リバースフラッシュが走る   作:バケツ頭

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注意、ネタバレになりますが今回の話は主人公の大切な人が死にます。それでも良いという方だけご覧ください。














第3話 続かない幸せ

「はい、これでもう大丈夫。頑張ったご褒美だよ」

 

私は幼い金髪の少女の手当てを終えるとカバンから自家製のアメ玉を手渡した。少女は嬉しそうにアメ玉を受け取った。私は子供の治療をする時は必ずアメ玉やお菓子を持って来ている。

 

「ありがとうソーン先生!」

 

「ありがとうございます、ありがとうございます!」

 

「後は安静にしておいてください。それとこれを食後に服用してください」

 

私がスター診療所で働き始めてから早くも一年近く経とうとしていた。私は前世で得た知識でシュタイン教授の診療所を手伝っていた。この半年で私はシュタイン教授に新たに医療技術を教えてもらった。シュタイン教授はドラマでもそうだったが本当の天才だ。彼の話を聞いているだけで本当に勉強になるよ。

 

「そういえばご主人は何をなされているんです?」

 

「軍人なんです、それで中々帰って来ることが出来なくて。あのもし宜しければ今度私の主人も交えてご飯を一緒にどうですか?お礼もしたいですし」

 

「実は明日には帝都を離れるんです。でもお誘いありがとうございます、また機会があれば妻と一緒に来させていただきますね」

 

「ええ、ぜひ来てくださいね」

 

本日の診療を終え私は文字通り走ってで自宅へと戻る。帰宅時間は僅か数秒、スピードフォースを得て良かった点の一つが遅刻をしなくなったということだ。自宅の診療所に着くと私は毎度の如く摩擦で火が起こった靴を消火した。こればかりはどうにもならないものだな。一体いくつ靴や服を買い直さなければならないんだ?

 

「ただいまアリサ」

 

「お帰りなさい、あなた♪」

 

私は家に帰ると我が愛する妻の頰に軽くキスをする。一番な変化はやはりこれだろう。実はアリサと私は結婚したんだ。私が診療所で生活するようになった一ヶ月後に交際を始めそこからは正にほんの一瞬で結婚まで行ったよ。その時に私が前世の記憶を持っていることやスピードフォースのことについても話したんだ。最初は戸惑っていたが直ぐに納得してくれた。因みにだが新婚旅行でアトランティスを訪れた際には走っていった。船に乗って行くよりは速い。

 

更に今アリサのお腹には新しい命が宿っている。私とアリサの子だ。この世界では性別が分かるのは生まれてからだが男の子ならバリー、女の子ならジェシーにするつもりだ。承知の通りだがこの名前はフラッシュとジェシー・クイックから取ったものだ。

 

「あら、またお腹を蹴ったわ」

 

「本当か!元気に生まれてきてくれるといいな」

 

「私も初孫が楽しみだよ」

 

だがこんな幸せの中で私はある事だが気がかりだった。幸せすぎてつい先月までは忘れていたが、もうじきアカメが斬るの原作が始まる頃だ。だとすると帝都はもうじき荒れ始めるだろう。私には家族ができた、家族を守る為なら何だってする。

 

「なあアリサ、この子も生まれることだし新しい地に行かないか?」

 

「え?いきなりどうしたの?」

 

「今帝都には不穏な空気が流れている。この街は危険なんだ、この子を育てるためにも安全な場所に行こう」

 

とその時扉を何かが激しく打ち付ける音が聞こえた。私は念のため、リングに手をかけいつでもリバースフラッシュになれるよう身構えた。この世界では開けた瞬間にグサリという事は良くあるんだ。私が扉を開けると外には傷だらけの男が扉の前に座り込んでいたのだ。

 

「た、頼む。助けてくれ」

 

「かなりの重症だな。さあ入ってくれ」

 

私は男に肩を貸し診察室まで案内した。診察室のベッドに寝かし私とマーティンは彼の治療を始めた。なんて傷だ、一体何と戦ったのやら。

 

治療が一通り終わり男はベッドで眠っていた。話を聞くのはまた後日にした方が良さそうだな。それと彼の新しい治療施設も見つけないといけないし。

 

しかし次の日朝起きると男はベッドの上から居なくなっていた。朝早くに出ていったようだ。少なからずだが机の上には治療費が無造作に置かれていた。まあいいか、どうせ今日でこの街を離れるんだ。今日はやることが沢山あるぞ。先ずは今まで受け持った人たちに挨拶回りからだ。全てが終わったら海を越えた向こうの大陸にあるキーストーンシティへ向かう。

 

 

その頃、イオバードに助けられた男は深くフードを被りある場所に向かっていた。彼は帝都の警備隊本部に向かっていたのだ。警備隊本部に到着すると警備隊長の一人に声をかけた。

 

「何の用だ?」

 

「実はですね。スター診療所で革命軍の男が出入りしているのが見えて、もしかしたら革命軍と繋がっているのかと思って」

 

「それは本当か!?前々からあの一家は胡散臭いと思っていたが」

 

「へっへっ、楽しみにしてるぜ。リバースフラッシュ」

 

男はそのまま路地に入り姿を消した。

 

 

すっかりと遅くなってしまった。今日1日で私が今まで受け持った患者達の所に行き挨拶に回っていた。病気が長引いている人には私が作った薬を処方しておいた。それらの薬の作り方も紙に写して知り合いの医者に手渡した。これで心置きなく帝都を離れることができる。

 

「ただいま。アリサ?今帰ったよ?」

 

声を張って呼びかけるが返事は返ってこない。それに家の中が嫌な位に静かだった。私の脳裏に最悪の状況が浮かび上がる。私は急いで家の中に入った。更に奥の診療室に入るとそこには血まみれのシュタイン教授が倒れていた。

 

「教授……マーティン!?マーティン!!」

 

「うう………イオ、バードか?」

 

「一体何が!?ア、アリサは何処だ!?」

 

「…………昨日助けた、男性が革命軍の一人で、それを助けた私達も革命軍のメンバーだと思われ…………娘を…助けてやってく、れ…………」

 

そのままマーティンの体を揺さぶるが反応はなかった。マーティンは私の腕の中で息を引き取った。そんな………しかしマーティンの死を悲しんでいる時間はない。

 

「アリサ!!」

 

アリサを探しに帝都にある全ての警官隊の本部を捜索した。しかし、アリサは何処にもいなかった。その後数時間全ての拷問施設や刑務所などを捜索したがアリサが見つかることはなかった。居場所を知っているとすればレオーネか。急いでいつもレオーネが顔を出している酒場へと走った。案の定酒場のカウンターにはレオーネの姿があった。

 

「よおイオバード!今日帝都を出ていくんだって?寂しくなるよ」

 

「レオーネそれどころじゃない!アリサが、アリサが連れていかれ!帝都中を探したが見つからないんだ!」

 

「何だって!?本当に全部探したのか!?」

 

「ああ、でもこれ以上心当たりが」

 

「マティスの所は?」

 

「マティス、バートン・マティスの事か?」

 

バートン・マティス、帝都の富豪の一人であまり良い噂を聞かない人物だ。それに私と結婚する前からアリサにアプローチをかけていたらしくストーカーの域だ。私とアリサが結婚してからはそんな事無くなったが彼奴が手を回したのなら納得がいく。

 

その上バートン・マティスはDCコミックのヴィランであるドルメイカーでもある。同性同名なだけかもしれないが、ドルメイカーと同じ性格をしているのならば警戒しなければならない。かなりの狂人に違いないからな。

 

「マティスの家に行ってくる」

 

「ちょっと待てよ!あんた一人で行く気か!?私もいくよ!」

 

「いいや、これは私の問題だ。私が決着をつける」

 

私はリングを操作しスーツを取り出す。そして空中に飛び出るスーツを身に纏う。これを身につけるのは久しぶりだ。この私の義父を殺し妻を誘拐した奴には必ず報いを受けさせてやる。地獄が天国だと思えるくらいにな。

 

マティスの屋敷に足を踏み入れると屋敷の扉の前には二人の護衛が警護していた。右にいる護衛を気絶させ左側の男の目の前に立ちふさがる。男は突如現れた謎の人物に震え怯えていた。

 

『アリサはどこだ!!』

 

「な、なんだお前!?どうやってここに!?」

 

私は声にドスを効かせて問い詰める。怯えた男を突き飛ばすと尻餅をついて地べたに座り込んだ。私は間髪入れずに男を立たせ壁に追いやる。そして手を超高速で振動させ胸に手を当てた。手はゆっくりと男の体をえぐっていく。徐々に胸に手が食い込んでいくため男の痛みは壮絶なものだった。

 

「あがあっ!!や、やめろ!!やめてくれええ」

 

『答えろ!ここに連れてこられた妊婦は何処だ!?』

 

「ち、地下室だ!!頼むもうやめてくれ!!」

 

男を殴り気絶させ私は直ぐさま地下室に向かった。しかし地下室に入った私は自分の目を疑う。私は愛する妻の姿を見て絶望の淵に立たされた。足から力が抜けたようにそのまま地面に座り込んだ。アリサは全裸でお腹には縫い合わされた傷跡があり妊婦とは思えないほどに細くなっていた。そして口からは少しだが樹脂のような物が垂れていた。そんなアリサはガラスの箱のようなものに閉じ込められていた。そんなアリサからは生気が微塵も感じられなかった。

 

「アリ、サ……ハァ、ハァ、そんな……アリサァ」

 

「美しいと思わないか?」

 

そんな私に声をかけてきたのはアリサと私の子供を殺したバートン・マティスだった。奴はアリサの事を執拗以上に好意を寄せており私と結婚した後もそれは変わらなかった。マティスは私の隣に来て語り始めた。私はマスクをしている上体を振動させているので正体はバレていない。

 

「警備隊の上層部とは古い知り合いでね、少しの金を積んだら彼女を私にくれたんだよ。腹のなかの子供は私が取り出してペットの犬にやったよ。あんな汚物、私には必要ないからね。赤ん坊を取り出された彼女は半狂乱状態になったから、一生私のものにするために人形に作り変えたんだ。この後、彼女の元夫をここに招待して絶望を味あわせてから殺してやるつもりさ」

 

マティスは指をパチンと鳴らす。すると部屋の外で待機していた護衛たちが部屋に入ってきて私を取り囲む。その数からして大体20人くらいだろう。マティスが護衛たちに指示して私を捉えるように命令する。

 

「どこの誰だか知らんが殺してしまえ」

 

「最後に一つだけ聞く………腹の子供の性別は?」

 

「ハッ!命乞いでもすると思ったらそんな事を…………まあいい冥土の土産だ。女だったよ、けどまああんな汚物興味ないがな」

 

護衛達が私に手を差し伸ばした次の瞬間、護衛達は全員首を折られ地面に横たわっていた。一瞬の出来事にマティスは自分の目を疑った。

 

もうだめだ。これ以上我慢する事なんて私には出来ない。こんなサイコ野郎を生かしたまま罪を償わせるのが本当のヒーローならば私はヒーローになんてならなくていい。たとえ悪党や犯罪者と呼ばれようが構わない。このクズだけは殺さなければならない。

 

『来い、マティス!』

 

 

マティスを連れて来たのは帝都から遥か離れた場所にある湖だった。湖に着くと私は腕を振動させマティスの右腕と左足を切断した。断面から血が溢れ出しマティスはその場に倒れこむ。四肢をもぎたい所だがそれで死なれては困る。こいつにはもっと苦痛を与えてから死んでもらう。

 

「ぎゃあああ!!!痛い、たずげて」

 

私はマスクを取りマティスに正体を明かした。マティスの顔から血の気がサーっと引いていくのがわかる。私はマティスの目線に合わせその場に屈み込み頭をつかんだ。

 

「お前ソーンか!?」

 

「ご名答だ、さてこれからお前には私の友人のディナーになってもらう。安心しろ、上手くいけばこの事も忘れるさ、その後にもう一度殺すがな」

 

「一体何の話だ!?こんな事してタダで済むと思ってるのか!?」

 

私は切断した足と腕を拾い上げ湖に投げ入れた。湖の水が赤く染まりしばらくすると水面には一つの巨大な背びれが現れ始めた。背びれは徐々に此方へと向かってくる。背びれの正体は人間とサメを足したような姿をした怪物だった。

 

「ソーン、ヒサシブリダナ。メズラシクエモノヲモッテキテクレタカ」

 

彼の名はキングシャーク、私が帝都に来て半年後に出会った。彼は元々海に住んでいたが住処を追われこの湖に身を潜めていた。そしてこの湖に迷い込んだ動物を食べていたのだ。彼は原作とは違って狂人ではない。それ故、人間達とも仲良くしようとしたが見た目のせいで恐れられ怪物扱いされた。

 

本当は人間を食べたいらしいが動物で我慢しているのだと言う。私はリバースフラッシュとしてシャークの討伐に出かけたがその話を聞いて、1ヶ月に一度巨大な危険種を討伐しシャークに渡すことで人間を襲わないように約束をこじつけた。私が討伐をやめた理由はまだ彼が人間を襲って食べていないことだ。そんな彼を殺すのは間違っていると思ったからだ。

 

「な、なんだこの化け物は!?」

 

「私の友人のキングシャークだ。シャーク、こいつを食べても良いがゆっくりとだ。体の部位が無くなっていく痛みを味わいながら殺せ」

 

「オマエニシテハボウリョクテキダナ。ナニカアッタカ?」

 

「アリサと娘のジェシーが殺された」

 

「ナルホド……ソレナラヨロコンデ」

 

「さっき言ったことをそのまま返してやろう………絶望を味あわせてから殺す」

 

「や、やめろ!!来るなあああ!!!」

 

その後一晩中湖にマティスの悲鳴が響き渡っていたことは言うまでもない。奴の最期は何とも惨めなものだった。胸まで食べられたと言うのにまだ息していたのだ。だが心臓を食べられた瞬間、奴は痙攣を起こしそのま死に至った。初めて喰らう人間の肉をシャークは味わいながら湖へと戻っていった。

 

「シャーク、これを機に人を襲うなんて事はやめてくれよ」

 

「ワカッテルヨ、ソレトアンタモオキノドクニナ」

 

「…………ありがとう」

 

帝都から遠く離れた荒地にソニックブームと振動が巻き起こる。黄色い閃光が縦横無尽に駆け回っていた。私は過去に遡るためひたすら走り続けた。過去に戻ってもう一度やり直す。そうすれば時間軸が変化し今とは別の世界、アリサやマーティンが生きている世界に変わるはずだ。時間軸を変えたらまずいのは分かっているがそんな事をどうでもいい。私の家族さえ生きていればそれで…………

 

アリサ…………始めてキスしたのは夜だった。シュタイン教授が先に寝ている中私とアリサで星を見に行った。星をただ眺めているだけだったが幸せだった。その夜キスしただけでなく初めて愛し合った。私が経験した人生の中で一番の日だった。

 

 

 

 

「あ、また流れ星……願い事しないとな」

 

「フフ、貴方そんなロマンチストだっけ?それで何をお願いしたの?」

 

「君の隣に居たい、今も……この先も」

 

「イオバード…私も貴方の側に居たいわ」

 

「アリサ……」

 

二人の顔が近づき深い口づけを交わす。そしてアリサにのしかかるように抱きしめた。そして互いの服を脱がしその後、私達は野外にも関わらず深く愛し合った。私の元の世界なら通報されるレベルだがこの世界なら問題ないだろうし、それにこの時間帯は誰もここに来ない。

 

「愛してるわ………イオバード」

 

 

 

 

そんな事を思い出しているられるのも束の間、アリサの遺体がふと脳裏を過ると私は動揺し足元がフラついた。そしてそのまま派手に転けてしまった。後一歩という所でいつも成功しない。もう既に挑戦は1000回目を迎えようとしていた。だが、いつまでやっても過去に遡ることが出来ない。これでもスピードが足りないのか。

 

「クソ…………あああああ!!!」

 

私は自分の無力さに腹が立ち地面を殴る。ポタポタと涙が溢れ拳に落ちていく。アリサ…………アリサ………何故私の家族がこんな目に合わなければならないんだ。何が地上最速の男だ、家族すら守れないなんて。私は遅すぎた………私のせいだ…………

 

 

 

 

 

その瞬間イオバードの中で何かが音を立てて崩れていった。

 

 

 

 

 

いや違うだろ?何故アリサやマーティンが殺されなければならないんだ。もっと早くに行動を起こすべきだったんだ。過去に戻ることが出来ないのなら…………今出来ることをやるだけだ。帝都に蔓延る本当の悪に制裁を与える。悪には死をだ…………

 

 

次の日、帝都の裏の悪人の半数が何者かの手によって殺された。その手口からして最近巷で話題になっているナイトレイドでの仕業ではない事は明白だった。全員胸を貫かれているが凶器は見つかるどころか何を使い殺害されたのか分からなかった。

 

最近帝都では悪人を狙った殺しが多発している。頭に銃弾を撃ちこまれた者、電撃で感電死させられた者、氷漬けにされた者、焼き殺された者までいる。そして胸を貫かれたものも同様に。とにかく帝都では悪人狩りが増え続けているのだ。

 

「また殺されたか?」

 

「ああ、これで21人目だぞ」

 

「一体何が殺したんだ?」

 

「誰が、だろ?今帝都中を黄色いボヤッとしたものが駆け巡っているって噂だ」

 

「例の黄色い閃光のせいだとでも?」

 

男がタバコの吸殻を地面に落とすと吸殻の火がオイルに引火して稲妻のマークを作り出した。これと同様のものがすべての殺害現場で見つかっていたのだ。

 

「これでもまだ信じないか?」




次回、ナイトレイド

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