初音島物語   作:akasuke

2 / 43
実を言うと、ここまでがプロローグの予定でした。
原作開始までという感じでしょうか?


episode-1「物語のはじまり」

「んー……この場所に馴染む自分が不思議かも」

 

染まってきてるのかもと、彼方は今の状況をみて思わず笑ってしまった。

 

 

初音島の風見学園は、現在の彼方が通う学校である。

中学と高校が付属校と本校として分かれており、初音島に住む学生がほぼ所属するマンモス校だ。

 

そして、彼が現在いる場所は、風見学園の多岐にわたる『地下室』の内の一室。

部屋の入り口近く、プレートに『非公式新聞部第二執筆室』と書かれている。

 

色々とツッコミどころが多いのであるが、そんな状況が前世と呼べる場所とは違い、少しの非日常を感じて嬉しくなってしまう彼方であった。

 

 

 

――優しい世界に生きたいです。

 

彼方の願いが叶い、既に10年の月日が経つ。

両親が、看護師や患者の方々が治ったことを喜んでくれたのをみて、幸せな気持ちを感じた。

そして、魔法の桜に感謝した。

いや、魔法の桜ではなく、芳乃さくらにであろうか。

勿論、物語を知ってるだけであり、直接はお礼をできなかったのであるが。

 

彼方は、魔法が解けるまでの期間に何をしたいだろうかと考えた。

日常生活を謳歌したいという気持ちは勿論ある。

そしてそれ以上に何かできないだろうか、という思いがある。

そのときに、真っ先に浮かんだこと。

それは、

 

――魔法の桜に願いを叶えてもらった人たちに、後悔しないように伝えたい、と。

 

そんな気持ちであった。

ただ、何から始めれば良いのか迷い、まずは魔法の桜についての情報を集めたいと思った。

彼方自身の前世の記憶は、そこまで残っていない。

そして、アニメやゲームと違い、現実なのだから色々違いがあるだろう、と。

 

小さい頃は、いざやろうと思いつつも、中々できることはなかった。

しかし、後悔しないように自分なりに人の為にやれることはやった。

そして、彼が風見学園付属に入学し、目的の為に向かったのが、非公式新聞部である。

 

 

非公式新聞部。

風見学園が設立する当初から存在する非公式部活の一つである。

表向きはネッシーやUFOなどの非科学的な事件を調査して記事を載せたりしているが、真相は謎に包まれる組織だ。

ただまぁ、体育祭やクリスマスパーティー(通称、クリパ)等で面倒を起こす厄介集団というのが大半の認識である。

 

関わると危険人物扱いを受けそうであるが、魔法の桜などを調べるにはうってつけな場所でもあった。

しかし、非公式新聞部に所属するには暗号などを解く必要があるという部分で、自分には無理じゃないだろうかと諦めている気持ちもあった。

 

 

『…………ふむ、採用』

 

しかし、彼方を見るなり、非公式新聞部所属の杉並に採用されるという不可思議なことがあり、非公式新聞部に入部することが叶ったのであった。

(何故同じように入学したばかりの杉並が所属しているのか、また、彼方が所属したいという前に採用を言い渡したのかは謎である)

 

非公式新聞部に所属したことにより、色々な珍事件に巻き込まれたが、情報を集めたり、人と知り合うことが出来たのは良かったと素直に思えた。

 

 

さて、そんな過去があり、非公式新聞部に所属する彼方であるが、所属するからには普通に仕事をする必要がある。新聞である。

 

非公式新聞部なので一応、新聞を作って載せるのだ。

大半はゴシップ記事であることから、見るのはマニアックな人達ばかりである。

 

 

「さてと、何を書こうかな……」

 

記事の内容に悩んでいた彼方であったが、

ふと、書く内容について一つ思い浮かんだ。

 

 

――ゴシップ記事なら、正直に書きたいことでも何とかなるかな

 

散々、ネッシーやUFOなどの超常現象を書いているのである。

それならば、見る人が見れば感じるものがあるけど、大半は素通りする内容として書きたいことが書けるのではないかと。

 

そうして、彼方は記事のタイトルに早速文字を入力する。

 

『魔法の桜が枯れる!? 後悔する前にやっておくべきこと』

 

大半にはネタ話で終わってしまうだろう。

だけど、自分と同じように、魔法の桜に願った人たちには考えほしい内容である。

一人でも何かを感じてくれたら嬉しい、と。

 

 

彼方はこのときは思いも寄らなかっただろう。

この記事がきっかけで、自分のまわりが一変してしまうとは。

 

 

 

 

 

 

episode-1「物語のはじまり」

 

 

 

 

 

 

あれ、珍しいなと。

桜内 義之の、思わぬ場所に、思わぬ人物がいたことによる感想である。

 

平日の昼休み。

悪友の板橋渉と共に、学食で食事を済まし、教室に戻る途中であった。

 

その途中の廊下に、白い物体が立ち尽くしているのを見つけた。

いや、人形と例えた方がいいだろうか。

背が低く、髪が白い女性など、一人しか浮かばなかった。

 

「あれ、あれって杏だよな? 何であそこにつっ立ってるんだ?」

 

義之と同じように、隣の渉が疑問を投げ掛ける。

そう、紛れもなく、自分たちの視線の先には、白い少女―雪村 杏がいた。

 

基本的に、いつも雪月花(彼女らの頭文字をとった総称)でセットなので単体な自体が珍しい。

更に言えば、無意味なことはしない彼女がその場で立ち尽くしているのも珍しいのである。

 

 

「おーい、杏! そんなとこで何でつっ立ってるんだ?」

 

「…………」

 

「あの、杏さん?」

 

「…………」

 

「あんずさまー!」

 

声を掛けて尽く無視されて涙目になる渉であるが、割と通常営業である。

確かに、渉の扱いは無視か毒舌で珍しくないのであるが、本当に聞こえてないように見えた。

よくよく見ると、普段と同じ無表情ながら、真剣に何かを見てることに気付いた。

 

 

「ん? ……新聞?」

 

その視線を追うと、壁に貼っている新聞が目に入る。

義之は、そこで新聞について思い出す。

 

 

――この新聞は、杉並のとこか。

 

悪友の内の一人―杉並が所属する部活である、非公式新聞部。

そういえばゴシップ記事とか書いて貼ってるよな、と。

 

思い出したからこそ、尚更ゴシップ記事に興味なさそうな杏が真剣に見ていることに驚きを感じる。

 

一体、どんな内容なんだ、と。

杏と同じように記事の内容に視線を向けようとした矢先、抑揚のない声が横から聞こえてきた。

 

 

「……あら、渉いたの?」

 

「おーい、ずっと声かけてたよな!?」

 

「聞こえなかったわ、たぶん、耳が拒否したのね」

 

「……おれ、いつもこの扱いなのな」

 

「ほら、さっさと行きましょ」

 

涙目の渉と無表情の杏の、いつも通りの漫才に安心してしまう義之であった。

ほら、義之いくぞー、という渉の声に返事をし、向かう前に記事のタイトルを横目で見る。

 

 

『魔法の桜が枯れる!? 後悔する前にやっておくべきこと』

 

なんというか、いつも通りのゴシップ記事な気がするんだが、と。

タイトルのゴシップ感に、杏の興味ひく箇所に疑問が出てくる義之であった。

 

 

「そういえば、杉並は?」

 

「え、知らね。 なんか調査行くとか何とか言ってたけど」

 

「……そう。 やっぱり渉は渉ね、安心したわ」

 

「え、なんで今バカにされたの!?」

 

漫才を聞きつつ、杏と渉と一緒に教室へと戻るのであった。

義之にとって、いつもの日常の一コマである。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「わたし、少し行くとこあるから」

 

あれ、珍しいと。

月島 小恋の、教室から出て行く親友の杏に対する感想である。

 

 

放課後。

普段なら途中まで一緒に帰るのだが、珍しく急いで出て行く杏に目を丸くする小恋であった。

 

 

「あれぇ、杏ちゃんなんだか急いでたねー。 用事でもあったのかなあ?」

 

同じ疑問を浮かべていたのであろう。

杏と同じく親友の一人である花咲 茜が小恋に疑問を投げ掛ける。

 

 

「月島も分からないよー……でも、なんだか今日ちょっと変じゃなかった?」

 

今日というより、午後くらいから?と。

小恋は、杏の今日の雰囲気を思い出しながら茜に答えた。

 

小恋は、午後の杏の授業中の姿に違和感を覚えた。

彼女自身は、勉強がそこまで得意ではない。

暗記物なんて壊滅的とは言わないが、苦手であると断言してしまうほどである。

それに比べて、杏は勉強に、特に暗記物については間違えたのを見たことがない位である。

 

 

『板橋には無理かー。 それなら、雪村、答えてくれ』

 

『……え、あ、すみません。わかりません』

 

教師からの質問に杏が答えられなかったのだ。

珍しいと思ったのは、小恋に限らず、生徒、教師全員の感想であっただろう。

答えが分からないというよりは、集中しておらず、聞いてなかったのだろう、というのが小恋の推測であった。

 

 

「んー、たしかに、授業では杏ちゃん珍しいなぁーって思ったけどー」

 

「なんか午後から集中してなかった気がするんだよね」

 

「そうそう! 杏、今日おかしいよな! 昼休みなんて呼びかけても無視されたんだぜー」

 

茜と話している最中に、肯定しながら会話に入ってくる渉。

 

それはいつものことでしょー?

なんでだよー!

茜と渉のやり取りを見つつ、考えていた小恋に、今度は義之が思い出したと言わんばかりに情報を述べた。

 

 

「そういえば、なんか非公式新聞部の記事を真剣に読んでたな」

 

「あん? 杉並のとこの新聞? 杏が興味もつなんて珍しいな」

 

「タイトルが、ゴシップ感満載だったから杏が興味もつとは思えなかったんだけどな」

 

義之と渉のやり取りを聞いて、新聞について小恋が一つ思い出したことを伝える。

 

 

「あぁ! それって魔法の桜が枯れるとかって記事?」

 

「確か、そんな感じだった気がする。 内容は見てなかったけど、何かいつもの通りに胡散臭いんじゃないか?」

 

「んーとね、中身はすごいマジメに書いてあったよー」

 

月島は隣のデザート特集見てたついでに目に入ったんだけどね、と。

若干、照れた表情を浮かべながら小恋は話した。

 

内容は、魔法の桜は願いを叶えてくれる、でも枯れたら願いは解けるから後悔しないように。

要約すると、そういう内容だった。

そもそも非公式新聞部の記事をはじめた見た小恋であるが、彼女は記事について、一つ感じたものがあった。

 

 

――この記事書いたひと、優しいひとなんだろうなぁ、と。

 

内容が真実なのか否かは分からないが、誰かに向けて伝えたいという気持ちが溢れてたように感じた。

何だか、文字なのに人の気持ちが感じられるっていいなーって、新聞をまた見ようかなと興味をもつ小恋であった。

 

その感想を義之たちに伝えながら、さらに情報を付け足す。

 

 

「あ、それに、書いたひと自身が願いを叶えてもらったんだってー」

 

「へー、じゃあそいつは、エロい願いが叶ったんだな! 羨ましいぜコンチクショー!」

 

「もうっ! 最低だよ、渉くんは!」

 

「え、ちょっ、男なら誰でも思うって! 義之もそう思うよな?」

 

「思わないな」

 

義之の裏切りものー!と、泣きながら出て行く渉を見ながら、小恋は疑問を感じた。

そういえば、茜から何も返事がないと。

 

茜の方に振り返ると、そこには顔を俯かせる茜の姿があった。

 

 

「茜? え、どうしたの、大丈夫?」

 

「…………」

 

「え、茜! あかねっ!」

 

「…え、あ、うん。 大丈夫だよー」

 

半ば取り繕うように笑顔を浮かべる茜に、小恋が心配してさらに声を掛けようとするも、わたしも用事があるからと茜は足をふらつかせながら出て行った。

 

 

「茜、どうしたのかな……」

 

「すこし様子がおかしかったな、気になる話だったのか?」

 

小恋と義之は、出て行った茜に心配しつつも、同じように教室を出て行くのであった。

 

そして、ひょんなことから好意を寄せる義之との二人きりの帰宅に胸の鼓動が早くなっている途中のこと。

 

 

「あれ、そういえば……」

 

「ん、忘れ物か?」

 

「ち、ちがうよ! ちょっと思い出しただけで大したことないから」

 

義之に否定しつつ、ひとつ、先程の話で思い出したことがあったのだ。

 

 

――そういえば、ななかもあの記事を真剣に見ていたな、と。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。