そらのおとしもの 人と天使達の非日常   作:龍姫の琴音

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第三十一話残酷な現実

日和が事故に遭った時、家でくつろいでいたニンフが突然立ち上がった

 

「どうしたのニンフ?」

 

「何かありましたかニンフ先輩?」

 

「地上のヒヨリが・・・死んだ・・・。目が覚める(・・・・・)・・・始ま・・・る。全て消される(・・・・)わ」

 

その瞬間、日和に関する記憶が全ての人間から消されていった

 

その影響はシナプスにいる守形の身にも起こっていた。自分の記憶から風音日和に関する情報が次々に消えていき頭を押さえて忘れないように抵抗するが記憶は次々に侵食されていき消されていく

 

「くっ!・・・風音の記憶が、消えていく。一体・・・何が起きているんだ」

 

「姉さん!あそこ」

 

「見つけたぞ人間!」

 

「どけ!」

 

記憶が消える前にあのドームに入るために守形はハーピーの前を強行突破しドームの中に入ると一つのカプセルが空いており翼の生えたシナプス人が起きていた。そのカプセルは風音日和に似たシナプス人が入っていたカプセルだ

 

「守形・・・先輩・・・」

 

「誰だ・・・?」

 

「わ、私です。風音日和です!」

 

「すまないが私にはシナプス人の知り合いはいない」

 

言葉では優しい感じだが守形の目にははっきりとした警戒心が伺えた。それを見て自分に関する全ての記憶が消されたのだと理解した

そしてシュウの記憶にも自分は既に存在していないと

 

「もう一度!あの夢を見せて!」

 

カプセルについているコンソールに何度も打ち込むが返ってくるのはエラーを知らせる音だけだ

 

「同じ夢は二度と見れない。そうお前らが決めた事だろう」

 

ドームの入り口が開きハーピーを連れたシナプスの王が入って来た

 

「お前がシナプスの王」

 

「そうだ。今日は気分がいいから名前を教えてやろう。俺はミーノス。シナプスを統治する王だ。それにしてもお前のさっきの狼狽ぶりは見ものだったぞ」

 

「俺が、狼狽しただと・・・?」

 

「それすらも覚えていないか。まぁ、当然だな。ここのシステムに全て消去されたのだからな」

 

「消去?どういう事だ」

 

「所詮、お前達は我々の手の平の上で踊っているに過ぎんという事だ。今すぐにここを立ち去れば逃がしてやるぞ」

 

「・・・」

 

警戒しながらも守形はドームから出ていくとミーノスはさっき目覚めたばかりのシナプス人に声をかける

 

「お前はもう一度、ヒムラ・シュウに会いたいか」

 

「あ、会えるのですか!?」

 

「あぁ、出来るさ。ただし、お前の全てを差し出す覚悟があればの話だがな」

 

※※※※※

 

風音日和に関する記憶が消された次の日

シュウは違和感を感じていた。いつもに日常、いつもと変わらぬ風景なのに何かが足りない。そう思わずにはいられなかった

 

朝、いつものようにイカロスがシュウを起こし四人で朝食を食べてアストレアは留守番でシュウとイカロス、ニンフの三人で学校に登校する

空はどんよりとし雲が覆っており風が強い

 

「凄い風だな。嵐でも来るのかな」

 

シュウより少し後ろにイカロスとニンフが一緒に歩いている

 

「アルファー、これで良かったのかな。地上のヒヨリがいなくなって記憶が無くなっていなかった事になったけどシュウは今の状況に納得しているのかな」

 

「わからない。でも、マスターは少しイライラししているように感じます。多分、今の状況が分からないんだと、思う」

 

「でも、時間が経てばいつものシュウに戻るわよね」

 

「うん・・・」

 

本当はこのままでいいのか分からない。でも、今までずっと一緒に過ごしていた人が偽物だって知ったらシュウはきっとショックを受ける。そう考えたら例えシュウに嫌われてもこの嘘はつき通さなければならないとイカロスはそう覚悟した

 

学校に登校はしたが時間が経つにつれて風が酷くなり学校側はすぐに生徒を帰宅させるように促し授業は午前中のみで終わった

帰ろうとした時、部長がシュウの下にやってきた

 

「シュウ、今日、お前の家に泊めてくれないか?」

 

「いいですよ、部長の家じゃこの天気だと飛ばされるかもしれませんしね」

 

「すまん」

 

帰宅途中に日和が事故に遭った現場を通ると道路に鈴が付いた髪飾りが落ちているのに気づき拾い上げた

 

チリーン

鈴が鳴るとその音に聞き覚えがあるように思えた

 

「どっかで聞いた事があるような・・・」

 

だが思い出せずにとりあえず髪飾りをポケットにしまい部長と共に帰宅しシュウは自分の部屋に入ろうとドアノブに手をかけるとシュウの隣の部屋に目が留まった

 

「あれ?ここって何の部屋だったっけ?」

 

隣の部屋の扉を開けるとそこには机と本棚、ベッドが置かれており一人が暮らすには十分な部屋がある

本棚には参考書や辞典の他に少女漫画が置かれている

 

「なんだよ・・・この部屋」

 

始めて見たはずなのに見たような気がする。でも思い出せない。何か、大切な事を忘れているはず。絶対に忘れてはいけないはずなのに・・・

 

「くそっ!」

 

思い出せない事にイライラし机を叩くとぽけえっとに入っていた鈴がチリーンと鳴った

その時、シュウの頭の中に記憶が流れ込んできた

それは子供の頃から今までの日和との記憶だ

 

「そう、だ。風音日和だ!」

 

全てを思い出したがすぐに記憶が消えようとし抵抗すると物凄い頭痛がシュウを襲う

 

「くっ!何で・・・今まで、忘れて、いたんだ。絶対に、忘れちゃ・・・いけないのに」

 

頭を押さえながら下に降りてイカロス達の居る居間に入る

 

「イカロス、ニンフ、アストレア」

 

「なんですかマスター?」

 

「どうしたの?頭なんか抑えて」

 

「?」

 

「日和は、どこだ!?」

 

「!!!」

 

シュウの口から日和の名前が出て三人が驚きの表情を浮かべる

 

「その表情からして何か知っているな。記憶が戻ったと思ったらすぐに記憶が消えよとする。こんなのお前らシナプスが関わっているはずだよな。どこだ!?日和が何処に行った!答えろ!」

 

「あ、あのマスター・・・」

 

「駄目よアルファー!」

 

「何を隠しているんだニンフ!」

 

「ヒヨリは・・・地上のヒヨリはもう死んだのよ」

 

「死ん、だ・・・」

 

嘘だと否定したい。だがニンフ達の悲しげな表情を見るとそれが事実なんだとだけどそれを受け入れられない

心に動揺が広がりシュウの中から風音日和の記憶が再び消え始める

 

「ぐあぁぁぁ!」

 

「マスター!」

 

「シュウ」

 

イカロスとニンフがシュウに駆け寄る。シュウは頭を押さえて必死に痛みに耐えている

 

「ニンフ先輩、ハッキングでどうにかならないんですか!?」

 

「無理よ。どっちに味方をしてもシュウが苦しむのが伸びるだけよ」

 

「それじゃあどうすれば・・・」

 

その時、イカロスがシュウの異変に気付いた。ポタ、ポタ・・・とシュウの両耳から流血している

 

「これは・・・まさか!」

 

レーダーを展開すると驚くべき事実が分かった

 

「気圧が・・・急速に下がっている」

 

「それってどういう事ですかイカロス先輩!」

 

「私達は平気だけどマスターのような人間は気圧の急激な低下は命の危険がある」

 

三人が外に出ると外では竜巻がいくつも発生しており異常事態だ

 

「こんな状況は自然界ではあり得ない。考えられるのはシナプスからの攻撃」

 

「まさか気象兵器!」

 

「ニンフ、レーダーで探して私のレーダーじゃジャミングされて上手くいかない!」

 

「わかったわ」

 

レーダーを展開すると竜巻の中心に何かを発見した

 

「見つけた!あの竜巻の中心にエンジェロイドがいる」

 

ニンフが前に飛び出し大きく息を吸い込んだ

 

超々超音波振動子(パラダイス・ソング)

 

「決まった!」

 

竜巻がかき消され中からエンジェロイドが姿を現した

止めをさそうともう一度超々超音波振動子(パラダイス・ソング)を放とうとした時エンジェロイドの姿を見て驚愕した

 

「ヒヨ・・・リ・・・?」

 

そこにいたのは紛れもない風音日和がそこにいた

 


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