メインとは少し違った話もあるかもですが……
ので、話の進み具合はゆったりかも…(笑)
「〜♪」
放課後、鼻歌を歌いながら、あたしは図書室へと来ていた。
来た理由は至極単純。図書室ならば、料理のレシピが載ってる参考書があるかもしれないと考えたからだ。
あたしはこれまでの努力を思い出し、涙を浮かべる。
父が根っからの料理おんちと判明してからの数ヶ月、転校する前の小学校でも図書室に向かっては料理のレシピが載っている参考書を開いては自由帳にレシピを書いたり、家では料理番組のレシピをノートへと記した。必死な眼差しで自由帳、大学ノートにレシピを写していくあたしを目撃した父が思わずおでこに手を当てて"熱でもあるのか? "と問いかけてくるくらいの形相らしい。
だが、仕方ない。これは香水家の存続に関わる重要な事なのだ。
あたしを育てる為に、記者という仕事を辞め、時間に余裕ができるスーパーのレジ打ち等をして働いてくれている父には感謝してもしきれないし、早く働ける歳になって父の負担を消してあげたいと心から思っている。だが、しかし。その感謝の気持ちとは別にこれ以上、父の激マズ料理を食べ続けられるのは我慢ならない。父の努力も理解してるし、あたしのことを考えてくれているのも分かる。分かるからこそ思うのだ、"頼むから……お父さんは包丁を握らないで"と。
最近ではアレンジという新たな激マズスパイスも加わり、表情を消して、無で胃へと収めていかないと喉を通らないのだ。
そこまでいうなら、残せばいいだろうと事情を知らない人は思うだろう。あたしだって残せるのならば残したい。だが、残せない。だって、目の前で父が申し訳なそうな表情でこっちを見てくるのだ。父の淡い笑顔、普段の頑張りを見ていると残すのは、それらを裏切る行為のように思えて……あたしは笑顔は浮かばないが、無心で箸を動かしている。
”だけど、おとうさんにばれてるっぽいんだよね……“
包丁は握らないでとは強く思ったが、毎日毎日スーパーの余り物では身体に悪いだろうし……。
何よりもーーーー
『陽菜荼は俺とは違って、料理だけは上手だな』
ーーーー初めて作った料理を食べた父に頭を撫でられたときのセリフが脳内で流れる。
"だけは"と余計な文字が入っているものの、好きな……親愛している父に褒められるのは悪い気はしない。
なので、あたしは父曰く唯一の取り柄である料理を極めようと日々、精を出しているというわけだ。
レシピを記した大学ノートもこの町に来る前に三冊目へと突入しており、自由帳を含めれば……4冊目となる相棒を片手に、あたしはガラガラと
料理本が納められているであろう場所へと歩みを進めながら、父が喜ぶ姿を思い浮かべ、笑みを零す。
今日は父が遅くなると言っていた日なので新たなレシピを覚え、次の日の晩にでも作ってみれば驚いてくれるだろうし、何よりも喜んでくれるはずだろう。
「よいっしょっと…」
図書室に到着後、目に入ったレシピが載っているっぽい本を両手に持ち、ガラ空きの机に山積みにして、1ページ1ページめくっていく。
"んー、これでもないな……これも……"
目星を付けた全ての本をめくった結果、小学校の図書室ということか。大したレシピは載っておらず。殆どは今のあたしでも作れるものが主だったといっても……中には本格的な料理本もあったのだが、毎日毎日料理番組をチェックするあたしにとって、そこに書いてあるレシピは既にマイレシピの仲間入りを果たしているものだったのだ。故に、あたしは壮大なため息を吐きながら、レシピ本を元に戻そうとしたときだった。
「なにをみてるの?」
「!」
今まで誰もいないと思って油断していた中で突然背後から声をかけられ、ピクと肩を震わせながら振り返ってみるとそこには"そんなに驚かなくてもいいじゃない"とムスーとした様子の同級生かつ隣人さんの朝田 詩乃が立っていた。
大事そうに本を抱いているところを見ると彼女もこの図書室に本を探しに来たと見える。
“そういえば……“
今日の音楽室に向かう時も大事そうに本を抱いていた。
昼休みも本を開いている姿を目撃するし、彼女は根っからの文学少女なのかもしれない。
もう一度チラッと彼女が抱いている本の表紙と分厚さを見てみるが、料理本ばかり漁り、文学に関してはちんぷんかんぷんなあたしには読んでも理解できそうにない、読み出しても飽きてしまいそうな分厚さだ。
「ねえ、あなた。わたしのはなしきいてる?」
そんな事を思いながら、沈黙しているとズイと不機嫌な顔が近づいてきた。
ので、あたしは彼女に隣の席を譲る為に山積みにしていた本を退け、椅子を引きながら答える。
「え……あー、なにをみているかだよね。きみにくらべるとかわいいものだよ。はい、りょうりほん」
「りょうりほん?」
引いた椅子に腰をかける前に「ありがとう」と小さく呟いてから、腰を落とした彼女はあたしが差し出した料理本を一瞥してからこっちへと視線を向け、眉を潜める。
その表情は明らかに"不似合い"と思っている感じだった。不似合いなのはあたし自身もわかるし、ある程度周りの態度も理解しているが……ここまで明らかな態度をされると不機嫌になる。
「はいはい、あたしもふにあいっておもってるから。わらうならわらえばいいよ」
彼女に差し出していた料理本を手前に戻してから逆にムスーとしてみる。すると、真顔で彼女が問いかけてくる。
「なんでわたしがあなたのことをわらわないといけないの?」
「だって、きみもおかしいつておもってるんだろ。あたしみたいなやつにりょうりなんて」
実際、前の学校ではよくからかわれたものだ。
まー、からかわれたからといって激昂することもないし、当時は笑われる事よりも家庭をどうにかすることに必死だったから。周りの笑い声も気にならなかったが……。
何故か、目の前の隣人に揶揄われるのはムカついた。故に先手を打ってみたのだが、逆に質問されてしまった。
「べつにおかしいともおもわないし、わらわないわよ」
「?」
「だって、あなたがりょうりをおぼえるのって、おじさんのためなんでしょう」
「!」
動揺が瞳へと走る。彼女はどこまでうちの家の事情を知っているんだと、マジマジと隣を見る。
それを目敏く発見されたあたしは彼女が悪戯っ子のような笑みを浮かべるのを視界におさめた。
「まえ、おじさんがいえにはいるまえに"はぁー、きょうはひなた。おいしいってたべてくれるかな……"っていいながらはいっていったもの。てにはふたりぶんのしょくりょう。おじさんがりょうりするのはそのときしった」
「ーー」
「でも、おじさんがりょうりべたってかくしんしたのはあなたがみせてくれたりょうりほん。あと、さっきのひとりごと。それと、まいあさ あなたのたいちょうがわるそうだから……」
そこまで言ってから、"合ってる? "とこっちを見てくる彼女にあたしは両手を上にあげる。
言っていること全てが的を射ていて、反論する余地もないだろう。
「まさか、そこまでみぬかれているとは……あさださんはえすばーかたんていさん?」
「そんなわけないでしょう。ただのしょうがくせいよ」
ただの小学生が隣人の秘密を微々たるヒントから導き出せるものだろうか。
もし、本当に彼女が普通の小学生ならば、彼女レベルの鋭さを周りの同級生も持っているということだ。そうなれば、我が家の秘密が露見になってしまう……。
慄くあたしとは違い、彼女はあたしの左手の下にあるノートをトントンと人差し指で突きながら、問いかけてくる。
「そののーとは?」
「? あー、これはレシピをかきうつすためのもの。きたいじだけどみる?」
「いいの?」
「いいよ」
見られて困るものは書いたないし、何よりも彼女自身がこのノートに興味津々な様子だったので……見せてあげたほうがいいだろう。
そんなことを思いながら、あたしの殴り書きで書かれているレシピ本を小説を読んでいるかのように見ていく彼女の隣であたしは持ち出したレシピ本を返しに向かっていた。
山積みにされていたレシピ本を返し終えた頃、彼女もあたしの書いたレシピ本を読み終えたようであたしに大学ノートを手渡しながら、問いかける。
「
「まーね」
「そうなんだ……」
そこであたしは眉を潜める。
あれ? さっきなんか違和感があったような……?
ナチュラルすぎて聞き流してしまったが……明らかに不自然だったところがあったような気がする。
それがなんだったのか、分からないまま……あたしは眉を潜め続け、腕を組んでいると椅子が引かれる音が聞こえる。
音がする方を見ると彼女が借りる予定の本を手に持ちながら、あたしの方へと向かい合っていた。
「ひなたはもうすこしレシピほんをみるの?」
「んー、どうしようかな。これいじょうはくらくなりほうだし、かえるよ」
「そう」
「よかったら、いっしょにかえる?」
そう言って、彼女……詩乃と共に図書室を後にしてからというもの、あたしと詩乃の仲はみるみるうちに縮まっていったのだった。
次回はいよいよかな……。
今日の24時からSAOの21話が放送ですね〜♪
ガブリエルとの対戦が終わり……あとの数話でロニエちゃんの話をするのかな〜とワクワクしてたりします。
何はともあれ、とても楽しみです!!