初音島物語   作:akasuke

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D.C.作品の無印、II、IIIの中でIIが1番友情を感じられる作品かな、と思います。

雪月花、悪友三馬鹿。
どちらも違った形ですが、どちらも羨ましいと思う絆です。

愛も友情も感じられる作品は、やっぱり良いですね。

では、本編をどうぞ。


episode-10「雪月花」

「急にどうしたんだ?」

 

授業後の休み時間のときのこと。

近い内に泊まりに来て、と杏が義之たちに発した言葉に、義之が目を丸くして尋ねた。

 

 

「どうって言われても、そのままの意味だけど?」

 

おかしいかしら、と。

逆に不思議そうに見られたことで混乱する義之。

杏としては意図的に言ったのであるが。

 

 

「杏が今まで自宅に誘ってくれたの初めてじゃん!」

 

そんな杏に今度話し掛けたのは、小恋である。

小恋も杏と仲良くなってから時間が経つが、一回も行ったことがない。

 

だからこそ、杏の誘いに驚いたのだ。

小恋の驚いた表情を見つつ、返事を行う。

 

 

「レトルト食品とか、期限が近いのが多いのよ」

 

ひとりで食べ切るのは難しいから消費して欲しいのよ、と話す杏。

実際、ひとりで暮らす杏の食事量では、買った食品を全部使い切るのに時間が掛かる。

食料の賞味期限が切れそうになり、食べ切れないので弁当に詰めて義之たちに食べさせることも何回かあったのである。

 

食べてもらうついでに、家にも呼びたいだけ。

そう語る杏に納得するように、なるほどと、義之や小恋も頷く。

 

しかし、その説明で納得せず、心配そうに見つめる存在がいた。茜である。

 

 

「杏ちゃん、ほんとにいいの?」

 

ええ、是非来てほしいと頷く杏に、茜は嬉しそうな表情を見せるのだった。

 

 

「それじゃあ、明日なんてどうかなぁ? 」

 

土曜日だから泊まりやすいし、と。

そう提案する茜に、大丈夫よと伝える杏。

わたしも大丈夫ー!俺も俺もー!と、小恋を皮切りに全員が了承するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-10「雪月花」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜。

 

杏は、家の中で騒ぐ義之たちを置いて、ひとり外に抜け出した。

 

 

「はぁ、何でかしら」

 

杏は自分自身に対して問いかけた。

なんで、今まで自宅に友達を誘わなかったんだろうか、と。

 

今日はじめて義之たちを家に招待した。

杏や茜、小恋で夕飯をつくり、義之や渉、杉並が美味しそうに食べる。

 

各自で持ってきたお菓子やジュースを食べ飲みしながら、皆でわいわい騒ぎながら話す。

 

凄く楽しくて。

嬉しくて。

幸せで。

 

今日家で起こった出来事すべてが、すごく、凄く。

 

だからこそ、今まで家に連れて来なかったことを後悔した。

 

 

――せっかくお婆ちゃんが残してくれた、大事な家だったのにね

 

残してくれた大切なものを有効に使わなかったことを悔やむ。

そして、ふと、彼方の言葉を思い出す。

 

 

『想い出を、増やせばいいんですよ』

 

彼方が言ったアドバイス。

普通の人からすれば当たり前の話である。

 

杏は願いが解けたら、他の人よりも記憶が忘れやすくなるのかもしれない。

しかし、みんなが大小はあれど、昔の記憶は薄れていってしまうのだ。

 

それにより、友達と疎遠になってしまうと不安になることはあるだろう。

 

 

『でも、だからこそ、作っていくんです』

 

後悔しないように。

友達との大事な想い出をどんどん作っていけば良いのだ。

 

たとえ、過去の記憶が抜けていくのだとしても。

新しく出来た想い出が更新される。

それを続けていけば、友情が、絆が切れることはないんだから、と。

 

 

――そうね、ほんとに、本当に、そうだった

 

彼方の言うことを実感する杏だった。

そんなとき。

 

 

「杏ちゃん」

 

「杏」

 

「あっ……茜、小恋」

 

杏が振り返ると、そこには心配そうにこちらを見つめる茜と小恋の姿があった。

 

二人は、杏の両隣に立つ。

暫く三人とも話さず、辺りが静寂に包まれる。

 

 

「実はね、心配だったの」

 

その静寂を破ったのは、茜だった。

杏が茜を見ると、少し寂しそうな表情を浮かべる茜の姿があった。

 

 

「今まで一回も家に来たことなかったでしょ、だからね」

 

親友だと思ってたのは自分だけだったのかなって思ったの、と茜は告げた。

 

茜は今まで杏の自宅に行ったことがなかった。

だからこそ、自分と杏はほんとに親友なのか、そう思っているのが自分だけなのかと、不安になったのだ。

 

 

「そんなこと、そんなことない!」

 

寂しそうな表情の茜に、杏は真正面に見つめて、自分の本音を話す。

杏にとって茜と小恋は大切な親友で、二人といる時間はどれも閉じ込めておきたい、大切な記憶だ。

 

だから、勘違いしないで欲しい。

知っていて欲しい。

 

そう思いながら、杏は二人に伝える。

 

 

「わたしは、小恋と茜が大好き。 大切な、親友よ」

 

あんずっ、と小恋は泣きながら杏に抱きつく。

その後に小恋と杏の二人に抱きついた茜は、涙を流しながらも、嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

小恋は、泣きながら茜と杏に言葉を発した。

 

 

「うん、うんっ! ……だって私たちは、わたしたちは」

 

 

――雪月花だもんね、と。

 

いつも三人で一緒に居るからと、それぞれの頭文字を取り、周りから一括で言われる言葉だ。

 

その呼び方が、三人とも何だか嬉しくて、好きだった。

三人の絆が、周りからも認められている気がして。

 

杏はそんな大切な親友たちを見て、ひとつ決意した。

自分の過去、願い、すべてを知って欲しい、と。

 

 

 

 

「あのね、わたしね―――」

 

 

 

 

その日、杏と茜、小恋は朝まで語り合った。

それぞれの想いを打ち明けて。

 

この日以降。

雪月花の三人、いや四人は更に絆が強く結ばれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「まったく、主賓たちに置いていかれちゃったな」

 

雪月花の三人が話しているのを影で見ながら、

苦笑した義之は、渉と杉並の二人に話し掛けた。

 

 

「あはは、まぁ仕方ないんじゃねーの?」

 

「雪月花の絆には、我々は勝てんだろうしな」

 

渉は嬉しそうに笑い、杉並はやれやれと肩をすくめた。

そんな二人も義之も互いに顔を見合わせ、笑い合った。

 

杏と茜と小恋の笑顔を見ていたら、間に入ろうという気持ちは抱かなかったのだ。

 

杏が突然家に招待してきた時は何事かと思ったが、杏宅で皆で一緒にいた際の嬉しそうな表情をみて、来て良かったと思った。

 

 

「男たちで寂しく食べ飲みしてるか」

 

「はぁー、華がないのは悲しいぜ」

 

「フハハハッ、朝まで語り合おうじゃないか!」

 

もう一度、雪月花の様子を見てから、三人は杏宅に戻るのであった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

これは義之たちが杏宅に宿泊している日のこと。

土曜日であるにも関わらず、彼方と由夢は「非公式新聞部 第二執筆室」にいた。

 

 

「そういえば、今日雪村先輩の家に皆でお泊りするらしいですよ?」

 

昨日兄さんが言ってました、と。

由夢は書類を整理しながら、思い出したように彼方に話す。

それを聞き、本を読んでいた彼方は顔を上げた。

 

 

「そうですか。 さっそく、みなさんで想い出作りしてるんですね」

 

よかったと、嬉しそうに話す彼方。

そんな彼方を見ながら、同じように由夢も喜びの表情を浮かべる。

 

そして、由夢は自分の内に感じていたものを伝えたくて、彼方に話す。

 

 

「わたし、杏先輩の感謝が凄く嬉しかったんです」

 

由夢は、杏が執筆室に来たときの帰り際を思い出す。

 

 

『貴方たちと話して自分の気持ちを理解できた。 だから――』

 

ありがとう、と。

こちらに感謝する杏の顔は、本当に嬉しそうで。

同性の由夢でさえも綺麗と感じるくらいの、素晴らしい笑顔だった。

 

由夢は、自身の予知夢で見る不幸な場面を救うことが出来たことは一度もない。

だけど、そんな自分でも誰かを助ける手伝いが出来たことが嬉しかったのだ。

 

 

「あぁ、そうなんだ」

 

由夢は自分のこの気持ちを感じ、ひとつ思うことがあった。

 

もしも。

もしも、魔法の桜に意思があるのならば。

 

 

「きっと、魔法の桜も、誰かが喜んでくれるのが嬉しくて、願いを叶えてるんだろうなぁ」

 

思わず自分の考えをつぶやく由夢。

そのあとに、笑い声が聞こえて振り向くと、彼方が控えめに笑っている姿を見つけた。

 

 

「なっ、わ、笑うことないじゃないですか!」

 

急に恥ずかしくなってしまい、由夢は笑う彼方に怒ったように言葉を投げる。

 

しかし、彼方は違うんです、と言いながらも笑うことをやめない。

由夢は、再び言葉を発しようとし、彼方の表情をみて止めた。

 

笑う彼方の表情は、凄く嬉しそうで。

馬鹿にしている訳ではないのだと分かった。

 

 

「えぇ、きっと魔法の桜は、そう思っているはずです」

 

だから、魔法の桜に伝えましょうと、彼方は述べる。

どうか願いと同様に届いて欲しいと思いながら。

 

 

 

――桜さん ありがとう、と。

 

 




こういう風に二次創作を行うのは、今回で二度目になります。
大学生時代、ネギまの作品を書いて、途中で断念しました。

今、D.C.の二次創作を書いていて気付いたのですが、きっとネギまを好きという気持ちが足りなかったんだろうなと思います。

それぞれがどう動くのか、どうなって欲しいのか。
原作が好きで、書きたいという熱量がないと、きっと最後まで書けないんでしょうね。
そうなると、D.C.を書き終わったら、次に同じような熱量で書ける作品はないかも、と思いました。 
いや、1つだけあるんですが、マイナーなので難しいでしょうね。


もう一個、作品を書いて気付いたのは、感想や評価の重要性でしょうか。
4,5年は読み専だったのですが、感想や評価はほとんど書いてなかったです。
ですが、感想や評価がなかったら、作品を書くのももっとゆっくりだったと思います。
本当に、ありがとうございました。

次の話から、新しいキャラを登場させていく予定です。
桜に願った女の子は、他にもいらっしゃいますからね。

また見ていただければ幸いです。

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