前の回が回だったので、こちらは百合要素をふんだんに盛り込みました。かわいらしいヒナタにご注目!
今回は詩乃視線となってます。
幼馴染が退学を言い渡されたその日の夜、私の幼馴染はベッドの上で膝を組んで、晩御飯も食べなかった。
私のその様子に困り果てていると、ぽつんと呟くような小さな声が聞こえてきた。
「わかってた…薄々気付いてたんだよ…ママがあたしの事捨ててたこと…」
その震えるような声に彼女が涙を流していることに気づいた私は、幼馴染・陽菜荼の隣へと腰掛ける。
近くで見ると震えているのが分かる。幼い頃の彼女もこのように毎日、隠れるように涙を流していたのだろうか?
“私と初めて会った時も…もしかして、この事を思い悩んでいたの?”
そう思うと、普段は頼もしく思っていたその背中が壊れ物のように繊細なものに思えてきた。
いつか思っていたこの人の力になりたいという願いが、ここで叶えられる気がした。静かに涙を流しながらも語り出す陽菜荼を私はじっと見つめる。
「でもね…心の中ではずっと信じてたんだ…いつか、あたしを迎えに来てるって…。………でも、それはあたしの思い上がりだったんだね…ママが……あたしを迎えに来るわけ…ないのにっ。バカだなぁ…あたし……」
「……」
「し…の……?」
震える身体を包み込むように、私は陽菜荼を抱きしめる。びっくりしたような声を出して、やっと前を向いてくれた陽菜荼の潤んだ蒼い瞳を見ながら、私は誓う。
「私はいなくならないわ、あなたの前から」
「へ?」
“何よ、その反応…もう少し喜んでくれてもいいじゃない”
陽菜荼の鳩鉄砲を食らったような顔を見て、少し頬を膨らませながら、もう一度ハッキリと彼女に言う。
「私はいなくならないわ。陽菜荼の前から、絶対に。
だってあなたを残して何処か行くのって不安だもの」
そう意地悪を言ってみると、陽菜荼が不満そうに私を見つめてくる。そんな陽菜荼に向けて、首を傾げつつ尋ねると、陽菜荼が不満そうに呟く。
「……」
「何よ、不服?」
「……不服じゃないけどさ〜、もう少し言い方…」
「…そうね、少し意地悪だったかしら」
そう言って、微笑んでみせると陽菜荼の頬がなぜか朱色に染まる。その様子のままに、はにかんでお礼を言ってくるので、こちらも頬が赤く染まってしまう。なので、照れ隠しに思っていることと違うことを言うと、陽菜荼が潤んだ瞳で私を見上げてくる。
「ん、すっごく。今日の詩乃は…なんか、優しいのか意地悪なのかわかんない…。けど…あんがとね、色々と」
「私もおじさんから陽菜荼のことが頼むって言われてるからよ」
「……」
“うっ…何よ、その子犬みたいな目…”
「もう、何なんなのよ」
「……いや、本当にそれだけ?あたしのことは…どうとも思ってないの?詩乃は」
再度、捨てられた子犬みたいな目でそう聞いてくる陽菜荼に私は弱ってしまう。
「ッ。……だから、そんな目で見ないでってば……」
「……悪いって思ってるなら…今日、一緒に寝て」
「寝る?いつもしてるじゃない」
「……ぎゅっと…抱きしめて、寝て欲しい……ダメ?」
“うっ…だから…その目でーー”
結局、その目に負けてしまい、私は陽菜荼をぎゅっと抱きしめて眠りについた…
γ
高校を退学になってしまった陽菜荼は、しばらく経ってから仕事を探しに、街を歩き回った。そして、見つかった仕事場で、働き始めた数日後の休日の朝のことだった。
「詩乃、少しいい?」
朝ごはんを食べていた陽菜荼が私へと真面目な声音と表情で向き直ってくる。その真剣な表情に、思わず私も箸をおくと向き直る。
「何よ、その真面目な顔つきは陽菜荼らしくないわよ」
「ひどいな…あたしだって真面目な時くらいあるのに…」
そう言って、傷ついたように言う陽菜荼に悪いことしたかな?と思う私はとても次の瞬間に言われた言葉を理解することが出来なかった…
「詩乃、好き」
小さく呟かれたそれに私は眉を顰める。
“詩乃、好き?”
向かいに座る陽菜荼の視線がお皿の上のウィンナーに向いていることから。
私がウィンナーを好きなのか?と問われたかと思ったので、ジト目で陽菜荼を見る。
「ウィンナーがってこと?私も好きだけど…その質問と陽菜荼の真剣な表情に何か関係あるの?」
「なんで、ウィンナー?あたしが言いたいのはーー」
「ーーもしかして、目玉焼きをくれとか言うんじゃないんでしょうね。あげないわよ」
「いや、違うけどさ。あたしが言いたいのはもっと違うことで…」
「コロッケとか?メンチカツ?あっ、もしかして…いなり寿司とか言うんじゃないんでしょうね。今は節約しないといけないのに…そんなワガママは陽菜荼でもダメよ」
「いや…違くて。ううん、その三つも好きなんだけどさ。そんなのよりももっと好きなんだ…詩乃の事が」
「……へ?私」
まるで漫才のような会話の後に、すらっとされた告白に私は目を丸くする。そんな私に陽菜荼は小さく嘆息すると、続ける。
「さっきからずっと言ってるでしょうに…。はぁ……詩乃はもっと人の話を聞くべきだね、本当」
「……そのセリフはあなたには言われたくないわね…」
私の呆れ声に陽菜荼は肩をすぼめると、私をじっと見つめて言う。耳まで真っ赤にしているところが、とても可愛らしかった。
「まぁ、そんな事よりも…もう一度言うよーー
ーーあたしは詩乃が好きなんだよ、もちろん一人の女性としてだよ
まぁ、あたしも女なんだけどさぁ〜」
「……」
「えっと……詩乃さん?なにか反応してくれると嬉しいんだけど…」
「…ふふふ、神妙な顔して何を言うかと思えばそんな事なのね」
おかしそうに笑う私に陽菜荼が顔真っ赤にして怒る。なので、その言葉を遮るように言葉を重ねる。私がずっと彼女に対して感じていた気持ちを。
「そんな事って、あたしなりに考えーー」
「ーー私も陽菜荼のことが好きよ。昔からね」
「……ッ。そうか…なら、あたしと詩乃はずっと前から相思相愛なんだね!なんだ〜」
私の言葉に更に真っ赤に顔を染める陽菜荼は、安心したように息を吐くと、私へと近づいてくる。陽菜荼のその行動にびっくりしつつも待ち構えると、そっと私の両手へと自分の両手を重ねてくる。
「じゃあ…ねぇ、詩乃…」
「な、何よ…」
陽菜荼から漂ってくるタダならぬ雰囲気に、身構えると陽菜荼が繋いだ手をギュッとしてくる。そして、上目遣いで私を見ると尋ねてくる。
「…キスして、いい?」
「ッ!?」
その申し出に私はピクリと身体を震わせる。そんな私に陽菜荼は再度聞いてくる。あの子犬のような視線に、私は断れずに睨むように陽菜荼を見る。
「ダメ、かな?詩乃」
「っ。そんな目で私を見ないでって……弱いの知ってるでしょう」
「なら、良いんだね。目を閉じて、詩乃」
だが、陽菜荼にはそんな抵抗は通じない。
「ちょっ、いいなんていーーん…」
「ん…」
慌てふためく私の唇へとゆっくりと自分のそれを重ねていった……
というわけで、シノとヒナタが恋人同士になりました。早かったかな?