今年もよろしくお願い致します!!!!
ネタバレ
【公理協会 100層《神界の間》】
「……ふふ」
挑発するように愛刀の柄を握り締めたまま、こちらを睨みつけてくるあたしを見つめながら、人界の覇者であるアドミニストレータは背中へと流れる銀髪をふわっと舞い上がらせながら、足を組み直すとくすくす笑う。
その余裕に満ち満ちた笑みが気に入らなくて、食って掛かろうとした瞬間、今までずっと口を閉ざしていたちんちくりんピエロことチュデルキンが憤慨に染まった声で部屋中に響かせる。
「だっ、だまっ、黙らっしゃぁぁぁぁぁイッ!!」
「……」
「この半壊れの騎士風情ーー」
「ーーいや、あたし騎士じゃないし、侍だし……そこ間違えないでくれないかな…」
「「「……」」」
な、なんだよ……アリだけじゃなくて、キリやユオも"今気にするところそこかよ"って人を呆れような目で見るの。言っとくけどね、君たちやあそこにいる小太りピエロは騎士と侍が同じって思うかもしれないけど、あたしにとってはこれは譲らな………へ? あ? そんなこと分かってるから、とりあえず前を向けって?
ちょんちょんと"前を向け"というジェスチャーをするキリトに促せるままに前を向くあたしが見たのはまん丸お腹をたぽんたぽんと揺らしながら地団駄を踏んでいる頭でっかちな道化師の姿で真っ白い白粉を塗っているはずなのに真っ赤になっている。
“あらま…りんごみたいに真っ赤になってちゃって………あー、りんご食べたくなったわー”
抑えきれなくなってきた食欲に耐えているとそんなあたしの姿がより水油となってしまったようで"ふがふが"と息荒く地団駄したチュデルキンがビシとあたしを指差す。
「ーー貴様の意見など微塵も聞いてないのですよッ!! いいですかっ。お前もそこにいる金ピカ小娘もアタシの命令どおりに
”あ、あの……あんまうちのアリスさんを挑発しないでくださる? "金ピカ"って言われた瞬間、ピキッて周りの空気が絶対零度以下になったからさ……”
実際、隣で同じく意味わからないことを口走りながら怒り狂うチュデルキンを見ているアリスの普段は暖かい光を讃えている青い瞳が氷塊のような冷たさへと早変わりし、桜色の唇が微かに形作る笑みはさっきまでの緊張感を吹き飛ばしてしまったようで……目の前にいるピエロへの怒りしかなかった。
“おいおい、どうするのっ。この鬼おこアリス様、あたしには止められんぞ……”
ガタブルと隣のアリス様から漂ってくる絶対零度の視線と静かに燃える瞋恚の炎に震えているあたしにチュデルキンは不敵に笑う。
「ガタガタと震えているということは貴様もようやくアタシのーー」
「ーーいや、あんたのことなんて微塵も怖くないから、勘違いしないで」
ふむ、なんだか上の文章だとツンデレっぽいな……と下らないことを考えていると
「ムッホォォォォォォォ!! この小娘どもがァァァァァァ!! このアタシに無礼千万ぶっこきやがった罰としてッ!! お前たちはリセットが終わったら三年は山脈送りだぁぁぁぁッ!! いや、その前にアタシのオモチャとして、色んなことをしたりさせてたりしてやるぅぅぅぅぅッ!!!!」
「丁重にお断りします」
「お断りしてんじゃね–––ぇですよ!!」
その後もガアガアとあたしとアリスにしようとしているあーんなことやこーんなことを言いつづけたチュデルキンでそれでどうやら怒りが幾らかは収まったようで空中に浮く主人へと振り返る。
「ふわあ……」
その主人はあたしたちの長いやりとりを傍観するのも疲れてしまったようで大きな欠伸をしていたが……。
「猊下、それで小生のお願いは……」
「……いいわよ」
「ホヒ?」
衝撃のあまり変な声を漏らすチュデルキンを見下ろすアドミニストレータのあらゆる光を跳ね返す鏡の瞳の中で侮蔑と嘲弄の色が揺らめき、言葉の意味を飲み込み喜びに打ち震えているピエロを一瞥しながら、瞳に浮かぶ感情とは正反対な、慈愛に満ち満ちた声で囁く。
「創世神ステイシアに誓うわ。あなたが役目を果たしたその時には、私の体の隅々までも、一夜お前に与えましょう」
その言葉がまったくの偽りであることはあたしだけではなく、横に並んでいる仲間たちでも見抜けたではなかろうか?
この世界で暮らし、この公理協会で暮らした数日間でもひしひしと感じていた違和感……それは恐らく、その世界の人間は、恐らく人工フラクトライトの構造的要因によって、自分より上位の法や規則を逆らえないということ。その法の中には、村や町のローカルな掟から、帝国基本法、禁忌目録、更には自ら神に立てた誓いも含まれている。
つまり、それらの原則は最高位の管理者たるカーディナルやアドミニストレータにも適用させていると考えられる……幼い頃、親に与えられた行動規範がいまも生きていて、カーディナルはティーカップをテーブルに置けず、アドミニストレータは人間を殺せない。
だがしかし、目の前で空中に浮くアドミニストレータは、自分が神への誓いにすら縛られないということをあたしの前で実証してみせた……いいや、この人はずっとそれを行なっていたか……。
“嘘、偽り……本当、真実……”
この世界に来てから、この世界に暮らす人々と触れ合っていて、ずっと胸の真ん中辺りがチクチクと痛むのを感じていた……そうか、この世界の人々は
“なら、アドミニストレータへと感じているこの怒りは自己嫌悪、同族嫌悪って奴か……”
「カナタ…?」
「……あぁ、ん、大丈夫だよ」
顔を覗きこんでくるアリスに曖昧な笑みを浮かべてみせるとうつむき気味だった顔を前に向けると主人の偽りを見抜けずに喜びに打ち震えているチュデルキンの姿があり、両目から大量の涙…口元からは涎垂らし…喜びに震える声音で言葉を紡ぐ。
「おお……おおうっ…………小生、ただいま、無上の……無上の歓喜に包まれておりますよぅ…………もはや……もはや小生、闘志万倍、精気横溢、はっきり言いますれば無敵ですよぅぅぅぅぅッ!!」
ピョーンと床に向かって頭からダイブしたチュデルキンは両手、両足をパチンと勢いよく重ねるとホールへと大きな声を響かせる。
「シスッ! テムッ! コォォォォル!! ジェネレイトォォ、サァァマルゥゥゥゥ、エレメ––––––––––––––––ントオオオオゥッ!!」
続けて、ピーンと広げられた四肢の先にはボウッと熱を帯び、まるでルビーのように真っ赤に燃え盛る熱素が計20個くらい整形されており……あたしはキュッと唇を噛み締める。どうやら、そろそろ真面目に取り組まないと本気になった元老長殿を止めることも倒すことも出来ないかもしれない……と焦りを顔に出すあたしやキリト達を見ていた両眼が勝ち誇ったかのように細められ……続けて、その両目が暖炉で燃え盛る炎のように真っ赤に染まっていき……その瞳のすぐ目の前に指先にあるルビーの玉よりも大きなものが生成される。
「…あのピエロ正気か」
あのピエロは自分の両眼すらも端末として利用し、二十一個目と二十二個目の
射出前の素因それ自体も、わずかはあるが属性に準じた性質のリソースを放散しており…指先数センチくらいに熱素を呼び出すくらいならば多少熱く感じるくらいで済むが、眼球の至近距離であれほど大きなものを保持すれば……無事で済むわけないのだが……実際、じゅうじゅうと両眼の周りの皮膚が音を立てて焦げ始める。
しかし、チュデルキンは熱さも痛みも全く感じてないようで……眼窩が黒ずみ、異様な凶相へと変貌を遂げた顔全体を笑みの形に崩すと甲高い声をあげる。
「お見せしましょォォォォォォゥ、我が最大最強の神聖術ゥゥゥゥ……! 出でよ魔人ッ!! 反逆者どもを焼き尽くせェェッ!!」
そう絶叫したチュデルキンは目にも止まらぬ速さで回転し、両指に作り出した二十の素因はすぐには変形することなく横に並ぶあたし達を攻撃するかのように頭上や顔の横を通り過ぎる。
と、チュデルキンとあたし達の間にある空間の間を高速で飛び回り…次第にルビー色に光る軌跡が、忽ち巨大な人間のかたちを描き出していくのを、あたしは愛刀の柄をギュッと握りしめながら、出方を見ていると……その宙へと描かれている人の形が作り出していく。
ちんまりした脚、でっぷりとまん丸に膨れたお腹、妙に長い腕、そして複数のツノが生える冠を載せた頭……その出で立ちはまるでチュデルキンをそのまま数倍に拡大したかのような、轟々と燃え盛る赤いピエロだ。
メラメラと燃え盛るそのピエロの身長は5メートルで……見上げる位置にある巨大な顔は作り出したものを用いているといえど残忍に思え、分厚い唇の隙間からチラチラと見え隠れする赤い舌、細長い吊り目を作る割れ目からは炎の巨人であるにもかかわらず凍てつくような冷気が放射されており……両手両足を振り回しながら、熱素でピエロを作り出したチュデルキンは最後に残る二つの素因を宿した両眼を、勢いよく閉じると…何もなかった空間にギロリとした瞳が出現し、殺意のこもった視線であたし達を見下ろす。
「アリ」
「…はい、カナタ」
「キリト達と一緒に後方で支援してくれるかな」
「もしかして、一人であの巨人を相手するというのですか…っ」
「危険って君もキリ達も言うと思う。でも、君の花達ではあの炎と相性が悪い。でも、あたしの泉ならあれくらいの火、消しとばせる」
「ですが……」
「大丈夫。無茶はしないようにするからさ」
もはやチュデルキン本人の魂が乗り移ったかのような巨大な炎の道化はとんがった靴を履いた右足をゆっくりと持ち上げると一歩前へと踏みしめ…それだけで湧き上がる熱発と地響きに癖っ毛を揺らしながら、何か言いたげなアリスごとキリト達を後ろへと無理矢理下がらせたあたしは愛刀を下から上に向かって一撫でする。
“今からかなり無茶すると思う……でも、
それにーー
「ーー……久しぶりの強敵にゾクゾクしちゃうよな」
ドクンドクンと高鳴る胸の高まりに自然と頬が片方だけ上がり、ニンヤリと笑ったあたしの問いかけに答えるかのようにポコッと泡を弾かせる愛刀を利き手で抜刀してからトントンと肩を叩きながら、右手でくいくいと挑発する。
「あたしと泉水で返り討ちにしてやるよ、でかいだけが取り柄の炎道化。だから、あんたからかかってきな」
その挑発によって迫ってくる炎の道化から背後にいる三人から守るように壁沿いに走りながら、式句を口にする。
「…《リリース・リコレクション》ーー」
この式句はこの世界《アンダー・ワールド》に存在する最大最強の闘技、武器の記憶を呼び起こし、超常の力を顕わす《武器完全支配術》の、更なる
“泉が癒すだけじゃないってこと……分からせてやる”
「ーー包め、泉ッ!!」
自分の周りを高速でさらさらと流れていく水滴達が次第に自分へと集まってくるのを感じながら、あたしは自分に向けて振り下ろさせる右足へと両掌を向けた。
ネタバレ
本編のちょっとした補足/カナタの《完成支配術》の神髄《記憶解放》について……
カナタの《泉水》は、元はアリスちゃんの金木犀が立っていた側で沸いていた""泉""となってます。
そして、完成支配術を行うと刃が小さな水滴達になって…その水滴達が雨となり、負傷者の傷口や身体に当たることによって忽ち回復することができます。
今回の話でカナタが水滴達を自分の方へと纏わせていたのは……泉の記憶解放を見て、カナタが考えた技となってます。
基本は後方支援で回復・サポートがこの章のカナタの役割なのですが……それで終わらないのが""香水陽菜荼""という子なのです!!
~*~*~*~*~*~
最後に、前書きでも書かせてもらいましたが……昨年は殆ど更新を休みがちで楽しみになさられている読者の皆様を待たせてしまうことになってしまいすいませんでした……(高速土下座)
今年も昨年のように休みがちになってしまうかもしれませんが……読者の皆様をあまりお待たせしないように、ゆったりと更新していこうと思います!
あと、すごくどうでもいいかもですが……今年の【
ですので、年女になる今年は、少しでも今までの自分よりもパワーアップしていきたいと思っていますので……これからもこの作品【sunny place 〜彼女の隣は私の居場所〜】と
~*~*~*~*~*~*