ということで、本編ではない上にすごく今更感がありますが…ホワイトデーの話をどうぞ!
3月14日、雲一つ浮かばない快晴と呼ばれる青空が広がる
中、とあるマンションに住む少女はその空のように澄んだ蒼い瞳といつもは比喩されるそれを今日はどんよりと曇らせていた。どんよりしているのはどうやら瞳だけではないらしく…年がら年中だらけている寝間着もいつも以上に乱れており、橙の襟首から綺麗なお椀型の形を保つ双丘によって作られた谷間が覗き、このマンションに一緒に住んでいる少女の同居人・
「ーー」
「何、朝から深刻そうな顔してるのよ…折角の天気が台無しになるでしょう。ほら、笑顔見せる」
数秒後、着崩された橙の甚平の裾を手繰り寄せ、本来の形へと整えた詩乃はこっちを見つめたまま、微動だにしない同居人かつ恋人・
だがしかし、陽菜荼は詩乃に頬を引っ張られているにも関わらず、詩乃の焦げ茶色の大きな瞳を心ここに在らずな感じで見つめたままで…詩乃は頬から両手を外すと陽菜荼へと声をかける。
「ーー」
「ちょっと、陽菜荼?私の話聞いてる?」
コツンコツンと机を叩いて、陽菜荼の注意を引こうとした詩乃の思惑は的を打ったのだが…陽菜荼の底無し沼のような瞳を前に思わず、身を引いてしまう。
それくらい陽菜荼の蒼い瞳は雨雲に覆われており、固く結んだ唇から漏れ出るアルト寄りの声もどこか気怠げで…詩乃から机の一点へと視線を変えた陽菜荼が問いかけてくる。
「…………ねぇ、しの」
「な、なに?」
思わず引いてしまった身体を元に戻した詩乃が陽菜荼のボリュームが低い声を聞き取るためにもう少し前へと身体を押し出す。
「…………貰ったものはお返しすべきだよね?」
「ええ、まぁそうね」
「…………それが被っていても…お返しはすべきなんだよね?」
「それはそうでしょう…って、先から何の話をしてるの?」
いまいち陽菜荼の質問の意味が汲み取れない詩乃がそう問いかけると…陽菜荼の表情が更に暗くどんよりと曇っていく。
「……………今日ってホワイトデーだよね?」
「あっ、確かにそうね。もしかして、私へのプレゼントに悩んでるとか?」
もしそれでここまで悩んでくれているのならば、願ったり叶ったりだと詩乃は陽菜荼へと茶化すように言ってみるが…帰ってきたのは今までと変わらない掠れた声であった。
「………それも死ぬほど悩んだけど…それ以上に深刻なんだよ…!もうどうすればいいんだ…!」
そう言って、ガチャンと机へと倒れこむ陽菜荼に詩乃は眉をひそめる。目の前にある癖っ毛の多い栗色の髪へと指を差し入れ、手櫛をしながら…項垂れる陽菜荼へと優しく声をかける。
「深刻ってそんなに深刻なことなの?」
「……………ん」
「私にお手伝いできること?」
「…………無理かも」
「ふーん、そうなんだ」
陽菜荼のそのセリフに何故かイラッとしてしまった詩乃はにっこりと笑うと手櫛していた指をギュッとするとそのまま上へと持ち上げる。その動作によって、激痛が走った陽菜荼は顔を上げると…にっこりと可愛らしい笑みを浮かべる詩乃を睨む。
「痛痛痛痛痛痛痛いッ!!髪の毛が抜けるっ!?」
数本抜かれた髪を抑えながら、涙目になった蒼い瞳へと強い怒りを浮かべながら、陽菜荼は涙に濡れた声で非難の声を上げる。
「もぅひどいよ〜、詩乃ぉ〜。この歳で頭がつるつるになるとか悲しいことなんだよ?」
「ふふふ、ごめんなさい。でも、実力行使した甲斐はあったでしょう?」
涙声に涙目の陽菜荼がおかしいのか、詩乃が口元を手で覆いながらクスクスと笑う。そんな詩乃を睨みながら、陽菜荼は頬をプクーとふくらます。
「詩乃さんはあたしのこの不機嫌な顔のどこからそう思われるのです?」
「その不機嫌な顔の方がいつもの…いいえ、私の大好きなカッコいい陽菜荼だわ」
「なっ!?」
まっすぐ陽菜荼を見つめながら、そんなことをのたまう詩乃。そんな詩乃から視線を逸らして、しどろもどろになる陽菜荼を見て…してやったりとニンヤリ笑う詩乃に陽菜荼は再度机へと伏せると小さく呟く。
「あら?どうしたの、陽菜荼。顔が赤いわよ?」
「……その不意打ちはずるい」
「いつもあなたが仕掛けてくるから今日こそは私からって思ったのよ。でも、これで憂鬱な気持ちは晴れたでしょう?」
「あぁ…ん」
「なによ、煮え切らないわね」
そう言う詩乃に観念したのか、陽菜荼が今まで悩んでいた原因を包み隠さずに話す。
バレンタインデーにみんなからチョコを貰い、その返しをみんなに尋ねたところ…揃って二人っきりのデートがいいと言われた事。それも全員聴き終えた後に不可能なことに気づき、どうすればいいのか悩みに悩んでいたこと。
それを聞いた詩乃の反応はというと肩を上下に揺らすと頭を抱える。
「…なんで二人目で気づかなかったのって聞いてもいい?」
「…ん。みんな…と言っても、レインとフィリアは別だよ。他のみんなはね…チョコを貰うときに一緒に聞いたんだよ…」
「それで気づくのは遅れたと?」
「…はい…」
項垂れる陽菜荼を見て、肩をもう一度すくめた詩乃は携帯を取り出すとメールをみんなへと打つ。
そして…このメールから慌ただしいホワイトデーが幕を開けたのだった…
ということで、かなり淡々と書いてしまいましたがーー簡単に説明すると、チョコの返しをみんなが揃って二人っきりのデートがいいと言われ、それを二つ返事で返していたら大変な目にあったって話です…
これは詩乃さんが呆れるものわかる気がします(苦笑)
どうか、陽菜荼さんにはこれからの各ヒロインとのデートでカッコいいところを見せてほしいものです(o^^o)