初音島物語   作:akasuke

14 / 43
D.C.シリーズの中で「ことり Love Ex P」という作品があります。
これは、D.C.のキャラである白河ことりと付き合う前から、恋人、結婚までのシナリオが1つにまとまった作品です。

もともとはD.C.やD.C.IIのアニメやゲームの通り、朝倉純一と音夢が結ばれるのが正史となります。

しかし、白河ことりは人気が高く、ファンからの「ことり正ヒロイン」という要望が絶えなかったそうです。
そこから、ことりヒロインのゲームが発売されることになりました。

ファンの想いが、願いが叶ったということですよね。
何だかそれがD.C.らしさを表してて、わたしは嬉しくなったのを覚えています。

それでは、本編をどうぞ。


episode-13「ふたりの歌姫」

「ここら辺のはず、なんだけど……」

 

ななかは紙に書かれた住所と地図を見比べながらつぶやいた。

 

 

午後。

学校では昼休みが終わり、既に授業が始まっている頃。

ななかは学校ではなく、別の場所にいた。

 

それは、とある住宅地の一角。

 

渡された紙には、ななかが会うべき人物の住む場所が記載されていた。

その情報を頼りに、ななかはここまで来たのだ。

 

この紙をみて脳裏に蘇るのは、渡してきた彼のこと。

 

 

――初音くん……

 

昼休みに小恋に彼方を紹介してもらった際、彼の心をななかは読んだ。

いや、読ませてもらった、と言うべきだろうか。

 

彼方の表情や言葉から、自身の能力が知られている予感はしていた。

だが、実際に読めた心は、ななかが想像していた以上のものがあったのだ。

 

 

――初音くんは、知ってた

 

彼方を通して伝わってきたのは、彼方の過去や、ななかの能力について。

 

彼方が魔法の桜に願ったときのこと。

かつて願った人物から、魔法がいずれ解けるのだと告げられたこと。

自分ができることを精一杯頑張っていたこと。

 

そして、同じように魔法の桜に願った人達に、後悔しないようにと必死に伝えていたこと。

 

ななかにも後悔しないで欲しいと。

直接心に伝わってきたのである。

 

 

もう一つは、ななかの能力のこと。

魔法の桜に願ったことにより備わった、読心能力。

 

彼方から伝わってきたのは、彼女の能力による恐れや嫌悪感ではなく、心配。

 

 

――心配してくれてた、わたしのこと

 

強い想いがなければ曖昧な感情しか浮かばない筈なのに。

小恋の心を読んだときと同じように、伝わってきたのだ。

 

読心能力は辛くないだろうか。

相手のいやな部分ばかり見えてないだろうか。

ひとりで苦しみを抱え込んでいないだろうか。

 

彼方が何故ななかの能力を知っているのかは靄がかかっていて読み取れなかったが、能力について純粋に心配しているのだと感じることができた。

 

それは、ななかにとって心が暖かくなる嬉しさがあった。

 

そして、最後に彼方から伝わってきたこと。

 

彼方自身の過去、ななかの能力、そして――

 

 

 

「ここ、だよね?」

 

立ち止まった先には、白い外観の一軒家。

ななかと同じ名字の『白河』という表札があることから、此処に目的の人物がいることと推測される。

 

 

――わたしの親戚、なんだよね

 

白河という姓、彼方から読み取った心から、ななかの親戚であることが分かった。

だからこそ、ななかにとっては驚きは大きかった。

 

そして、チャイムを押そうとして。

ななかの手が止まる。

 

 

――いきなり来て、なんて言えばいいんだろう…

 

会わなければという思いに押されてここまで来た。

しかし、ななかはもともと人見知りであり、更に臆病な性格だ。

親戚とはいえ、初対面の人物に会うとなると、急に弱腰になってしまう。

 

そもそも、居ないかもしれない。

それに、居てもいきなり来たら困るよね。

初音くんに住所と一緒に電話番号ももらってたのに、連絡してない。

それに――

 

目的を目の前にして、自分の中でマイナスな気持ちがどんどん浮かび上がってしまう。

 

それでも、会わなければ。

 

自分の中で気持ちが葛藤していたとき。

 

 

ガチャリと。

目の前の家の扉が開いた。

 

 

そこに現れたのは、妙齢の赤い髪の女性であった。

 

 

「あ、あの、その……わたしっ!」

 

突然のことで頭が真っ白になりながらも何か言おうとするななか。

そんな彼女をみた女性は、ななかに対して笑みを浮かべながら話し掛けた。

 

 

「貴女が、ななかちゃんかな?」

 

「えっ…は、はい! あれ、でも、なんで……?」

 

名前を言われて疑問に思うななかに、女性は笑いながら答えた。

彼方くんから先程電話があったのだ、と。

 

 

――よ、よかったー……

 

慌てて出て行った自分をみて、彼方が気を利かせて

連絡を取っておいてくれたのだろう。

心の中で彼方に感謝を述べるななか。

 

 

「ふふ、詳しい話は中でしましょう」

 

ほっとした表情を浮かべるななかを見ながら、赤い髪の女性は、自身の家へと誘う。

お礼を述べて着いてくるななかに、女性はそういえばと、思い出したかのように話し掛ける。

 

そして、自己紹介しないとね、と言葉を付け足してから振り返った。

 

 

 

 

 

 

「ちわっす、わたしは白河ことりです……なんちゃって」

 

悪戯げな笑みを浮かべながら、彼女は言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-13「ふたりの歌姫」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅茶でいいかな?」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

どこか落ち着きの無いななかに、笑いかけながら紅茶を差し出す。

どこか借りてきた猫のような様子に、懐かしさを感じてしまうことり。

 

 

「昔と同じで恥ずかしがりやなのかな、ななかちゃんは」

 

「え、えっと、会ったこと…ありましたっけ?」

 

初対面ではないように話すことりに、ななかは疑問を浮かべる。

ななかにとっては記憶になかったが、ことりとしては一度あったことがあったのだ。

 

 

「あはは、ななかちゃんにね一回だけ会ったことあるんだよ?」

 

「え、ほんとですか! あれ、でも、わたし……」

 

会った記憶が思い出せないことに申し訳なさそうな表情を浮かべるななかに、ことりは仕方ないよと告げる。

 

実際、彼女が会ったのは親戚の集まりで一度だけ。

しかも、まだななかが五歳にも満たないときのことだ。

それを覚えている方が難しいだろう。

 

ことりは昔会ったときのななかを思い出す。

まだ幼かった彼女であったが、今と同じように、いや、それ以上に恥ずかしがりやであり、母親に隠れるようにしていた。

 

そんな幼い彼女をみて、ことりは思ったのだ。

過去の自分に似てる、と。

 

その、昔の自分に似ていた彼女が、こうして今はここにいる。

それならば、自身のことを教えることが彼女の為になるのだと、漠然と感じた。

 

 

『わたしは、自分と同じような人が後悔しないように、助けてあげたいです』

 

昔、友人から紹介されて知り合った男の子。

会ったときはまだ小学生だったのに、自分より他人を心配していた優しい子だった。

 

その男の子が自分にななかを紹介したということは――

 

 

「ななかちゃんは、わたしの叶った願いについて知りたいってことでいいのかな?」

 

「え、あの! その…は、はい」

 

ななかからは切り出し辛かったのだろう。

ことりから言われて慌ててはいたが、戸惑いながらもしっかりと頷いていた。

 

 

「うん、それじゃあ話そうかな」

 

魔法の桜に願ったときのことを、と。

彼女は、目を瞑り、懐かしいと思いながら過去のことを話し始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

似ている、と。

ななかはことりの過去の話を聞きながら思った。

わたしとことりさんは似ていると。

 

 

ことりが話し始めたのは、小学生の頃のこと。

小さい頃の彼女は、内気な性格で、人と上手くお話することが出来なかった。

そのせいか、友達は居なく、周りからは暗いやつだと言われていた。

 

そんな彼女は、周りの人と仲良くなりたくて。

 

もっと周りの人のことを知りたい。

そして、周りの人から好かれたいと願った。

 

そう桜に願った結果、

彼女は人の心が読めるようになった。

 

 

「みんなの心を読み取って行動していったらね、沢山の人と仲良くなれたんだ」

 

色んな人と仲良くなり、周りからも明るくて付き合いやすいと言われるようになったのだと。

 

昔の自分とは決別し、新しい人生を送れていると感じた。

 

しかし、問題はあった。

彼女の読心の能力はオンオフが効かず、常に周りの心の声が聞こえてしまう。

 

自分に話し掛けてくる人の言葉とは真逆の想い。

嫌う人の心の声が否応なく聞こえてしまうのは辛かった。

 

それだけではなく、

ことりが周りから人気者になり、学園のアイドルと言われ、一目置かれる存在となった。

 

 

「学園のアイドルとして見られることがね、辛かったんた」

 

学園のアイドル。

クラスメイトや初めて会う人にまでアイドルとしてのフィルターを通して見られるのが、彼女には悲しく、辛いことであった。

 

 

本当の自分は必要ないのだと言われている気がして。

 

 

悲しそうな表情を浮かべて話すことりに、ななかの胸の奥が苦しくなるように感じた。

 

 

――わたしとは別の苦しみを感じてたんだ。

 

周りから好かれたいと願ったことり。

周りから嫌われたくないと願ったななか。

 

願ったことで得た能力は似ていたが、ことりとななかで別々の苦しみがあった。

いや、常に周りの気持ちが伝わる方が辛いことは多かっただろうと、ななかは思う。

 

 

「でもね、悪いことだけじゃなかったんだ」

 

学園付属3年生の頃。

ことりは、とある同学年の男の子と出逢った。

その男の子は周囲とは異なり、分け隔てなく接してくれたのだ。

 

それがことりには凄く嬉しかったのだ。

 

 

「その男の子の周りにはね、惹かれるように色んな人達がいたんだ」

 

笑顔が絶えない元気なツインテール少女。

強気な女の子と、おっとりとした女の子の姉妹。

周りに気を配る優しい男装の女の子。

問題を起こして周りを騒がす男の子。

そして、その男の子には意地っ張りな部分を見せる妹。

 

特徴的な人たちに常に囲まれていたのだ。

 

彼だけでなく、周りの人たちも同じように、等身大の自分と接してくれていた。

 

それが心地よくて、幸せだと感じていた。

 

 

その頃に、ある事件が起こった。

 

 

「枯れない桜がね……枯れちゃったんだ」

 

自分が生まれた頃から常に咲いていた桜。

その桜が予兆もなく、突然枯れたのだ。

 

そのとき、ことりは言い知れぬ不安を感じた。

 

 

――桜が、枯れると……

 

枯れない桜―魔法の桜が枯れた結果、何が起こったのか。

彼方が書いた記事が頭に浮かび、口を震わせながら、ななかは言葉に出した。

 

 

「願いが、解けたんですか?」

 

「うん、わたしの心を読む力がね、なくなっちゃったんだ」

 

頷いて話すことりに、ななかは自分のことではないにも関わらず、目の前が真っ暗になるように感じた。

いや、自身の願いが解ける可能性があるのだと、本当の意味で知ったのだ。

 

 

「その、怖くなかったんですか?」

 

「もちろん、急に読めなくなって……凄く怖くなった」

 

自分の半身がなくなったように、ことりは感じた。

 

心が読めないのが怖くて。

相手の気持ちが分からないのが辛くて。

 

それで怯えてしまい、一時期は学校に行けずに休んでしまう日々が続いた。

 

 

「そんな自分をね、心配してくれる人たちが居たんだ」

 

佐伯加奈子と森川知子。

ことりの親友であるふたりが、家まで心配して観に来てくれていた。

大切な友達だったが、心が読めないことが不安になってしまい、会わずに追い返してしまった。

 

それなのに。

 

 

「何度も、何度もお見舞いに来てくれたんだ」

 

自分が拒否して会わなかったのに。

そんな自分を心配して、毎日ふたりは来てくれていた。

会えずに追い返しても、何度も、何回も。

 

カーテンから窓の外を覗くと、そこには心配げに自身の部屋をみつめる、みっくんとともちゃんの姿が。

 

ことりが見ていることに気付いたふたりが、下から大声で話し掛けてきたのを覚えている。

 

 

『わたしたち、待ってるから!』

 

『ことりがいないと落ち着かないの!』

 

その言葉が。表情が。

心がもう読めない筈なのに、自分の中に伝わってくるものがあったのだ。

 

どうしようもなく

胸の中が暖かくなり、

嬉しくなり、

溢れ出てくる涙をおさえることが出来なかった。

 

そして気付いたのだ。

 

 

「きっと、心が読めなくても、言葉や表情とか、それ以外でも、心に伝わるものがあるって」

 

心を読んだことがあるからこそ、心の内と言葉で違う人を何人も見てしまった。

だが、逆に心と言葉が一致する人たちも何度も見てきたのだ。

 

大事な親友である、みっくんとともちゃん。

 

それに――

 

 

「言葉じゃなくて、行動で伝えてくれる人もいたんだ」

 

かったるいが口癖な男の子。

面倒だと口では言うくせに、何度も家に心配して観に来てくれていた。

家に帰る途中だからと言っていたが、家が真逆だったことをことりは知っていた。

誰かが困っていたら放っておけない彼。

そんな彼だからこそ、ことりは大好きだった。

 

 

「そのおかげでね、能力がなくなっても、頑張って生きていこうって思えたの」

 

もう心は読むことができない。

それでも、言葉や行動で心に伝えることが出来るのだと、彼女は親友や好きな男の子から教わった。

 

だからこそ、彼女はその心に伝わってきたものを信じて、今まで幸せな人生を謳歌できたのだと。

 

ことりは、ななかに満面の笑みを浮かべて言った。

 

 

そんなことりの言葉や表情を見て、色んな感情が混ざり合い、気持ちがごちゃごちゃになるのを、ななかは感じた。

 

その戸惑った様子のななかに近付き、彼女の手を包み込むように両手で握った。

そして、ななかの目をしっかりと見つめ、ことりは伝えた。

 

 

「あなたにも、いる筈だよ」

 

――あなたを大切に想ってくれる人達が。

 

ことりの声と心から伝わってきた言葉。

その言葉を聞いた瞬間、ななかの中に浮かび上がるものがあった。

 

 

『あんま、無理すんなよ』

 

軽音楽部で見せた、渉の気遣う言葉を。

 

 

『ななか、だいすきっ!』

 

抱きつき、溢れんばかりの笑顔を見せる小恋を。

 

 

そして。

 

 

――そうだね、そうだったんだね、初音くん。

 

 

『わたしの伝えたいことは、握手してくださればわかります』

 

彼方からの、歩み寄ろうとしてくれた行動を。

 

 

それらが信じられるものなのだと。

大切な言葉や行動だったのだと、ななかは気付いた。

 

 

「…っ、はい…わたしにも。 わたしにもっ…いてくれました……っ」

 

ぽろぽろと溢れてしまう涙。

でも、それでも。

そんなことが気にならないくらい、胸の中が暖かくて。

 

嬉しそうに泣くななかを、ことりは幸せそうに見てから、優しく抱きしめた。

そして、泣く彼女に言葉を掛ける。

 

 

「大丈夫。 きっと、信じることができたら、大丈夫だよ」

 

――たとえ、願いが解けてしまったとしても。

 

ななかは久方ぶりに大声で泣いた。

でも、そこから感じられるのは、嬉しいという気持ちで。

 

不安や苦しみは、涙と一緒に出てしまうように感じられた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「その、ありがとうございました」

 

「ふふ、わたしも会えて嬉しかったよ」

 

目を腫らしたななかの感謝に、ことりは嬉しそうに言葉を返した。

 

あの後、ななかはことりに自分の過去や願いのことを全て伝えた。

それを受け止め、ことりは似た能力を持つななかに出来る限りの助言をしたのだった。

 

それ以降も色々と二人で話をしていたのだが、時間も遅いということで帰ることとなったのだ。

 

ななかは、玄関で見送ってくれていることりに、自分の決意を伝えた。

 

 

「わたし、この能力を使わないで頑張ってみようと思います」

 

まだ少し不安はあるけれど。

それでも頑張ってみようと思うことが出来たのだ。

 

その言葉を聞いて、ことりは嬉しそうに頷いた。

そして、頑張ってと、ななかを応援したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ、ことりさん」

 

そういえば、と。

ななかはひとつだけ、帰る前に気になっていた疑問をことりにぶつけた。

 

 

「あの、結婚をしようとは思わなかったんですか?」

 

先程、リビングに飾られていた写真には、昔のことりが写っていた。

同性である自分でさえ可愛いと思う女の子。

そんな彼女がいままで結婚してなかったのに驚き、つい聞いてしまったのだ。

 

その問いに、ことりは考えるようにしながらも話す。

 

 

「何人かから真剣に言われたことはあったけど」

 

結局は断っちゃった、と彼女は言った。

妙に気になって、ななかは何故かとことりに問い掛ける。

 

ことりは目を瞑り、大事なものを思い浮かべるようにしながら伝えた。

 

 

 

 

――初恋の人以上に想える人が居なかったからかな、と。

 




実を言うと、白河ことりの願いのきっかけは私自身で考えたものです。
ファンDISCの中で、その話が描かれたエピソードがあるとのことなので、気になる方は是非とも実際にプレイしてみてください。

友達に連れられ、今日はアニメジャパンというイベントに行きました。
色んなアニメをみて楽しんではいたのですが、D.C.を無意識で探してしまうのは仕方ないのかなと諦めてます。

それでは、また次回に。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。