初音島物語   作:akasuke

18 / 43
さて、GWも近付いてきましたね。
今回は丸々休みは貰えないかなと諦めていましたが、有給もらえそうでゆっくり出来そうです。

なので、予定ない日は土日しか描けなかった小説も投稿したいなと思ってます。
具体的には来週のGW明けまでに5話ほど出せたらと。

まだこの小説を見続けてもらえているかは分かりませんが、見て頂けると幸いです。

それでは、本編をどうぞ。


episode-17「あなたの未来は」

episode-17「あなたの未来は」

 

 

 

 

 

「いま、お茶を用意いたしますので」

 

「いえいえ! そんな、お気遣いなく!」

 

 

何だか落ち着かない。

それが由夢の、今の現状についての感想である。

 

たまたま寄った場所である、胡ノ宮神社。

その場所にいた巫女服の女性――胡ノ宮 環に案内され、由夢は神社の中の一室に居た。

 

 

「こうして神社の中に入るのは初めてです」

 

「ふふ、遠慮せず入ってきてくださっても大丈夫ですよ」

 

初めて入る場所だからというのもあるが、やはり自身と年齢が離れている人と話すのが幾分か由夢にとってみれば緊張してしまうのだった。

 

ただ、緊張と同じくらいに、環に対して興味もあった。

 

 

「あの、お爺ちゃんとお婆ちゃんの、昔からのお知り合いなんですよね?」

 

「はい、純一様と音夢様とは学生の頃からのお付き合いとなります」

 

祖母と祖父の同年代の友人。

さくら以外では二人の昔について話したこともあまりなかった為、何だか新鮮に感じるものがあったのだ。

 

 

「あの、二人は昔はどういう感じだったんですか?」

 

「そうですね……音夢様は学生の頃は風紀委員を努めており、成績も優秀で真面目で優しく、皆さんに慕われておりました」

 

「あ、分かる気がします」

 

今は海外で暮らしている音夢だが、たまに初音島に戻ってきて由夢や音姫に会いに来てくれている。

 

そのときに会う音夢は、優しくもあるが、自身が休みに家でずっと寝ていたりすると注意されたのを思い出す。

 

 

――お婆ちゃんは、昔から変わってないんだなぁ

 

優しく真面目で周りから慕われている。

学生時代の音夢の話を聞いていると、姉の音姫が音夢の血を引いているのだな、と感じた。

 

 

「お爺ちゃんはどうでした? お爺ちゃんは学生時代はやんちゃしてたって言ってましたけど」

 

由夢は純一自身から聞いた話では、学生時代は悪友と馬鹿騒ぎをしており、音夢達に迷惑を掛けていたと言っていた。

 

 

「ふふ、杉並様と純一様で皆様を楽しませようとしておりましたね」

 

「杉並、さんですか……その名字を聞くと、楽しませ方が想像できそうなんですが」

 

環の話を聞いて、由夢は頭の中では今の生徒会と非公式新聞部のやり取りを思い出して、呆れた声を出してしまう。

環は良いように言葉を変えていたが、何となく想像出来てしまったのである。

 

その由夢の表情を見て、環は上品に笑う。

そして、純一の別の面について話し出す。

 

 

「あとはですね、純一様はとても面倒見の良い性格で、周りで困っている方がいると手を差し伸べる方でした 」

 

「そう、なんですか……」

 

わたしも何回も手を差し伸べていただきました。

環は懐かしそうに、そして嬉しそうに話す。

 

由夢は、純一自身からは、昔から面倒臭がりであり、料理以外は何もかも音夢に任せていたと聞いていた。

しかし、それは本人だからこその評価であり、他の人の視点では違かったのだろう。

 

そういえば、と。

環の話を聞き、以前にさくらに純一のことを言っていた内容について思い出した。

 

 

『お兄ちゃんの「かったるい」は照れ隠しなんだよね』

 

『照れ隠し、ですか?』

 

さくらの言葉に由夢が聞き返すと、うんっ、と嬉しそうに頷きながら続きを話す。

 

 

『そう、照れ隠し。 だからね、口では「かったるい」と言いながらも周りが困ってたらほっとけなくて助けてたんだ』

 

だから、みんなお兄ちゃんのことが大好きだったんだと満面の笑みを浮かべながら話していたのが印象に残っていた。

 

 

「お爺ちゃんは、凄かったんですね」

 

私とは違うんだな、と由夢は思った。

 

由夢も純一と同じように、『かったるい』という言葉を家族の前では使っていた。

口癖というよりは、純一の口癖を真似して使うようになったという方が正しいだろうか。

 

 

――ほんとに、わたしとは違う……

 

しかし、純一とは違い、由夢は『かったるい』という言葉を逃げとして使っていたのである。

 

姉の音姫は成績優秀であり、炊事洗濯などの家事も卒なくこなすことが出来る。

自分は姉の様に何でも上手く行うことができない。

 

だから、『かったるい』という言葉を使った。

 

かったるいと言えば、誰にも期待されないから。

かったるいと言えば、頑張ってる様には見えないから。

 

由夢は、周りと自身に対して言い訳をする為に、逃げる為に使っていた。

 

 

――そして、今も、わたしは逃げてる

 

彼方から。

自身が視る予知夢から。

 

行動することが怖くて。

真実を知るのが怖くて。

 

だけど、何よりも、そんな自分が――

 

 

 

 

 

 

「昔、予知能力を持つ、ひとりの女性がいました」

 

「……えっ」

 

突然話を切り出してきた環にも驚いたが、何よりも内容に胸がドキッとした。

しかし、そんな由夢も意に介さず、話を続ける。

 

 

「その女性は、純一様と音夢様が結ばれる未来は視えてなかったそうです」

 

だけど、純一と音夢は結ばれた。

それを見て、予知能力を持つ少女は悟ったのだと環は言う。

 

予知能力で視た未来は、あくまで可能性の1つでしかないのだということを。

そして、人の意志、強い想いこそが幸せな未来を切り開くのだということを。

 

 

「知ったからこそ、その女性は後悔したそうです」

 

「後悔、ですか?」

 

「えぇ、自分が視た予知など考えず、自身がやりたいことをすべきだったのだということを」

 

未来を視て何もせずに諦めてしまったことが辛かった。

後悔しないように、自分の想いを、やりたいことをやるべきだったのだということを。

 

 

「……なんで、それをわたしに言ったんですか?」

 

「さぁ、何故でしょうか」

 

あえて言うなら、いまの貴女に必要だと思えたからですと。

環は由夢に返答してから、最後に問い掛けた。

 

 

 

 

――貴女がやりたいことは何ですか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『わたしは、好きな人の助手として、自分自身も一歩踏み出そうとしていたのを忘れていました』

 

好きな人、という部分で照れながらも、環の瞳を真っ直ぐ見つめて伝えてきた。

 

 

『まだ不安もありますし、胸が苦しいのは変わりません

……けど、後悔だけはしないようにしないと』

 

後悔しないように、というのは彼の象徴でもあり、口癖でもあった。

助手として、同じく後悔しないように行動したいのだと由夢は言った。

 

 

『「かったるい」ですけど、頑張ってきます! また今度、神社に来るので改めてお話させてください』

 

ありがとうございました、と。

お礼を言ってから走り去る由夢の後ろ姿を見ながら、環は自身の役目は果たせたことに安堵する。

 

 

「やはり、音夢様や純一様の血を継いでいるのですね」

 

真っ直ぐな性格であり、何よりも意志が強い。

そんなふたりの面影を由夢に感じた環は、嬉しくもあり、懐かしくもあった。

 

あの彼女の強い想いがあれば、きっと叶うだろうと環は思った。

 

それに、環は由夢を通して未来の可能性のひとつを視たのだ。

 

 

 

 

 

「あなたの未来は、とても幸せそうでしたよ」

 

 

 

 

 

ふと、由夢が途中で聞いてきた話を思い出す。

その予知能力を持つ女性は今は幸せですか、と。

 

 

「ふふ、幸せですよ」

 

好きな人と結ばれはしなかったが、好きな人が幸せそうな表情を浮かべているのを見て、嬉しく感じたのを覚えている。

それに、友人にも恵まれ、仕事もやり甲斐があり、彼女は十分に幸せだった。

 

しかし、今回のことで昔のことを久しぶりに思い出す。

 

 

『あなた達は深い絆で結ばれている』

 

母が昔に環に告げた言葉。

何か見えていたのかもしれない。

きっと、未来の内の1つではあった筈だ。

 

 

――わたしも行動すれば変わっていたのでしょうか

 

環はかつての過去に想いを馳せたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻も六時を超えたこともあり、彼方は第二執筆室から自宅へ帰宅しようとした矢先のこと。

 

 

「かな…彼方先輩っ!」

 

扉が急に開かれ、彼方が視線を向けた先には由夢の姿があった。

走ってきたのだろうか、胸を抑えて、息を整えようとしていた。

 

その由夢の姿をみて、彼方は目を丸くしつつも、嬉しいという気持ちを感じた。

 

 

「由夢さん、そんなに慌ててどうし――」

 

「最近これなくて、ごめんなさいっ!」

 

質問しようとした彼方であったが、それより先に由夢は泣きそうな表情で謝ってきたのだ。

その表情に驚き、慌てた様子で彼方は語りかける。

 

 

「そんな、そこまで謝ることではないですよ……由夢さんにもやりたいことがあるでしょうし」

 

「ないです!」

 

助手以上にやりたいことはないです、と由夢は言葉をすぐに返した。

 

 

「わたし、今日までの三日間、なんで手伝ってないで街を歩いて……いったい何してるんだろって後悔ばかりしてました」

 

放課後のこと。

第二執筆室に行く勇気は持てなくて。

でも、友人と遊ぶ気も起きなかったし、他にやりたいことが思いつかなかった。

 

 

「それに、わたしっ、家でジャージで布団の上でぐーたらするのが好きだったのに、それも嬉しく感じなかったんです!」

 

「えっ、えっと、由夢さん、とりあえず落ち着いて」

 

「落ち着けないです!」

 

自分が何を言っているのか気付いてないのか、隠したい筈のことをカミングアウトする由夢に彼方は止めようとしても、落ち着く様子を見せない。

 

泣きそうで、そして不安そうな表情で話す由夢に、彼方も何も言えなくなってしまう。

 

 

「だから、ここに来ました!」

 

彼方と対面して、胸が苦しくなるのを感じる。

どうしようもなく、不安な気持ちになるのを感じるのだ。

 

それでも。

 

 

「このままじゃいけないって分かったから!」

 

彼方が言うように、後悔したくないから。

だからこそ、不安な気持ちを抑え、自分の思いをそのまま言葉に出した。

 

 

「わたしのこと、知ってほしいです!」

 

予知夢のこと。

それによって悩んでるのを、自分ひとりで抱え込むだけでなく、知って欲しいと思った。

 

 

「だから……」

 

魔法の桜への願いを伝えた杏達のように。

自分の秘密も知ってほしくて。

 

 

「だからっ!」

 

もう少し、距離を縮めたくて。

一歩踏み出したくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしの秘密、きいてくれますか?」

 




D.C.シリーズでは、桜の願いだけでなく、親から引き継いで能力をもつキャラクターが複数おります。
それぞれが苦しみがあり、葛藤があり、それを救う主人公達を見るのは嬉しくなります。

朝倉純一、桜内義之、葛木清隆。
それぞれの主人公が違う漢気を見せてヒロインを救うシーンは泣ける部分が多く、シナリオ回想でそのシーンだけを見てしまうことが割りとあります。

本作の主人公は原作の主人公とは違った形でキャラクター達を救えると良いな、と考えています。

また見ていただければ幸いです。

p.s.
小説を更新する際は、活動報告やTwitterにも更新連絡をしようと思います。
以上となります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。