初音島物語   作:akasuke

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すみません、外伝として本編後に載せようと思っていた話があったのですが、モチベーションの関係で本編に描こうと思います。

今まで、それぞれの話で杏、茜、ななか、由夢など中心のキャラがいました。
今回からは、とある二人が中心の話となります。
※中心キャラは次から出ます。

それでは、本編をどうぞ。


episode-23「バナナ好きな少女は、未来の夢を見るか」

 

 

これは、過去のとある話。

 

オレンジ髪の少女が、輝かしい未来に思いを馳せた。

そんな、他愛もない話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-23「バナナ好きな少女は未来の夢を見るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほんとに、すまない』

 

力になれなくて、と。

白河 暦は自分自身の不甲斐なさを悔やんでいた。

 

 

生物準備室。

普段は暦しか居ない部屋には、彼女以外にも一人座っていた。

 

 

『暦先生が謝ることなんて何もないですよ』

 

元々、分かっていたことですから、と天枷 美春は笑みを浮かべながら答えた。

暦はそんな彼女をただただ見つめる。

 

天枷 美春。

いや、正確に言うのであれば、天枷美春の容姿、性格を模したロボットと言うべきであろうか。

 

暦の目の前に居るのは、本人ではなく、ロボットである。

美春本人は、不慮の事故で意識不明になっており、その影武者として代わりにロボットの彼女が学園生活を送っていた。

 

これは美春の父親であり、且つ天枷研究所の所長が決定を下したのだ。

感情を持つロボットが人の生活に馴染むことが出来るのかを調査する為に。

 

暦は教師でもあるが、天枷研究所の所員でもある。

だからこそ、目の前の美春のことは知っていた。

 

 

――そう、分かっていたことだ。

 

そう、知っていたのだ。

彼女がプロトタイプであり、長期的な運用を目的として設計されていないことを。

 

彼女が、近い内に機能を停止してしまうことを。

 

 

『それでもっ、それでもだ……わたしは、君をずっと見ていた』

 

所員として。

教師として。

 

彼女が学園で馴染むことが出来るのか、影からずっと見ていた。

 

美春は埋め込まれているデータを頼りに過ごしていた為、当初は変な行動をしていた。

しかし、徐々に慣れていき、人間と何変わりなく日常を謳歌していたを見た。

 

 

『ほんとに、楽しそうだった』

 

暦は、美春が常に楽しそうに友人たちと生活していたのを見ていた。

 

そんな彼女が浮かべる笑顔を見て、暦は思う。

ロボットである美春は、人間と何も変わりがないと。

 

勿論、彼女が人間ではなく、ロボットだと認識している。

しかし、意思がある美春は人間と何ら遜色などなかった。

 

 

『もっと、楽しんで欲しいと思った』

 

美春の笑顔が、近い内に失くなってしまう。

 

それは駄目だと。

少しでも長く、彼女に友人たちとの生活を送らせてあげたいと思った。

 

如何にか出来ないか、教師の業務後に研究所に戻り、必死に探した。調べた。

だが、設計上、無理に寿命を延ばそうとすると記憶データに影響が出てしまう。

 

それでは意味がなかった。

記憶がある彼女自身に、長く生きて欲しかった。

 

 

『ごめんなさい……』

 

勝手に作って。

勝手に終わらせて。

 

美春からしてみれば、研究所の人々を恨んで当然だと思った。

だからこそ、何も出来なかった暦は頭を下げて謝る以外に術はなかったのである。

 

 

『…………』

 

美春は申し訳なさそうに謝る暦を見て困った様な表情を浮かべる。

そして、何か思い付いたのか、彼女は口を開いた言葉を伝える。

 

 

 

 

 

かったるい、と。

 

 

 

 

 

『えっ……』

 

美春が言いそうにない言葉に、暦は驚いて頭を上げて彼女を見る。

そこには、悪戯気な表情をする美春が。

 

 

『……なんて、言いそうですね』

 

先輩なら、と。

頭の中で思い浮かべているのか、嬉しそうに笑っていた。

 

そして、嬉しそうな表情のまま、暦に自分の気持ちを伝える。

 

 

『美春は、自分が不幸だなんて、欠片も思っていません』

 

美春は自身の寿命が短いことを初めから理解していた。

だからこそ、寂しいという気持ちはあっても悲しいとは思わなかった。

 

それ以上に、彼女は感謝していたのだ。

 

 

『本物の美春さんの代わりに生活して、ほんとに色んなことを体験しました』

 

美春の頭には知識として色々なデータが入っていた。

しかし、ロボットである彼女は実際に体験したことがなかった。

 

だが、今回の学園生活で沢山の体験をすることが出来た。

 

 

『音夢先輩とクレープやパフェを沢山食べに行きました!』

 

本人である美春との、小さい頃から仲良しの音夢。

データとして音夢を知っていたが、実際に色んなとこに一緒に話し、出掛けることで彼女の良さを沢山知った。

 

音夢と一緒に食べたバナナパフェは、美春にとって大切な想い出だった。

 

 

『それに、芳乃先輩や水越先輩、白河先輩たちと海に行ったりして沢山遊びました』

 

はしゃぐ自分に色々と教えてくれ、一緒に遊んでくれた、大事な友達たち。

 

どの記憶も、美春には輝いて見える程の宝物である。

 

そんな素晴らしい体験が出来たのだ。

ロボットである自分が。

 

 

『先生……美春は、とっても幸せでした』

 

ありがとうございます、と。

美春はしっかりと暦を見ながら話した。

どうか自分の気持ちが、感謝が、少しでも伝わることを願って。

 

 

『そっか……そっか…っ』

 

美春の言葉、想いを受け、暦は天井を見上げる。

暦は、いまの表情を美春に見せたくなかった。

 

溢れてしまいそうな涙を隠したくて。

 

そんな暦をみて、美春は幸せそうに笑う。

ロボットである私にも、何かを出来たのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして。

嬉しそうに此方を笑う美春に、何故か照れくさく感じてしまう暦。

 

それを隠したくて、彼女は気になっていたことを美春にぶつける。

 

 

『なぁ、そういえば、朝倉に伝えなくて良いのか』

 

寿命のことを、と暦は美春に聞く。

 

朝倉 純一。

ロボットの美春が日常生活を問題なく過ごす為、彼女の世話役として暦が依頼した生徒。

 

かったるいと言いながらも、何度も美春の手助けをしているのを暦は見ていた。

口では何だかんだ言いながらも困った人をほっとけない性格だと理解していた暦。

 

だからこそ、信頼して美春の世話役を任せたのだ。

 

そんな彼には、美春の寿命の話をするべきだと思った。

だが、それを止めたのは――美春であった。

 

 

『先輩には、言わないでください』

 

美春が停止した時は何か理由を付けて話してください、と暦にお願いした。

 

美春は、純一に本当に感謝していた。

音夢や他の友人にも感謝していたが、一番お世話になったのは純一だと思っていたのだ。

 

 

――先輩は、ロボットだって分かっても、普通にしてくれました。

 

純一は、本物の美春も知っている。

彼はロボットの美春を入院中の天枷 美春ではなく、別の一人の少女として接してくれた。

 

彼は人間だロボットだと区別せず、同じように友人でいてくれたのだ。

美春はそれがどうしようもなく、嬉しかった。

 

きっと、純一は区別とかかったるいと言うのだろうな、と美春は想像しながら笑ってしまった。

 

天邪鬼。優しい癖に、それを見せたがらない彼。

だからこそ――

 

 

『美春の寿命を言うと、先輩はきっと気にしちゃいますから』

 

彼が悲しむのが嫌だった。

最後は、停止した自分の姿ではなく、笑って彼に手を大きく振った自分を覚えて欲しかったから。

 

 

『そっか……』

 

そう伝えてくる美春に優しい表情を浮かべる暦。

 

純一を悲しませたくない。

純一には自分の笑顔を覚えておいて欲しい。

 

そう語る彼女の表情をみて、暦は理解したのだ。

美春は純一のことが――

 

 

――朝倉、本当にありがとう。

 

暦は心の中で純一に感謝を述べる。

だって、彼は彼女に色んな気持ちを教えてあげることが出来たのだから。

 

 

『ねぇ、暦先生』

 

『なんだい?』

 

心で感謝の言葉を送る暦に、美春はひとつ質問する。

 

彼女は自分の人生に後悔はない。

だから気になるのは、他のこと。

 

 

『美春の後に生まれるロボットは、もっと長く生きれるのでしょうか』

 

自分は元々短い寿命だった。

それは仕方ないことだ。

 

しかし、今後生まれてくるロボットにはもっと長く生きて欲しいと思った。

 

 

『ロボットだと隠さないで、人間の方たちと一緒に暮らせるのでしょうか』

 

自分は、美春本人として過ごす必要があった。

それは仕方ないことだ。

 

しかし、今後生まれてくるロボットには、人間として偽らずにありのままで過ごして欲しいと思った。

 

 

『わたしが先輩たちと過ごせたように、友達と楽しく学園生活を過ごすことが出来るのでしょうか』

 

自分は、短い間だったが友人達と楽しい、幸せな学園生活を過ごすことが出来た。

 

今後生まれてくるロボットには、美春が体験した様に、楽しい学園生活を謳歌して欲しかった。

 

 

『…………』

 

聞いてくる美春の瞳は、表情は、ひたすら輝かしい未来を信じていた。

質問ではあったが、そんな未来が絶対くるのだと疑っていなかったのだ。

 

 

『きっと……』

 

暦は、人間と変わらないロボットが発表される未来を思い浮かべる。

色々な予測が頭に過るが、一旦考えるのを止めた。

 

 

『きっと、来るさ』

 

嫌な未来など、考える必要などない。

彼女には、未来はきっと明るいのだと信じて欲しかった。

そして、暦も信じたかった。

 

 

『ふふ、そうですよねっ! 美春の妹や弟たちの今後が楽しみです!』

 

暦の言葉に嬉しそうに笑う。

そして、今後生まれる自分の妹や弟たちの未来に思いを馳せる美春であった。

 

 

 

 

 

 

 

これは、過去のとある話。

 

オレンジ髪の少女が、輝かしい未来に思いを馳せた。

そんな、他愛もない話。

 

 

 

 

 

 




二次創作やオリジナルなど書く人にとってモチベーション維持は重要だと思います。
人によって維持の方法は様々だと思います。

私のモチベーション維持は、感想板を見返すことです。

私の描いた話に感想や評価を書いて頂けるのは物凄く嬉しいです。
そしてそれと同じくらいに嬉しいのは、皆さんが書いたダカーポへの想いです。

俺は○○派だったとか、『―――』のop曲が好きだった、〜するのが自分の青春だったなど。
ダカーポが好きだった、という思いを感想に書いてもらったのを見て、凄くニヤニヤしてます。

私が大好きな原作を他の人も好きだっていうのは、思いの外嬉しいものです。

なので、感想板にダカーポへの想いを遠慮せず書いてくださいね。
そしたら私の更新力が高まるかもしれません…なんてね。

また見ていただけたら幸いです。


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