初音島物語   作:akasuke

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皆さんの感想のコメントを見て、毎回にやにやしてます。
D.C.が懐かしいと、青春だと、好きだと言う方々に、何だか嬉しさが止まりません。
D.C.作品を作ったわけでもないのに、何故か喜んでしまうんですよね。
ありがとうございます。

ひとつ、主人公の容姿について別途聞かれたのですが、イメージを伝えるのが難しいです。
個人的には、「ななついろドロップス」のヒロインすももの父親の容姿が、一番イメージに合致してます。
……マニアックすぎますかね?

文才も絵の才能もないのが悲しいです。

では、本編をどうぞ。


episode-6「ほんとは」

「なんで」

 

杏は、自分の感じている気持ちに戸惑う。

 

 

放課後、義之たちと彼方に会った後、義之たちと別れて杏は自宅に戻った。

そして、いつもの様にキッチンでレトルト食品を使って料理を作り、食べる。

 

その後に、日記を書く。

 

いつもと変わらない作業。

いつもと変わらない部屋。

 

それなのに、何故だろうか。

 

必要最低限しか置いていない、殺風景とよべる部屋でも、杏は慣れていた筈だ。

 

それなのに、何故か今までより広く感じてしまう。

 

 

「なんで」

 

何故か、ひとりでいることが不安に、

そして寂しく感じているのだ。

 

自分の気持ちを分析し、原因を探ろうとする。

 

 

「やっぱり、魔法の桜の話、かしら」

 

昨日と今日の違いと言えば、放課後のこと以外には考えられなかった。

 

願いが解けてしまうことを、不安に感じているのだろうか、と。

杏は、自分自身に問うように口に出す。

 

しかし、これという、確証を得ることが出来ず、答えを見つけることが出来なかった。

 

どうすれば良いのか、分からなくて。

 

 

――いつでも、お待ちしてます。

 

そんなとき、今日の帰り際、杏たちに伝えていた、彼方の言葉が頭をよぎる。

決して、その場限りの言葉ではなくて、嘘で言ったわけではない。

今日会ったばかりなのに、彼なら大丈夫だと思える何かがあった。

 

 

「明日、訪ねてみようかしら」

 

あの執筆室に、と。

桜の願いにより叶った、この残り続ける記憶が、

今日のルートを覚えていられるのだ。

向こうも戸惑うだろうと思う。

なにせ、自分自身が何を言いたいのか分からないのだから。

 

少し、心が軽くなるのを感じた。

 

そして、今日、彼方が話していた、とある言葉を思い出す。

 

 

 

 

『恥ずかしいかもしれませんが、両親や友達に普段は言えない感謝をしたり、想いを告げたりするのも大事なことだと思います』

 

 

 

 

「お婆ちゃん」

 

思わず、つぶやいてしまう。

養子として雪村家に入った杏。

杏を大切にしてくれて、既に3年前に亡くなってしまった、大切な存在。

 

そんな大切な人を思い出し、そしてぽつりと言葉が出てしまった。

 

 

 

――そういえば、一度もお婆ちゃんのこと『お母さん』って呼んであげられなかったなぁ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-6「ほんとは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらためまして、 初音 彼方です」

 

公園にて、対面している女性―花咲 藍に、彼方は改めて挨拶を交わした。

 

そんな彼方の対応に、藍は悪戯げな笑みから一転、目を丸くして驚いた表情を見せた。

 

 

「……もっと、驚くと思ってた」

 

最初は驚いた表情を見せたものの、すぐにこちらに笑みを向けてきた彼方。

藍からしてみれば、想定したものと違い、落ち着いている彼方に驚いてしまっていた。

 

 

「まぁ、確かに驚きはしましたが、そういうこともあるのだろうなって」

 

私自身が不思議な体験をしてますからね、と。

彼方は、言葉を付け足した。

 

彼方自身が願いを叶えてもらっているのに加え、他にも魔法の桜に叶えてもらった存在を知っている。

だからこそ、驚きはしても、大概は受け止めることが出来るのであった。

 

 

「ぶーぶー、私としては、お姉ちゃん以外に初めて打ち明けたのに。 そんなにリアクションが低いと寂しいなぁ」

 

頬を膨らませ、睨み付ける藍に、ごめんなさいと謝る彼方。

まぁ仕様がないか、と藍は仕切り直す。

 

そして、藍が自身のことを話し出す。

 

藍と茜は双子の姉妹であったこと。

藍が水難事故で死んでしまったこと。

気付いたときには、枯れない桜―いや、魔法の桜の前に佇む茜に宿っていたこと。

 

 

「最初はねー、お姉ちゃんが作り出した性格、二重人格なのかなって思ったの」

 

でも、それは違うかなって思ったの、と藍は言う。

茜が作り出した存在であれば、茜がいない時の藍自身の思い出がある筈がないのだ。

でも、自分の中には、茜が熱を出した時に父親とふたりで出掛けた記憶がある。

 

 

「だからねぇ、藍さんとしては、桜の願いで死んだ自分が宿ったって方がシックリくるんだよねー」

 

最初は半信半疑であったが、彼方の存在を知り、彼方の話を聞き、悟ったのだ。

 

 

――嗚呼、わたしは魔法の桜のおかげで存在しているのだ、と。

 

 

「その話を……なぜ、私に?」

 

「だって、初音くんが教えてくれたのに、私たちが黙っているのは不公平かなって思ったの」

 

お姉ちゃんには、わたしが伝えたいってお願いして、代わってもらったんだ、と付け足す藍。 

 

 

「それでは、今は…えっと、お姉さんは一緒にこの話を聞いてるんですか」

 

「んーと、どちらも意識あって聞いてたりするときもあるんだけど、今はお姉ちゃん、眠っている状態だね」

 

彼方の質問に、自分の状況を考えながら伝える。

なるほど、と。

藍がいて、茜がいま話している内容を聞いていないと知り、ひとつ尋ねる。

 

 

――私は、酷なことを話してしまいましたか、と。

 

誰かが後悔しないように。

願いが解ける前に、やり残したことがないように。

 

そんな思いがあり、彼方は、自分の過去や魔法の桜の話をした。

 

しかし、願いが解けたら消えるのだと告げられた藍の気持ちは。

藍の思いは。

 

苦しそうな、そして悲しそうな表情の彼方をみながら藍は質問に返した。

 

 

「大丈夫だよ、もともとは死んでる存在だもん」

 

彼方の方を見ず、背中を向けて、空を見上げる藍。

 

 

「今は人生のロスタイムなんだろうなって、心の何処かで思っていたから」

 

「花咲さん」

 

呼び掛ける彼方の声に返事をせず、

藍は話すのを続ける。

 

 

「お姉ちゃんに、また逢うことができたから」

 

「花咲さん」

 

「それだけじゃなくて、杏ちゃんや小恋ちゃん、義之くん、渉くん、杉並くんとか、みんなと逢えることができたん――」

 

「花咲さん!」

 

続けようとする藍に、彼方は強く名前を呼び、言葉を止める。

そして、彼方はひとつ問う。

 

 

 

 

――ほんとに? と。

 

一度死んでるから大丈夫。怖くない。

 

そんな筈がないのだ、と彼方は思う。

前世を知っている、いや、一度死んでいる彼方だからこそ。

 

後悔しないように、と。

悔いのない人生を送ろうと思っていても、寂しいと、不安と感じないわけではない。

 

前世では、彼方は三十代まで生きていた。

しかし、藍は幼い頃に死んでしまい、精神年齢で言えば茜たちより下の筈だ。

 

だからこそ、そんな女の子ひとりで抱え込まないで欲しいと思う。

だからこそ、彼方は聞いた。

 

 

 

 

聞かせてください、と。

 

 

 

 

 

いまは私と貴女しかいません。

だから、本音を聞かせてくれませんか、と。

 

 

 

 

 

 

 

暫く、公園が静寂で包まれる。

 

 

「わたし」

 

そんな中、ポツリと藍がつぶやく。

 

 

「わたし…わたしね……」

 

今まで我慢していたものが溢れてしまうのを、藍は感じた。

もう止められない、と。

 

彼方の方に振り返った藍の目には、溢れるように涙が流れていた。

 

 

「ほんとは、怖いよ、辛いよ、寂しいよ!」

 

別れたくない、ずっとお姉ちゃんの側にいたい、と。

堰(せき)を切ったように、本音が出てくる藍。

 

茜の前だからと見栄を張っていたのだが、本音を伝えられる存在を前に、気持ちを収めることができなかった。

 

 

「わたし……っ、ずっと……そばに……」

 

「大丈夫ですよ」

 

全てを出し切るように、泣き出す藍にそっと近づき、彼方は安心させるように頭を撫でつづける。

 

 

「大丈夫」

 

彼方自身も同じように、不安に押しつぶされそうになったときがあった。

そんな時に、看護師の、そして姉のような存在である葵はただただ受け止めてくれて、大丈夫だよと撫でつづけてくれた。

 

こんな自分が同じことをしてあげられているか分からないけれど、と。

 

せめて彼女が後悔しないように。

そう願う彼方であった。

 

 

 




実を言うと、投稿する前に10話ほど書いていました。

ただ、Prologueを投稿して、D.C.IIを少しプレイし直して、改めて書き溜めた小説を見たときに思いました。
D.C.のあの雰囲気や暖かさが出せていないな、と。

そこから、その書きだめは捨てて、全く新しく書いたのがepisode-1以降です。

感想や評価に、原作雰囲気があるとか、暖かさがあるという声があり、変えて良かったと思ってます。

ただ、そのせいで、書きだめがないので遅くなってしまったら申し訳ありません。
最後までは書き上げてみせます。

また見ていただければ幸いです。

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