初音島物語   作:akasuke

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最新話を投稿します。
なるべく早く次に進むために、休みの日には多めに描きたいと思いつつも筆の進みが遅いですね。

ですが、いまテンション自体は上がってるので次話を日が跨ぐ前に描きあげる予定です。

それでは、本編をどうぞ。


episode-27「違いは」

 

 

 

 

 

 

『ロボット排斥主義者の行動がどんどん激しくなってきてる』

 

だから、もう研究所に居なさいと。

沢井 拓馬はHMーA07型に話した。

 

 

天枷研究所。

HMーA07型にとって生まれた場所であり、

第二の家とも呼べる大切な場所である。

 

そして、目の前にいる人物は自身の生みの親といえる存在。

彼が言うのであれば、命令ではなく願いだとしても聞くべきであろう。

 

 

『博士、ごめんなさい』

 

だが、HMーA07型は首を横に振る。

それだけは、聞けないのだと。

 

拓馬がこの話をしたのは今回が初めてではない。

既に彼女に対して同じ話を三回している。

しかし、HMーA07型は頑なに拓馬の願いを聞き入れないでいた。

 

 

『だが、本当に危険なんだ』

 

ロボット排斥主義。

感情のあるロボットは害悪だと、居てはいけないのだと訴える人々。

人間社会にロボットを普及させる上で、過去から彼らは大きな障害となっていた。

 

今までは規制や弾圧等が多かったが、最近、破壊行為も増えてきたのだ。

既に被害が少しずつだが出てしまっている。

 

拓馬は彼らの生みの親として、ロボットたちが破壊されるのは防がなければいけない。

だからこそ、まだ安全である研究所にしばらく避難して欲しいと思っているのだ。

 

 

HMーA07型もそのことは理解していた。

理解していたが、それでも拓馬の願いを聞き入れるつもりはなかったのである。

 

それは――

 

 

『約束、しましたので』

 

ロボットの彼女にとって。

叶えたいと。

叶えてあげたいのだと。

 

ほんとうに、そう思えた、大切な約束。

 

 

『ずっと、一緒にいてあげるって』

 

ロボットな自分だけれど、その子は彼女にとって本当に大切な存在となっていた。

 

いや、自分自身が一緒にいたいだけなのかもしれない。

 

 

『……うちの娘を大事にしてくれているのは嬉しい。 だが、それでも』

 

彼女も、拓馬の言うことも分かっているのだ。

自分もこのまま研究所以外にいれば、いつかは――

 

 

 

 

 

『はじめまして、 わたしは天枷 美春です』

 

 

 

 

そのときに思い出したのは、自分より早く生まれた、オレンジ髪の女の子の録画テープ。

 

誰よりも、人間とロボットが仲良く暮らせることを信じていた少女のこと。

 

 

――わたしに、できること……。

 

HMーA07型、美秋は、自分にもやるべきことがあると思った。

 

もし、自分に何か起きたら。

 

 

 

 

 

『博士、ひとつ、お願いがあるのですが……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-27「違いは」

 

 

 

 

 

 

 

日曜日。

部活生徒を除き、日曜日は基本的に学校は休みである。

各々の生徒たちは遊びなど自由を謳歌しているであろう。

 

同じく、学生である美夏も休みを満喫しており、とある約束の為、商店街へと来ていた。

しかし、待ち合わせ時間より早く来てしまった為、街をぶらついていた。

 

 

『学生にとっては遊ぶのも立派な仕事よ』

 

じゃあ、楽しんできなさいと、舞佳に研究所から見送られてきたのだ。

嬉しそうな表情で見送られたからか、何故か恥ずかしく感じた。

 

しばらく、街をぶらついていた美夏であったが、歩いていて思うことがあった。

 

 

――少し、嫌悪感が薄れてきてるのか。

 

休日ということもあり、商店街は人で溢れている。

美夏が嫌いである人間が。

 

そんな場所に、長居など以前は出来なかったであろう。

少しでも人間がいない所に向かっていたはず。

 

学園生活を送っていれば、嫌でも沢山の人間に囲まれて過ごさなければいけない。

それに慣れた、ということもあるかもしれない。

だけど、それだけでは無いように感じた。

 

 

「あの、お節介どものせいだ……」

 

由夢、義之、麻耶。

彼らとは何だかんだで頻繁に話している。

そして、それを美夏は嫌だとは感じていなかったのだ。

むしろ――。

 

 

「美夏は、変わっていってるのか」

 

変わったのか。

それとも、昔に戻ったのか。

 

彼女には自身の気持ちが、あまりよく分からなかった。

 

 

――だが、変わっていいのか。

 

今でも忘れられない、嫌な記憶。

人間たちの、悪意しか感じられない言葉。

人間たちの、ロボットにした酷い行動。

 

それを忘れて、また人間を信じていいのか。

――また、裏切られないだろうか。

 

 

 

 

『美夏も、美春と同じように、人間と楽しく過ごしたい!』

 

 

 

まだ、美夏が起動されたばかりであり、人間社会の状況を理解していない頃。

 

美春の録画テープを見た彼女は、人間との学園生活に憧れていた。

そのときの美夏にとって、研究所が自身の世界の全てであったのだ。

 

そんな彼女からしてみれば、テレビ越しの美春が話す内容が外の世界の話の全て。

本当に楽しそうに、嬉しそうに話す美春の学園生活。

憧れないはずがなかった。

 

美夏も同じように過ごせるのだと信じて疑わなかった。

だけど、その希望は、研究所の外の状況を知ったことにより打ち砕かれたのだ。

 

絶望し、人工冬眠をした美夏。

そして目覚めた世界は、自分が知る過去より少し優しくなっていて。

 

信じて良いのか怖くなった。

 

 

「あ、μが飾られてるよ!」

 

「ほんとだー、やっぱりホンモノの人間みたいだよね」

 

周りの言葉を聞き、思考の渦から意識を戻す。

そこにはショウウインドウに飾られる、自分と同じロボットがいた。

 

 

――美夏の後に生まれた、μだったか。

 

市販の人間型ロボット『μ』。

美夏の後に量産型で生まれた存在である。

昔と違い、人間社会に少しずつ普及されている証拠でもある。

 

しかし、美夏はそれを嬉しくは感じなかった。

 

 

――エモーショナル回路に、リミッターが掛けられているのか。

 

エモーショナル回路。

人間の心にあたる、ロボットにとっての大事な部分。

それを抑制させられている。

抑制させなければ、人間社会に普及させられなかったのである。

 

美夏は飾られるμの触ろうとしたが、ガラスで遮られる。

だが、それも気にせずに、ただただ見つめる。

 

 

――お前は、感情を制御させられて、苦しくないのだろうか。

 

心を無理やり失くさせられている。

それは、苦しくないだろうか。

辛く、ないのだろうか。

 

 

「いや、そう思う感情すら、制限されてしまっているのか」

 

μのそんな姿をみて、美夏は思う。

自分と彼女の、何が違うのだろうか。

 

自分も彼女と同じロボットだ。

 

自分と同じμを、彼女を、周りの人間たちは興味深く見たりしている。

しかし、その視線は、洋服や家電製品を見るのと同じ。

彼ら、彼女らからしてみれば、自分が普段買う商品より高い『モノ』に過ぎないのだ。

 

 

――美夏が、ロボットだと知られれば。

 

変わってしまうのだろうか。

ショウウインドウに飾られたμと同じ視線を向けられてしまうのだろうか。

 

義之は、ロボットだと知っていても変わらず接してくれる。

しかし、由夢や麻耶は、自分が人間ではなくロボットだと知れば、変わってしまうのだろうか。

 

 

胸が、苦しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あ、おねーさん、ここにいたー!」

 

聞き覚えのある声に振り返ると、そこには美夏にむけて大きく手を振る勇斗の姿が其処にはあった。

そして、隣には勇斗の手を繋いで一緒に歩く麻耶の姿が。

 

以前、麻耶が弁当を忘れ、勇斗が学校まで弁当を届けに来たときがあった。

その際、勇斗と麻耶と美夏で一緒にご飯を食べたのだが、その話の最中に勇斗が珍しくわがままを言い、休みに一緒に遊びに行くことになったのだ。

 

それが今日であり、商店街に美夏がきた理由である。

 

μをみて色々な感情が浮かび、気持ちが沈んでしまっていたが、笑顔の勇斗を曇らせたくなくて、美夏は笑顔を無理やり作った。

 

 

「おう、勇斗! ボーッとしてて待ち合わせ場所、間違えてしまった」

 

「んーん、べつにだいじょうぶだよ!」

 

「ありがとうな。 それで沢井はだ…い……」

 

勇斗の頭を撫でながら麻耶に話を振ろうとしたが、彼女を見て思わず会話を止めてしまう。

 

麻耶が、ショウウインドウに飾られているμを睨みつけていた。

その瞳は、その表情は。

 

 

「……あ、ごめんなさいね、天枷さん」

 

美夏の声に気付いたのか、こちらに顔を向ける。

その表情は、さきほどの表情とは違っていた。

 

 

「ほら、行きましょ、勇斗、天枷さん」

 

 

――いまの沢井の表情は。

 

ロボットに対して何か複雑な感情が見て取れた。

昔、美夏に向けられた恨み、憎しみ。

そして、それ以外の何か別の感情も混じったもの。

 

 

 

 

 

 

――沢井は、ロボットが、嫌いなのか?

 

それを聞く勇気が、美夏にはなかった。

 

 


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