前から時間が経ったので、あらすじを簡単に書くと…見知らぬ森で目を覚ました詩乃が出会ったのは、金髪をポニーテールにしている少女で…その少女にこの世界のことを教えてもらっていると背後から声が聞こえて、そこには真っ黒い服で身を包む少年と、赤と白を貴重とした服で身を包む少女でーー
となってます。
果たして、詩乃と少女が出会ったのは…その二人は誰なのか!?
今回は、長めとなってます。では、ご覧ください。
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4/13〜誤字報告、ありがとうございます!!
振り向いた先に居た少年と少女を見た瞬間、私の横にいる少女が声を漏らす。
「……お兄ちゃん…?」
「「「お兄ちゃん!?」」」
少女が漏らした声に、その場にいる全員が驚きの声を漏らす。金髪をポニーテールにしている少女は、黒髪の少年へと歩み寄ると、その黒い革手袋に包まれた右手を両手で握り揺さぶる。
“え?おにい…ちゃん?この全身、黒の怪しい男の人の妹なの?この人”
一人、置いてけぼり状態の私はポニーテールの少女と黒髪の少年を交互に見る。
その少女の横に立つ腰まで伸ばした栗色の髪が特徴的な少女も私と同じ反応をしている。
「え?へ?何?なんかイベントが始まった?」
「多分、そうだろう。よくあるだろう?突然、現れた妖精が、自分の事を兄と慕ってくれるっていうーー」
「ーーちっ、違うよ!お兄ちゃん!!」
「NPCとは思えない名演技ね」
“うん、私もそう思うわ”
栗色の髪の少女の意見に、私も心の中で頷く。それくらいポニーテールの少女の演技は、危機を迫るものがあった。そんな中、一人だけ黒髪の少年だけ冷静だった。ポニーテールの少女の手をほどくと
「すまない。俺は君のお兄ちゃんじゃないんだ。大体、現実の俺の妹はこんなに胸は大きくないーーグハッ」
“それはね…そんなことを言ったらね…。私でも殴るわ”
そんなセリフを平然と言ってのけるところを見ると、この少年は乙女心というものをあまり理解していない様子だ。頬を殴れた少年に、非難の眼差しを向けていたポニーテールの少女は首を横に振るとーー
「ーー二年も経てば色々変わるよ!それに…これはアバターなんだから、現実のサイズと関係ないの!それより、久しぶりにあって言う言葉がセクハラっ!?
と、話が逸れてる。直葉、桐ヶ谷直葉っ。お兄ちゃん、聞き覚えあるでしょう?」
「「…きりがやすぐはぁ?」」
私と栗色の髪の少女の声が重なる。目を丸くする女性陣2人に対して、黒髪の少年はポニーテールの少女をまじまじと見ると震える声で問う。
「…スグ?もしかして…本当にスグ、なのか?」
「そう!直葉っ。信じてくれた?」
黒髪の少年のその声に、パッと花が咲くように明るい笑顔を浮かべるポニーテールの少女。そんな少女に、黒髪の少年は首を横に振る。
「いや、にわかには…」
「もう!なんで、そんなに疑り深いの」
「だって、スグがこの中に居るわけがないだろ」
「「……」」
“これは…暫くかかりそうね…”
現実で兄妹かもしれない黒髪の少年と、ポニーテールの少女の口論が続く中…いつの間にか、私の前に背中まで栗色の髪を伸ばした少女が歩み寄ってきていた。
しゃがんで、私の目線になると警戒心をあらわにする私に微笑みかける。
「ねぇ、あなたは…スグ、ハちゃん…のお友達?」
「いいえ、さっき出会ったの」
栗色の髪の少女の問いかけに首を横に振ると、少女が突然右手を差し出してくる。その右手をじっと見ているとーー
「ーーわたしの名前はね、アスナっていうの。良かったら、あなたの名前を教えてほしいんだけど…いいかしら?」
“名前…。私の…なま、え…”
思い出さなくちゃ。この親切な少女に報いるために…、私の名前を…思い出さなくちゃ。名前…私の名前…。っ!思い出した、私の名前はーー
「ーー私の名前は…詩乃、朝田 詩乃」
「そう、アサダシノさん…ん?それって、リアルネーム…現実の名前でしょう?アバターネーム…」
「あばたーねーむ?」
小首をかしげる私に、栗色の髪の少女・アスナが何かを考えるように少し黙ると、直ぐに私を見て 右手を横に振って見せる。
「……そうね。えーと、右手をこうして横に振ってみて。そして、ウィンドウが出てきて…そこにあなたの名前が書いてあるはずだから」
「こ…う?わぁっ!?何これ…えーと」
“【Sinon】?”
アスナの言っていたところに書かれている文字をたどたどしく読みあげる。
「シ…ノン、それが私の名前みたい」
「シノンかぁ〜、いい名前だね」
そう言って、微笑むアスナの表情が誰かと重なり…頬が熱くなる。
「シノン?」
“誰かって…誰よ”
私の方を見て、不思議そうな顔をするアスナに苦笑いを浮かべる。
私は一体、アスナと誰を重ねたのだろうか?その誰かさえ、私は覚えてないのに…
「いえ…なんでもないわ。それよりよろしく、アスナ…さ、ん?」
「アスナでいいよ〜。で、あっちはどうなってるかな?」
アスナが視線を向けた先には、ニコニコと輝くような笑顔を浮かべるポニーテールの少女となぜか疲れたような表情を浮かべている黒髪の少年の姿があった。
「シノン、立てる?」
「ええ、ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
差し伸べられたアスナの手を掴み、立たせてもらうと二人の元へと歩いていく。三人の一歩下がったところから、話の成り行きを見ていると…黒髪の少年・キリトから視線を感じる。
「どう?これで信じてくれた?お兄ちゃん…」
「うぅ…、スグだ…。スグで間違いない」
「今、リーファだよ。あたしのアバターネーム」
「あぁ、よろしく…リーファ。で、あっちにいるのがーー」
「ーーアスナです。よろしくね、リーファちゃん」
「はい、よろしくお願いします」
「…」
「えーと、そこにいる子は?」
「シノンだよ、キリトくん」
そう言って、私を引っ張るアスナに促されるままにキリトとリーファへと頭を下げる。
「…よろしく、キリト…リーファ」
「ああ、よろしくな、シノン」
「えー、シノンさんっていうんですか!記憶戻ったんですね」
リーファの放ったその言葉に、アスナとキリトがそれぞれ違った反応を見せる。キリトはその黒い瞳を驚きで染めて、私を見ている。アスナに至っては、さっき私と話をしていたので、大体は予想がついていた様子だった。そんな二人に、私はさっきリーファに話したことを話す。
「…私…、ここに来た前後のこと覚えてなくて…、アスナ達に会う前に…リーファにここの事教えてもらってたの」
「えぇ〜、スグが…」
「ふふん♪」
得意げに胸を張るリーファに、キリトは呆れたような表情を浮かべる。そんなキリトへアスナが声をかける。
「ねぇ、キリトくん」
「あぁ、なら…俺たちと一緒に居た方がいいよな。リーファ、シノン…俺たちについてきてくれないか?」
「うん、わかった」
「えぇ、わかったわ」
キリトとアスナに連れられるままに、町の宿屋へと案内され…そこで、キリト達の仲間を紹介され、自己紹介した。
その自己紹介のあと、真剣な表情を浮かべたキリトに様々なことを教わった。
まず、ここがゲームの中の世界ーーソードアート・オンライン、通称SAOの中だということを。そして、このゲームは他のゲームと違い、プレイヤーのHPがゼロになると現実の自分も亡くなるということ。そんな、まさかと信じられないような表情を浮かべる私は、周りに座る人たちの表情を見て、それが事実だと理解した。
その後も、いろいろなことを教えてもらったが…全てが最初に聞いた。この世界で命を落とすと、現実の自分も命を落とすという言葉によって、意味をなくし…左耳へと抜けていった。
γ
キリト達に拾ってもらって、数日が過ぎたある日。私はベッドに座り、空を眺めていた。
「…」
“なんか…空を見てると、落ち着く…。なんでだろう…”
その問いは、今朝見た夢のせいだろう。
真っ黒い影に追われている私を助けてくれた癖っ毛の多い栗色の髪の誰か。私の方へと振り返ったその人の顔を黒いクレヨンで塗りつぶしたように真っ黒で…しかし、その人に手を繋がれると落ち着いたし…追いかけてくる真っ黒い影も怖くなかった。
(…詩乃のことは…あたしが守るよ)
その夢を思い出しながら、私は何度目かとなる問いを自分自身に問いかける。
“夢で見たあの人、私の知ってる人なの?……あなたは誰なの?”
わからないっ、わからない…思い出せない…。思い出さなくてはいけない人のはずなのに…、大事な部分は抜け落ちていて…夢の中に現れた人を思い出すことはなかった。
そんな私の部屋に、遠慮がちに叩かれたノック音が響く。
『シノンさん。シリカです、今 時間いただいてもいいですか?』
“??? シリカ…私に、何か用かしら?”
ドアの向こうに聞こえる幼さを含む可愛らしい声の主に気づき、私は眉を動かす。
「どうぞ」
私の声で、鍵が外れたドアから水色の小竜を連れた小柄な少女が姿を現す。私は入ってきた小柄な少女・シリカへ微笑む。
「失礼します。シノンさん、具合はどうですか?」
「んー、まあまあね」
「そうなんですか…。でも、すぐに思い出せますよ」
「えぇ、ありがとう」
「きゅるるっ!」
シリカの問いに答えた私へと、シリカの周りを飛んでいた小竜が飛んでくる。驚きながら、抱きとめて…触り心地のいい水色の羽毛を撫でると気持ち良さそうに「きゅる…」と鳴く。
そんな小竜・ピナの突然の行動に、シリカがソファーに座る私の隣へと座ると、ピナを叱る。
「あっ、ピナ!シノンさん、驚いてるでしょう!?」
「きゅるる…?」
私の太ももの上に丸まり、うとうとしていたピナがシリカの怒鳴り声に首を傾げている。そんな二人の様子に、心が癒されている気がする…。
怒っているシリカに微笑むと、ピナを撫でるのを再開する。
「シリカ、私なら大丈夫よ。それに…ピナを見てると、なんか落ち着く気がするの…」
「ピナをですか?ここに来る前に…そういうゲームをしていたんでしょうか?」
大きく赤い瞳に?マークをいっぱい詰めて、シリカが出してくれた案に首を振りながら…、寝息を立てているピナを見る。
「ううん、そうではないの。正しくいうと、ピナの色に落ち着くの」
「ピナの色?」
「ピナの羽毛って、水色でしょ?なんか…この色見てると、勇気付けられるというか…安心しちゃうのよ。…色一つで落ち着くなんて、おかしいわね…私」
「そんなことないですよ!それって、シノンさんの記憶が戻り始めているってことなんですからっ。
そういうことなら、ピナのこと…お願いしていいですか?」
「ええ」
“ここにいる人たちは…本当に優しくて、暖かい…”
最初の頃、距離を取ろうとしていた自分がバカみたいに思えてくる。
「そう、シリカ。私に何か、用事があったんじゃないの?」
「あっ、そうです!シノンさんに味見してもらいたくて」
「?」
右手をスライドして、ウィンドウを出したシリカが何かを操作している。
「〈林檎のシロップ漬け〉です」
ボタンを押して、オブジェクト化した物はーービンに所狭しと詰め込まれている真っ赤なリンゴに、何かドロっとした物がリンゴが漬かるくらいまで入れてある。
机の上に置かれているビンを見て、隣に座るシリカを見る。
「…これ、シリカが作ったの?」
「はい、少しでも経験値を稼いで…キリトさんの役に立ちたくて…」
頬を朱色に染める少女に、私は困った表情を浮かべる。
「なら、私が食べちゃったら…意味がなくなるんじゃあ」
「少しなら大丈夫ですよ。それに、シノンさんも一緒に作ってみませんか?あたしが、教えてあげますし…それに、これなら町にいても、経験値稼げますし、コルも…えぇと、それから…」
しどろもどろになって、いろいろな利点を述べるシリカにクスッと笑う。どうやら、彼女は彼女なりに、私のことを気にかけてくれているらしかった。
「そうね…。何もしないで、部屋に篭ってばかりだと…気が紛れないものね…。………ありがとう、シリカ」
「?何か、言いましたか?シノンさん」
「いいえ、なんでもないわ。なら、少しだけ頂くわね」
「はい、どうぞっ」
シリカから貰った林檎のシロップ漬けを口に含み、その甘さに頬を綻ばせる。
「おいしいですか?」
「えぇ、美味しいわ。シリカも食べてみたら?」
「そうですか?なら…一口だけ…。ん〜っ!!おいしい〜っ」
「ね?これは…手が止まらなくなるわね」
「はい、そうですね…」
その後も、ビンの中にあるシロップ漬けになっているリンゴを口に運び続けた私たちの前には、空っぽになったビンが数分後に残っていた。
隣で空っぽになったビンを見て、青くなっているシリカに微笑むと私はあることをお願いする。
「…」
「ねぇ、シリカ。私にもこのリンゴのシロップ漬けを教えてくれないかしら?」
「はい!喜んで」
その後、どちらからともなく笑い声が部屋に響き渡たった…
と、いうことで16話が終わりました。
もし、ヒナタが今のシノンとシリカの仲の良さを見たら、嫉妬しますかね…いえ、ヒナタさんはこれくらいじゃあ嫉妬しないかな(笑)