sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜   作:律乃

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いちゃラブまではまだまだ時間がかかりそうです(笑)




詩章003 一匹狼同士

「ね、次は音楽室でしょう。一緒に行こう」

「うんっ」

 

転校してきた当初は話しかけてくれていた同級生達の数も1日、1日経つ度に減っていき、窓からこっちを見ていた野次馬も激少し、家庭もろとも落ち着いてきた頃、あたしは次の授業で必要な音楽の教科書等を持ち、とぼとぼと一人廊下を歩いていた。

 

"うむ、みごとにハブられましたな“

 

"まーいいけど"と思いながら、前を歩く数名のグループが歩く方向へと歩き、窓から広がる青空を見つめる。

落ち着いたとはいえど、小学校の設備全てを理解しているというわけではない。音楽室や図工室、理科室等は未だに迷路か! ってツッコミたくなるほどに複雑だし、何よりも教室から歩く距離もあり、ぶっちゃけると怠い。

怠いと言っても周りにハブられているからというわけでは決してない。そもそもあたしからハブられるように仕向けたわけだし……そもそも夏休み寸前の7月中盤に転校してきた奴が転校初日で既に出来上がっているグループに属せるわけがない。遠くで父が"お前はいつもどうしてそうなんだ! もっと周りにーー以下省略"と嘆いている姿が目に浮かんだが、こればかりはあたしのせいではない。変な時期に転校させた父の方にも問題は大いにある。

故にあたしは群がらないし、あたしがあたしでいられる場所をのんびりゆったりと探していく予定である。

 

“?”

 

不意に、さっきから隣で揺れる焦げ茶色の房に目を惹かれ、隣を向くと同じようにクラスからハブられ、一匹狼を貫く同級生へと視線を向ける。

あたしよりも小柄な体躯を小学校の制服で包み込み、憂鬱そうに前を見て歩く視線は同級生というよりも目的地である音楽室のみを見つめている焦げ茶色の瞳。一歩踏み出す度に揺れる房は顔の左右で縛られているようで、ショートヘア共に空気が入る度にふさふさと揺れている。色は瞳と同じで焦げ茶色。

そこまで見て、あたしは何処かでこの子を見たような気がして、不躾にもマジマジと容姿を見つめる。

 

「……」

 

迷いなく目的地に向けて歩く姿勢……退屈そう、憂鬱そうに見えるが、同時に険呑感を周りに与える焦げ茶色の瞳ーーーーハッ!? って、この子、隣の朝田さんか!?

 

険呑感で相手を把握しているあたしもどうかしているように思えるが、この子は学校でもこの威圧感を周りに放出しているのか。

だとしても、この子は転校生とあたしと違い、1年から……もしかすると幼稚園、保育園から同級生と同じグループだったはずだ。

 

なのに、周りと属さないこの子はーー

 

“ーーもしかして、ハブられてるんのか? あたしとおなじように?”

 

「……なに?」

 

隣をジィーーと見つめ、隣人であり同じ一匹狼という孤独との戦いの道を歩く戦友の姿を誇らしげに見ていると低い声で要件を聞かれてしまった。

険呑さを帯びる彼女も今まで自分を見ていたのが、隣に越してきた転校生だったと把握したのか……態度を緩和させーーーーるわけもなく、より険呑さが増し、少し吊り上っていた瞳が細くなっていく。

 

「あー……」

 

ここで"別に"と答えてしまったならば、キツイ言葉が返ってくるのは確実だ。例えば"別にならジロジロ見ないで、この変態"とか……いや、同性をジロジロ見たくらいでなぜ変態と言われなくてはいけない。視姦しているわけでもないのに……。と、いけないいけない。話がズレてしまった。

この場合は相手が興味がある話題に持っていく方がいいだろう。って事は、さっきから大事そうに胸に抱いている本の事を話題に挙げてみるか。

 

「てにもってるそのほん、おもしろそうだね」

 

差し支えのない言葉で答えてみると隣人の表情からは険呑さは消えたが、代わりに驚愕の雰囲気が増していく。そして、無言であちらさんがこちらをマジマジと見つめてくる事態に陥った。この場合、あたしはどうすればいいのだろうか……代わりにマジマジ見ればいいのだろうか?

 

「……」

「あの………あさださん?」

 

だが、何分になっても返事が返ってくる事はなく……あたしは耐えきれず、彼女の名字を呼ぶ。

 

「……あなた、いかにものうきんそうなのに、このほんがおもしろいってわかるんだ。いがい」

「……」

 

隣人と交流を図ろうとして、話題作りをしようとしたら"脳筋"と罵倒されました。悲しいです………。

っていうよりも、そんなに運動にしか興味がないように見えるだろうか。まー、実際。勉強よりも運動……身体を動かす方が好きだったりするけれども……。

落ち込んでいるとツンツンと肩を突かれる。突かれた方を見れば、件の彼女が前を指差している。

 

「ついたよ」

「?」

 

前を見るとそこには《音楽室》と書かれたプレートが下がっている教室……どうやら、彼女との会話に夢中で知らぬ間に目的地へと辿り着いていたようだ。

スタスタと教室に入っていく彼女の背中を見送りながら、あたしは苦笑いを浮かべる。

 

"おとうさん。こんかいばかりはあたしのよそうのほうがあたるかもよ“

 

昔から父の直感はよく当たるのだが、今回ばかりは難しいかもしれない……。

そんな事を思いながら、あたしも音楽室へと脚を踏み入れるのだった。

 

 

 




スピードあげねば!

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