音姫ルート後の恋人、結婚、家族生活を描いた作品です。
D.C.IIIのキャラクターも出る、まさしく集大成と言える作品だと思いました。
個人的には、あそこまでしっかりと結婚までの道程を描く作品はそうないな、と思いました。
是非とも、D.C.が好きな方はプレイしてみてください!
『そう、アナタも、願ったのですね』
これは過去の出来事。
彼方が小学生の頃のことだ。
退院しても交流のあった看護師―鈴木 葵に頼み込み、とある人物と知り合うことが叶った。
『まさか、再び咲きはじめた桜にも、願いを叶える力があるとは思いませんでした』
鈴木 友美。
葵の祖母にあたる人物である。
葵から聞いた過去の話では強気な性格というイメージであったが、真逆の様に感じられる。
物腰が柔らかく、人を安心させる笑みを浮かべる、優しそうな女性であった。
魔法の桜に願いを叶えてもらった人物。
彼方にとっては、このとき会った頃から中学生になる現在までずっと尊敬し続ける女性だ。
彼方は、同じように願いを叶えた人と直接話してみたかったのだ。
いや、それだけでなく、自分が何をしていくべきか、相談したかったのかもしれない。
彼方は友美に打ち明けた。
自分が病気であったこと。
魔法の桜に願い、病気を治してもらったこと。
これから何をしていけば良いのか悩んでいること。
友美が彼方の話を最後まで聞き、
その後に言ったことが、先程の言葉である。
これはわたしの推測ですが、と。
前置きをして、彼女は述べる。
『あの桜は、シンデレラに出てくる魔法と同じ様なものだと思うのです』
童話「シンデレラ」で登場する魔女の魔法は、午前零時に解ける。
いつか、解けてしまう願いなのだと、友美は言った。
友美が、彼方を対等の人物だと思ったからこそ、正直な思いを述べたのだ。
『だからこそ、後悔しないように生きなさい』
友美なりの、彼方への励まし。
そして、魔法が解けた友美が過ごした50年間の、自身の半生の結論であったのかもしれない。
その言葉は、彼方にとって心にずっと残り続ける、大切なものとなった。
その後も、彼方は友美に自身の思いを伝え続けた。
前世と呼べる記憶があることにより、見た目以上に精神的には大人びていたが、不安があったのだろう。
信頼できる人を目の前にし、言葉をとめることが出来なかった。
そして、信頼に応えるように、友美もまた自分なりの助言をしたのだった。
『あとは……そうですね、私以外の、魔法の桜に願った人に会ってみなさい』
一通り話し終わった後、唐突に言ったのだ。
そして、付け足すように、紹介しますね、と。
そう告げる友美に、彼方は驚き、思わず立ち上がってしまう。
そんな彼方の表情を見て、笑いながら友美は話す。
私がそれを知ったのは、大人になり、同窓会で会ったときのことです、と。
酔って想い出話に花が咲いたとき、思わず願いが叶ったことを話したのだと言う。
そのときに、わたしも魔法の桜に願ったのだと、教えてくれた人がいたのだ。
友美からしてみれば、驚きの人物であったとのこと。
彼方はその人物について尋ねた。
友美は目を瞑り、懐かしいと思いながら答える。
わたしが中学生の頃に憧れた、学園の歌姫です、と。
episode-3「それぞれの」
「ふむ、いいぞ」
「……ほんとに?」
自分で望んでいたことだけど想定外だ、と雪村 杏は思った。
放課後。
目的の人物に会う為に、ホームルームが終わり次第、急いで教室を後にした。
本当はクラスメイトなので教室で声を掛けようと思ったのだが、何かやらかしたのか、ホームルームを出席せずに何処かへと去ってしまっていた。
おそらく、生徒会を挑発したのだろう。
今日一日中、生徒会の面々が探して駆け回っているのを目撃した。
以前、目的の人物が利用していた逃走ルートを記憶から引っ張り出し、可能性が高い場所を虱潰しに杏は回った。
そして、目的の人物―杉並を、ようやく杏は見つけ出したのだった。
杉並に声を掛け、杏は尋ねた。
魔法の桜についての記事を書いた人物に会うことは可能か、と。
その回答が最初の場面である。
杏としては、はじめから肯定が返ってくることを期待して居なかった。
非公式新聞部は秘密主義を徹底しており、メンバーは杉並を除き、基本的に公になっていない。
だからこそ、どうやって言い包めるか考えていた分、肩透かしを食らったのであった。
そんな杏をみて、杉並は高らかに笑う。
「フーハッハッハ、どうやら雪村に一杯食わせることが出来たようだなっ!」
「……うるさいわよ」
こちらを見て笑う杉並に言葉を返しつつ、改めて問う。
ほんとにいいのか、と。
「本来であれば、雪村相手に情報を公開するのは危険なんだがな」
「それなら、なんで?」
「面白半分で聞いたようには思えなかったのでな」
それに、やつ自身も否とは言わんだろう、と。
杉並は付け足しながら答えた。
杏は、確かに興味半分で聞いたわけではない。
しかし、記事を書いた人物に会って如何するかは、実を言うと考えてなかった。
壁に貼られた新聞を目にしたのは、偶然だった。
しかし、記事の内容を読んでいく中で、様々な感情が浮かんでは消えた。
そのあとで、最後に思ったのだ。
この記事を書いた人物に会わなければいけない、と。
何故その結論に至ったのかは、あまり自身でも分かっていない。
しかし、何かが変わることになるのだろう。
場をセッティングするから明日まで待つが良いと、一言残してから去る杉並を見ながら、漠然とそのように思うのであった。
――――――――――――――――――
『お姉ちゃん、またぼーっとしてるよ?』
「ん、んーん、そんなことないよっ」
絶対そんなことある、と。
花咲 藍は、茜が無理して浮かべる笑みを感じながら、心の中で思う。
藍は、自身が特殊な状況に置かれているのを理解している。
昔、自分は既に水難事故で死んでいるのだ。
死ぬ直前までの、溺れ苦しんだ、あの苦い記憶を忘れることが出来ない。
そんな自分が何故か、茜と話すことが出来る状況にある。
幽霊の自身が、茜に取り憑いたのか、はたまた茜が作り出した二重人格でしかないのか。
考えることは多かったが、それでも自分という存在を喜ぶ茜を見て、望まれる限りは一緒に居たいと思う藍であった。
そして、長く一緒にいるからだろうか、茜が考えていることは手を取るように分かるのだ。
『そんなに、記事のことが気になる?』
「……そっ……そんなこと……」
ないと否定しようとしたのだろうが、茜は最後まで言い切ることが出来ない。
そして、そんな茜をみて、仕方ないだろうなと藍は思った。藍自身も気にならずにはいられなかったのだから。
藍が言った記事とは、今日の放課後に小恋たちと話していた、非公式新聞部の記事のことである。
直接は見ていないが、小恋から聞いた記事の内容は、茜と藍にとってみれば小さくない衝撃を受けた。
――魔法の桜、ねぇ
茜には伝わらないように、あくまで内心で記事の内容をつぶやく。
魔法の桜、願いを叶える、枯れる、魔法が解ける。
超常現象、そして非現実な内容という意味では、今までの記事と大差ないかもしれない。
しかし、茜からしてみれば笑い話にはならなかったのである。
――そういえば、願ったって言ってたもんね
昔、藍は茜から自分が死んだ後についての話を聞いた。
その中で、茜が魔法の桜について噂を聞き、藍の存在を願ったのだという話を聞いていたのを思い出す。
自身の存在が、魔法の桜のおかげであるかは半信半疑であったが、同じように願いが叶った人物がいるのであれば可能性は高いのかもしれない。
魔法の桜の願いで、茜に宿ったのならば、魔法が解けたら、私は――
『ねぇ、会ってみよっか、あの記事を書いた人に』
どのみち、あの記事が真実なのか否か、確かめる必要があるだろう。
茜も同じことを思っていた筈だ。
しかし、確かめることが怖くて、言い出すことが出来なかったのだと思う。
であるならば、背中を押してあげるのが自分の役目だと、藍は感じた。
『会ってみないと、何もはじまらないよ。 ね?』
「う、うん……」
頷く茜を見て、そして、ふと思う。
――いつまで、茜の背中を押してあげることができるのだろうか、と。
――――――――――――――――――
芳乃家での夕食後。
その日にあった出来事を話すのは、朝倉姉妹や義之にとっては毎日の日課となっている。
何を話そうかな、と。
音姫や由夢がひと通り話した後、義之が話すことを考えた際、一つ話す内容を思い出したのだ。
それは、放課後に小恋から聞いた、非公式新聞部の新聞記事の内容についてである。
直接読んだ訳ではないが、話すネタにはなるだろう、と。
そう思い、音姫と由夢に話したのだ。
「んー、そういえば、魔法の桜の話は友達から聞いたことあるなぁ」
恋が叶うっていう話が中心だったけどね、と。
音姫は、以前の友達との会話を思い出すように答えた。
学生の間では、この様に願いを叶えるおまじない等の話は、よくある話である。
だからこそ、音姫からしてみれば、以前聞いたときも話半分で聞いていたのだ。
「弟くんは、その話がほんとうだって思うの?」
「あくまで小恋から又聞きしただけだからなぁ――」
「―だから―――って―」
「そんな――と――」
音姫と義之の声が遠く感じる。
――ついに、来た
居間で義之が語った内容を聞いて、由夢は確信した。
夢で見た、彼と知り合う最初のきっかけである、と。
普段は自分の夢の内容を忘れないようにメモし、デジャブを感じたら、メモ帳で確認する。
しかし、この場面だけは、何回も忘れないようにメモ帳を見て記憶していた。
――ようやく、会えるんだ
夢で何回もみて、何回も聞いて、何回も会って。
文字通り、彼と会うことを夢みていたのだ。
まだ対面していないのに、胸が高まるのを止めることができない。
可笑しいのだと分かっている。
でも、仕方ないのだ。
夢では感情が現実と変わらないように感じられてしまう。
そのときの寂しさや楽しさ、嬉しさ、愛しさが。
――そっか、そうなんだ
由夢は、自分の想いに気付く。いや、既に気付いていた。
もう好きになっちゃってるんだ、と。
自分の想いを押し止めつつ、そろそろ始めようと由夢は行動に出る。
『ねぇ、兄さん』
「ねぇ、兄さん」
あの夢の通りに。
『わたし、その人に会ってみたいな』
「わたし、その人に会ってみたいな」
由夢自身の、物語の始まりを。
夢で見たのが幸せだとして、それを実現する為に同じことをするのは、一種の願掛けかなって思います。
見ていただき、ありがとうございました。
実を言うと、D.C.IIを知ったきっかけは、アニメやゲームではなく、二次創作でした。
残念ながら最後まで書かれてはいませんでしたが、それがきっかけでゲームを買いました。
今の私では難しいですが、二次創作をみてゲームを買いたいと思ってもらえる作品を作りたいですね。