初音島物語   作:akasuke

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遅くなり申し訳ありません。
出来れば間を空けたくはなかったのですが、少し空いてしまいましたね。

ひとつ、後書きにお願いしたいことを載せてます。
もし時間に少しでも余裕があればお答えいただけると嬉しいです。

それでは、本編をどうぞ。



episode-26「お節介な人間たち」

 

 

 

 

 

『えーっと、ここから右にまがって』

 

自分は何処に向かっているのだろう。

沢井 麻耶は自身のことであるにも関わらず、疑問に思った。

 

このように思うのにも理由がある。

自分は動こうとしていないのに勝手に歩きだし、ひとり言を呟いているのだ。

思考と身体が完全に分離しているように感じる。

 

 

――それに、この視界……。

 

周りに映る景色が、やけに高く感じた。

まるで小さい子供が見る光景のようだ。

 

 

『んー……こっち!』

 

麻耶はいまの状況についてちゃんと把握できていなかったが、ひとまずは落ち着いて考えることにした。

 

身体が言うことを聞かず、意識だけが取り残されている状況。

 

 

――憑依…もしかして、幽体離脱ってやつかしら?

 

あまりにもオカルト染みた話だが、誰かの身体に乗り移っているような気がしたのだ。

 

だとしたら、この乗り移っている人物は誰なのだろうか。

麻耶は視線の低さから子供なのだと推測する。

そして、ひとり言を聞くに、女の子なのだと分かった。

 

この女の子は、どこかに行こうとしている。

 

 

――お遣い、かな?

 

その女の子は別れ道がある度、手に持つ小さい紙を見て道を確認している。

おそらく、女の子自身が描いたのだろう。

 

地図と呼ぶには少しお粗末な、しかし一生懸命描いたのだと分かる、目的地までの道が描かれたもの。

 

 

『どっちだろう……』

 

だが、曖昧に描かれた部分もあるからだろう。

たまに道に迷いそうになっており、少し泣きそうな声が聞こえる。

 

自分が見ている視界がぼけて見える。

涙が溢れそうになってしまっているのか。

 

大丈夫だろうか、と麻耶は心配そうに見守る。

泣き出してしまうかと思われたが、女の子は溢れそうな涙を手でふき、強く自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 

『泣かないもん、わたし、お姉ちゃんになるんだから』

 

その女の子にとってみれば魔法の言葉だったのか。

先程まで泣きそうな声だったが、調子を取り戻し、強い足取りで進んでいく。

 

麻耶はその女の子を応援しながらも、ひとつ思うことがあった。

 

 

――わたし、見覚えが……ある?

 

既視感と言えばいいのだろうか。

女の子の言葉、そして彼女が進んでいく道にどこか見た覚えがあるように感じた。

 

 

『ついたっ!』

 

麻耶が考えている間に、女の子は目的地に着いていた。

ようやく着いたこともあり、どこか女の子の声には喜びが滲んでいた。

 

早く行きたいのだろう。

目的地の建物に着いてからは、迷わず早足でとある場所へ向かっていた。

 

そして、ある部屋に入ると、其処には着物姿の赤い髪の女性がいた。

その赤い女性は、入ってきた女の子をみて驚きの表情を浮かべる。

 

 

『お姉ちゃんっ!』

 

『あら、まやちゃん』

 

また一人で来ちゃったの、と。

困り顔でこちらを見てくる女性が視界に入った瞬間、麻耶は気付いた。

 

 

――あぁ、そっか、見覚えがあるわけよね。

 

これは夢だと。

懐かしい、過去の夢なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

『一人でここまで来ちゃ危ないんだからね』

 

『大丈夫! わたし、お姉ちゃんだもん』

 

赤い髪の女性は優しく女の子に注意をするが、女の子は大丈夫だと強く言う。

もうお姉ちゃんだから、と。

 

ほんとは行くまでに迷いそうになり、泣きそうな場面もあったが、それは隠して。

ひとりで出来るのだと、その女性に認めてほしくて。

 

 

『そっか、まやちゃんは、お姉ちゃんになるんだもんね』

 

そう胸を張って話す女の子に、赤い髪の女性は少し困り顔のまま、偉いねと頭を撫でる。

 

 

――わたし、は……。

 

麻耶はこの頃のことを思い出す。

姉が自宅ではなく研究所にいた時、毎回何かと理由を付けて研究所に向かった。

 

お父さんが弁当を忘れたから。

机の上に何か大事そうな書類が置きっぱなしだったから。

姉が普段より自宅に帰って来るのが遅かったから。

 

今にして思えば、理由は何でも良かったのだ。

ただ単に姉が居なくて寂しかった。だから姉がいる研究所を覚え、迎えに行っていた。

 

 

『お姉ちゃん、ほら、もうお家に帰ろ?』

 

『ふふ……もう、まやちゃんったら』

 

急かすように赤い髪の女性の着物を小さい手で引っ張る。

そんな女の子の様子に小さく笑みを浮かべている。

 

きっと、麻耶の寂しさを彼女は分かっていたのだろう。

だからこそ、一人で来てしまうことにも強く注意出来なかったのだ。

 

赤い髪の女性が手を差し出し、麻耶はすぐにその手を繋ぐ。

 

 

『えへへ、あったかい』

 

その手の感触が、暖かさが麻耶は大好きだった。

そして、こちらに向けてくれる優しい笑顔も。

 

それが早く味わいたくて。

だから泣きそうになりながらも、ひとりで頑張って来ていたのだ。

 

 

『じゃあ、一緒に帰ろうね』

 

『うん!』

 

研究所から自宅へと手を繋いだまま帰る二人。

 

帰る道中に他愛もない話をするだけで嬉しかった。

小さい幸せがそこにはあったのだ。

 

そんな、幸せな光景が、少しずつ白くぼやけていく。

夢が醒めるのかもしれない。

 

 

――嗚呼、どうか。

 

麻耶は思う。

もし、叶うのならば。

 

 

――夢から醒めたら、覚えていませんように。

 

 

 

 

 

 

 

これは、大好きだった過去の夢。

忘れたい、過去の夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-26「お節介な人間たち」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何故なのだろうな。

 

美夏はひとり廊下を歩きながら考えていた。

それは、今の現状について。

ロボットであることを隠し、学園生活を過ごしている現状について、である。

 

理由でいえば義之が洞穴の中で安置されていた美夏を起動させてしまったことが原因だ。

そして学園生活を過ごすのは、天枷研究所の研究員である舞佳に言われたからである。

 

水越博士の命令であれば仕方ないと。

人間たちと同じ場所で過ごすのは嫌で仕方ないが、それでも完璧にこなしてみせようと。

 

だが、美夏は同時にこうも考えていた。

ロボットとバレない様に学園生活を過ごすが、極力人間と関わらないでいようと。

嫌いな人間と最低限しか関わりたくなかったからである。

 

 

――なぜ、なのだろうな。

 

しかし、美夏が当初考えていた学園生活とは違っていた。

美夏は極力人間と関わらないようにしようと思っていたが、関わって来ようとする人間がいたのだ。

 

 

『天枷さん、一緒に学食に行きませんか?』

 

『あ、あぁ』

 

美夏が配属されたクラスメイトの一人である、朝倉由夢。

 

学校の案内や授業の進み具合、クラスメイトの紹介や昼飯の誘いなど。

彼女は美夏がクラスに配属した当初から何かとこちらを気に掛けてきたのだ。

 

極力人と関わるつもりがなかった美夏であるが、由夢の親切を無下には出来なかった。

放課後は何か用事があるらしく居なくなるが、クラスメイトの中では学校にいるときは一番由夢と話している。

 

 

――あいつも、だ。

 

 

『よお、何か困ってることはないか?』

 

そして、もう一人は、桜内義之。

自身が人工冬眠から目覚めてしまった、諸悪の根源とも呼べる存在である。

 

美夏をロボットと知っていることもあり、舞佳から正体がバレないようサポート役を任されていた。

しかし彼女は義之に頼らず一人で完璧にこなしてみせると意気込んでいた。

 

だが美夏は動力源であるバナナを嫌いだからと意地を張って補充しなかった所為で、停止一歩手前の寸前に陥ってしまったことがあった。

 

 

『お、おい、大丈夫かっ!』

 

『……き、貴様の手など』

 

『そんなこと言ってる場合じゃないだろ!』

 

その時に、たまたま途中で居合わせた義之に助けられたことがあった。

 

自分じゃ無理な状態なのに拒否しようとした美夏に、叱りながらも義之は彼女を助けてきたのだ。

 

 

『バレたらどうするんだっ!』

 

そんなの美夏の勝手だろ、と言いたかった。

しかし、強く叱る義之の目は、表情は、こちらを真剣に案じるものだったから。

なぜか口に出すのは憚られた。

 

舞佳が義之にサポート役をお願いしたとき、美夏は彼に必要ないと強く拒んだ。

普通であれば、そんな相手にわざわざ手など貸したくないだろう。

 

なのに、何故関わろうとするのか。

 

それに。

最後に話した内容が脳内を過る。

 

 

『出来れば学園生活を楽しんで欲しいんだ』

 

『美夏は人間が嫌いなのだぞ。 そんな私に楽しめなんて言うのか?』

 

『あぁ……勝手なのは、分かってる』

 

『俺も、人間がロボットに何をしてきたか分かっている』

 

『いや、きっと完全には分かってあげられていないかもしれない』

 

『でも、知ってほしいんだ』

 

 

 

 

『嫌いじゃない人間も、いるんだってことを』

 

 

 

 

美夏は見た目は人間と何ら遜色ないが、ロボットだ。

だからこそ、過去の出来事が、どんな嫌なものであっても思い出せてしまう。

 

人工冬眠に入る前のこと。

ロボット排斥主義者からの誹謗中傷と、こちらを見る嫌悪感を滲ませる視線、表情。

 

あんなやつばかりだから。

勝手に生み出して勝手に大事な仲間を壊した人間だから。

美夏は人間が嫌いになった。

 

 

――なぜ、違うんだ。

 

由夢や義之は、美夏が嫌いになった人間の視線や表情と

異なっていた。

同じように、思えなかった。

 

 

 

 

『人とロボットが仲良く楽しく暮らせているでしょうか』

 

 

 

ふと、自分と同じロボットであるHM-A05型の言葉を思い出す。

HM-A05型、美春もいまの美夏と同じように学園生活を過ごしていた。

 

録画テープの中で映されていた美春は、学園生活を本当に楽しそうに話していた。

しかし、人間が嫌いな自分は、人工冬眠に入る自分には全く関係ないことだと思っていたのだ。

 

だが、こうして今は、彼女と同じ状況になっている。

 

 

――美春、お前は……。

 

 

「お前が学園生活を過ごしてたときも、こんなお節介なやつばかりだったのか」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ねぇ、おねえさん」

 

ふと声が聞こえて美夏が振り返ると、そこには巾着を持った小さな男の子が佇んでいた。

 

なぜ幼い子供が学校に居るのか、と疑問に思う。

美夏が質問する前に、男の子が先に彼女へと問い掛けてきた。

 

 

「あ、おねーさん……三年三組のクラスってどっち?」

 

「む、あっちだが」

 

「ありがとー!」

 

聞かれて思わず方向を指差し、男の子はお礼を言ってすぐに走り出そうとする。

しかし、慌てて美夏は走り出す前に呼び止める。

 

 

「待て、何しに行くんだ?」

 

「おねえちゃんの弁当をとどけに!」

 

美夏へ手に持つ巾着を見せながら答える男の子。

まだ幼いのに、ひとりで家族の弁当を届けに来たのかと内心驚く。

そして、そのまま男の子がひとりで行く前に言う。

 

 

「教室まで美夏も行く」

 

人間は嫌いだ。

だが、何も知らない無垢な小さい子供までは嫌いになれなかった。

 

改めてお礼を述べる男の子と一緒に、彼の姉がいる教室まで歩いていく。

 

その道中のこと。

 

 

「そういえば、名前はなんだ?」

 

「ぼく? さわい、ゆうとだよ」

 

「さわい…沢井? む、沢井の弟だったか」

 

三年三組。

姉というところからして、性別は女性。

そして、沢井という名字。

 

美夏は、そこから該当する人物がすぐに思い浮かんだ。

 

何せ、彼女にとってみれば由夢、義之に続いて関わりがある人物だからだ。

 

 

――沢井……あいつも、お節介なやつだ。

 

沢井 麻耶。

由夢と義之に続き、美夏が関わりのある人物である。

 

出会いは自身が大量の本を抱えて歩いていたとき。

自分が平気だと言っているのに、本を運ぶのを手伝ってきたのだ。

 

 

『もう、またそうやって一人で無茶をして』

 

一回だけではなかった。

美夏な人間の手を借りたくなくて一人で運んだりしている時に出くわす機会が多かった。

 

 

『無理そうだったら誰かを頼りなさい』

 

『だから美夏ひとりで出来るから大丈夫だと――』

 

『だから同じように何回も言うけど、危ないって言ってるでしょ』

 

ほら、貸してと。

半ば無理矢理じぶんの持っていたものの半分を持って行く麻耶。

 

こちらが拒否しても無理やり持っていくので、最近では半ば諦めている。

意地を張ってお礼を言わないのに、それでも麻耶は嫌がりもせずに自分から手伝うのだ。

 

お節介だと思いながらも、何故か嫌だという感情は沸かなかった。

 

 

「あ、お姉ちゃん!」

 

「ゆ、勇斗……何でここに?」

 

まだ目的の教室に着く前であったが、途中で目的の人物に会うことが出来た。

駆け出す勇斗と目を丸くする麻耶へと美夏は近付いていく。

 

 

「沢井の弁当を届けに来たみたいだぞ」

 

「ほんとに? もう、嬉しいけど一人で来たら危ないでしょ」

 

「大丈夫だよ、ぼく、もう五歳だもん」

 

胸を張る勇斗に、麻耶は仕方ないなと苦笑しながらも偉いね言って頭を撫でる。

 

嬉しそうな勇斗を尻目に、麻耶は美夏へと振り返る。

 

 

「天枷さんも連れて来てくれて、ありがとね」

 

「別に、たまたまだ」

 

お礼を言われ、何故か気恥ずかしい気持ちになり、変な回答をしてしまう。

だが、麻耶は特に気にせず、改めて美夏に感謝し、勇斗へと顔を向ける。

 

 

「勇斗が持って来てくれると思ってなかったからパンを買っちゃったんだ。 一緒に食べよっか?」

 

「うんっ!」

 

「それじゃあ、美夏はもう行くぞ」

 

勇斗を麻耶と合流させることが出来たので、美夏は用件は済んだと、彼女たちから離れようとする。

そこに待ったを掛けたのは、勇斗だ。

 

 

「え、おねえさん行っちゃうの? 一緒に食べよ!」

 

「こら、勇斗……迷惑かけちゃダメでしょ」

 

わざわざ一緒に食べる必要がない。

美夏はひとりで食べる。

そう口に出すつもりであったが、麻耶に窘められ、しょんぼりとする勇斗を見て、思わず別の言葉を発していた。

 

 

「……美夏は、いいぞ」

 

「ほんとっ!」

 

「天枷さん、迷惑じゃない?」

 

不安気にこちらを見る麻耶に問題ないと返す美夏。

そして、中庭へと向かう麻耶と勇斗に後ろから着いていく。

 

 

――何故、なのだろうな。

 

自分が何を思っているのか。

自分自身のことなのに、分からなかった。

 

ただ、なんとなく脳裏に再び過る言葉があった。

 

 

 

 

 

 

『嫌いじゃない人間も、いるんだってことを』

 

 

 

 

 

 

「美夏は、どうしたいのだろうな」

 

分からないままであったが、嫌な気持ちにはならなかった。




初音島物語とは別に、沢近さんの純愛ロードという作品を描いてます。
その関連で、ツンデレと金髪でエリカを思い浮かべたのですが、ひとつ疑問が。
原作開始時はエリカは何歳なのだろう、と。

義之たちが通う付属が中学で、音姫たちが通う本校は高校ですよね。
エリカが付属の一年ということは、中一?
あのプロポーションで?
付属とか本校とか、致命的な勘違いをしてるのかと思い凄く焦りました。
付属とか本校について、明確な言及はないんですよね。

とりあえず、思考を放棄しました。
テニスの王子様とかでも手塚や真田が中学生だったりするので、エリカが中学生でも可笑しくないと思うことにしました。

全く関係ない話をしたのですが、
実はひとつアンケートにご協力してほしいことが。
まだ2作品描いてるので今は余力がないですが、今後終わってから次に二次創作を描くとしたら何かなと考えてます。

以下に挙げる中で見たいと思う原作はありますか?
ひとつでも複数でも構わないのですが、あれば教えて頂きたいです。
活動報告にも書いてるので、活動報告に返信かメッセージを頂けると嬉しいです。
※感想欄ではアンケート禁止とお聞きしましたので、上で書いたように活動報告かメッセージで教えていただけると幸いです。

■描きたい二次創作
①蒼の彼方のフォーリズム
②ななついろドロップス
③ラブひな
④ラジアータストーリーズ

全部ハーメルンなど他のサイトでも二次創作は多くないです。
なので、もし気になるのがあれば教えていただけると嬉しいです。

長文失礼致しました。

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