※活動報告に次からの予告編を少しだけ載せてます。
興味があればどうぞ。
「天枷……」
「なんだ、桜内…来たのか」
水越博士にお別れの伝言をした筈なのだがな、と。
美夏は自身を見つめる義之に、少し気不味げな様子を見せながら話した。
天枷研究所。
再び洞穴で眠りにつく為、研究所で待機していた美夏の前に、義之が姿を現した。
彼が来た理由について、美夏は察する。
「水越先生から聞いたよ…なぁ、何でなんだ?」
人間と過ごすことに嫌気が差した、という理由ではなかった。
水越博士に良い学園生活だったと伝えたのだから、楽しんでいた筈なのだ。
だからこそ、直接聞かなければ納得できなかった。
「水越博士からは聞いていないのか?」
「少しだけ。 でも、あんな曖昧な言葉で納得出来なかった」
ロボットの所為で辛い目に遭った人間がいた。
ロボットを受け入れるにはまだ早かった。
舞佳から聞いた、美夏の言葉。
美夏は誰かがロボットに関わることで不幸になったのを聞いた、もしくは目撃したのかもしれない。
それで、まだ人間とロボットは一緒に居ない方が良いと感じたのかもしれない。
だけど。
「天枷が、その誰かを不幸にしたわけじゃないだろ?」
その誰かの不幸は、美夏に直接関連があるのか。
ただ同じロボットだからという理由で眠りにつく必要はないのではないか。
「いままで通りじゃ、駄目なのか?」
それだけではない。
美夏が学園生活を過ごす為、彼女がロボットとバレてはいけない。
今のところ、義之が知る範囲では彼女がロボットだとは知られていないのだ。
バレない限り、今まで通り学園生活を過ごすでは駄目なのか。
それに――
「友達がいなくなったら悲しいだろう」
急に友達が居なくなって。
そんなの、悲しいに決まってる。
もう少し、考えても良いんじゃないか。
必死に問いかける義之。
――なんだかな。
そんな彼を目にして、感じたのは喜び。
何だか、くすぐったい気持ちになった。
美夏は穏やかな表情のまま、口を開く。
「桜内、ありがとな」
「え、あ、天枷?」
彼女から発せられた言葉に戸惑う義之。
「桜内が必死に止めようとしてくれるのが分かって、美夏は嬉しい」
義之の質問に対して答えたわけではない。
「だから……ありがとう」
だが、何故だろうか。
嬉しいと言いながら笑顔をこちらに向ける美夏を前に、言葉が詰まってしまう義之。
そんな彼を見ながら、美夏は言葉を続ける。
「今はバレてないかもしれない…でもな」
いつか知られてしまうだろう、と。
何か理由や推測があったわけではない。
美夏は何となく、そう思ったのである。
――それに。
一番先に知られるとしたら、その相手は麻耶だとも。
かつて天枷研究所の所長であった天枷博士は、自分の娘の容姿を模したプロトタイプを開発した。
基本的に、その後に開発されたロボットたちはプロトタイプの容姿に似ているのである。
麻耶が美夏やμを見て、姉と慕っていた美秋を思い出すのも仕方ないのだ。
そして、このまま関わっていたら、いつかはきっと麻耶も気付いてしまうはずだ。
美夏が、ロボットなのだと。
――それは、ダメだ。
ロボットだとバレることで、学校を辞めさせられる。
それだけならまだ良いだろう。
最悪、処分されるかもしれない。
でも、問題はそれじゃなくて。
美夏が一番気にしてるのは――
――沢井が……また、苦しむかもしれない。
今だって、自分が側に居た所為で、死んでしまった姉を思い出して苦しんでいた。
だが、自分がロボットだと知ることで、更に彼女が苦しむことになるかもしれない。
彼女は。
沢井 麻耶は、ロボットが嫌いだ。
だけど、それと同じくらい、ロボットが好きだ。
――沢井は、優しいやつだ。
だからこそ、自分がロボットだと知られ、自分が処分されたとき。
彼女は苦しんでしまうと思った。
だから。
「桜内、頼むよ」
バレる前に。
彼女の前を去るべきだと思った。
「友達を、美夏は苦しめたくないんだ」
義之や由夢は、美夏にとって大事な友人だ。
だけど、それと同じくらいに、いや、それ以上に麻耶は、彼女にとって大切な友人であったのだ。
どっちを取る、とかではない。
どっちも大切だけど、悲しむ麻耶の為に、眠りにつきたいと思った。
義之が引きとめてくれるのは、嬉しい。
それを無視し、無理やり眠りにつきたくなんてない。
だから――
「笑って、見送ってくれないか?」
「…あま…、かせ…………」
美夏の笑顔と、彼女が語る言葉に、
何も言い出すことか出来なくて。
義之は、自分がどうすれば良いのか、分からなくなった。
――こんな別れ方なんて、だめだ。
だけど、自分では彼女を止めることが出来ないと思ってしまった。
どうすれば良いか、分からなくて。
そんなとき。
義之と美夏がいる研究室の扉が、突然開いた。
其処に姿を現したのは、舞佳をサポートしているロボットであるμ。
彼女は美夏に対して目的を告げる。
「貴女に、会いに来た方をお連れしました」
そう言ったμの後ろから姿を現したのは――
「はぁ、はぁ……あまかせ、さん」
走ってきたのだろうか。
息切れをしながらも真剣にこちらを見つめる、麻耶の姿が其処にはあった。
――――――――――――――――――
――なんで、どうして。
何故、彼女がこの場に来たのか。
美夏は目の前に姿を現した麻耶に、混乱してしまう。
だって、知らないはずなのだ。
何も、告げてないはずなのだ。
それなのに、どうして。
混乱する美夏を他所に、麻耶は歩き出し、彼女に近付く。
そして。
「なんで、眠るなんて言うのよ」
「なんで、沢井がそのことを……」
戸惑う美夏に、麻耶は自分が知った理由を述べる。
彼女が最期に言った言葉に不安を覚えたこと。
次の日に、不安になって彼女の教室へ向かったが、休んでいたこと。
義之が放送で舞佳に呼ばれるのを聞き、保健室へ向かったこと。
そして、全てを知ってしまったこと。
「そうか、知られて…しまったんだな」
美夏から出てきた言葉は掠れていた。
一番知られたくない相手に、知られてしまった。
その為に、義之や舞佳以外には伝えるつもりなんてなかったのに。
もう、仕方ないと思った。
「沢井、ほんとうに、ごめんな」
何に対してかと言われると、全てだと思った。
「美夏は、沢井を苦しめるつもりじゃなかった」
麻耶は、美夏にとって大切な友達となった。
だけど、彼女がロボットに対して色々な感情を、トラウマを抱えているのは知らなかったのだ。
だから。
「知られる前に、去りたかったんだがな」
麻耶は美夏が話す間、黙って下を向いていた。
それを見て、美夏は仕方ないと思った。
だましていたのだ。
美秋と同じロボットが側にいたのだ。
思い出させてしまった。
許してもらえるとは思えなかった。
だから。
「本当に……すまん」
謝る以外に語れる言葉がなかったのだ。
美夏は、胸が苦しくなった。
そんな美夏を目にし、そして言葉を聞き、麻耶は口を開く。
「なんで……」
その言葉は小さかった。
「なんでよ……」
だけど、どんどん強くなっていく。
「なんで……なんでっ!」
もう、耐えられなかった。
「なんで、謝るのよっ!」
麻耶は言わずにはいられなかった。
何も、美夏が謝ることなんか、ないじゃないかと。
「天枷さんは何も悪くないじゃないっ!」
「何もしてないじゃないっ!」
それなのに。
それなのに、なんで。
「なんで、天枷さんが消えようとするのよっ!」
涙ながらに言う麻耶に、美夏は動揺を隠せない。
しかし、そのまま美夏は彼女に自身の気持ちを告げる。
「美夏は、沢井に辛い過去を思い出させてしまった」
幼い彼女に起きた辛い出来事。
それを、自分がいた所為で思い出させてしまった。
「美夏は、もう、苦しんでほしくなかった」
これ以上、思い出させたくなかった。
辛い過去は、姉の死は、少しずつ乗り越えれば良い。
だから、それで今苦しんで欲しくなかった。
そう語る美夏に対し、麻耶は思いっきり彼女の服を掴む。
自分の想いを、しっかり分かって欲しくて。
「友達が、消える方が辛いに決まってるじゃないっ!」
何で、分かってくれないのか。
何で、自分の為に其処までしてしまうのか。
服を掴む麻耶と美夏は距離が近い。
だから、彼女が強く話す言葉と表情を近くで感じる。
本音で話してるのも、分かってしまった。
「ともだち……」
美夏は、麻耶の言葉に驚いて、彼女を見詰めてしまう。
麻耶は美夏をロボットだと知ってしまった。
それなのに。
「美夏のこと、まだ友達と思ってくれるのか……?」
「当たり前じゃない!」
いや、麻耶の過去を知ったからこそ。
ロボットにもう逢いたくないだろうと思った。
好きだった姉を思い出してしまうから。
それなのに。
それなのに、なんで。
「わたしは、わたしは……お姉ちゃんのこと好きだった」
死んでしまった姉。
ロボットだと知っても好きだったからこそ、忘れたかった。
だけど。
「わたし、お姉ちゃんの遺言が残されたテープを見たの」
そこには大好きな姉がいて。
そこには、愛してくれた姉がいて。
「忘れちゃいけなかった、忘れるべきじゃなかった」
ちゃんと、お別れしてあげられなかった。
そこに、後悔が募って。
だけど、それでも彼女は思い出すことが出来た。
「わたしは、自慢のお姉ちゃんの妹なんだって!」
だから、誇らないといけない。
頑張らないといけない。
そして。
「お姉ちゃんと同じロボットが、嫌いなはずないじゃない」
いや、そもそも。
ロボットだから。人間だから。
そんなの考える必要なんてなかったのだ。
ロボットでも、感情があって。
人間と、何ら変わらないがないではないか。
「大切な、友達だと思ってる」
人間だから好きになったんじゃない。
彼女の側に居るのが心地よかったから、友達になったのだ。
「だから、眠るなんて、言わないでよ」
ロボットだからとか、もうどうでも良かった。
だけど、彼女がロボットだと隠しているのが辛かったのなら。
彼女が、現在のロボットと人間の関係が辛く感じているならば。
「私が、何とかしてみせるからっ!」
「さわ、い……」
「私が、人間とロボットの架け橋になってみせるから!」
ロボットである姉が大好きだった。
そして、美夏や今後生まれてくるロボット達は自分の姉と姉妹である。
だから、そんな人たちが苦しむ姿は見たくなかった。
彼女は、自分の道を見つけた。
「私は、ロボットのお姉ちゃんが大好き、ロボットの天枷さんが好きよ」
だから。
「私と一緒に、手伝ってよ」
美夏と一緒に。
それなら、出来ると思った。
「そうか……」
美夏は、ようやく知った。
「そうか……」
美夏は、ようやく理解したのだ。
「美夏は、勘違いしていたのだな」
麻耶は姉の死を受け入れられてなくて。
友達が苦しむなら、いなくなるべきだと思った。
だけど、麻耶は、美夏が思う以上に強かったのだ。
彼女が思う以上に、人間とロボットの関係は、遠くなかったのだ。
「まだ、時代が早いのだと思っていた」
だけど、違うのだ。
時代が早いとか、遅いとかじゃなくて。
「自分で、望む未来の為に行動するべきだったんだな」
いつか、自分や美春が思い浮かんだ未来がやってくると思った。
だけど、未来は自分で掴み取るものだったのだ。
「沢井は、美夏と手を取ってくれるのか?」
「当たり前よ」
ロボット側だけじゃ、足らなくて。
「美夏と、一緒に人間とロボットの架け橋になってくれるのか?」
「もちろん」
人間側だけじゃ、足らなくて。
「……困ったな」
ロボットと人間が一緒に頑張れば。
きっと。
「もう、眠る意味が、なくなってしまったな」
episode-31「少女とロボットは、希望の夢を見るか」
天枷研究所の一室で、麻耶と美夏はとあるビデオを見ていた。
『はじめまして。 私は、天枷 美春です』
「そっか、彼女が、すべてのロボットの原点なのね」
「あぁ、そうだ」
それは、プロトタイプの美春が未来のロボット達へ向けて撮ったビデオ。
美夏にとっての全ての始まり。
それを、美夏は麻耶に見て欲しかったのだ。
麻耶は、そのビデオを初めて見た。
そして、美春という存在を初めて知った。
「ふふ、本当に楽しそうに話すのね」
「美春は、学園生活が凄く楽しかったんだと思う」
今なら、美夏も彼女の気持ちが分かった。
だって、彼女自身も今の学園生活が凄く楽しくて、嬉しくて。
幸せなのだから。
「お姉ちゃんも、このビデオを見たんだろうな……」
だからこそ、この美春のように、美秋も何かを残そうと思ったのだろう。
麻耶にとって、恩人と言っても良いのかもしれない。
彼女が語る未来は、幸せそうで。
ロボットと人間が仲良くなる未来を夢みていた。
いや、信じて疑っていなかったのだ。
『アナタたちは、もっと幸せになってますよね』
きっと。
きっと、その信じる気持ちが次の希望へと繋がったのだろう。
「美春さんが語る未来に、絶対にしてみせる」
「あぁ、そうだな……ほんとうに」
いつか来る。
それを待つんじゃなくて。
自分たちで作っていかないといけないのだから。
「私たちで、ね?」
「もちろんだ」
でも、それは一人じゃない。
一人のロボットと、一人の人間がその未来を叶えようと決意した。
「あ、そうだ」
「ん、どうしたの?」
美夏はふと、思ったことを述べる。
「美秋は、美夏より後に生まれてきたんだ」
「あぁ、そうだったわね」
麻耶としては、美秋の方が美夏より起動が早いイメージがあった。
しかし、実際には人工冬眠していたので、美夏の方が大分起動が早いはずだ。
「ということは、美夏は、美秋の姉ということになる」
「そう…なのかしら?」
自分より下の学年である美夏が姉であった美秋の姉と聞くと違和感があった。
しかし、何を言いたいのだろうか。
疑問に思う麻耶に、美夏はにんまりと笑いながら麻耶に対して言う。
「だとしたら、美夏たちは姉妹だな!」
姉と呼んでも良いのだぞ、と。
笑う美夏に麻耶は呆れたような視線を向ける。
血は繋がっていない。
そもそもロボットと人間という違いがあったが、美秋は麻耶にとって姉だ。
そして美秋と美夏は同じシリーズだから姉妹と言っても可笑しくない。
だから美夏と麻耶は姉妹だと言いたいのだろう。
暴論でしかないが、本気で言ってるわけじゃないのは分かった。
だから向けるのは呆れた視線だったのだ。
しかし。
「はぁ……違うでしょ」
麻耶はちゃんと否定をした。
別に姉妹と言われて悪い気はしなかった。
でも、美夏と麻耶の関係は。
「私たちは、友達よ。 そして――」
同じ未来を目指すパートナーでしょ、と。
照れながら告げる麻耶に、一瞬美夏は驚いたような表情を浮かべる。
そして。
「そうだな、そうだったっ!」
姉妹より、そちらの関係の方が嬉しい。
恥ずかしくなりながらも言ってくれたことに、美夏は大きい喜びを感じた。
こ、コホンと、態とらしい咳をしながら麻耶は椅子から立ちあがる。
そして、麻耶は美夏に対して言葉を告げた。
「ほら、もう行くわよ……『美夏』」
「あ、あぁ! 行こうか、『麻耶』!」
これは、
一人の少女と一人のロボットが、輝かしい未来に思いを馳せた。
そんな、他愛もない話。
読んでいただき、誠にありがとうございました。
『少女とロボット』編は、主人公不在の物語でした。
感想でもありましたが、ギャルゲでは√だけが映し出されますが、それ以外の物語も同時進行となります。
主人公である彼方は、別の物語が始まっています。
次から描くのが、主人公のいる物語となります。
前の前書きか後書きに書いたかもしれませんが、もともとは外伝としてロボット編を描こうと思っていました。
その理由として主人公不在もありますが、ロボット編では桜や魔法が関わらない物語を、次から描く話では桜や魔法が関わる物語という様に分けたかったからです。
如何でしたでしょうか?
わたしは書き手でもありますが、読み手でもあります。
読み手として他の作品を読んだ際、オリ主もので物語にオリ主がでないと物足りなく感じるときがあります。
もし、今回の話で彼方が出ないことに物足りなさを感じる方がいたら少し嬉しく感じます。
物足りなく感じさせない物語を描けない私自身が、努力しないといけないですが。
さて、前書きにかきましたが、
活動報告に予告編を描きました。
今回までが『少女とロボット編』。
そして、次から最終話までが『桜と奇跡と魔法使い編』となります。
ペースは週一くらいになってしまうので、その前にどんな感じかを少しだけ。
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ありがとうございました。
また、見ていただければ幸いです。