魔法少女リリカルなのは Metal Chronicle -鋼を統べる者-   作:零式機龍

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第20話 戦う意志

 

 

 

――― 相手に向かって走る。

横に振り抜かれる武器を、身を低く屈め躱す。

同時に、左手の得物を突き上げるが、相手は上体を反らして回避。

そのまま後退する――― と見せかけて蹴り上げられる足。

サマーソルトの要領で放たれるその蹴りに、今度はこちらが上体を反らす。

その勢いと共に、右手の武器を振り上げるが、今度こそ後退していた相手を捉える事は無かった。

体勢を立て直し、少し距離をとった相手を視界に収める。

 

お互いに間合いの外からの睨み合い。

・・・先程から、何合か打ち合って離れてを何度も繰り返している。

そろそろ何か打開策を考えないとな・・・

 

攻めるか、受けるか―――

一瞬の逡巡。

先に動いたのは相手だ。

素早く距離を詰め、手にした長柄の戦斧を振りかぶる。

振り下ろされるそれを、両手の刀で横から叩いて打ち払い、そのままの勢いで上段蹴りを放つ。

しかし、それは身を捻って躱され、すぐさま反撃に、戦斧が振り上げられる。

すんでの所で躱し、再び武器を振るう。

 

戦斧と二刀の攻防が続く。

そんな一瞬、相手の体勢が崩れ、武器が泳ぐ。

その隙を逃さず両手で戦斧を打ち飛ばした。

――― だがその瞬間、違和感に気付く。

 

(――― 軽い!?)

 

手応えの軽さに異常を感じ、拳を振りかぶる相手を見て、瞬時に理解する。

相手はあえて武器を手放していたのだ。

いやもしかしたら、体勢を崩した所から策だったのかもしれない。

 

突き込まれる拳は、すぐそこまで迫っていた―――

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのは Metal Chronicle -鋼を統べる者-

 

第20話   戦う意志

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐介くん、フェイトちゃん、はいタオル」

「サンキュ」「ありがとう、なのは」

 

なのはの差し出してくれたタオルを手に、座り込む。

 

ハラオウン家の近く、とあるマンションの屋上。

リンディさんのコネで(どんなコネだよ)屋上を貸し切って、3人で訓練に来ていた。

もっとも、なのはは見学のみにさせているが。

 

「あー・・・疲れたー。

 流石にフェイトは強いよなー」

「そんな事ないよ。裕介だって相当だよ。

 まさか、最後の一撃を捌かれると思ってなかったし」

「いや、あれはたまたまだって」

 

使っていた木刀を片付けながら答える。

 

先程の模擬戦の最後。

眼前に迫るフェイトの拳を、肘打ちで軌道を逸らす事ができた。

本当にギリギリだったけど・・・・・・

実戦だったら、あれに雷撃付与されるのかなーとか思うと冷や汗が止まらんな。

 

「そういやフェイト、そのウッド・バルディッシュは使えそうか?」

「うん、形状とか重心も本物と同じにしてくれてるんだね。

 バルディッシュがいない今、練習にはもってこいだよ。

 わざわざありがとう、祐介」

 

手にした戦斧、木製のバルディッシュを掲げるフェイト。

 

「大したものじゃないけどな。

 丸太を削り出して、金属片で重量や重心を調整しただけのものだけど、

 喜んでもらえたなら何よりだ」

「本当にそっくりだねー。

 ねぇねぇ祐介くん、わたしにはないの? レイジングハート」

「お前は安静中だろうが。

 来週にはレイハさんも復活してくるんだろ?」

「えぇーそんなぁ・・・」

「いやまぁ、欲しいってんなら作ってやらんでもないが・・・」

 

そんな風に雑談しているうち、話題は事件に関するものにシフトしていく。

 

「フェイト。クロノが言ってたが、昨夜もまた襲撃事件あったんだって?」

「そうなのフェイトちゃん!?」

「うん。ここからちょっと離れた世界だったみたい。

 魔導師が十数人と野生動物が、約4体って・・・」

「野生動物?」

「リンカーコアがあれば、人間じゃなくてもいいらしいんだ」

「管理局が出てきて、なりふり構っていられなくなったってトコか」

「ねぇ、闇の書が完成するとどうなるの?」

「さぁな。ロクでもない事になるらしいけど。

 次元干渉の可能な程の力を発揮するらしい、だとさ」

「一番の厄介は、その転生機能って言ってましたねー。

 闇の書が破壊されるか、持ち主が死ぬかすると、別の世界で再生するらしいんです。

 まったく、たちが悪いですねー」

 

そんな中、フェイトが静かに切り出す。

 

「・・・あの人たちの事、どう思う?」

「あの人たち・・・って闇の書の? フェイトちゃん」

「うん、闇の書の・・・守護騎士たち」

「「通り魔」」

 

美月と2人で即答する。

 

「そんな身も蓋もない・・・

 でもわたしも、急に襲い掛かられて、すぐ倒されちゃったから・・・

 フェイトちゃんは、あの剣士の人と、何か話してたよね」

「うん・・・少し、不思議な感じだった」

「不思議?」

「上手く言えないけど・・・悪意みたいのを全然感じなかったんだ。

 祐介は? あの赤い子と戦って何か感じた?」

「・・・目的をとにかく果たそうとする強い意志は感じたかな。

 いちいちセリフが乱暴だったけど。あれはただの性格だろ」

「目的、かぁ・・・

 闇の書の完成を目指す理由とか、分かればいいのにね」

「強い意志で自分を固めちゃうと、周りの言葉って、なかなか入ってこないから・・・

 私も・・・そうだったしね・・・・・・」

「フェイト・・・」「フェイトちゃん・・・」

 

半年前の事を思っているのだろうか、フェイトの顔は、少し憂えて見える。

確かに・・・プレシアさんの助けになる事を何よりも信じていた、

信じようとしていたフェイトは、当初誰の言葉にも耳を貸さなかった。

だけど・・・

 

「でも・・・言葉をかけるのは、想いを伝えるのは・・・

 絶対無駄なんかじゃないって・・・私は思う。

 なのはが・・・祐介が・・・

 みんなが何度も言葉をかけてくれたから・・・私は今ここにいる」

「うん! そうだよフェイトちゃん」

「そうだな・・・

 お互いの気持ちが分からないまま戦う事になったとしても・・・

 言葉を重ねれば伝わるかもしれないんだ」

「私たちが、その証明ですもんねー」

 

そう、無駄になんかならない。

あの出来事を乗り越えた僕たちだからこそ、それを信じられる。

 

「そのために・・・想いを伝えるために・・・

 戦って・・・勝利が必要なら・・・

 私は迷わない、迷わず戦える。

 だから・・・強くなるよ。想いを貫くために」

「うん・・・わたしも、もっと強くなる。

 頑張ろう! フェイトちゃん、祐介くん!」

「ああ。

 向こうも必死なんだろうけど、負けられないのはこちらも同じだからな!

 ――― ただし!!」

 

まだ言うべき事がある。

ただでさえ、この2人は無茶しがちなんだから。

 

「2人とも、滅多な行動は自重するように!

 クロノも言ってたと思うけど、連中が来たら、今はまず逃げろよ。

 間違っても相手にしようとしない事!」

「は、は~い」

「分かってるよ、祐介」

 

本当に分かってるのか不安だが・・・2人が復帰するまで、僕たちが頑張らないとな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日の刻が過ぎ・・・

魔力蒐集の痕跡は発見されるものの、捜査に大きな進展は無いまま週が明ける。

いい知らせといえば・・・・・・

 

「それでユーノくん、なのはちゃん達の具合は?」

『はい、なのはも、デバイス2機も、無事完治です』

「そっか、まずは一安心だな。ユーノ、今どの辺りだ?」

『2番目の中継ポートだよ。

 後10分くらいで、そっちに戻れると思う』

「了解。気を付けて戻って来てね」

 

本日、なのは達は管理局の本局へ出向いていた。

なのはの検査、そして修復整備の済んだレイジングハートとバルディッシュの受取。

僕はハラオウン家で、その知らせを待っていたのだ。

 

「重ね重ねすまないな、祐介」

「気にすんな。

 有事の際を考えると、クロノ1人にここを任せるのは、それこそ申し訳ない」

「でも、みんな無事に完治して良かったね。

 みんなが戻ったら、少しデバイスの説明しないと――― っ!!?」

 

   ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

その瞬間、モニターにアラートが表示される。

 

「な、なんだッ!?」

「エイミィ!!」

「これはマズいよ! 至近距離で、緊急事態!!」

 

リンディさんが慌てて部屋に入ってくる。

 

「エイミィ、状況は?」

「艦長、周辺警戒中の武装隊より緊急連絡です!」

 

モニターに映るアースラの武装隊員。

 

『都市部上空にて、捜索指定の対象2名を補足しました。

 現在、強装結界内部で対峙中です』

「相手は強敵よ。交戦は避けて、外部から結界の強化と維持を!

 至急、現地へは増援を送ります!」

『はっ!』

 

リンディさんがこちらに向き直る。

 

「クロノ! 現地へ急行して指揮を!」

「了解です! 行くぞ祐介!!」

「あいよ!!」

 

いよいよおいでなすったな。

自分を貫くため、やれる事をやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現地上空に到着すると、眼下では10人程の武装局員たちが、2人の人物を取り囲んでいた。

 

「あれは・・・」

「赤っ子ですねー」

 

見覚えのあるゴスロリ娘。傍にはもう1人、男の人がついている。

アルフさんと戦ってた使い魔か。犬耳生えてるし。

 

「どうするクロノ」

「まずは封じ込めが優先だ。

 各員、結界の強化を最優先しろ!」

『了解!』

 

そう言って、魔力を集中させるクロノ。

 

「クロノ、このままみんなを結界に回すと、あいつら攻撃に転じてくるぞ!!」

「だから――― こうするのさ!

 スティンガーブレイド・エクスキューションシフトッ!!

 

水色の魔力刃が無数に放たれる。

降り注ぐ剣の雨、優に100は超えるだろうか。

使い魔の人がシールドを展開するのが見えたが、そこに殺到する攻撃。

大きな魔力爆発と共に、爆煙が立ち込める。

 

「なるほど。着弾時の爆煙による視界攪乱か」

「あーでも、攻撃自体はあんまり通ってなさそうですねー」

 

視界が晴れ、現れる姿。

ワンちゃんのシールドを抜けた魔力刃は、雀の涙ほど。

赤っ子にいたっては無傷。

 

「・・・さて、どうするよ?」

「結界強化のために散開する時間は稼いださ。

 後は・・・あの2人を確保するほかないだろう」

「ああ、そうだな」

 

どっちがどっちを相手するか・・・・・・

その時、エイミィさんから通信が入る。

 

『武装局員、配置終了! OKだよ、クロノくん!』

「了解!」

『あとそっちに今、助っ人を転送したよ!』

「助っ人!?」

「って事は! あぁもう、また無茶するんだよなぁ!」

 

このタイミングでここに来る助っ人なんて、あいつらしかいないだろ!

視線を巡らせると、その予想を裏切ることなく、眼下のビル上に立つ彼女たちの姿。

 

それぞれの愛機を手に、声を上げる。

 

「レイジングハート・エクセリオン!!」

「バルディッシュ・アサルト!!」

「「Drive ignition.」」

 

そして、彼女たちもまた・・・戦いの場へと降り立つ―――

 

 

 

「祐介、君は彼女たちと合流しろ」

「クロノは?」

「幸い人手は増えた。

 僕はユーノたちと合流して策を練る。連中との直接戦闘は任せるぞ」

「了解」

 

クロノを残し、ともかく一度下へ降りる。

 

「よ。なのは、フェイト」

「祐介くん・・・」

「状況は見ての通りだが・・・大丈夫か?」

「あ! 裕介、見て下さい!

 お2人のデバイス、修復だけじゃなくて、改装されてますよ!」

「(レイハさんにはマガジン形状のパーツを追加、

  バルディッシュにはリボルバー状のパーツが追加・・・)

 まさか・・・それって・・・」

「うん・・・カートリッジシステム・・・みたい・・・」

 

全く・・・使い手が使い手ならデバイスもデバイスだな。

聞いた話じゃ、カートリッジシステムはミッド式とは相性良くないらしいのに。

ましてや、デリケートなインテリジェントデバイスならなおさらだ。

 

「無茶するなぁ・・・」

「It may be so.(そうかもしれません)」

「But it's that we wished.(しかし、私たちが望んだ事です)」

 

はっきりと答える2機。

 

「ま、覚悟があるのなら何も言うまい。

 それよりも・・・だ」

 

上空の2人を見上げる。

どうしたもんかな・・・

 

 

 

「私たちは・・・あなた達と戦いに来た訳じゃない。

 まずは話を聞かせて」

「闇の書の完成を目指してる理由を―――」

「あのさぁ・・・」

 

なのはの言葉を遮る赤っ子。

 

「ベルカの諺に、こういうのがあんだよ。

 『和平の使者なら槍は持たない』」

 

意味が分からないのか、首を捻るなのはとフェイト。

言わんとしてる事は・・・まぁ何となく分からないでもない。

 

「話し合いをしようってのに、武器を持ってやって来る奴がいるかバカ!

 って意味だよバーカ!!」

 

ある意味正論ではあるが、こちらにも言いたい事はある。

 

「いきなり有無を言わさず襲い掛かって来た子がそれを言う!!?」

「そりゃそうだ。いくら正論でも通り魔に言われたかないな」

「それにそれは、諺ではなく、小噺のオチだ」

「うっせ! いいんだよ細かいことは」

 

そんなどうでもいい言い合いをしてると、激しい音とともに上空から何かが急降下してくる。

あれは・・・結界を突破して来たのか・・・!

そんな事するのはあちらの仲間くらいだ。

 

(・・・って事は・・・・・・)

 

轟音とともに、隣のビルに着地した姿が、ゆっくりと立ち上がる。

その姿にフェイトが呟く。

 

「シグナム・・・!!」

 

この構図は・・・また1on1かなぁ・・・

なのはもフェイトも間違いなくリベンジしたいだろうし。

 

「2人とも、シグナムの相手は・・・私にやらせて」

「分かってる。わたしも・・・あの子とはお話しないといけないし・・・!」

 

・・・ですよね。うん、分かってた。

 

《アルフさん、あの使い魔の人どうします?》

《アタシも野郎に言いたい事はあるんだけどね。あんたに任せるよ。

 アタシはユーノたちのサポートに回る》

《分かりました。了解っす》

 

さて・・・

相手は決まった。

 

再び・・・戦いの幕が上がる―――

 

 

 

 

 

      第20話   終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ~あとがき・・・もどき!!~

 

 

 

美月「再戦までになのはさん達の復帰が間に合って良かったですねー」

祐介「ギリギリだったな」

作者「間に合わないシナリオも考えたんだけどね。

   ・・・まとまらなんだ」

祐介「もっと妄想力を高めろ!」

作者「妄想を文章に書き起こすのって大変なんだぞ!

   戦闘シーンなんか、頭の中では激しく展開してても、書くとショボくなるし」

美月「それは作者の問題ですよー」

祐介「そうだぞ、もっと頑張れ」

作者「悩んでも悩んでも、シナリオは進まないのよ?」

祐介「それでもだ」

作者「鬼・・・・・・」

 

 

 


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