初音島物語   作:akasuke

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前回は沢山の感想、評価をありがとうございました。
感想は毎回小説を投稿する際に一気に返信しますが、貰ってからすぐに見ております。

皆さんのD.C.をプレイした過去の話を仕事の合間に見て、モチベーション上げてから仕事に望んでいました。

ほんと、D.C.好きに悪い人は居ないのだなと感じた今日この頃です。

それでは、本編をどうぞ。


episode-24「過去と、現在と」

 

 

 

『あれれ、もしかして、もう撮っちゃってますか』

 

これで何回目だろうか、と。

HMーA06型は、テレビに映し出される少女を見ながら思った。

 

天枷研究所。

HMーA06型が作り出された場所であり、彼女が一番長く居た場所でもある。

そして、研究所内の彼女に充てられた部屋で、彼女は座りながらテレビの画面を見つめていた。

 

 

――何故だろうな。

 

彼女は自身の行動に疑問を感じていた。

何故、最期にまた見たいと思ったのだろうかと。

 

彼女は人間ではなく、ロボットである。

しかし、感情があり、己の意思を持つロボットであった。

ロボットというには、あまりにも人間に近すぎる程に。

 

そんな彼女は、精巧過ぎた彼女は、人間社会から酷いバッシングを受けた。

バッシングを受けたのは彼女だけではない。

彼女と同時期に作られたロボットの中には、排斥主義者から壊されたモノもいた。

 

その世間のロボットに対する風当たりの厳しさに、

天枷研究所の所長――天枷博士は、HMーA06型を廃棄処分したと発表し、人工冬眠させることを決定した。

 

彼女は、この後すぐに人工冬眠することになる。

そんな彼女が最期に望んだことは、とある録画を見ることだったのだ。

 

 

『もう、それなら早く言ってくださいよー』

 

頬を膨らませ、録画している相手を睨み付ける少女。

その少女の睨みは恐さなど欠片もなく、録画している女性の笑い声が聞こえた。

 

何故かは分からない。

彼女は、この少女をもう一度見たくなったのだ。

直接は会ったことのない、目の前の少女を。

 

 

『はじめまして、 わたしは天枷 美春です』

 

次に生まれてくるアナタたちの姉です、と。

オレンジ髪の少女は、本当に嬉しそうな笑顔でこちらを見ていた。

 

録画されたビデオに映る少女の名は、天枷 美春。

HMーA06型と同様にロボットであり、既に活動が停止してしまっているロボット。

そんな少女は自分自身が停止する前、いま再生しているビデオを録画していたのだ。

 

 

『元気にしていますか? 美春は――――』

 

HMーA06型はこの録画テープを、起動したばかりのタイミングで天枷博士から見せられた。

ビデオ越しの美春が話した学園生活の出来事や人間社会での生活は、本当に楽しそうであった。

その為、彼女はこれからの生活について希望に満ち溢れていた。

 

 

――そんなもの、まやかしに過ぎなかったがな。

 

だからこそ、その希望が打ち砕かれたのは相当にショックであったのだ。

そして、人間に対する嫌悪、憎しみばかりが募った。

 

 

『アナタたちは、もっと幸せになってますよね』

 

未来はきっと明るく輝いている。

そう信じて疑わない、画面に映る少女の顔、声。

 

それに対して自身がどのように感じているのか分からなかった。

裏切られたという、憎しみだろうか。

信じて疑わない彼女への哀れみだろうか。

それとも――

 

 

「いや、どうでもいいか」

 

自分の頭に過ぎった考えを捨てる。

もうこれから眠りに付く自分には如何でも良い話だと。

 

勝手に作り出されて、勝手に危険だから廃棄しろと言われて。

そんな人間たちと一緒にいたくない。だから眠りにつく。

それで良いと思ったのだ。

 

 

「さてと、もう行くか」

 

彼女は椅子から立ち上がり、録画テープを止めるためにテレビへと向かう。

停止ボタンを押す直前、美春の声が聞こえた。

 

 

『人とロボットが仲良く楽しく暮らせているでしょうか』

 

 

 

 

 

「……そんなもの、夢物語さ」

 

そうして彼女は長い眠りにつく。

 

 

 

 

 

そして、40年の月日が流れたある日。

 

 

HMーA06型 minatsu。

いや、天枷 美夏というべきだろうか。

 

とある青年が起動ボタンを押したことにより、彼女は再びこの世界で稼働し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-24「過去と、現在と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、やだ……」

 

風見学園三年三組の委員長――沢井 麻耶は、現在の状況に頭を抱えていた。

 

休み時間。

皆が次の授業まで思い思いの時間を過ごす中、麻耶はひとり今後のことを考え、頭を悩ませていた。

 

 

「委員長、何か困りごとでもあるのか?」

 

「……誰の所為だと、思ってんのよ」

 

脳天気に声を掛けてきた義之に、思わず麻耶は睨み付けながら言葉を述べる。

実際、悩んでいる元凶と言えなくもないのだ。

 

麻耶の言葉に、義之は彼女が何に悩んでいるのか見当が付いたのか、苦笑いしながら話す。

 

 

「もしかして、SSPのことか?」

 

「それ以外にないでしょ」

 

コードネーム『SSP』

生徒会などに聞かれても問題ないように、クラスの中で呼び方が統一されていた。

 

これは、このクラスでのクリパの催し物。

 

SSP―セクシー寿司パジャマパーティ。

これが、正式に決まってしまったのだ。

クラス委員長の麻耶としては悩まずにはいられなかった。

 

そもそも、お化け屋敷か演劇の二択だったのだ。

それなのに残り一票であった義之が他に何かあるのではと言い出したことが原因で、こんな催し物に変更となってしまった。

 

 

「いや、委員長だって最終的には同意しただろ」

 

「……ほんと、何で頷いちゃったんだろう」

 

義之の言葉の通り、その場では麻耶もSSPに同意してしまったのである。

完全に自分の好物である寿司という部分に釣られてしまった麻耶。

 

既に皆が準備し始めていることもあり、引き返せない状態となっていた。

 

だが、麻耶は言わずにはいられなかった。

 

 

「や、やっぱりセクシーとかパジャマはいらないでしょ!」

 

「馬鹿いうなよ、委員長! むしろ、それが重要なんじゃねーか!」

 

麻耶の言葉に大声で否定の意を述べたのは、クラスの三馬鹿の一人である渉。

下心を最初から隠すつもりもなかった馬鹿である。

 

 

「板橋の言う通りだ、委員長よ」

 

そして、更に同意したのは杉並だ。

 

 

「寿司のネタは質が良いものを取り寄せるつもりだ。 だが、その為にはある程度集客が見込めなければいけない」

 

だからこそ、セクシーやパジャマは必須なのだ、と。

そう語る杉並に、言葉を返せない麻耶。

良い寿司ネタを用意してもらえるという魅力に、麻耶は弱い。

 

どのみち既に決まってしまったのだ。

もうやるしかない。

分かってはいるのである。

 

しかし、そうだぜーと気楽に言う渉にイラッとしてしまう麻耶。

文句を言わずにはいられない。

 

 

「杉並、あと板橋! あんたら非公式新聞部が居るから、特に生徒会に目を付けられてるんだからね!」

 

只でさえ、バレてしまえば色々と生徒会に苦情を付けられてしまう催し物なのだ。

それなのに、生徒会と敵対する非公式新聞部がクラスに居ることで危険が高まってしまっているのである。

 

委員長として生徒会に関わることもある麻耶の負担は大きかった。

 

 

「オレチガウ、オレ、シンブンブ、チガウ」

 

麻耶の言葉に、片言になりながら否定する渉。

彼はどこか遠い目をしてしまっている。

 

麻耶だけでなく、既にクラスや生徒会、多くの生徒が渉を非公式新聞部と認知してしまっていた。

麻耶からしてみれば、非公式新聞部でも違くても、如何でも良かった。

 

 

「とりあえず、生徒会の目がクラスに行かないように、板橋と杉並は当日どっか行ってなさい」

 

「……おれ、完全に誤解なのに」

 

「フハハ、クラスと非公式新聞部の負担も減って、一石二鳥ではないか!」

 

「元はといえば杉並が高坂先輩の言葉を否定しなかったからだろうが!」

 

杉並と渉の漫才は放っておき、麻耶は義之の方にも念の為に話しておく。

 

 

「桜内、あんた生徒会の手伝いするんでしょ? SSPになった原因なんだから、上手くバレないようにしなさいよね」

 

「……板挟みが辛い」

 

義之は自分の状況を改めて認識したせいか、頭を抱えながらつぶやいていた。

 

そう、義之はクリパが終わるまでの間、生徒会の手伝いをすることになったのだ。

まゆきからの猛烈なプッシュに思わずという部分もあったが、音姫が忙しくて大変という彼女の言葉に義之はやらざるを得なかったのである。

 

義之が生徒会の手伝いをすると言ったときの、音姫の笑顔と信頼する目は、彼からしてみれば辛いところであった。

 

 

「音姉、すまん、俺を許してくれ」

 

「ほんと、仲良いわよね、桜内と朝倉先輩」

 

義之の言葉に、ため息を吐きながらも麻耶はつぶやく。

 

実際、義之と音姫の仲の良さは麻耶だけでなく、学園全体で有名な話でもある。

 

何せ、音姫は生徒会長であり、彼女の容姿と性格の良さで人気は高い。

そんな彼女が唯一甲斐甲斐しく世話焼きをする相手が義之であった。

注目しない訳がないのだ。

 

 

――ほんとの姉弟みたいよね。

 

義之が音姉と呼び、音姫が弟くんと呼ぶ。

 

麻耶には弟がいる。

そんな彼女でさえ、義之と音姫の呼び方も仲の良さも、彼らが血が繋がらないにしても本当の姉弟とも遜色がないと感じた。

 

 

「お姉さん、かぁ」

 

そして、義之を見ながらふと言葉が思わず溢れた。

意図した訳ではなく、ほんとに無意識につぶやいてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『お姉ちゃん!』

 

 

 

 

 

 

『麻耶ちゃん、どうしたの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ょう、委員長! どうかしたのか?」

 

「何でも、ないわ」

 

何でもないの、と義之の心配する声に麻耶は言葉を返した。

 

一瞬だけ頭の中に過ぎってしまっただけ。

忘れたい、昔のことが。

麻耶は脳裏に思い浮かんだ記憶を否定した。

 

そんなとき、放送が入った。

 

 

『えー、2年1組の天枷美夏さん、3年3組桜内義之くん、至急保健室まできてください。 繰り返します――』

 

 

それは、目の前のクラスメイトを呼ぶものだった。

麻耶は思わず半目で睨みつけてしまった。

 

 

「お願いだから、クラスの監視を増やすことにならないようにね」

 

「そ、そういう話じゃないから大丈夫…なはず」

 

何か呼ばれる心辺りはあったのか、麻耶の言葉を否定しながらも逃げるように教室をあとにした義之であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん……貴様の助けなどなくても、美夏は問題ない」

 

ではな、と不機嫌な様子を隠すこともせずに保健室をあとにした少女。

 

そんな少女を見ながら、保健室にいる教師―水越 舞佳は苦笑しながら義之に言葉を告げる。

 

 

「あはは、すっかり嫌われたわね」

 

でも、怒らないであげて欲しいの、と。

そう話す舞佳に、義之は仕方ないと思い、頷く。

自分の責任だと思っていたからである。

 

 

「俺が起動してしまったから、ですしね」

 

義之は保健室をあとにした少女を思い出し、理解はしつつも少しだけ信じられない気持ちもあった。

 

事の発端は、先日の昼休みのこと。

杉並に誘われ、学園から離れた雑木林に一緒に行ってしまった義之。

二人は、その雑木林の奥に洞穴があるのを発見し、中に入った。

 

其処には、カプセルに入った眠る少女―天枷 美夏の姿があったのである。

そして、義之は間違えて起動ボタンを押してしまったのだ。

それにより、美夏は目覚めてしまった。

 

 

――ロボットだって言われても信じられないな。

 

実際に目の前で彼女の耳から煙が出ているのを目撃した義之。

だからこそ、ロボットなのは認めずにはいられなかったが、それでも尚疑ってしまう。

それ程に、容姿も感情も、人間と何ら変わりがなかったのだ。

 

 

「別にね、ずっと離れず側にいて欲しいわけじゃないの」

 

「わかってます、少しは気に掛けるようにしますから」

 

そのロボット、いや、美夏が転校生として学園に入ってきた。

ただし、彼女がロボットだと知られてしまうと、色々な問題が発生する。最悪、スクラップ処分となってしまう可能性がある。

 

そのため、美夏がロボットであることは秘密である。

しかし、彼女は長い間凍結されており社会常識には疎く、システム的には不安定。奇怪な行動をする可能性が高い。

だからこそ、誰かにサポートして貰いたい。

 

既にバレている義之が適任という結論に至ったのだ。

義之自身、起動した責任として、否とは言わなかった。

 

 

「そう、良かったわ」

 

はい、これが基本資料よ、と舞佳から渡されたのは百枚以上ある紙束。

美夏についての情報が記載された資料であった。

 

家に帰ったら読まないとな、と思いながら義之は保健室をあとにしようとした。

 

 

「……あ、ちょっと待って!」

 

しかし、舞佳に呼び止められた。

義之が彼女の方に振り返ると、そこには机に置かれた大量の資料から何かを探そうとしていた。

 

 

「何をしてるんですか?」

 

「そういえばね、以前にも同じことがあったらしいのよ」

 

桜内くんと同じようにサポートしてた人が居た、と舞佳は資料を探しながら義之に答える。

 

舞佳の話を聞くと、以前にも美夏と同じようにロボットが学園生活を送っていた時があったとのこと。

そしてその時、自分と同じようにサポートをしていた人物が居たというのだ。

 

何か参考になるかもしれないと思い、彼女はその資料を探していたのである。

 

 

――いったい、どんな人なんだろうか。

 

義之は舞佳の言葉で、過去にサポートした人物に興味が引かれた。

 

そんな義之を他所に、目的の資料を見つけたらしく、その資料を取り出して中身を読んでいく舞佳。

 

 

「そうそう、もう五十年以上前のことらしいんだけどね。 何か参考になりそうな……もの…は……」

 

資料を読んでいた舞佳は何故か急に言葉を止め、一部分を凝視していた。

義之の耳には、まさか、とか、そんな偶然、とか独り言が聞こえてきた。

 

気になった義之は舞佳に質問をしようとしたが、彼女が先に口を開いた。

彼女が話した言葉は、意外なものであった。

 

 

「確か桜内くんって、生徒会長の朝倉さんと仲が良かったわよね?」

 

「は、はあ……そうですけど」

 

彼女の質問に肯定する義之。

何故、ここで音姫が出てきたのだろうかと疑問に思った。

だが義之の疑問には答えず、舞佳は義之を見つめた。

そして口を開く。

 

それなら、と。

頷いた義之を見て、舞佳は再び彼に質問を投げかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝倉純一という人物を知っているか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前の作品の前書きに、この話からとある二人が中心となりますと記載しました。
ただ、言葉を間違えたかなと思いました。
美春と暦先生が中心という訳ではありません。前座的なものでしょうか。

さて、今更言うのも申し訳ないのですが、私が描く話には、無印のキャラクターが出ることが多いです。
正直、無印を知らなく、D.C.IIのみ知る方からしてみれば誰それ状態だと思います。
申し訳ないとは思いつつも、私は無印とIIのキャラクターどちらも好きで、作品を描く際に無印のキャラクターも必要であれば出したいと思ってしまいます。
それでも見ていただけるならば本望です。

改めまして、前書きでも述べたように、皆様のD.C.との切っ掛けを聞けて嬉しかったです。

この感謝をどう伝えれば良いかなと考え、私からの感謝とすれば小説を描くことかなと思いました。
まだ次の話を一文字も書いてませんが、今日中にもう1話上げようと思います。

こんな作品ですが、また見ていただければ幸いです。

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