今回で一旦、由夢編が終わりになるかと思ったのですが、書いてる途中で1万文字超えそうなのに気付き、前編と後編に分けました。
後編はいま書いてる最中ですが、日付変わるタイミングには投稿出来るかもです。
では、本編をどうぞ。
episode-18「夢よりもっと幸せになるから(前編)」
「それにしても、文化祭はあまり面白そうな催しをやってるクラスはなさそうだな」
義之は、文化祭の冊子をパラパラと捲りながらつぶやいた。
文化祭前日。
周りのクラスがラストスパートを掛けて慌ただしい中、義之たちのクラスは準備を早めにしていたこともあり、他のクラスを気に掛ける余裕があった。
「まぁ、張り切って変わったもんをやるのは、基本的にクリパか卒パだからだろ」
「文化祭は前座で、そのあとが本番なのよね」
渉の言葉に同意する形で、杏も答える。
確かにそういう感じだよな、と義之は頷きながら納得した。
特に誰が言い出した訳ではないが、文化祭とクリパが時期的に近いこともあり、文化祭はあくまで普通に抑え、クリパで張り切る生徒が多い。
義之たちのクラスも文化祭では喫茶店という、特に捻りのない出し物になっていた。
「まぁ、毎回イベントで張り切り過ぎたら疲れるしな」
「そーだぜ、俺や月島たち軽音部も次のクリパに備えて練習してるしな」
「ちょっと、アンタ達! まだ完全には準備終わってないんだから、だらけるの止めなさい!」
自分たちに振られていた仕事が終わったこともあり、ゆっくりしていた義之たち。
だが、流石にクラスで堂々とだらけている姿が目に余ったのか、クラスの委員長―沢井 麻耶が注意しに来ていた。
そして、だらける義之たちに不満に思ったのは、何も麻耶だけではない。
「もーう、義之くん達だけじゃなくて杏ちゃんもゆっくりしてズルい!」
エプロンを身に着けた茜が頬を膨らませながらやって来た。
外装などの準備は前から行えるが、料理は腐るために前以て出来ない為、料理組が一番時間が掛かっていた。
それで忙しいのに、自分を放って呑気に話している親友たち面々に少しムッと不満に思ったのだ。
「だって俺たちの仕事は片付けたしな」
「義之くんは料理できるんだから、手伝ってくれても良いでしょー」
「いや、デザートとかは専門外だよ」
家で朝食や夕食を作る為に普通の料理は出来るが、あまり甘味などは作っていなかったのである。
その為、義之は無理だと否定したが、茜としては自分以外で仲良く話しているのが羨ましくも妬ましかったので怒ったままだった。
「そんなに怒るならもっと簡単なメニューにすれば良かったんじゃね」
呆れた様に渉は茜に言った。
最初はサンドイッチとか簡単な軽食だけで良いのでは、という意見もあった。
しかし、それを否定し、もっと凝ったものを作るべきだと言い出したのは茜自身であった。
「むー、料理は美味しいのだしたいんだから!」
料理部としては譲れない部分であったし、何より藍の存在を杏や小恋達に知ってもらった後の初めてのイベントだったので頑張りたいという気持ちがあったのだ。
「ふふ、あなた達二人でレシピも考案してるんだから、美味しいに決まってるじゃない」
「杏ちゃーん、もー、可愛いんだから!」
「いや、花咲さんまでコイツ等と一緒に休まないで欲しいんだけど」
杏の言葉に嬉しくなった茜は彼女に抱き着いた。
それを杏は仕方ないわねと言いながらも頭を撫でていた。
その光景をみてミイラ取りがミイラになったと、麻耶は頭を抱えてつぶやいていた。
「あん? そういや、『あなた達二人』って、茜以外にもいるのか?」
「渉……あなた、時折無駄に気付いたりするの止めなさい」
「そうだよぉ、渉くんはそんな役割じゃないでしょー」
「待って、何で俺、ダメ出しされたの……」
そんな中、先程の会話に疑問を持った渉が突っ込むも中途半端にスルーされて涙目になる。
たまに茜と藍のことを匂わす話をしてしまうも、渉相手だと適当にスルーすれば大丈夫と思っている杏だった。
そんな漫才を繰り広げる中、義之はあることに気付いた。
「なんでこんな平和なのかと思ったが、杉並が居ないからか」
「あぁ、確かに。 杉並が普段は騒動起こすのに、してないからこんなに落ち着いてるのか」
義之の言葉に、渉や杏、茜達が納得していた。
クリパや卒パなどのイベントでは生徒会との追いかけっこで慌ただしい杉並の存在がいないのだ。
それに、安心していられるのも訳がある。
「クリパや卒パじゃないから非公式新聞部も動かないだろうしな」
「だから平和なのか、それはそれで物足りない気もしてくるけどなぁ」
非公式新聞部が騒動を起こすのは基本的にクリパや卒パのタイミングである。
特に決まっていた訳ではないが、杉並自身もクリパに向けて準備中だと言っていたのを義之は思い出していた。
義之の言葉に、渉は去年などの馬鹿騒ぎを思い出しながら話していた。
渉の言葉は、意外にも他の生徒の一部も思っていることである。
騒動を起こして迷惑を掛ける非公式新聞部だが、何だかんだでそれを楽しみにしている生徒も多いのだ。
口では平和は良いことだと言う生徒会副会長―高坂 まゆきも物足りなさを感じていたのである。
「フハハ、期待に応えようではないかっ!」
出待ちしていたのではないか。
そう思えるくらいのタイミングで突如、杉並が義之たちの前に高笑いをしながら現るのであった。
どこから来たのよ、と突っ込む麻耶とは違い、慣れてる面々は平然と杉並に話し掛ける。
「いや、やるつもりなかったんだろ?」
「うむ、なかったぞ……さっきまではな」
明らかに何かやりますと告げる杉並に義之たちは呆れた視線を向ける。
「ほら、渉があんなこと言うから」
「あーあ、渉くん知らないからねぇ」
「いーたーばーしーっ!」
「待って、俺のせいなの!?」
杏と茜、麻耶に理不尽に怒られる渉は、俺関係ないじゃんと叫ぶ。
そんな光景を尻目に、義之は改めて問い掛ける。
「渉が言ったからじゃないよな? 何で急に?」
「なに、同志初音に頼まれてな」
「へっ?」
意外な人物の名前に、義之は目を丸くする。
何も驚いたのは、義之だけではない。
「まって、彼方くんにお願いされたの?」
「あいつが? 何だかそんなイメージじゃないけどな」
茜と渉は自分が想像する人物がやらなそうなことなので、何かの間違えじゃないかと思っていた。
「……なるほどね。 ねぇ、杉並」
ただし、そんな中で何か悟ったのか、杏だけはどこか理解した様子を見せ、杉並に問い掛ける。
「それは、誰のためなのかしら?」
「…………さてな」
杏の問いに肩をすくませ、言葉を濁す杉並。
ただ、杏の言葉に他の面々もどこか納得の様子を見せていた。
第二執筆室で彼方と話した義之たち面々からしてみれば、誰かの為にという理由だと納得できるものだったのだ。
理解する面々を他所に、杏は更に杉並に問い掛けた。
「これ、私たちにわざわざ言ったのは何で?」
「……なに、色々手伝って欲しくてな」
何か騒動を起こすのであれば、普通ならばそれを話すメリットなどある筈がない。
それを話すということは、要は協力して欲しいということだ。
騒動に加担するということは、周りに迷惑を掛ける可能性がある。
しかし。
「だれかの為……なんだよね?」
「おそらくな」
真剣な表情を浮かべて問い掛ける茜に、杉並は肯定する。
そして、暫く沈黙が続いたが、その空気を破ったのは義之だった。
「はぁ、色々と助けられたし、初音が困ってるならやるさ」
彼方の話を聞いたからこそ、さくらに言えたことがあった。
それは、義之にとって大事なことだったし、恩を返したいと思っていたのだ。
「わたしも出来ることがあるなら手伝う!」
「杉並だけだったら断っていたけど、初音には借りがあるからね」
「へっ、友達のためならやってやんよ!」
参加の意を示す義之の言葉に続くように、茜や杏、渉の面々も手伝うと述べた。
それを聞いた杉並は、ニヤリと笑みを浮かべながら、他に手伝いをして欲しい人物を述べた。
――あとは、月島嬢と白河嬢だな、と。
「わたし、聞かなかったことにしたいんだけど」
一方、杉並たちのやり取りを聞いてしまった委員長の麻耶は、生徒会に伝えるべきか頭を抱えながら真剣に悩んでいた。
――――――――――――――――――
文化祭当日。
由夢は、美少女コンテストが行われる講堂にいた。
彼女は、彼方に自身の予知夢の話を打ち明けた時のことを思い出していた。
『不幸な未来は覆せるって証明してみせます』
彼方は、由夢の話を聞いたときに真っ先に言ったことがある。
それは、同日に胡ノ宮神社で知り合った環が言ったのと同じこと。
夢で見た誰かが不幸になるという未来について。
未来は変えることが出来るのだと。
由夢の瞳を真っ直ぐに見つめながら伝えてきた。
証明してみせると断言したのだ。
『そして、由夢さんがやってきたことが無駄じゃなかったんだって証明します』
由夢の手帳に書かれた内容を見ながら、彼方は信じて欲しいと言った。
「かなた先輩……」
彼方のことを信じたい。
だからこそ、由夢は指定された場所にいた。
講堂。
文化祭1日目は手芸部主催の美少女コンテストに使用されており、由夢が予知夢でみた場所でもある。
美少女コンテストの看板。
そして、そのコンテストの最中に誰かが下敷きになって倒れているという姿。
時間帯は分からなかったが、そんな場面を彼女は見た。
他の内容とは違い、まだ場所などは分かりやすい。
しかし、わかったからと言って、どうやって止めれば良いのか分からなかった。
美少女コンテストの最中に上の照明が落ちてきて下敷きになるから止めろ?
それを誰が信じるのだろうか。
照明が落ちるタイミングで助ける?
何時に落ちてくるのか分からないのに、どうやって助けられるのか。
由夢には、どうすれば良いのか分からなかったのだ。
だからこそ、由夢は彼方を信じて待つしかなかった。
「さて、お待たせしました!」
しかし、無情にも、美少女コンテストは開始されようとしていた。
「これから、手芸部主催の美少――」
そんな時のこと。
「ちょっっと待ったぁぁ!」
普段から聞き慣れた、義兄の声が聞こえてきたのだった。