インフィニット・ストラトス 『罪の王冠』(リメイク版) 作:超占時略決
Side 桜華
「あ、あの…少し、お話をしませんか?」
ドアを開けると目を疑う光景があった。まぁ、オルコットさんがいただけどね。けど、オルコットさんの纏う空気が前までの高圧的なのとは全然違って、しょんぼりどよーんとしていた。
「い、良いですけど…部屋、入りますか?同居人がいますけど…」
「出来たら二人っきりでお話がしたいです…」
何の話だろう?オルコットさんの雰囲気からして怒られるってことはないと思うけど…
けど、この提案は渡りに船だね。僕自身、早くこの部屋から離れて一旦落ち着きたいしね!それに、オルコットさんには謝らないといけなかったし。
とりあえず、二人っきりになれる場所っていったら今なら寮の屋上かな?あそこって確か、学校の屋上と一緒で花壇とかベンチ椅子があって開放されてたよね…
「寮の屋上って行ったことありますか?」
「いえ…」
「一旦そこに向かいましょう。案内します」
部屋から出ようとすると、風が肌に直接当たって少し寒い。そこで気づいたというか思い出した。僕の格好を。
「す、少しだけ!待ってくださいッ!!」
バタンッ!!
ISスーツだけで寮内を練り歩こうだなんて、ほんとに変態じゃないか…あ、危なかったぁ!先輩の件とは別で噂が広がって、学園生活がジ・エンドするところだったよ!
「あら、気づいたのね」
「最初に言っといてよぉ!!」
先輩は絶えず笑っている。それを横目にいそいそと着替えの準備をするのだった。
寮の屋上に着いた。ここには聞いていた通りベンチ椅子が中央にある花壇を囲うように点在しているだけだった。そして、僕の読み通り人は誰1人としていない。
ふと、上を見上げると所狭しと星が敷き詰められている。満点の星空とはよく言ったものだね。夜空を見ていると、誤った言葉を使うのも頷けるほど美しく、心を魅了する。
「申し訳ございませんでした!」
満天の星をぼーっと眺めていると、オルコットさんが頭を勢いよく下げた。正直、僕には謝罪の意味が分からないし、何なら僕が謝るほうだと思ってたんだけど…
「今までにした貴方への数々の非礼の、お詫びにと思いまして…」
オルコットさんって、ほんとはすごく律儀な人なんだね。僕みたいに明日謝ればいいやー、なんて思ってる人とは違って態々会いにきてくれるんだし。
「そんな、気にしないでください。僕だって失礼なことをオルコットさんにしましたし、それに謝るのは僕の方ですよ」
「ど、如何いうことですの…?」
「先ずは…戦いが終わったあと、僕はオルコットさんの身体を無許可で触ってしまってほんと、ごめんなさい!」
「そ、それについては触れないでくださいまし…」
「えっ、何か言いました?」
「なな何も言ってませんわ!?」
あれ?可笑しいなぁ。下を向いてたから分からなかったけど、オルコットさんの声がうっすらと聞こえてきたんだけどな…
まぁ、オルコットさんが言ってないって言うんなら、何も言ってないんだろうね。
「僕のこと、許してくれますか?」
「許すも何も怒っていませんわ。それに、あれはわたくしを助けるためにした行動ですわよね?」
「そうですけど…」
「じゃあ感謝こそすれ、怒るなど筋違いですわ」
オルコットさんの印象が今、すごい勢いで更新されて行く…予想をはるかに超えるレベルで優しい。
いや、いい意味で言ってるんだよ?だけど、ねぇ。絶対、「わたくしの身体を触った罪はどんなことよりも重いですわ!?一生をかけて私に許しを請いなさい!!」みたいなことを…
「わ、わたくしはそういうイメージでしたの…?」
「ま、まさか声に出てました?」
「いや、そう思われても仕方ない言動はしてきましたし…」
き、気まずい…何というか、そう気まずい。オルコットさんが僕の言葉のせいで落ち込んでるから、僕がすっごく悪いことをした気分にさせられる。
いや、実際悪いことをしたんだけどね。けどさ、心の中ぐらい正直にーー声に出してるから重罪ですよね、はい。
「今の発言もそうですけど、意図的に無視したり戦ってるときに軽口を叩いたりほんとごめんなさい!」
「そんな謝らないでくださいまし。わたくしの態度の方が問題でしたから」
またもや沈黙。そして、気まずい。どうすればこの状況を抜け出せるのだろうか。こういうとき、大事なのは客観的にものを見ること、だっけか。
えーっと、今の状況を客観視すると、僕もオルコットさんも謝ることがあってお互いに謝った。そして、お互いに自分の方が悪いと思ってる、と。
これってつまり、お互いに相手の謝罪を受け取って水に流せば解決するんじゃね?ウェーイ!俺ってばチョー賢ってるジャーン!?
「え、えと。僕がオルコットさんを許すんで、オルコットさんも僕のことを許してほしいなー、なんてーー」
「それではわたくしの気が済みませんわ!」
で、ですよねー。何かそう返してくる未来が見えてたよ…
その後、つらつらと自分がどれだけ失礼で罪深いことをしたのかを列挙してくる。そんな自分を大罪人みたいに言わなくても良いのに…
「僕のことなんか気にしないで良いんですけどね。じゃあ、一夏には謝りましたか?」
「え、ええ。試合が出来ないと分かったときに、お部屋に伺って謝罪しましたわ」
そっか…この感じだと一夏は許したんだろうね。ほんと、一夏って優しい奴だよね。女の子に対してちょっとだけでも敏感になってくれたら、何も言うことがないのになぁ。
「じゃあ、もう僕からは何も言うことはありません」
「ですが、わたくしは日本の事や男性の事まで侮辱しましたのよ!?」
オルコットさんと僕とで温度差が激しい。許すって言ってるんだから、それだけじゃダメなのかなぁ?
「じゃあ、クラスの皆にはどうですか?」
僕は投げやりになりながらパッと思いついたことを言ってみた。すると、「明日SHRの前にお時間を頂いて謝罪するつもりですわ」何ていう返答が。
もうね、僕思うんです。そんなに自分を追い込まないであげて、と。オルコットさんのやったことなんか、言ってしまえば失礼な態度を取っただけなんだから。
僕みたいに女の子を無許可で触ったみたいな、訴えられたら確実に負けるような事案じゃないんだから、一言謝るだけで良いのに…
アレ、自分で思って気づいたけど、よくオルコットさんは僕のこと許したよね…まさか、オルコットさんの弱味につけこむ形になってしまったのか?
「ほんとに僕からは言うことはありませんから、ね?だからもう気にしないでください!」
「ですが、わたくしのこの気持ちは如何すれば…」
「な、泣かないでください!オルコットさん」
や、ヤバいぞ!これはッ!僕がオルコットの気持ちを晴らせないせいで泣かせてしまった。もし、この状況を誰かに見られでもしたら…僕が女の子を泣かした鬼畜として学園中に噂が広がって後ろ指を指される事態にーー
不味いよ!非常に不味いよ!!何とかしてオルコットさんの気持ちを晴らす方法を考えないと…うーん、あっそうだ!
「お、オルコットさん!じゃあこれは如何ですか?僕と友達になるっていうのは」
これが無理だったら僕はもう如何することも出来ない。お願い、これで満足して下さい!そうじゃなかったら、これからの僕の学園生活が終わっちゃうぅぅぅぅ!!
「お、お友達ですか…酷いことをしたわたくしとお友達になってくださるのですか…?」
おっ、これはいける気配だね。僕がオルコットさんと友達になったら、オルコットさんの気持ちも晴れるし、僕の数少ない友達(幼馴染みを入れて僅か五人)が増える。
それに、何と言っても目の前のバッドエンドフラグを回避できる!!これは僕にとって得しかないでしょー!
「はい。僕は、オルコットさんと友達になりたいんです」
Side セシリア
「僕は、オルコットさんと友達になりたいんです」
杠桜華。初めてお話したときは弱腰で直ぐ謝罪するお方でしたのに、戦いのときに見せた強い意思が篭った紅い瞳。
そして、わたくしの謝罪を全く気にせず、寧ろ自分の小さな過ちを謝罪する広く穏やかな心…
杠桜華。頭の中で貴方の名を呼ぶ度に、わたくしの体温が上がっていくのを感じますわ…
「ありがとうございます。これからはお友達として改めてよろしくお願いしますわ、
「こちらこそ、オルコットさん」
微笑む貴方から、わたくしは目が離せなくなってしまいました。このときからでしょうか。わたくしが貴方を慕うようになったのは…
Side 桜華
「わたくしのことはセシリアとお呼びください」
オルコットさんと友達になってから他愛もない話をしていると、急にオルコットさんがこんなことを言ってきた。
そういえば、先輩にも呼び捨てで呼べって言われたことから逃げてきたんだった…
「い、いや…いきなり呼び捨てとかは無理だから…」
僕は先輩の時と同じ返答をした。だって、いきなり呼び捨てとかすっごく恥ずかしいんだよ…
それに、オルコットさんはイギリスの代表候補生。僕なんかが下の名前で呼ぶだなんて本人の許可が出てもその…周りが、ね?
ちなみにだけど、オルコットさんから敬語で話すのは辞めてくれ、と言われた。「わたくし達は友達ですのに気を使うんですの?」と言われたら、砕けた口調に変えざるを得ない。
「わたくしのことはセシリアとお呼びください」
「い、いや…そのーー」
「わたくしのことはーー」
「わ、分かったよ。よ、呼ぶから」
僕は一旦目を閉じて深呼吸する。落ち着け、落ち着くんだ僕…
他人が何だって言うんだ。本人が呼んでほしいと、強く希望しているんだから仕方がないじゃないか。それに、また泣かれたら困るのは僕だ。
「
「はい!」
可愛い女の子の笑顔を見れたなら、下の名前で呼ぶことも吝かではないな、なんて思っていた。
セシリアと呼ぶようになったせいで、先輩のことも楯無と呼ぶ羽目になったのは言うまでもない。ああ、背後からブスリと刺されなければいいけど、ね。
「昨日の結果よりクラス代表者は織斑一夏君に決定しました!一年一組に織斑一夏君、一繋がりで縁起が良いですね!!」
「ちょっと待ってください、先生!俺、昨日は一回も試合してないんですが…」
「昨日、織斑はオルコットと杠に不戦勝という形でだが二勝している。文句を言うな」
「いやだって千冬ねーー」
バシィイン!!
「織斑先生だ」
一夏の奴、ほんとに成長しないね…それを言ったら叩かれるのは分かりきっているのに。いや、寧ろ叩かれにいってるのか?千冬姉とのスキンシップだ!とか考えて…あり得そうで怖い。
一夏のシスコンは置いといて、今はセシリアと友達になった次の日のSHRで、一夏が正式に代表戦出場者となったことが告げられた。
後々知ったことなんだけど、代表戦出場者ってクラス代表も兼ねているらしいね。ほんと、気絶して良かったよ…
そして、一夏は不服そうだけど、まあなったからにはちゃんとするだろうね。一夏は僕と違って代表者とかに向いてるだろうし。
「ではクラス代表者は織斑一夏だ。異論は無いな?」
「「「はい!」」」
ゴリッ!!
「返事が無いぞ、馬鹿者共」
勿論僕と一夏である。痛ったぁ!これからは千冬さんがいる時には、考えごとをするのをやめようかな…
「「は、はい…」」
「少し、良いですか?」
「なんだ、オルコット」
セシリアが自分の席から立って、教卓の前に出た。
「日本を侮辱するような数々の非礼、申し訳ございませんでした。このようなことは二度とないように致しますので、どうかこれからもよろしくお願いします」
セシリアは昨日言っていたことを実行したようだ。さて、有言実行してくれた訳だし、友達として僕もフォローに入ろうかな。
「僕からもお願いします。彼女にもう一度チャンスを与えてください」
うーむ。やっぱりと言うべきか、僕がフォローしてもクラスの皆は難色を示していた。
僕のフォローだけじゃ皆に許してもらうには足りないだろうけど、僕がこう言ったら…
「俺からも頼む。セシリアを含めて皆で仲良くしようぜ!」
一夏も僕に続いてセシリアのフォローを入れてくれた。ほんと、一夏って優しくて良い奴だね。今回は利用する形になっちゃったから、後でジュースでも奢ろう。もちろん、Miコーヒーをね!
突然、誰かがぱちぱちと手を叩き始めた。拍手した人を見ると廊下側の列の最前席に座ってる女の子、相川さんだった。
勇気ある彼女の行動を切り目に皆が拍手をし始め、やがてクラス中が拍手に包まれる。
「ま、まあ。織斑君が言うなら許すしかないよね…」
「だって、織斑君が一番きつく言われてたもん」
「そうだね…」
よ、良かったぁ…クラスの雰囲気がセシリアを許す方向に流れたぁ。これで何とか、セシリアはクラスでやっていけそうだね。
ほんと、一夏効果、恐るべしだね。それと、最初に拍手してセシリアを許してくれた、相川さんには感謝してもし足りないよ。
「もし次にあのような発言をしたら、全世界に公表するからな?オルコット」
「は、はい!」
千冬さん、実は怒ってたんだ…けどまあ、この言葉的に千冬さんもセシリアを許してくれたみたいだし、万事解決だな…良かった良かった。
「クラス代表…はぁ、鬱だぁぁぁぁ、桜華変わってくれよぉぉぉぉぉぉ」
万事解決だな!良かった良かった!