sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜   作:律乃

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ご無沙汰しております、久しぶりの更新です。

いつものように文字少なめですが……楽しんでもらえると嬉しいです♪

それでは本編をどうぞ(リンク・スタート)


006 カナタイフ・チャント

上階へと続く階段を登っていく黒いコートが見えなくなるまで、視線を向けていたあたしが真正面へと向き直るとそこにはどこか呆れたような顔をしたアスナが居た。

 

「カナちゃん、シノのんに内緒で飛び出してきちゃったの?」

 

「……あ、ぁはは……」

 

あたしの苦笑いで全てを察したらしいアスナが整った顔をムッとお怒りモードにシフトチェンジし、ミニスカートの両拳を置いてから、いつものようにお説教モードに入りかけたその瞬間、広場に怒声が響き渡る。

 

「もう、カナちゃーーーー」

 

「ーーーーおい、お前、なんでスイッチしなかったんだよ!?」

 

憤懣を隠そうとしないその声はどうやらさっきの軽スタンをして、壁に倒れていた槍使いのものらしい。

アスナは血相を変え、小走りで近づく所へと視線を向ける。

そこには無残に折れた十文字槍の柄を左手に握りしめた大柄の槍使いが、痩せたプレイヤーの襟首を右手で掴み上げている。

 

「やめなさい!」

 

割って入り、槍使いの手を離れさせるとアスナが痩せたプレイヤーの前へと立っている。

 

あまり見てはいけないと思いながらも、そちらへと視線を向けた際に瞳に映ったのは、力なく全身を脱力している少年プレイヤーだった。

少年と思いながらも、俯いている横顔から彼があたしやアスナよりかは年上のように思えた。

下を向いている為、波立つ朽葉色の前髪が彼の目元や輪郭を半ば以上隠れており、こちらからは少年の表情が伺えない。

 

そんな少年に向かい、アスナが振り返ってから何かを言っている。

小声の為、こちらからは何も聞こえなかったが、少年がアスナを一度見てから呟いた悔しそうな声だけがはっきりと聞こえた。

 

「……僕だって……前に出ようとしたんだ」

 

少年がもう一度俯いてから、自分のブーツを睨み付ける。

 

「でも、足が……どうしても、動かなかった」

 

それ以上話すことはないとばかりに口を引き結んでしまう朽葉色のプレイヤーから視線を逸らしたアスナ。

そのアスナへと視線を向けた血盟騎士団のギルドメンバーへと指示を行う血盟騎士団副団長殿の姿を見たところであたしはたゆたう。

 

(ぁ……これ、どうしよ……)

 

頭の中にあったプランでは、アスナの軽いお説教を聞いた後、彼女にお願いしてから血盟騎士団の精鋭達と共にダンジョンを出るつもりだった。

正直に言ってしまうと後先考えずにポーションを使ったせいか、手持ちが心許ないのだ。

なので、虎の威を借りる狐ではないが……トッププレイヤーとしての彼らの実力を借りつつ、ダンジョンを安全に抜けたかったのだが、今はそんな提案を言い出せる雰囲気ではない。

 

それに、あたしは個人的にアスナと仲良くしてもらっているが……血盟騎士団の副団長としての彼女とはどうかと言われるとこれまた微妙なのである。

 

アスナの指示により回復を終えたギルドメンバーが連携を組み直すのを茫然とした顔でしばし見てから、困ったように頬をカリカリと人差し指で掻いてからクルッと回れ右をする。

 

(しゃーない。一人で帰るか)

 

右腰に吊るしてある鞘へと軽く振った愛刀をしまってから、下へと続く階段に向かって歩いていくあたしの背中へと見知った声が投げかけられる。

 

「カナちゃん!」

 

「アッスー」

 

「一緒に帰りましょう」

 

「でも……」

 

そこまで言って、唇をつぶる。にっこり笑うアスナから後ろの血盟騎士団のギルドメンバーへと視線を向ける。

彼らは先刻の戦闘で消耗してしまったようで全体的に指揮が下がっているように思えた。

そんな彼らが今後の連続戦闘に耐えられるかは分からないし、力なく未だに俯いている朽葉色のプレイヤーへと突き刺さる無言の攻め立てる雰囲気が払拭されている様子は無い。

ギルドというのは連携が大切だ。一人が連携を無視した事で今回のように命の危機に陥るプレイヤーが現れる。故にギルドは連携を重んじなければならない。ギルドメンバーが誰一人欠ける事なく、攻略する為に。

だが……だからといって、あたしがそこまであの朽葉色のプレイヤーに対して、恨みの念を持っているかといえば、そうではない。否、きっとそれは他人事だからそう思えるのだろう。

あたしもあの大柄の槍使いのような立ち位置になれば、朽葉色のプレイヤーを許すことはできないだろうし……命令に背いた彼への重い処分を願ってしまう事だろう。

だが、あたしはどうしても朽葉色のプレイヤーの事が気になってしまうのだ。彼はきっと彼が思っているよりも殻をこじ開けさえすれば、強くなれるとあたしはそう思う。

 

(まぁ……こればかりはあたしがどうこう思っても仕方ないんだけどね……)

 

あたしは血盟騎士団というギルドの前ではただの通りかかったソロプレイヤーで赤の他人なのだ。それ故に何の権利も持たない。出来ることといえば、あの朽葉色のプレイヤーに下る処分が軽いものになることと……彼が殻をこじ開けてくれるのを願うことくらいだろうか。

 

あたしはそんなことを思いながら、彼らを一瞥し、少しだけ逡巡した後に「じゃあ、お願いしようかな」と答える。

 

あたしはアスナ達血盟騎士団に加えてもらうことで無事、ダンジョンから脱出することが出来た。

 

まー、先頭を先導して歩くアスナの隣に招かれてからは戦闘以外はずっと説教を受けていたのだが……。




 007へと続く・・・・

 



ユナちゃん役の神田沙也加さんが亡くなられましたね……

私は神田さんが演じられるどのユナちゃんも大好きでしたし、歌声も大好きでしたので……もうそのどれもが聞けなくなるのかと思うと胸が苦しいです。

心からご冥福を申し上げます。

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