魔法少女リリカルなのは Metal Chronicle -鋼を統べる者-   作:零式機龍

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(ちょっと)幕間
第15話 父の回顧録


 

 

 

「祐介、そっち持って」

「あいよ」

 

姉さんと、カラーボックスを持ち上げる。

朝から働き通しだな。

 

「なーんでこのクソ暑い中、こんな事しなきゃいけないんだか」

「私が聞きたいわよ・・・・・・」

 

うんざりした顔で、姉さんが答える。

 

時は夏休み。

普通なら、この類のイベントは年末にやるのが正しいような気がするが。

 

そう、神代家は・・・大掃除を実施していた。

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのは Metal Chronicle -鋼を統べる者-

 

第15話 父の回顧録

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく・・・母さんの思い付きには困る・・・・・・」

 

押入れの物を引っ張り出す。

うへぇ・・・埃かぶってるなぁ・・・・・・

 

《今朝いきなりでしたもんねー。

 いったい何処から思い立ったのやら》

《唐突すぎるんだよな。この真夏にやることないだろうに・・・・・・》

 

愚痴りつつも、埃を拭いた物品を、掃除機をかけた押入れに戻していく。

と、その時、妙な感覚があった。

 

「・・・何だ?」

 

長さ60cm程の黒いケース。そんなに重くはないが、結構頑丈そうだ。

上部に貼られたシールには『誠』の文字。

・・・え、これ、父さんの・・・?

 

《祐介、祐介! シールの下! 見てください!》

 

下って・・・そこには変な刻印が記されているだけだ。

・・・・・・あれ? 読めないけど、この書体、どっかで見たような気が・・・・・・

 

《これ・・・ユーノさんやフェイトさんの世界の文字なんじゃ・・・・・・》

《それだ!! アースラで見た字!!

 ・・・いやちょっと待て! 何で父さんの私物に、こんな文字が・・・・・・》

《しかもこのケース・・・魔力で施錠されてますけど・・・・・・》

《なんなんだよ、これ・・・・・・》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

ベッドの上には、昼間の謎ケース。

あれから母さんに聞いてみたが、このケースは父さんの遺品整理の時に

出てきたものの、鍵が開かないので放置したまま忘れてたらしい。

 

「あっちの世界の文字に、魔力による鍵・・・か」

「この状況だけ見ると・・・答えは予想できますけどねー」

「やっぱそうだよなぁ・・・・・・」

 

それを確かめるためにも・・・・・・

 

「・・・とりあえず、開けてみるか?」

「ですねー。施錠と言っても、ほんの少し魔力を流せば開くみたいですし」

「こっちじゃ魔力もってる人なんて、そうそういないしな。

 複雑な術式もいらないと思ったんじゃないか」

 

言いながら、錠に魔力を流す。

パチンと音がして錠が跳ね上がり、ケースの蓋が持ち上がった。

 

「・・・・・・杖?」

 

だいたい長さ40cmくらいだろうか、質素なステッキ。

先端に小さな青い宝石があしらってある。

 

「これって・・・・・・」

「デバイス・・・ですかね」

 

やっぱりそうか。

これが父さんのデバイスだとしたら・・・父さんは魔導師だった可能性が高い。

まぁ誰か他の人のデバイスを預かっていた可能性もあるけど・・・・・・

いずれにせよ、父さんが魔法と関わりを持っていたのは確かだと思う。

 

デバイスを調べてみる。

これといって特殊な物でもなさそうだ。

(教えてもらった)ストレージデバイスってやつかな。

 

「何かの魔法の術式が残ってるんだけど・・・ロックされてるなコレ。

 後は・・・妙な物はこれといって無いかなぁ・・・・・・」

「祐介。これ、メッセージが記録されてますよ」

 

ホントだ。デバイスにメッセージデータが残されていた。

 

少し迷うが、意を決して再生することにする。

 

 

 

『―――― 万一に備えて、これを残す事にする』

 

映し出される男性。父さんだった。

 

『願わくば、家族に危機など迫らぬ事を・・・・・・

 だが、俺に何かあった時のために、我が息子、祐介に伝えなければならない事を残しておく。

 母さんを大事にしてるか? 姉さんと仲良くやってるか? 俺は心配だよ』

 

・・・・・・何言ってんの、この人。

そんなメッセージを残すためにデバイス使ったのか?

呆れかえるが、流石にこれで終わりな訳もなく、メッセージは続く。

 

『まぁ、ここまでは軽い冗談だ。

 さて・・・・・・

 祐介。これを聞いているという事は、お前は既に魔法と接する機会があったんだろう。

 お前はどんな魔導師になるのか、それも心配だが・・・・・・

 セキレアシステムを持つお前なら、大丈夫だろう・・・と思ってるよ』

 

セキレアシステム・・・? 何の事だ・・・・・・

 

『おっと、セキレアの話をしても分からないかもしれないな。

 既に知っているなら聞き流してくれていいが、やはり説明しておくべきだろう。

 だが・・・・・・お前には酷な内容になるかもしれない。

 ここで止めるのも一つの選択だ。それでも聞くか・・・?』

「・・・祐介・・・・・・どうします?」

「・・・・・・ここまで来たら・・・最後まで行くさ。

 ここで止めても・・・モヤモヤするだけだからな」

 

勝手に一時停止になっていたデータを再生する。

 

『・・・・・・分かった、話そう。

 お前の人生に関わる話だ、心して聞け。

 

 あのプロジェクトが、始まりだった―――――――――――』

 

そうして、父さんは語りだす。全てを・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  Side Change   マコト Side

 

      ~6年前~

 

 

 

「ホントに進めるんですか所長!? このプロジェクトを」

「ああ、君も主任として参加してもらいたい」

「しかし、実験にはまだ問題が・・・・・・

 被験者として己を差し出す研究員なんていませんよ」

「被験体については、他プロジェクトとの協力で何とかなるはずだ。

 超長距離次元召喚システム、並びに人造魔導師の研究チームに依頼したまえ。

 君には期待しているのだ、マコト・ホンダ研究員・・・・・・」

「・・・分かりました・・・・・・

 失礼します・・・・・・」

 

ドアを閉め、廊下に出る。

溜息を一つ。ゆっくり歩き出す。

 

 

 

 

 

この研究所に入って5年。もうウンザリしている。

表では、全うな魔導研究施設だが、その実は違法組織の研究所だ。

友人に騙され組織に引き入れられ、ヤバイ研究ばかり。

しかも、その友人は急に姿を見せなくなった。

直前に、組織を裏切ったとか噂されてたのを考えると、恐らく始末されたんだろう。

俺だって死にたくはないから、コツコツ仕事はしてきたが・・・・・・

 

「遂にプロジェクトとして立ち上げられちまったか・・・・・・」

 

最近俺が研究していた、ロストロギア『セキレア』システム。

回収班が違法発掘してきた、このロストロギア。

研究の際、情報を集めるのに苦労したが、古代文献によると、

このシステムは、使用する魔導師・それを補佐する人格AI機構・データベース機構からなる。

そしてデータにあるイメージを、魔力を用いて再現することができるという。

ただ・・・・・・

 

「事故ったら取り返しが付かないからなぁ・・・・・・」

 

これを使用するためには、セキレアの核ユニットを、

使用者のリンカーコアに融合させなければいけない。

そうなってしまえば、分離はできない。問題が起きればただじゃ済まないのだ。

そして、データベース機構のデータは、人間の記憶からインプットされる。

それは、いわば精神を吸い出すような作業だ。

下手をすると、いや、十中八九データ元の人間は抜け殻になるだろう。

だから研究はしてるものの、まだ実際にセキレアを稼働させた事はない。

被験者がいないから、割と安心して研究していたんだが・・・・・・

 

「他プロジェクトと協力しろ、か・・・・・・」

 

ロストロギアの次元召喚装置を研究してるチームに頼んで、魔力を持った別世界の人間を

攫ってくるか、人造魔導師研究のチームに、実験のための魔導師を造らせるか。

あのジジイめ・・・そういう事なんだろう。

 

「・・・どうしたもんか・・・・・・」

 

人権も何もあったもんじゃない。

誘拐される人にしろ、造りだされる人にしろ、実験される方はたまったもんじゃない。

正直やりたくねぇ・・・・・・

でも・・・・・・

 

「死にたくねえからなぁ・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次元召喚装置、稼働」

 

数日後。

召喚装置『ブラス』を使う事が決まり、被験者を召喚する実験が始まろうとしていた。

・・・召喚される人、すまない・・・・・・恨むだろうな・・・・・・

でも・・・謝ったところで、どうにもならないか。

嫌だ嫌だと言っても、この実験に参加している時点で、俺だって同罪だ・・・・・・

 

「魔力反応検知! 転移させます!」

 

研究員の声に、意識を現実に戻す。

装置が激しく輝き、やがて光が収束し・・・・・・

そこにいたモノを見て、目を疑う。

 

「おい! 大丈夫か!!」

 

思わず、走り寄る。

倒れているのは、全身血だらけの男。

・・・歳は俺と同じくらいか。

 

「おいしっかりしろ!」

「う・・・うぅ・・・?」

 

意識は朦朧、か・・・・・・

早いとこ治療しないと・・・・・・

 

「早く医療室へ!!」

「待ちたまえホンダ君」

「所長・・・・・・」

 

ジジイ! 今は邪魔すんな!

 

「この死に体では使い物になるまい。

 新しい被験体を召喚した方がいいのではないかね?」

 

一瞬、葛藤する。

このまま死ぬのと、生きて実験体にされるのと、どちらがこの人にとってマシなのか・・・

 

「・・・・・・待って下さい!!」

 

考えてもしょうがない! 今はとにかく生かす事を!!

何かいい手は・・・・・・あれだ!!

 

「これを見て下さい!

 この男の魔力量はかなりのものです。

 瀕死とはいえ、魔導師としては優秀な素材だと思われます。

 やはりここは、延命して実験に使うのが得策ではないでしょうか」

 

とっさに、召喚時に見たデータを並べ立てる。

所長のジジイは、それを見てすこし考える。

 

「・・・いいだろう。君の意見を採用しよう。

 この男を医療室へ。

 丁重に扱え。貴重な被験体の患者だ、ははは―――」

 

胸を撫で下ろす。

これで、すぐに死ぬ事はないだろう。その後は・・・どうなるか・・・・・・

 

 

 

結局、実験は彼の容態を見て行われる事になった。

ただの時間稼ぎだったかもしれないが、ここで死ぬよりはいいと思ったんだ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし3日後。

俺のプロジェクトチームの解散が決まった。

 

「何故ですか所長!? 彼はどうしたんです!?」

「ああ、あの男なら死んだよ」

「なっ!?」

 

言葉を失う。

俺の行動は、結局無駄だったのか・・・?

あの人を生き延びさせる事はできなかったってのか・・・・・・

 

「被験体がいなくては、実験もはかどらないだろう。

 実験は、PF研究班が引き継ぐ。彼らに任せるように。

 軌道に乗り次第、君にも参加してもらう」

「Fチームがですか?」

 

Fチーム。人造魔導師の製造を目的とする、プロジェクトF.A.T.E.の研究をしてる所だ。

今度は、被験者を造りだすつもりか・・・・・・

ここの連中にとって他人の命なんて、いや、場合によっちゃ自分の命でさえ、

所詮はモノ扱いって事なんだ・・・・・・

 

「話は以上だ。下がりたまえ」

「・・・はい・・・・・・」

 

何も言えずに退室する。

俺は・・・無力だ・・・・・・

罪悪感から逃げようとして、何とか命は助けようとしても、このザマだ。

俺も所詮は、自分の命惜しさに、他人を食いつぶしてる連中の片棒を担いでいるだけ、か・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1ヵ月。

以前にも増して俺は黙々と研究に打ち込み、周りからは、『ロボット主任』だの

『感情の無い仮面』だのと囁かれる存在となっていった。

 

そんな中、俺は再び、セキレアプロジェクトに参加する事になった。

 

「明日から来い・・・か」

 

呟きながら、渡された資料に目を通す。

 

人造魔導師創造計画・プロジェクトFは未完成ながら、

既存の魔導師のデータを流用する事で、被験体となる素体を生み出す事には成功したらしい。

被験体『M1』。モルモット1号、て事か・・・

現在、推定3歳児程度まで成長が確認されている。

既に、セキレアの核ユニットと被験者のリンカーコアの融合は完了しているようだ。

後は、その子供がある程度成長したら、本格的に実験に入る事になる訳か・・・・・・

 

「結構気長なプロジェクトだな・・・・・・

 ――――――ッ!!?」

 

被験者の情報を読んでいた時、俺は目を疑った。

2つの項目。生み出された被験者の元となった魔導師。

そしてセキレアデータベース機構のデータ元。

 

  ○被験体M1 データ提供者・・・・・・マコト・ホンダ

  ○(セキレア)(データ)(ベース) データ提供者・・・・・・E1609-8010 (D)

 

M1の元魔導師が・・・俺・・・・・・?

俺を元にして・・・生み出されたってのか・・・・・・?

しかも・・・データベース化された生贄たる人物・・・・・・

それは、あの人・・・・・・

1ヵ月前、死んだと聞かされた・・・次元を越え呼び出されたあの人・・・・・・

 

「・・・ふっ・・・・・・くくくくくっ・・・」

 

笑いがこぼれる。

・・・この研究所の人間はバカか?

確かに最近、無気力に研究に打ち込んではきたが、

こんなデータを見せられて、俺が何も感じないとでも思ったか?

 

「・・・ふざけるな・・・・・・

 そこまで人間捨てちゃあいないんだよ・・・・・・」

 

 

 

 

 

その夜。

研究所は大爆発を起こし、壊滅した・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

      Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まぁ早い話、いい加減腹に据えかねて、お前を連れて脱走し、施設を爆破してやった訳だ。

 自慢じゃないが、俺は魔導師としてもそれなりに優秀だったからな、派手にやってやったよ』

 

・・・・・・なんていうか・・・衝撃の真実。

父さんが、そっちの世界の人だってのは、デバイス見つけた時から予想できてたけど・・・

・・・まさか、ここでプロジェクトFを再び耳にするとは思ってなかった・・・・・・

ましてや、自分の出自がそれだなんて・・・全く予想していなかったし。

 

「祐介・・・冷静ですね」

「・・・自分でも不思議だよ。

 何でこんなに落ち着いてるのか」

 

これは神経が図太いというのか、それともただの精神異常なのか・・・後者は嫌だが・・・

 

しかしそんな簡単に脱走できる組織でいいのか? セキュリティ甘くないだろうか。

とか思ってたらその答えもしっかり返ってきた。

 

『こっそり逃げ出そうとするには、やっぱり防備体制がしっかりしてたからな。

 潔く、全力の砲撃魔法を一発。もちろん物理破壊設定でな。

 後は逃げるが勝ちだ』

 

なかなか無茶をやったもんだ。

確かに、強行突破できる自信があれば、その方が手っ取り早いけどね。

 

『逃げ出した後、多重転移魔法を何度も繰り返して追手を撒き、この世界へとやってきた。

 その頃には心身ともに疲労困憊だった。

 そこで真弓・・・母さんと出会った、いや拾われたのかな。

 後は・・・苦労もあったなぁ・・・咲も最初は懐いてくれなくて・・・

 ってそれは関係ない! ・・・まぁ色々あって結婚とか・・・うん、とにかく色々あった!」

「・・・随分とまた話を端折ったな」

「話すのが面倒だったのか照れくさかったのか・・・微妙なところですねー」

 

どっちも可能性としてはありそうだけどな。

 

『ただ・・・

 連れ出したお前は、極端に感情を有していなかった。

 ・・・恐らく、プロジェクトFが未完成のまま、実験を行ったせいだろう』

 

・・・・・・1年前の事故以前の僕がそんな感じだって母さんや姉さんも言ってたっけか。

じゃあ何故今は、普通にできてるんだ・・・?

 

『正直に言えば、お前に感情を与える方法はあった。

 ・・・セキレアシステムを、人格AIも含めて本稼働させる事だ。

 本稼働の際に、使用者に心神喪失などの異常が認められた場合、

 セキレア内の、データベース化された人物の人格を植え付けるという、

 非人道的とも言える安全装置があったからだ。

 その機能を使えば・・・お前に人格を与えることはできた。

 

 ――― 少し悩んだが、その方法は取らなかった・・・

 あの人が実際に生き返る訳じゃないからな。

 ただし、これからもセキレアが稼働しないという保証は無い。

 セキレアに緊急防衛機能があるのかどうかまでは分からなかったからな。

 もしかしたら、使用者の身に危険が迫った時、自動的に稼働してしまう可能性も考えられる』

「・・・結局稼働しちゃいましたねー。

 私、誠さんに悪い事しちゃったでしょうか・・・・・・」

「いや、美月が悪いわけじゃないだろ。自動稼働だったんだろうし」

 

あの事故で危機に陥った僕に反応して、セキレアAI、つまり美月は起動、

そして人形同然だった僕に、『あの人』の人格が・・・?

これまで特に気にした事も無かったが・・・次第に自分に自信が無くなってくる。

今の僕は・・・この心は・・・データにされた人(のコピー)にすぎない・・・のか・・・?

しかし、父さんの言葉は続きがあった。

 

『だから、自動的に稼働する可能性を見越して、俺はセキレアに細工をしておいた。

 データの解析に時間がかかって、完了したのは、つい先日の事だけどな。

 ・・・セキレアの一部のデータを封印した。

 恐らくあの人の『記憶』に関わるものだと思うが・・・・・・

 これで、もしセキレアが稼働しても、あの人の人格そのものが

 お前に植え付けられることはないと思う。

 ・・・似た性格くらいにはなるかもしれないけどな』

 

び、微妙すぎるフォロー・・・・・・!

安心していいのかダメなのか・・・・・・

 

「・・・ま、いいか・・・・・・」

「いいんですか? 一瞬悩んだ割に、随分とあっさりしてますねー」

「いいんだよ。

 この楽観的性格が、『あの人』のものなのか、僕自身のものなのか・・・

 そんな事はどうでもいいよ。気にしない。悩んだ所でどうにかなる訳でもなし」

 

う~ん・・・自分でも感心するね。細かい事は気にしない性格。

 

『ただな・・・・・・』

「?? 何だ、まだ続くのか?」

『データを封印した事で、セキレアシステムはその力をフルに使えなくなると思う。

 お前が魔導師として生きていくつもりなら、それは大きな負荷になるだろう。

 ――― だから、俺の封印を解除する術式を、このデバイスに残しておく』

 

あのプロテクトかかってたやつか・・・

 

「あ、プロテクト解けてる。

 美月、これ起動できるか?」

「え? もう今すぐ封印解いちゃうんですか?」

「やって損はないんじゃないか? 興味はあるし」

「はぁ・・・じゃあ行きますよ。

 ――― 術式解凍。データシール、リリース開始!」

 

調子にのって、意気揚々とデータを解放しようとした所に、父さんの一言が・・・・・・

 

『あぁ、でも封印を解除する事で、人格に影響がでる可能性もあるから気を付け―――』

「なっ!?

 美月!! ストップ!! ストッォォプッ!!」

「も、もう遅いですよー!!」

「そういうヤバイ事は先に言えバカ親父ぃぃっ!!!」

 

大津波の様に押し寄せた膨大な情報に、僕の意識はあっさりと飲み込まれた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

天井が見える。

 

「・・・知らない天井だ・・・・・・」

 

いや知ってるけどね。すごく良く知ってる。

 

「祐介ー。大丈夫ですかー?」

「・・・たぶん。

 ・・・どのくらい落ちてた?」

「ざっと7時間ほど。

 まぁ起きてすぐボケをかませる程度には大丈夫そうですねー」

「今のをボケだと分かるって事は・・・・・・

 お前も受け取ったのか。『群星(むらほし) 勇輔(ゆうすけ)』の記憶・・・・・・」

 

父さんの封印した、「あの人の記憶」。

――― さすが人ひとりの記憶。とてつもない量の情報だった。

人格に影響どころか、下手すれば人格が丸ごと書き換わる可能性だってあったんじゃなかろうか。

元々彼をベースにした人格だったからか、はたまた僕自身に1年分の記憶しかなかったからか、

原因はともかく、僕は「神代 祐介」という人格のまま、「勇輔」の記憶をも持つ事になった。

 

「・・・普通に、自分自身の記憶って感覚だな」

「そうですね。よかったじゃないですか、記憶喪失が治って」

「治ったっていうのか、コレ・・・?」

 

まぁ事故以前の記憶が無い理由は分かったしな。

 

「ま、1年より前の記憶が無かろうと、勇輔さんの記憶を持っていようと、僕は僕だ。

 それは自信をもって言えるからな。

 ――― 今の僕は神代祐介だ。それ以上でも、それ以下でもない・・・」

「・・・知らない人が聞いたら、疑問を抱くこともないんでしょうが・・・・・・

 そのセリフ、使い方間違ってますよー?」

 

うーん、いいツッコミだ。

別にどっかの大尉みたく、大きな役目を負う事から逃げてる訳じゃないからな。

 

 

 

『・・・最後にこれだけは言っておく』

 

おっと・・・まだメッセージは残ってたのか。

 

『俺には、お前がどんな人生を歩むのかは分からない。

 でも、ひとつ願う事は、お前や真弓、咲が幸せになってほしい、それだけだ。

 ありきたりな言葉だが、それが本心だ。

 もちろん、お前がこのメッセージを聞く事なく、家族全員が揃っているのが最善だが・・・

 

 祐介・・・・・・

 これを聞かせて、お前には余計な重荷を背負わせてしまう事になったかもしれない。

 だが・・・勝手な言い分かもしれないが、強く生きてくれ。

 確かに生まれは特殊だったかもしれない。でも、お前はお前だ。誰でもない祐介だ。

 自分という存在を否定するな。

 俺も、真弓も、咲も・・・きっと周りの他の人だって、お前を肯定してくれる。

 お前を生んだのは、クソったれな研究だったが・・・

 それでも俺は、お前に会えて良かったと思ってる。

 繰り返すようだが・・・幸せに生きろ。

 

 ・・・そろそろ切り上げ時かな。

 もし俺がいなかったら・・・・・・・母さんや姉さんを頼むな。

 

 ――― 我が愛する息子 祐介へ』

 

 

 

メッセージの再生が終了する。

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・祐介・・・?」

 

・・・あー、なんていうか・・・・・・

・・・・・・涙が・・・止まらない・・・・・・・・・・・・

 

「・・・記憶は無いけど・・・・・・

 やっぱ、生きてて欲しかったよ・・・父さん・・・・・・」

 

そう呟き、デバイスをケースに納め、立ち上がる。

 

 

 

 

 

カーテンを開ける。

朝日が昇ろうとしていた。

溢れる光に目を細め、父さんの言葉を反芻する。

 

「強く、幸せに生きろ、か」

「できますかね?」

「・・・できるさ。だって、僕は一人じゃない。

 美月が、母さんや姉さんがいる。なのはも、アリサも、すずかもいる。

 他にも沢山の人が僕と繋がりを持ってくれているんだ。

 それは、僕がここにいる・・・ここに存在していてもいいという証だと思うから」

 

右手を光へと伸ばす。

 

「(そうだよな、父さん。

  確かに、自分の生まれの秘密を知って、ショックは受けたよ。

  でも、そこで人生を終わりにする理由にはならないよな。

  それは、僕が生まれた良かったって思ってくれた父さんを否定する事だ)

 

 よっし!! 難しい話は終わり!!

 結論! 先の事は分からないけど、とりあえず人生を頑張る!!

 

宣言。立会人は美月しかいないが、まあいいだろう。

宣言先は自分、そして父さんと・・・セキレアとなった勇輔さんだ。

 

「そ、それだけですか?

 大層な決意とか無いんですかー!?」

「無い!

 人生なるようにしかならん!

 とにかく、いろいろと頑張って、幸せになる!」

 

そう、それが父さんの願いで・・・・・・今、父さんとした約束だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしていつもの日常が始まる。

 

その日常を積み重ねる・・・・・・幸せになるために・・・・・・

『あなたが命を懸けて護った息子は、ちゃんと幸せになりましたよ』 と、

胸を張って言えるように・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

      第15話   終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ~あとがき・・・もどき!!~

 

 

 

祐介「まさに衝撃の真実!!」

作者「ほんとにねぇ」

美月「まさかのプロジェクトFでしたねー」

作者「(まさかっていうか・・・なのはSSでは割とよく見る設定のような・・・

    転生ではないケド、『神様転生』のタグがついてる理由はここにあった!!)

 

   ――― 最初は、祐介の元となった魔導師は勇輔っていう設定だったんだけどねー。

   それだと、マコトさんのM1に対する感情移入が薄いかなーと思って、

   より息子っぽくするために、マコトさんを元にしてみました」

美月「そもそも、勇輔さんって何処の人なんです?」

作者「一応、作者や読者の世界の人間のつもり。

   だから機鋼の能力がああなったの」

祐介「それにしても・・・ゆうすけが多いな」

作者「研究所に召喚された時、勇輔が来てた服に、『YUSUKE』って書いてあって、

   それでマコトさんは、M1に祐介って名付けた、という裏設定が有ったり無かったり」

美月「本編で書きそびれたんですね・・・・・・」

祐介「結局の所・・・僕ってどういう存在なんだ?

   僕は気にしない事にしたけど、設定的には」

作者「設定でも、祐介は祐介だよ?

   データ元の人の記憶があろうが、今を生きているのは祐介であって勇輔じゃないから。

   勇輔の魂が祐介の身体に憑依したわけでも、

   勇輔の精神は今でも祐介に根付いてるとかいうわけでもないよ?

 

   それはともかく・・・・・・

   今回の話で、祐介も美月もパワーアップだね!」

祐介「そうなのか?」

美月「まぁ2人とも、作者程度にはヲタ知識を手に入れた訳ですし、

   機鋼の能力はフルに活かせますしね」

作者「そう、そしてこれまで使えなかった新たな能力、その名もチェ―――」

祐介「今言うなよ」

美月「えー、過度の期待はしないように。

   どうせ、そう頻繁に使う能力でもないですしねー」

作者「カッコイイのになー・・・・・・」

 

 

 


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