D.C.が懐かしいと、青春だと、好きだと言う方々に、何だか嬉しさが止まりません。
D.C.作品を作ったわけでもないのに、何故か喜んでしまうんですよね。
ありがとうございます。
ひとつ、主人公の容姿について別途聞かれたのですが、イメージを伝えるのが難しいです。
個人的には、「ななついろドロップス」のヒロインすももの父親の容姿が、一番イメージに合致してます。
……マニアックすぎますかね?
文才も絵の才能もないのが悲しいです。
では、本編をどうぞ。
「なんで」
杏は、自分の感じている気持ちに戸惑う。
放課後、義之たちと彼方に会った後、義之たちと別れて杏は自宅に戻った。
そして、いつもの様にキッチンでレトルト食品を使って料理を作り、食べる。
その後に、日記を書く。
いつもと変わらない作業。
いつもと変わらない部屋。
それなのに、何故だろうか。
必要最低限しか置いていない、殺風景とよべる部屋でも、杏は慣れていた筈だ。
それなのに、何故か今までより広く感じてしまう。
「なんで」
何故か、ひとりでいることが不安に、
そして寂しく感じているのだ。
自分の気持ちを分析し、原因を探ろうとする。
「やっぱり、魔法の桜の話、かしら」
昨日と今日の違いと言えば、放課後のこと以外には考えられなかった。
願いが解けてしまうことを、不安に感じているのだろうか、と。
杏は、自分自身に問うように口に出す。
しかし、これという、確証を得ることが出来ず、答えを見つけることが出来なかった。
どうすれば良いのか、分からなくて。
――いつでも、お待ちしてます。
そんなとき、今日の帰り際、杏たちに伝えていた、彼方の言葉が頭をよぎる。
決して、その場限りの言葉ではなくて、嘘で言ったわけではない。
今日会ったばかりなのに、彼なら大丈夫だと思える何かがあった。
「明日、訪ねてみようかしら」
あの執筆室に、と。
桜の願いにより叶った、この残り続ける記憶が、
今日のルートを覚えていられるのだ。
向こうも戸惑うだろうと思う。
なにせ、自分自身が何を言いたいのか分からないのだから。
少し、心が軽くなるのを感じた。
そして、今日、彼方が話していた、とある言葉を思い出す。
『恥ずかしいかもしれませんが、両親や友達に普段は言えない感謝をしたり、想いを告げたりするのも大事なことだと思います』
「お婆ちゃん」
思わず、つぶやいてしまう。
養子として雪村家に入った杏。
杏を大切にしてくれて、既に3年前に亡くなってしまった、大切な存在。
そんな大切な人を思い出し、そしてぽつりと言葉が出てしまった。
――そういえば、一度もお婆ちゃんのこと『お母さん』って呼んであげられなかったなぁ、と。
episode-6「ほんとは」
「あらためまして、 初音 彼方です」
公園にて、対面している女性―花咲 藍に、彼方は改めて挨拶を交わした。
そんな彼方の対応に、藍は悪戯げな笑みから一転、目を丸くして驚いた表情を見せた。
「……もっと、驚くと思ってた」
最初は驚いた表情を見せたものの、すぐにこちらに笑みを向けてきた彼方。
藍からしてみれば、想定したものと違い、落ち着いている彼方に驚いてしまっていた。
「まぁ、確かに驚きはしましたが、そういうこともあるのだろうなって」
私自身が不思議な体験をしてますからね、と。
彼方は、言葉を付け足した。
彼方自身が願いを叶えてもらっているのに加え、他にも魔法の桜に叶えてもらった存在を知っている。
だからこそ、驚きはしても、大概は受け止めることが出来るのであった。
「ぶーぶー、私としては、お姉ちゃん以外に初めて打ち明けたのに。 そんなにリアクションが低いと寂しいなぁ」
頬を膨らませ、睨み付ける藍に、ごめんなさいと謝る彼方。
まぁ仕様がないか、と藍は仕切り直す。
そして、藍が自身のことを話し出す。
藍と茜は双子の姉妹であったこと。
藍が水難事故で死んでしまったこと。
気付いたときには、枯れない桜―いや、魔法の桜の前に佇む茜に宿っていたこと。
「最初はねー、お姉ちゃんが作り出した性格、二重人格なのかなって思ったの」
でも、それは違うかなって思ったの、と藍は言う。
茜が作り出した存在であれば、茜がいない時の藍自身の思い出がある筈がないのだ。
でも、自分の中には、茜が熱を出した時に父親とふたりで出掛けた記憶がある。
「だからねぇ、藍さんとしては、桜の願いで死んだ自分が宿ったって方がシックリくるんだよねー」
最初は半信半疑であったが、彼方の存在を知り、彼方の話を聞き、悟ったのだ。
――嗚呼、わたしは魔法の桜のおかげで存在しているのだ、と。
「その話を……なぜ、私に?」
「だって、初音くんが教えてくれたのに、私たちが黙っているのは不公平かなって思ったの」
お姉ちゃんには、わたしが伝えたいってお願いして、代わってもらったんだ、と付け足す藍。
「それでは、今は…えっと、お姉さんは一緒にこの話を聞いてるんですか」
「んーと、どちらも意識あって聞いてたりするときもあるんだけど、今はお姉ちゃん、眠っている状態だね」
彼方の質問に、自分の状況を考えながら伝える。
なるほど、と。
藍がいて、茜がいま話している内容を聞いていないと知り、ひとつ尋ねる。
――私は、酷なことを話してしまいましたか、と。
誰かが後悔しないように。
願いが解ける前に、やり残したことがないように。
そんな思いがあり、彼方は、自分の過去や魔法の桜の話をした。
しかし、願いが解けたら消えるのだと告げられた藍の気持ちは。
藍の思いは。
苦しそうな、そして悲しそうな表情の彼方をみながら藍は質問に返した。
「大丈夫だよ、もともとは死んでる存在だもん」
彼方の方を見ず、背中を向けて、空を見上げる藍。
「今は人生のロスタイムなんだろうなって、心の何処かで思っていたから」
「花咲さん」
呼び掛ける彼方の声に返事をせず、
藍は話すのを続ける。
「お姉ちゃんに、また逢うことができたから」
「花咲さん」
「それだけじゃなくて、杏ちゃんや小恋ちゃん、義之くん、渉くん、杉並くんとか、みんなと逢えることができたん――」
「花咲さん!」
続けようとする藍に、彼方は強く名前を呼び、言葉を止める。
そして、彼方はひとつ問う。
――ほんとに? と。
一度死んでるから大丈夫。怖くない。
そんな筈がないのだ、と彼方は思う。
前世を知っている、いや、一度死んでいる彼方だからこそ。
後悔しないように、と。
悔いのない人生を送ろうと思っていても、寂しいと、不安と感じないわけではない。
前世では、彼方は三十代まで生きていた。
しかし、藍は幼い頃に死んでしまい、精神年齢で言えば茜たちより下の筈だ。
だからこそ、そんな女の子ひとりで抱え込まないで欲しいと思う。
だからこそ、彼方は聞いた。
聞かせてください、と。
いまは私と貴女しかいません。
だから、本音を聞かせてくれませんか、と。
暫く、公園が静寂で包まれる。
「わたし」
そんな中、ポツリと藍がつぶやく。
「わたし…わたしね……」
今まで我慢していたものが溢れてしまうのを、藍は感じた。
もう止められない、と。
彼方の方に振り返った藍の目には、溢れるように涙が流れていた。
「ほんとは、怖いよ、辛いよ、寂しいよ!」
別れたくない、ずっとお姉ちゃんの側にいたい、と。
堰(せき)を切ったように、本音が出てくる藍。
茜の前だからと見栄を張っていたのだが、本音を伝えられる存在を前に、気持ちを収めることができなかった。
「わたし……っ、ずっと……そばに……」
「大丈夫ですよ」
全てを出し切るように、泣き出す藍にそっと近づき、彼方は安心させるように頭を撫でつづける。
「大丈夫」
彼方自身も同じように、不安に押しつぶされそうになったときがあった。
そんな時に、看護師の、そして姉のような存在である葵はただただ受け止めてくれて、大丈夫だよと撫でつづけてくれた。
こんな自分が同じことをしてあげられているか分からないけれど、と。
せめて彼女が後悔しないように。
そう願う彼方であった。
実を言うと、投稿する前に10話ほど書いていました。
ただ、Prologueを投稿して、D.C.IIを少しプレイし直して、改めて書き溜めた小説を見たときに思いました。
D.C.のあの雰囲気や暖かさが出せていないな、と。
そこから、その書きだめは捨てて、全く新しく書いたのがepisode-1以降です。
感想や評価に、原作雰囲気があるとか、暖かさがあるという声があり、変えて良かったと思ってます。
ただ、そのせいで、書きだめがないので遅くなってしまったら申し訳ありません。
最後までは書き上げてみせます。
また見ていただければ幸いです。