そらのおとしもの 人と天使達の非日常   作:龍姫の琴音

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第十二話ありがとう

イカロスと戦闘後ニンフはシナプスに帰還しマスターに今回の事を報告していた

 

「失態だな空の女王(ウラヌス・クイーン)を連れ戻すどころか逆に目覚めさせてしまうとは・・・」

 

β(ベータ)」はもう廃棄していいんじゃないか?地蟲(ダウナー)共は何千年たってもシナプスを見つける事も出来ないようですし電子戦用など必要ないだろう」

 

「お待ちください!次こそは必ず」

 

「そうだな・・・目覚めた空の女王(ウラヌス・クイーン)にお前がかなうはずがないがお前にチャンスをやろう」

 

一枚のカードを取り出し起動させると黒いスライムのようなゲル状な物がニンフの体をよじ登り首輪と合体すると激痛がニンフの体に電流のように走る

 

「さぁ、行け。私達を愉しませろ」

 

「は、はいぃマスター。タイプβ(ベータ)ニンフ出撃します」

 

※※※※※

 

イカロスが初めて感情を表に出した時から数日が経ったある日の事だ

 

「シュウ君、起きて。シュウ君」

 

「イカロス~今日は休みだからもう少し寝かせて・・・」

 

「イカロスさんじゃないよ。それより起きて」

 

確かに声がイカロスではない。目を開けるとそこには日和の顔があった

 

「珍しいな。お前が起こしに来るなんて」

 

「実は、ちょっと見て欲しいの」

 

「何を?」

 

日和に連れられ居間に行くとそこにはイカロスの他にもう一人いた。イカロスとは違い七色の光り輝く透明な羽を持っており綺麗だ。黙々とお菓子を食べながら昼ドラを鑑賞している

 

「あの子、知っている?」

 

「俺は知らないぞ。俺よりイカロスの方が知っているだろう。多分同じシナプスの出身だろう」

 

「どうするの?」

 

「気にしなくていいだろう。とりあえずお客さんの感じで対応すれば大丈夫だから」

 

「うん。じゃあ私は準備に戻るね」

 

「準備?」

 

何の準備か聞く前に日和は台所に引っ込んでしまったのでシュウはとりあえず居間に入るといつもの指定席に座り新聞を広げる

 

「おぉ、今日の夜の映画は見ないとな」

 

「ねぇ・・・」

 

「何かね?」

 

「私の事はスルーなの?」

 

「・・・構って欲しいのか?」

 

「違うわよ!普通、家に知らない奴がいたら警戒するでしょうが!」

 

「ほら、家にはイカロスがいるだろう。イカロスが警戒しないという事はお前を無害だと判断しているからだ。だったら俺が心配する必要はないだろう」

 

「うっ・・・」

 

正論を言われて何も言い返せないでいると家のチャイムが鳴り智樹達のいつものメンバーがやってきた

 

「よぉ、みんな揃って今日は何の用だ?」

 

「シュウ、花見をするぞ」

 

「は?」

 

こうしてシュウが聞かされていない所で花見の話が進みみんなで花見をする事になった

 

今日は空見町の大桜の下でお祭りがおこなわれており沢山ので出店が出ており人が沢山いて賑わっている

 

「シュウ、お前の家にまた未確認生物が来たのか?」

 

「あぁ、朝起きたら居間に居座っていた」

 

「騒動に巻き込まれるなお前」

 

「一日で家を跡形もなく爆発させたお前よりはましだ。こっちは基本的に無害だから」

 

「お、おう。それにしてもあいつら未確認生物への順応が早くないか?」

 

そはら達は既にニンフを真ん中に置いて一緒にご飯を食べている

 

「まぁ、仲良き事は良い事だという事だよ智樹」

 

「そういうもんか?」

 

「そういうもんだ」

 

食後になりニンフはイカロスを連れて皆と少し離れる

 

「ねぇ、いい加減永久追尾空対空弾(アルテミス)捕捉(ロック)解除してくれない。頭の中でアラームが鳴りっぱなしで変になりそうなんだけど」

 

「何しに・・・来たの?」

 

「別に、あんたに対抗できないし下界にちょっと興味が沸いたから観光しに来たのよ。安心してあんたの正体をばらすような事はしないから」

 

「そう」

 

アラームが鳴り止みイカロスが捕捉(ロック)を外したようだ

 

「随分と今のマスターのご執心ね。刷り込み(インプリンティング)のせいというのもあるけど地蟲(ダウナー)なんて見下して踏みつぶす存在じゃない」

 

「マスターの傍で人間を見ていればその考えは変わる。ニンフもきっとわかる」

 

それだけ言ってイカロスは皆の所に戻っていった

 

「考えが変わる?人間達に何を教わるっていうのよ。私はあんたを連れ帰らないと行けないのよ。そのためにもまずはあいつの今のマスターを人質に取る」

 

ステルス機能を発動させニンフの姿が周囲から見えなくなるとみんなから離れて一人でいるシュウの元に近づく

 

(マスターを人質にすれば流石のあいつでもこっちのいう事を聞くはず)

 

そっと背後から近寄りシュウとの距離が縮まっていく

 

(捉えた)

 

「それで隠れたつもりかニンフ」

 

「な!」

 

ステルス機能を解除しシュウから距離を取る

 

「お前、私が見えるのか?」

 

「いや、全く見えなかったよ」

 

「じゃあどうして」

 

「確かに姿は全く見えないし気配も感じない。でも草を踏む足音までは消せないだろう」

 

「!」

 

自分達より下等な存在である人間と侮りそれにより作戦が失敗した。文字通り足元をすくわれたと言う訳だ

 

「まぁ、丁度お前と話してみたかったからちょっと隣に座って話さないか?」

 

「・・・分かったわ」

 

シュウの隣に座りシュウは口を開いた

 

「お前はイカロスを奪還に来たのか?」

 

「えぜ、そうよ。『イカロスを奪還せよ』それが私のマスターからの命令よ」

 

「命令、ね。お前はそんな生き方で楽しいのか?」

 

「楽しい?」

 

「あぁ、半年前はイカロスはいつも俺の命令を待つだけだった。でも暮らしている内に自分で動くようになりいつしか自分のやりたい事をやるようになった。そんな姿を見ていたらただマスターの命令に従っているだけって楽しいのかなって思って」

 

「楽しいも何も私達エンジェロイドはマスターを喜ばせるためだけに作られたのよ」

 

「でも、感情はあるだろう。嬉しければ笑うし悲しければ泣く。感情だってあるんだ。だったらお前らエンジェロイドは自分の意思で物事を決められるんじゃないか?」

 

「・・・じゃあ聞くけど私達がマスターに逆らって自由になってそれからどうするのよ?私達は命令される事が存在意義なのよ。自由なんて逆に生きていけないわ」

 

「・・・そうか。少し、お前達の事が分かったよ。ありがとなニンフ」

 

「え?」

 

お礼を言われて驚きの顔を浮かべる

 

「なんだよ。俺がお前に質問してそれにお前が答えてくれたんだから礼を言うのは当たり前だろう」

 

「あ、そう」

 

シュウは立ち上がりみんなの元に戻るとニンフは胸の中にある感情に戸惑っていた

 

(ありがとうは私が言う言葉じゃなかった?)

 

シナプスではマスターの命令は絶対。だからどんな理不尽な命令でも遂行しなければならない

私は電子戦用エンジェロイドのため戦闘力は低い。それに加え地上の人間はシナプスに攻めてくる事もないので電子戦用の私には何もすることがなかった

だからマスターからは毎日のように役立たずと罵られてきた

 

ある日、シナプスに地上の鳥が迷い込んできたことがあった。その時、私はその鳥を飼っていたがある日、マスターの命令でその鳥を自分の手で引き千切り殺したこともあった。やらなければ廃棄される。私は廃棄が怖くて鳥を殺した

その時でも私はマスターにありがとうございますというしかなかった

 

「お~いニンフ!」

 

突然名前を呼ばれ現実に戻るとシュウがイカロスを連れてやってきた

 

「何よ。まだ何か用があるの?」

 

「いいや、さっきの質問に答えてくれたお礼だ。ありがとなニンフ」

 

そう言ってシュウはニンフにリンゴ飴を渡した

ニンフはリンゴ飴を受け取り一口舐めるとリンゴの酸味と飴の甘みが口の中に広がる

 

(惑わされるな。私はエンジェロイド。この鎖がある限りマスターには逆らえない)

 

でもシュウに出会い初めてありがとうと言われてとても嬉しかった

そう思うと目から涙が止まらなく流れ出してきた

 

「ニンフ、大丈夫かお前」

 

「だ、大丈夫よ。なんでもないから」

 

「いや、でも・・・」

 

「大丈夫だって言っているでしょうが!」

 

「わ、分かったよ。はぁ~イカロス、後はお願い」

 

「はい。マスター」

 

シュウがみんなの元に戻るとニンフは再びリンゴ飴を舐め始める。イカロスはニンフの頭にそっと手を置き撫でる

 

「何しているのよアンタ」

 

「ニンフ、地上(ここ)の空は広いわ」

 

「はぁ?何それ意味分かんないんだけど」


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