しかし、クラインさんが可哀想な目にも合います…クラインさんファンの方すいませんm(_ _)m
それでは、少し長めですが…本編をどうぞ!!
「いやー、キリには驚かされてばっかしですよ。あたしが罵倒した瞬間、喜びが爆発しちゃって剣を引っこ抜いちゃうとか…特殊な趣味ですな」
「いわれもない事実だッ!あと、やっぱりさっきのは応援じゃなくて、罵倒だったんだな。俺もカナタには出会ったその日から驚かされてばっかしだ」
「いやだな、もー。そんなに褒めても今のあたしに出せるものなんてないってば」
バシバシ
と無事黄金の剣を氷の台座から引き抜くことができた黄金に輝く長剣《聖剣・エクスキャリバー》を大事そうに持ちかかえるキリトの背中をニヤニヤしながら叩くあたしの頬をつねるのはいうまでもない我が恋人殿だ。
「…あなたという人はどうして謝ってすぐに真逆の行動に出るかしら?」
「ひゃい、ひゃいれふ、しのふぉんはん」
ぶにゅぶにゅ
と抓り上げられるあたしの頬は忽ちに悲鳴を上げ、捻られていることから半開きにされた口元から流れ出るのは情けない声である。だんだん強くなっていく抓りにあたしの頬が悲鳴を上げていく、シノンの両手をパチパチと叩くあたしが涙目になっていっているの見て、止めに入ってくれるレインとアスナ。
「シノンちゃん、そろそろ許してあげて。カナタくんも懲りと思うから」
「そうだよ、シノのん。カナちゃん、涙目だから、ね?」
二人に言われたのと見下ろしたあたしの空のように透き通った蒼い瞳を見て、パッと両手を離す。
「そうね。懲りたようだし、ここまでにしてあげようかしら」
「…ひゃかった…」
両頬を撫でるあたしの目に映ったのは、あたしとキリトのマヌケなコントにより引き抜かれて、音を立てて弾け飛んだ氷の台座から解放された、小さな木の根が空中に浮き上がったそれが、いきなり伸び始めた…いいや、育ち始めたのだ。極細の毛細管がみるみる下方へと広がっていき、バッサリ斬られていた上部の切断面からも新たな組織が伸び、垂直に駆け上がる。
“…へ?今度はナニゴトですか?”
鳩が豆鉄砲を食らったような顔を浮かべながら、あたしはその凄まじいスピードで融合していこうと大きくなっていく根っこ達に視線を送る中、上から凄まじい轟音が近づいてくる。
見上げると、あたしたちが駆け抜けてきた縦穴から、螺旋階段を粉砕しながら何かが殺到してくる。それも根っこであって…唖然とするあたしたちの目の前で正八角性の空間を猛烈な勢いで貫いてくる太い根と、台座から解放されたささやかな根が---七夕の日だけに一度しか会えない織姫と彦星のように---会えなかった日々を埋めるように、恐る恐る線先を触れ合わせ、忽ち絡まり、融合していった。
途端、これまでの揺れが震度1だったのに対して、今回の揺れは凄まじく、その揺れがスリュムヘイム城を呑み込んだ。
「きゃっ」
「シノ!」
衝撃波にぶらついて、尻餅をつきそうになるシノンをあたしの方に抱き寄せる。
小さいあたしでは抱き寄せたというよりも手繰り寄せたという方が正しいかもしれないけど、ひとまずシノンが尻餅をつかなくてよかった。
「ありがとう、ヒナタ」
引き寄せられたシノンはあたしから視線をそらすと何処か赤い頬を隠すようにお礼を言う。
「大切なシノンお嬢様を守るのは、お嬢様専属のナイトであるあたしの役目ですので」
お礼におちゃらけてみると、忽ち耳まで真っ赤にする、普段のクールな雰囲気に似合う鮮やかな水色のショートヘアーからシャープな三角耳を生やす
「…バカ」
「ごめん、聞こえなかった。ちゃんとあたしの目を見て言って」
背伸びして、シノンの頬へと小さな左手を添えて、正面に向かせるあたしを見て、さらに頬を赤くするシノンに薄く笑うあたし。
「そろそろやめてもらえると嬉しいんのだけど、そこのバカップルさん。あんた達、なんでこんな非常事態そんな簡単に自分たちの世界に入れるのよ」
「そうだぞ!リアルでもバーチャルでもお一人様な俺に対しての嫌味か!そのイチャイチャは」
「あたしとシノンのイチャイチャは今に始まったわけじゃないし。そもそもクラさんがモテないのは…クラさんが下心アリアリのだらしない顔して、女の子や女性に寄っていくから、みんなが逃げていくのでしょう。あたしとシノンのせいにしないでよ」
「そうね。私たちのせいにされても筋違いというものだわ」
リズベットのセリフには素直に従ったあたし達が自分のセリフにだけは鋭いカウンター付きの集中攻撃を仕掛けてきたのが許せなかったのだろう。
「なんで俺だけリズと反応が違うんだよ!」
「日頃の行いの差」
ハマる二人の答えに撃沈するクライン。
そんなクラインから視線を周りに向けると、さっきの衝撃波によって周囲の壁に無数のひび割れが走っており、城の塗装であった氷が次々と真下の《グレートボイド》めがけて落下していくのを見て、寒い筈なのに冷や汗が止まらない。
それはキリトの頭上を飛んでいたユイも出そうで、慌てた様子であたしとキリトにこのスリュムヘイムを離れるように指示を出す。
だがしかし、状況は既に時遅し。
「…!スリュムヘイム全体が崩壊します!パパ、カナタさん脱出を!」
「つぅーても」
「階段はもうな」
そう、この玄室に続いていた螺旋階段は上から殺到してきた世界樹本体の根っこのせいで跡形もなく吹き飛ばされてしまった。それにもと来たルートを必死に戻ったところで、空中に開けたテラスに出るだけだ。
なので、必然として方法は---
「あの根っこに捕まるっていってもね」
---玄室の半ばまで伸びる世界樹の根につかまることなのだが、あたし達が居るまん丸なフロアから天蓋に固定されている筈の一番下の根っこまでは十メートル近くあるだろう。とてもだがジャンプして届く距離ではない。
「どうするかね、総団長殿」
「あぁ、どうするか、副団長殿」
二人顔を見合わせては、んーっんーっと唸りながら、フロアと根っこを見上げる。
そして、そんな二人の姿に痺れを切らしたのか、趣味の悪いバンダナを頭に巻く
「二人して何を躊躇ってやがる!こういうのをビシって決めてこその男だろっ!!みとけよ、そこの意気地なし無自覚女たらしチビ侍!!」
「ちょっ、バカやめろ、クライン」
---全く足りてないところで身体が沈んでいき、垂直に腰からフロアへとダァーイブを決めて、そのどしんという衝撃で---と、あたし達は後々まで信じてやまなかった---周囲の壁に一気にヒビが入り、唯一の支えを失ったフロアはそのまま落下していく。
爆風に身をまかせながら、あたしは首を横にふる。
「クラさんのそういうところがダメなんだってば…。あと、誰が意気地なし無自覚女たらしチビ侍か!」
落ちた状態で固まるクラインへと飛ぶ前に叫んだ言葉に対してツッコミを入れてから、あたしは落下の恐怖に打ち勝ちながら、グラつくフロアを歩くと怯えた様子で蹲るシリカへと近寄る。
「シー、あたしのところに置いで。一人よりも二人の方が怖くないでしょう」
汚名返上する為に飛んだつもりが、逆に「く……クラインさんのばかーっ!!」といういつにないシリカの
あたしはそんなクラインへと視線を向けながら、しがみついてくるシリカの右手を握り、そしてシノンと共にその場に腰を落とす。
「それにほら、こうやって手を握ってたら怖くないでしょう」
「ありがとう、ございます…カナタさん」
礼を言うシリカに笑いかけながら、絶望的になったスリュムヘイムからの脱出にため息しかでない。
「とりあえず、誰かさんのせいで脱出が絶望的になったわけなのですが…どうしますかね」
「本当に困ったわね、だんだん地面が近づいてきてるし…これも誰かさんのせいね」
「はい、誰かさんのせいでです」
"誰かさんのせい"のところをわざと大きくするあたしとシノン、シリカにクラインの目に涙の膜が覆った。これは流石にやりすぎてしまったかもしれないが、アルヴヘイムの落下はマジモンに怖い。プレイヤーが妖精だからという理由からなのだろうが、落下する浮遊感というのだろうか…臓器が浮き上がるあの感覚がそのまま再現されているのだ、このアルヴヘイムは。
なので、クラインが集中攻撃されるのも無理ない、だってその恐怖の落下タイムをみんなへと提供したのはクラインなのだから。
あたし達13名は円盤にしがみつきながら、悲鳴を上げ続ける。
あたしの視界の端で、キリトがクエストに間に合ったことを喜び抱きつくリーファの後ろで器用に手に持ったエクスキャリバーをウィンドウに入れようと試みているのが見えるけど、今はそれどころじゃない。
耳元に鳴り響く爆風が怖いし、落下した後に何があるのかを考えると怖すぎて…もうチビりそうと思ったその時あたしの耳に僅かに
くおおぉぉーーー……ん
という聞き覚えのある鳴き声が聞こえた気がした……
クラインさんが可哀想…しかし、アルヴヘイムの落下は怖いですからね…これは仕方ないことです。
また、このキャリバー編でいつも以上にカナタとシノンのイチャイチャが書けて楽しいです!
さて、次回は助けに来たトンキーとキーボウに飛び乗る話と背中での会話となってます!
また、連続更新の時間ですが
○1弾目➖0:00
○2弾目 ➖1:00
○3弾目➖12:00
○4弾目➖13:00
となっております、あくまでも予定なので、時間が前後してしまったりするかもしれません。
また、文字数は基本3千〜4千くらいなるようですので、げんなりされるかもしれませんが…どうか、最後までみんなの勇姿を読んでいただけると幸いです。
では、2弾目でお会いましょう!