暫くは日常回が続き、少しづつ変わっていきます。
episode-22「会長と副会長」
「まったく、次のクリパが心配だわ」
問題が山積みだわ、と。
高坂まゆきは、今後のことを考えて頭を抱えていた。
昼休みの生徒会室。
まゆきと音姫が各自弁当を持参しており、生徒会室で作業しながら昼食を取っていた。
「んー、確かにクリパは色々やることあるけど」
それは毎年同じじゃない、と音姫は苦笑しながらまゆきに話す。
クリスマスパーティー、通称クリパは卒パと同じくらいに規模としては大きく、学生側が主体となって色々なイベントを行う。
その為、生徒会はクリパ準備の段階からやることが物凄く多い。書類作業然り、見回りや監視然り。
大変ではあるが、去年から音姫やまゆきは生徒会に所属しており、ある程度作業は慣れているので仕事が回らない訳ではない。
だから別にそこまで心配する必要はないのでは、と音姫は考えていた。
「ん? あぁ、別に私も普通の作業は心配してないわよ」
「それじゃあ、なんのこと?」
「心配事って言ったら決まってるでしょ」
杉並よ、杉並、とまゆきは言った。
彼女の言葉に、音姫は確かにそうだと納得する。
杉並。
いや、非公式新聞部と言った方が良いだろうか。
非公式新聞部の生徒は、クリパや卒パなどのイベントではいつも何かしら問題を起こすのである。
それを生徒会や風紀委員が止めに入り、非公式新聞部の生徒が逃げ、追い掛ける。
もはや毎年の恒例行事となっている。
非公式新聞部の問題行動も誰かが怪我する様な悪事ではない為、周りの生徒は基本的に面白がって眺めるだけ。
なので、生徒会の生徒達が一丸となって捕まえるしかないのだ。
特に、まゆきは非公式新聞部――杉並を捕まえることに一番力を入れている。
そんな彼女だからこそ特に心配なんだろうな、と音姫は思う。
「それに、文化祭の時はまんまとしてやられたし」
苦々しい表情で、まゆきはつぶやいた。
数ヶ月前の文化祭。
まゆきとしては、あまり思い出したくない。
暗黙の了解、という訳ではない。
しかし、今まで文化祭では非公式新聞部はあまり問題は起こさなかったのだ。
彼らは卒パやクリパの時でなければ本格的に動かないと思っていた。
『フハハ、誰も文化祭は動かないとは言っていないのだがな!』
その生徒会の思考のスキをつかれる結果となった。
監視も最低限に留めていた為、初動が遅れてしまったのである。
『弛んでいるのではないか?』
杉並の言葉がまゆきの頭を過る。
確かに弛んでいたのかもしれない、と思った。
だからこそ、次のクリパは杉並が問題を起こす前に捕まえてやる、と決意したのであった。
――まゆきったら、楽しそうなんだから。
そんなまゆきの姿を見て、音姫は静かに笑う。
音姫は非公式新聞部のことは基本的にまゆきに任せている。その為、まゆき程に捕まえることに執着していない。
ただ、杉並と追い掛けっこしてる時が一番まゆきは生き活きとしている為、頑張ってほしいと思った。
「こ、こほん。 言っておくけど、今回は杉並だけじゃないんだからね」
微笑ましい表情で見てくる音姫に恥ずかしく思いながらも、まゆきは他人事ではないんだぞと話す。
以前までは杉並に監視を主に付ければ良かった。
しかし、今回からは他にも注意しなければいけないのだ。
それは、文化祭で講堂を占拠したメンバー。
義之、渉、杏、茜、小恋、ななかの6名である。
「弟くんや板橋、雪村、花咲は面白がってやりそうだけど、まさか他のメンバーは想像もしてなかったわ」
「ま、まあ、文化祭のことはしっかり罰も受けてもらったしね」
溜め息を吐くまゆきに、音姫は宥める様にしながら話す。
まゆき自身も怒ったりしている訳ではないのだ。
文化祭のとき、観客だけでなく、美少女コンテストの主催者も講堂占拠されて文句は言っていなかった。
それに、講堂の照明を点検した際、ネジが緩んでいたという報告も受けている。
もし美少女コンテストが行われていたら、照明が落ちて怪我人が出て来る可能性もあった。
だからこそ、結果オーライというやつなのだろう。
素直に反省文とボランティア活動を行っているので、文句はない。
しかし。
「それでも、やっぱクリパでも何かやらかさないか注意しないと」
理由があるにせよ、文化祭の時と同様、また占拠されても色々困るのだ。
だからこそ、杉並程ではないが注意は必要だろうと考えていた。
ただ、全員にそれぞれ監視付ける程に生徒会の人員は多い訳ではない。
だからこそ、ある程度は絞る必要がある。
「板橋は杉並と同じで非公式新聞部みたいだし、監視は必要でしょ。 あとは雪村と花咲も一応入れるかな……それと弟くんも――」
「弟くんは大丈夫!」
弟くんも注意は必要かな、と。
まゆきが言おうとした矢先に、食い気味に音姫が必要ないと否定した。
「文化祭のときは色々理由があったみたいだし、クリパでは問題を起こさないよ」
「いや、音姫……あのね」
「弟くんは、お姉ちゃんを困らせることしないんだから」
音姫の言葉に、まゆきは説得を諦める。
こうなってしまったら親友が梃子でも動かないことを知っているのである。
――まったく、音姫の弟くん贔屓は治らないんだから。
普段は誰に対しても平等に接する音姫だが、何事にも例外がある。
それが、弟くん――桜内 義之である。
彼のことになると、音姫は色々とポンコツになってしまうのだ。
そんな親友の一面も可愛いので仕方ないな、とまゆきは監視するという考えを放棄した。
それに、こんな純粋に信じる音姫を見たら義之は問題行動できないだろうなと思う。
――あ、弟くんにクリパ終わるまで生徒会の手伝いさせても良いかも。
弟くんに生徒会の手伝いをさせれば監視の手間を省けるし、音姫がより一層元気に動いてくれるだろう、と。
あとで呼び出して誘ってみようとまゆきは思った。
「そういえば、妹ちゃんのこともあったなぁ」
義之のことを考えていて、音姫の妹――由夢についても思い出したのだ。
音姫から話を聞いたとき、まゆきは物凄く驚いた。
まったく、これっぽっちも想像してなかったのだ。
「まさか、妹ちゃんが非公式新聞部に入っただなんて」
「あ、あはは、仮部員とは言ってたけどね」
音姫が妹の由夢をフォローする様に言葉を付け足す。
まゆきとしては、仮部員だとしても非公式新聞部にあの由夢が入るとは思わなかったのだ。
彼女の印象としては、音姫と同様に真面目でしっかり者というイメージがあった。
だからこそ、どうして非公式新聞部に入ったのか問い詰める必要があったのである。
『妹ちゃーん、ちょっと来てくれるかにゃーん?』
『こ、高坂先輩…あ、あの、そのっ!』
まゆきは由夢を廊下で見つけた瞬間、問答無用で生徒会室へ連行した。
色々とお話を聞かせてもらうつもりであったのである。
ただ、問い詰めた結果――
「なんか、もう、ごちそう様って感じだったわ」
「あ、あはは」
砂糖を吐きそうになった、と。
その様に告げるまゆきに、音姫はただ苦笑いするしかなかった。
由夢は正直に仮部員として所属する理由を述べたのだ。
『その、誰かのために頑張ってる人がいたんです』
『わたし、その人の手伝いをしたくて』
『その人に相談に来る人達がいて、その人が感謝されるのを見て嬉しかったんです』
『それを近くで見てると、わたしも頑張らなきゃって思って』
『だけど、それだけじゃないんです』
『――その人の側に、居たいんです』
『その……いつか、想いを伝えられたらなって』
――なんだろ、独り身には辛かったわ。
青春してるな、とまゆきは思った。
そういう理由ならば、無理に部員を辞めさせようとは思わなかった。
それに、非公式新聞部に所属していても、杉並の手伝いはしないだろうと思えたのである。
――それにしても。
チラリと。
音姫に視線を向けるまゆき。
急にまゆきに見つめられて首を傾げる音姫。
そんな彼女をみて、まゆきは思う。
――やっぱり、姉妹なのね。
由夢と音姫の両方とも、好きな人には一直線というか、一途なのだと。
音姫は義之のことを弟として好きなのだと言うだろう。
しかし、親友として側に居たからこそ、姉弟としての愛情以外の部分もあると感じたのだ。
―さてさて、どうなることやら。
義之が音姫をどう思っているかは分からないが、上手いこといって欲しいと思った。
そして、
「はぁ、わたしも恋したいにゃーん」
あてられたのか、割と切に想うまゆきであった。
原作前より原作開始の方が描きたいキャラも、描きたい内容も多いですね。
男女両方とも好きすぎて、正直どこまで描こうか悩んでます。
基本的に、後編は桜に願った人達と魔法使いが話の中心となります。
ただ、その中心の話とは別に、麻耶と美夏、まひるに焦点を当てた話も考えてます。
以前も少し書いたのですが、中心の話を描いて本編を完結させてから、外伝もしくは別話として麻耶、美夏、まひるの話を入れようとも考えてるのですが、如何でしょうか。
また見ていただければ幸いです。