魔法少女リリカルなのは Metal Chronicle -鋼を統べる者- 作:零式機龍
夜空を貫く桜色の閃光。
その奔流は渦を巻き、周りの魔力を吹き飛ばしていく。
「結界機能の破壊を確認!!」
美月の報告を聞きながら、なのはの下へ急行する。
レイジングハートを取り落し、その体が傾く。
「なのはッ!!」
地面に倒れ込む前に、すんでの所で抱き止める。
胸を貫いていた腕は消えていた。
「なのはッ! おいしっかりしろなのはッ!!」
返事は無い。その瞳は開かれる事はなく、体にも力は入っていない。
「転移魔法を確認。相手勢力、離脱するようです」
「そんな事はどうでもいい!!
《ユーノッ!! 急いでくれ!!!
あとアースラに連絡をッ!!!》」
魔法少女リリカルなのは Metal Chronicle -鋼を統べる者-
第19話 結集! 迎撃準備開始せよ!
「先生・・・容態は・・・?」
時空管理局本局。
次元空間に浮かぶそれは、その名の通り、管理局の本拠地たる巨大な施設である。
あの事件からすぐ、アースラに保護された僕たちは本局へ急行、なのはは医務室へ移送された。
『外傷は大したことはない。
ただ、リンカーコアが異常に小さくなっている。
だが問題ない、若いからね。
十分な休養をとれば、すぐに回復するさ』
「そう、ですか・・・・・・」
モニタの向こう、先生からの連絡を受けて、胸を撫で下ろす。
「大事はなかった様だな」
「ああ、少し休めば大丈夫だってさ」
隣にいたクロノも少しホッとしたようだ。
僕らは医務室ではなく、情報解析室の一つにいた。
ちょうどクロノに状況の説明を求められていたので、戦闘データの提出と報告を行っていたのだ。
報告を終え、2人でメンテナンスルームへと向かう。
「すまなかったな。本当は医務室に行きたかったんじゃないか?」
「まぁ・・・ちょっとはな・・・
でも、何かできる訳じゃないからな。邪魔になるかもしれんし」
「そうは言うが、かなり心配だったんだろう。
聞いてるぞ、なのはが攻撃された時、かなり取り乱したそうじゃないか」
クロノが意地悪い笑みを浮かべて言ってくる。
な、なんでそれを・・・ってバラす奴なんか1人しかいない。
「美月ーッ!!」
「私は悪くないですよー?
ありのままに戦闘報告しただけですしー♪」
そんな話をしながら、デバイスメンテナンスルームに着く。
ユーノが、レイジングハートとバルディッシュを調べているはずだ。
ドアが開くと、中にはユーノとアルフさん、そして・・・・・・
なのはとフェイトの姿があった。
「なのは! ・・・良かった元気そうで」
「にゃはは・・・ごめんね祐介くん、心配かけて」
「いや、無事でなによりだ・・・
フェイトも、怪我は平気か?」
「うん、大丈夫。ありがとう、祐介」
大事ないという連絡はあったけど、実際自分の目で見ると、改めて安心した。
・・・しかし、検査台の上にある2人のデバイスは、無残な姿になっている。
「ユーノ。レイジングハートとバルディッシュ、どんな感じなんだ」
「・・・あんまりいい状況とは言えない。
今は自動修復をかけてるけど・・・
基礎構造の修復が済んだら、他は部品交換とかが必要になると思う」
自動修復で済まないって事は・・・半年前の損壊の比ではないという事、か。
そんな中、アルフさんが口を開く。
「そういえばさぁ・・・
アイツらの魔法、何か変じゃなかった?」
「あぁ、そういえば・・・魔法陣の形が変だったな。
みんなの魔法陣はさ、丸っぽい形してるだろ。
あの人たちは・・・何かこう、三角みたいな形で・・・」
「こんなのです」
美月が映像を出す。
頂点に円を持つ三角形。変わった形してるなぁ・・・・・・
「あれは恐らく、ベルカ式だ」
クロノが答えを口にする。
「ベルカ式? 何だそれ?」
「遠距離や広範囲攻撃をある程度度外視して、対人戦闘に特化した魔法・・・
優れた術者は騎士と呼ばれる」
「万能性を排した、タイマン仕様魔導師って事か?」
「必ずしもそういう訳ではないんだが・・・・・・まぁ概ねそんなものだ」
「確かに、あの人・・・ベルカの騎士って言ってた・・・・・・」
「そう言われてみれば・・・そんなこと言ってたな」
「最大の特徴は、デバイスに組み込まれた『カートリッジシステム』って呼ばれる
武装だよ。儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで、瞬間的に
爆発的な破壊力を得る事ができるんだ」
「あの魔力増大には、そんなカラクリがあったんですねー」
フェイトやユーノも加わり、美月の映し出す映像に目を向ける。
長剣やハンマーの基部で炸裂しているもの、あれがカートリッジか・・・
しかし・・・魔力ブーストの正体は分かっても、不明な事はまだある。
リンカーコアが小さくなったなのは。あの腕に何をされた?
相手の人数。赤っ子、剣士(シグナムさん、だったか?)、
使い魔(アルフさんが戦ってた)、なのはを貫いた腕。
マドハンドを召喚したのでもなければ、最低でも4人。あの通り魔集団は全部で何人なのか?
いや、そもそも・・・・・・何故、僕やなのはが襲われた?
様々な疑問や憶測が頭の中をぐるぐると回る。
そんな時、時間を確認したクロノが、僕たちに声をかける。
「フェイト。そろそろ面接の時間だ」
「あ・・・うん」
「なのは、祐介。君たちもちょっといいか」
「・・・え?」「・・・何なんだ・・・?」
2人で顔を見合わせる。首を傾げながら、クロノとフェイトについて部屋を出た。
「・・・なぁクロノ。フェイトの面接って何だ?」
「大した事はない。PT事件関連の、最後の確認の様なものだ」
「え゛・・・」「それに、私たちも・・・?」
PT事件。プレシア・テスタロッサの起こした、半年前の事件。
記憶にも新しい、思い出深い出来事である。
「裁判は終わったんだろ? まだ事情聴取とかあるのかよ」
「言っただろう。本当に確認の様なものだ。
別に、事情聴取とかそんな大層なものじゃない。
君たちに同席してもらおうというのは、面接官の意向だ」
「何でまた・・・」
「行けば分かるさ」
そして連れて来られた一室。
「失礼します」
「クロノ。久しぶりだな」
部屋の中にいたのは老年の男性。
うわぁ・・・何ていうか・・・すっげーかっこいい。
素敵に歳を重ねた
頭髪には白い色が混じるものの、その風格は老いを感じさせない。
かといって威圧的ではない、柔らかな雰囲気。
「ご無沙汰しています。グレアム提督」
ギル・グレアム提督。
管理局の階級制がどうなっているのかは知らないが、まぁ提督ってくらいだから偉いんだろう。
・・・そういやリンディさんも提督だったか。
「保護観察官といっても、まぁ形だけだよ」
席を勧められ、僕たちはグレアム提督の対面に座る。
そういえば、フェイトの処分は保護観察措置だったな。
この人が、観察官をするのか。
「リンディ提督から、先の事件や君の人柄についても、聞かされたよ。
とても優しい子だとね」
柔和な笑み。
おかげでフェイトもリラックスしたような風で微笑んでいる。
資料を見ていたグレアム提督が何かに気づく。
「そうか。なのは君や祐介君は、日本人なんだね」
「あ、はい」
「懐かしいな。日本の風景は」
「え・・・?」「以前にいらした事が?」
「私も、君たちと同じ世界の出身でね。イギリス人だ」
「えぇ・・・!?」「そうなんですか!?」
おぉぅ・・・マジの英国紳士だったのか。
「ははは、魔法との出会い方まで、私とそっくりだ。
私が助けたのは、管理局の局員だったがね。
・・・もう、50年以上も前の話だよ」
懐かしむかのように語る提督。
世間は広いのか狭いのか分からないもんだ。
知らないだけで、僕たちの世界にも結構魔導師が埋もれてたりして。
「さて・・・フェイトくん」
「はい」
話に区切りがついた所で、提督が切り出す。
・・・本題か。
「君は、2人の友達なんだね?」
「はい」
「約束してほしい事は1つだけだ。
友達や、自分を信頼してくれている人たちの事は、決して裏切ってはいけない。
それが出来るなら、私は君の行動について、何も制限しない事を約束しよう。
・・・出来るかね?」
「――― はい、必ず」
真剣な提督の眼差しに、真っ直ぐ答えるフェイト。
「いい返事だ」
提督に笑顔がこぼれる。
僕らにも安堵の笑みが浮かぶ。
これで・・・本当に終わりだ。
フェイトもクロノも他の人たちも・・・半年間、みんな頑張ったな。お疲れ様。
「提督」
面接も終わり、退室しようとした時。
クロノが口を開く。
「もう、お聞き及びかもしれませんが・・・
先ほど、自分たちがロストロギア『闇の書』の捜索・捜査担当に決定しました」
「そうか、君がか・・・
言えた義理ではないかもしれんが・・・無理はするなよ」
「大丈夫です。
『窮時にこそ、冷静さが最大の友』・・・
提督の教え通りですよ。
それでは・・・失礼します」
クロノは何かまた仕事が入ってるみたいだな。執務官どのは忙しそうだねぇ。
「親子に・・・?」
あの後、一応の手続きなどへ向かったフェイトやクロノと別れ、
僕たちはエイミィさんと雑談していた。
「つまり、フェイトがハラオウン家の養子になるって事ですか?」
「うん。まだ本決まりじゃないけどね。
フェイトちゃん、事件で天涯孤独になっちゃったでしょ。
それでリンディ艦長が、養子縁組の話をね」
「フェイトさんの方はどうなんですかー?」
「まだ心は決まってないみたい。
まぁ急いで決めるような事じゃないからね。
艦長も、じっくり考えてくれればいいって言ってるし。
みんなはどう思う? この話」
「僕は良いんじゃないかと思いますよ。いい家族になりそうだし」
「んーと、私も、すごくいいと思います」
「私も、良いお話なんじゃないかと。
もっとも、フェイトさんの気持ち次第ですけどねー」
「そっか」
エイミィさんが微笑む。
僕らもつられて笑みが浮かぶ。
「でも、そうするとクロノくんお兄ちゃんですね、フェイトちゃんの」
「そうそう。でも、結構気が合うみたいだし、案外いい感じの兄妹かも」
「何だかんだで妹に甘い兄貴になりそうだな」
そんな話をしていると、エイミィさんに通信が入る。
モニタに浮かぶのは――― リンディさんか。
『エイミィ。主要スタッフ、第1ドック前に集合よ』
「分かりました、艦長」
『そうそう、なのはさんと祐介くんは一緒かしら?
2人にも来てもらって頂戴』
おや? 僕たちも?
呼ばれたって事は、今回の仕事は僕たちにも関係あるって事か・・・?
クロノの言ってた『闇の書』とやらの事件だよな・・・
「さて、私たちアースラスタッフは今回、ロストロギア『闇の書』の捜索、
および魔導師襲撃事件の捜査を担当する事になりました」
ドック前の歓談所。アースラの主要スタッフが集まり、リンディさんの言葉を聞く。
・・・こんな所で集まって迷惑じゃないかと思わないでもないが、まぁいいんだろう。
「ただ、肝心のアースラがしばらく使えない都合上、
事件発生地の近隣に、臨時作戦本部を置く事になります」
そういえばアースラは整備ドックに行ってたんだっけ。
それで本陣を現地に置く、と。
「分割は・・・
観測スタッフのアレックスとランディ」
「「はい!」」
「ギャレットをリーダーとした、捜査スタッフ一同」
「「「「「「はい!」」」」」」
「司令部は、私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん。
――― 以上3組に分かれて駐屯します」
そっか。フェイトは嘱託とはいえ管理局の魔導師だから、正式な頭数に入ってるのか。
僕たちはまた、現地協力者って事で参加になるのかね。
「ちなみに司令部は・・・
なのはさんや祐介くんの保護を兼ねて、なのはさんのお家のすぐ近所になりま~す」
リンディさんが笑顔で口にする。マジですか。
予想もしていなかった展開に驚く。
僕やなのはも襲われたから、海鳴が事件発生場所の1つであるのは分かってたけど。
まさか本陣を海鳴に持ってくるとは思わなんだ。
「さて、と。こんなもんかね」
「あぁ、だいたい揃っただろう」
翌日。
ハラオウン家のお引越しを手伝い、クロノと必要物の買い出しに出ていた。
「しっかしまさか、海鳴が本拠地になるとは思ってもなかったな」
「詳しい事はまた話すが、色々と条件が揃っていたんだ」
「そういや、お前やフェイトって学校行くのか? カモフラージュ的に」
「フェイトは、なのはと同じクラスへの編入手続きを済ませたよ。来週から通う事になる。
なのはの護衛、という名目はあるが・・・それが無くても通わせてやりたいとは思うさ」
「やっさしー。流石お兄ちゃん。で、お前は?」
「茶化すなよ。
僕にそんな時間があると思うか?」
「それもそうか。
・・・平日の朝とか昼間は出歩くなよ? 補導されるぞ」
「・・・気を付ける」
「ただいま戻りましたー」
両手に荷物を抱え、ハラオウン家の住むマンションへと。
荷物を下ろし、一息つく。ふぃ~、疲れた疲れた。
・・・おや?
「エイミィさん、みんなは?」
リンディさんやフェイト、僕と同じ様に手伝いに来ていたなのはもいない。
アルフさんとユーノも。
「さっき、なのはちゃんのお友達が来て、外に休憩しに行ったよ。
艦長も、なのはちゃんのご両親にご挨拶に行くって」
大方、アリサとすずかでも来たんだろう。
うーむ、入れ違いで置いて行かれたか・・・まぁいいが。
「クロノくんと祐介くんも休憩したら? お茶入れるね」
「ああ」「ありがとうございます」
エイミィさんのくれたお茶でひと休み。
ふと、クロノに聞きたい事があったのを思い出す。
今回の事件について、まだ聞いていなかったな・・・
「なぁ、そういえば・・・今回の事件ってどんな事態になってるんだ?
本拠地をここに持ってきたのも、条件がどうこうって言ってたし」
「そうだな・・・今の内に説明しておこう。
エイミィ、モニターを」
「はいは~い」
大型モニターに映し出される姿。
どっかの魔導師みたいだが・・・
手に、何か本の様なものを持っている。
「僕たちの任務は、ロストロギア『闇の書』の捜索・捜査だ。それは知っているな」
「ああ。ロストロギアって事は、どうせまた厄介なシロモノなんだろ」
「まあな。最大の特徴は、そのエネルギー源だ。
闇の書は、魔導師の魔力と魔法資質を奪うために、リンカーコアを喰う」
「なのはのリンカーコアが小さくなったってのは、その被害か・・・
――― ってこの袖ッ!!」
モニターに映る魔導師。闇の書を持つその手に見覚えがあるのに気付く。
「・・・・・・間違いない」
「なのはさんの胸倉に手突っ込んだのはこの人ですねー」
「突っ込んだっていうか、手が生えてきてたけどな」
マドハンドじゃなくて、転送魔法の一種だろうか。
それはともかく、だ。
「つまり、僕やなのはが襲われたのは、
その闇の書とかいうのにリンカーコアを喰らわせるため、って事か」
「そうだ。そして、同じような魔導師襲撃事件が、多数発生している。
それも、ここから個人転送で行き来できる範囲で、だ」
「あの集団の根城がこの近くにある、という事ですねー」
「それで海鳴に司令部か。
闇の書にリンカーコアを喰わせると、どうなるんだ?」
「闇の書はリンカーコアを喰うと、蒐集した魔力や資質に応じて、ページが増えていく。
そして、最終ページまで全てを埋める事で、闇の書は完成する」
「完成すると・・・?」
「・・・少なくとも、碌な事にはならない」
全く・・・物騒な物を持ち込んでくれたもんだ。
クロノの険しい顔を横目に考える。
あの人たちは、何が目的で闇の書を・・・・・・
「また理由が不明なままの戦い、か」
半年前――― フェイトとのジュエルシード争いが思い起こされる。
あの時の様な、相手の事は何も分からずに戦うしかない状況。
あまりいい気分ではない。
「ま、目的は分からなくても・・・
僕たちを襲って、なのはを傷つけた仕返しは、させてもらうけどな!」
「そうですそうです!
何処からでも来いやー!ですねー」
とにかく・・・事件解決に向けて、こちらの態勢は整えた。
事態がどう動くかは分からない。
今は・・・自分に出来る事をやるしかない。
第19話 終
~あとがき・・・もどき!!~
美月「なのはさん無事で良かったですねー」
祐介「そうだな。リンカーコアは喰われたけど」
作者「・・・うーむ」
祐介「どしたよ?」
作者「・・・機鋼が出てこないと寂しい」
祐介「出てきても文才の無さは誤魔化せないぞ?」
作者「それでも、趣味的に」
美月「まぁまぁ、今回は情勢の変化する場面ですし」
祐介「ハラオウン家も引越したしな」
作者「海鳴が事件の中心地になっちゃったねぇ」
美月「ホントに解決に向かうんですかねー」
作者「楽しみですねー」
祐介「いやお前は楽しみにしてる場合か!
ちゃんとシナリオ考えろよ!」
作者「・・・分かってますよー」