今回のタイトルは私の好きなアーティストさんの曲から名前を付けました。今回の話もその曲をイメージしたものとなってます(^ω^)
そして、今回はレインさんがカナタを好きになった理由も書かれているので…お楽しみに、です(^-^)/
では、本編をどうぞ!
6/20〜誤字報告、ありがとうございます!
「…これとかいいかもな…。…いや、こっちの方がいいか?」
アークソフィアの商店街で、癖っ毛の多い栗色の髪を肩まで伸ばしている少女が熱心にアクセサリーを見ている。少女が身動きする度に、ふわふわと橙の羽織が風に揺れて…遠くから見ているとその様子が一枚の絵のように思えた。
そんな少女・カナタの事を遠くから見ている人影がいた。狭い家と家の隙間からひょっこりと顔を覗かせるのは、ちょこんと可愛らしい帽子を頭に乗っけている腰まで伸びた薄焦げ茶色の髪が特徴的な少女・レインである。レインはカナタを見つめるとうっとりした様子で頬を染める。
“…あぁ…、やっぱり…カッコいいなぁ〜、カナタ君…”
こうやって、彼女の後を尾行するようになったのはいつの頃からだっただろうか?
“…そうだ。あの時…カナタ君に一目惚れしてから、ずっとこうしてるんだ…”
レインはカナタと始めてあった時のことを思い出していたーー
わたしがカナタ君と出会ったのは…一人で87層の迷宮区を攻略している時だった。最前線は、今よりも三層下の…自分のレベルでも安全だと思えたレベリングの場所。
最初は、順調だった。だが、何故かついてないことが続いた…一発で仕留められていたモンスターが仕留められず、反撃されて…その時に限って、モンスターがポップしてきたりとかついてなかった。そして、次第にわたしが優勢だった雰囲気がモンスター側へと移り…わたしはあっという間にモンスターへと囲まれた。囲まれてしまった後は、徐々にHPが削られていき…わたしは、その時に死を覚悟した。
『……』
このまま、誰にも知られずに死んでしまうのが…現実に戻れないまま、こんな暗いところで呆気なく亡くなってしまうのがとても怖かった…。まるで、このまま ここで死んでしまったならば…わたしという存在は空気となり、このゲームがクリアされてもわたし一人が誰にも認知されないまま…この世界に居続けるのではないか?
“わたしは…誰かの役に立てたのかな…?わたしは…誰かの記憶に残ることが出来たのだろうか?”
愛剣の片手直剣を握りしめ、せめて前にいるこのモンスターだけは道連れにしてやろうと振った時だったーー
『ふん!』
ーーわたしは助けられた…ある人の手によって。淡い光を放つ二つの刀がモンスター達を次々と葬り、二つの刀を右腰にある鞘へとおさめると…わたしへと歩み寄ってきた。
『…大丈夫?』
そう言って、手を差し伸べてくれたのがーーカナタ君だった。彼女を見たとき、わたしの時間は止まった。真っ暗な迷宮区の中、彼女だけが輝いて見えた。
わたしの方を見る蒼い瞳は、吸い込まれそうなくらい美しく…此方を淡い笑みを浮かべて見つめてくるその表情は何処か翳りがあるものの、それすらもわたしには魅力に思えた。
彼女を見つめたまま、某然とするわたしの身体へとピンク色の結晶を押し付けたカナタ君は、わたしから視線を逸らすと掠れた声音でわたしを注意する。
『…一人で…ここを起点にレベリングとか…危ない…。もっと、安全なところでした方がいい…』
アルトよりのその声は、掠れてはいるものの優しい色を帯びていた。それだけで、純粋にこの人はわたしの事を心配して注意してるんだと思えた。それがとても嬉しかった。
『危ないって…君も危ないよ…。こんなところで…」
『…あたしのことは…いいんだ…。ここには…友達の付き添いでね…。一人ってわけじゃない…』
『カナタ様、何処にいるの!?』
『カナちゃん、こっちじゃないのかしら?』
『…ほら、呼んでる…。じゃあね、君も転移結晶なりを使って…帰った方がいい…。疲れてるだろうからね…』
『…ぁ…』
後ろを振り返って、そのまま去っていくその人の名前をわたしはずっと後になって知ることになる。
【蒼目の侍】【死にたがり】【特攻侍】その他、まだまだ彼女の二つ名は存在する。
しかし、どの二つ名も正直どうでもよかった、わたしが知りたかったのは彼女の名前ーーアバターネームなのだから…。
『…カナタ…。…カナタ君…か…』
カナタ。
たった三つの文字にこれほど元気つけられるとは思わなかった。たった三つの文字がこんな愛おしいとは思わなかった。たった三つの文字にこんなにも胸が締め付けられるとは思わなかった。
カナタって文字だけで、こんなにも強くなりたいって…あの人の側に居たいって…欲張りになるとは思わなかった。
最初の頃は彼女の事を彼だと思っていた…だって、わたしを助けてくれた彼女はカッコよかったし、男の子にしか見えなかったから。しかし、彼女は男性のようにガサツな所もあるが…それ以上に、女性らしく繊細な人だ。
『…今晩、君の歌を聞きに行ってもいいかな?』
今朝、そう言ってくれた彼女の姿は今でも目を閉じれは、瞼に焼き付いている。これだけで、何日も頑張れる…頑張ろうと思える。彼女が褒めてくれた唄も頑張ろうと思う…一刻も早く、彼女に元気になって欲しいから。
「…すみません。これ、下さい…」
その声に、レインは回想から現実へと帰ってきた。どうやら、昔を思い出している間に カナタの買い物は済んでしまったらしい。支払いを済ませて、アクセサリーショップから出てきたカナタの後をレインは追いかける。
追い掛けて、辿り着いたのはとある酒場だった。カナタは、酒場の隅の席に腰掛けている金髪をショートヘアーにしている少女へと話しかける。カナタに話しかけられて、振り返った少女・フィリアの青いマントがひらりと揺れる。
「フィー…これ」
左手を横にスライドしたカナタは、掌にオブジェクト化したアクセサリーを目の前にいるフィリアへと差し出す。フィリアは水色の瞳を丸くすると…カナタと手に取ったネックレスを交互に見ている。カナタは、フィリアへと申し訳なそうな表情を浮かべると掠れた声で説明する。
「へ?…カナタが…わたしに?」
「…ん。…昨日、ひどいこと言っちゃったから…。そのお詫び…」
「ありがとう、カナタ。これ、大事にするね!」
ネックレスを見ながら、嬉しそうに笑うフィリアを眺めているカナタは淡く微笑みフィリアに笑いかける。
「ん。…フィーは、美人さんだから…絶対、似合うと思うよ…」
「ッ…、そう?」
「ん、あたしが保証するよ。着けてみて」
「…何よそれ。でも、カナタが見たいって言うなら、着けてみるわ」
「ん、楽しみにしてる」
微笑み合うカナタとフィリアは、遠くから覗いているレインには恋人同士に見えた。
“…それはそうだよね…。カナタ君、カッコいいもんね…。付き合ってる人くらい…”
落ち込むレインが、その場を離れようとした時だった。後ろから大きな声で名前を呼ばれたのはーー
「おっ、そこにいるのはレーちゃんじゃないカ。また、カー坊の後をつけてるのカ〜?」
「しぃー、しぃー!!そんな大声で話しかけないでよっ、アルゴちゃん!カナタ君にバレちゃうから!!」
ーー特徴的な口調で喋りかけてくる頬にヒゲのペイントしている女性・アルゴへとレインは素早く振り返り、人差し指を唇へと押し当てる。だが、反省の色が見られないアルゴが発したセリフにレインは冷や汗が流れるのを感じた。
「にゃハハハ。それはごめんナ〜。でも、もう手遅れ見たいダゾ」
トントンと肩を叩かれて振り返ると、呆れたような笑みを浮かべているカナタとそんなカナタの後ろで腕を組んで、自分を値踏みするように見ているフィリアの姿があった。
「…ふ。君はそんなとこに隠れて、何をしてるんだい?レイン」
二人から視線を逸らしながら、しどろもどろになりつつ、言い逃れをしようとするレインをニンヤリと不気味な笑みを浮かべたアルゴがレインの秘密を暴露する。
「〜〜ッ!?これは…そのっ…あの…」
「カー坊。レーちゃんはずっとカー坊の後をつけていたんだゾ。いやぁ〜、これが愛のちからカ〜。オネーサンは羨ましいヨ〜」
「ちょっ、言っちゃダメって言ってるでしょう!それに愛のちからって!そんなんじゃないから!」
「にゃハハハ。照れなくてもいいんダゾ〜、レーちゃん」
「照れてなんか…っ」
ゆでダコのように顔を真っ赤にさせて つっこんでくるレインをニヤニヤ笑いながら、アルゴがからかい続ける。そんな二人を見ているカナタとフィリアが静かなことに気付いたレインがカナタへと話しかける。
「ーー」
「あっ、あのカナタ君…これは…。アルゴちゃんが勝手に言ってることであって…わたしは…」
そんなレインの言葉を遮ると大きな笑い声がカナタから聞こえてきた。お腹を抱えて笑い転げるカナタの笑い声と笑顔は、この数ヶ月見ることが無かったカナタの本来の表情であった。
「ぷっ、ふはははははっ!!」
「カナタ?」
「ふふ…あはは…。ごめんね、突然 笑っちゃったりしてさ…。でも、おっかしくって…」
数分間、笑い続けたカナタは黙ったまま三人へと小首をかしげる。そんなカナタの疑問に答えたのは、フィリアであった。
「「「……」」」
「どしたの?黙っちゃって、三人とも」
「カナタがそうやって大声で笑うのは、久しぶりだったから」
「フィリアの言うとおりダナ。レーちゃんもカー坊の笑顔が見られて良かったナ〜」
「うん…良かった…。って、そんなんじゃないから!」
「にゃハハハ。照れなくてもいいのにナ〜。レーちゃんがカー坊を好きなのはバレバレなのダ〜」
「だから、言っちゃダメって!」
レインがアルゴの口を塞ごうとしてる中、カナタは暗くなりつつある空を見つめて小さく呟いた。そんなカナタを上目遣いで見つめるレインの頭をカナタが優しい手つきで撫でる。
「………そっか…。あたし、笑えるんだ…」
「カナタ君?」
「ふ。ありがとう、レイン。君のおかげだよ…」
「〜〜ッ!?」
頬を真っ赤に染めるレインを見ながら、フィリアがボソッと呟く。そのフィリアのセリフへとカナタが小首をかしげる。
「…やっぱり、カナタは女たらしね…」
「なんか言った?フィー」
「何でもないわ。わたしは先に、宿屋に戻ってるから」
「ん、分かった」
フィリアの背中を見送った後、カナタは約束通り…レインの唄を聴くために、レインと共に広場へと向かった……
ー続ー
ということで、三話お終いです(^ω^)
ともかく、まだ完全じゃないとはいえ…元のカナタに戻って良かったです(笑)やっぱり、カナタはお気楽というか…笑顔の方が似合ってます!
そして、私の今回の話で好きなシーンはアルゴさんとレインさんがじゃれあってるところかな…。あの二人意外といいコンビだと思うのです…はいっ(o^^o)
次回は、レインさんの唄から始まると思います。では、次の週の土・日に〜o(^▽^)o