みんなって?」
「タイジも、コータローも、タツヤなんか彼女いるのに、
誰が可愛いとか、しょっちゅう言ってるじゃん」
「だから、ガキなんだろ?あいつらは…」
「カイトもあんま歳は変わらないだろ?」
「精神的な話をしてんだよ。
あいつらは、頭ん中がガキなの」
「…ガキねぇ…よくわかんないけどさ」
「マキオは、何でバニラがいいんだよ?」
「…それは……い…色々だよ…」
「あいつ、オッパイ小っせぇーじゃん」
「はぁ〜!何言ってんだよもう…
そういう問題じゃないんだよ…
まったく…ガキなのは、カイトの方だな…」
「だって、顔が可愛いヤツなら、他にもいるだろ?
ミミミとか…ニーナとか…」
「なんで、そんな極端な人を例に出すんだよ…
可愛いとか言っちゃ問題がありそうな二人を出すんじゃないよ」
「バニラか……う〜ん…
守ってもらえそうだからとか?
あいつ強いからなぁ…」
「違うよ……
そうならないように、今頑張ってんだよ」
「ん?どういう意味?」
「だから…何かあった時には、
俺がバニラを守ってやれるように、苦手な戦闘の稽古をしてるんだからさぁ…
守ってもらえるとか、言わないでくれないかなぁ?」
「……ふ〜ん……そんな動機で、
稽古してたのかぁ…」
「そんな動機って!…そ…そういうワケじゃないけど……片桐さんにも、
好きな人がヤバい時に、弱いままでいいのかって、言われたし…
やっぱ、男なら好きになった人を守りたいってのは、本音だよ。
だから、頑張ってんの」
「…………」
「……ん?なんで何も言わないんだよ?」
「……別に」
「………なんだよ…無理だって思ってんのか…?」
「………思ってねぇよ…」
「……嘘だ!
俺なんて、強くなれないって言いたいんだろ!
自分で………死のうとしてたくせに……
それさえ…まともに出来なかった俺なんて……
カイトが助けてくれなきゃ、何も出来ないって思ってんだろ!?」
「………」
「……俺だってなぁ…カイトみたいに強くなれるなんて思ってないよ…
たださぁ……皆んなの、足手まといにはなりたくないんだ…
みんな………こんな俺と……仲良くしてくれるから……
だから……迷惑は掛けたくないだけなんだよ…
こんな俺だって…」
「足手まといなんかじゃねぇよ!
そんな風に……誰も思ってねぇよ!!」
「………何…怒ってんだよ…?」
「………怒って…ねぇよ」
「…………」
「……なぁ……足手まといなんて………言うな…
マキオがいてくれて、俺もすごく助かってるよ…
お前みたいに、いいヤツは…このシュラにはあんまいねぇから…
だから…マキオがいてくれるだけで、俺は救われてるんだよ…
だからさぁ……そんな事……寂しい事、言わないでくれよ…」
「………ああ、わかったよ…
…ごめん…」
「………」
「………」
「………」
「……なんだよカイト、まだ怒ってんのか?」
「………」
「…………誤っただろ?
カイト…許せよな?」
「…………黙ってろよ」
「なんだよそれ!」
「うるせぇって!」
「お前!」
マキオが怒って立ち上がると、カイトも立ち上がる……が、竿を持ち上げながらだった。
カイトの竿の先には、キラキラと輝くニジマスが引っ掛かっていた。
「……は?」
「へへへっ…俺の勝ちだ」
「…………なんだよ…それ…」
「この勝負、俺の勝ちだー!
おらーー!約束だーー!
マキオーー!
チンコ見せろーー!!!」