インフィニット・ストラトス 『罪の王冠』(リメイク版)   作:超占時略決

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第7話 ラッキー・スケベ

Side 桜華

 

僕がピットに戻ると、出迎えてくれたのは満面の笑みを浮かべた一夏だった。

 

「桜華、お前凄えな!凄くカッコよかったぜ!」

 

「あ、ありがとう一夏」

 

「どうした?身体が震えてるぞ?」

 

「疲れてるだけだよ…」

 

ヴォイドを解除した僕に対し、既に僕の肩に手を回している一夏。その行為が僕の身体を震わせているとも知らずに聞いてくる。

何というか、一夏は同性に対してだけ異常に身体的接触が激しいのだ。そのせいで、僕は何回身の危険を感じたか…まぁ、一夏がその気がないのは知ってるんだけどね。

 

「そうか!それでさ、桜華。何か特訓とかってやったのか?」

 

「やったけど、それがどうしたの?」

 

先輩と回避能力を上げるために平日は二時間模擬戦、休日は午前は二時間、午後は三時間半模擬戦したっけ。そして、隙間時間に参考書で覚えたISの知識の定着。結構ハードだったなぁ…

 

「俺、ISに乗って特訓してないんだけど大丈夫だよな?」

 

「えっ、この一週間一夏は何をしてたの?」

 

「箒とずっと剣道やってました…」

 

ずっと剣道って…そんなバナナ。そう思いながら篠ノ之さんの方を見ると僕と目を合わせてくれない。

確かに、千冬さんはISは体を動かして操作するから、体を鍛えろとは言ってたけどさ。僕といちかはまず体を満足に動かすところからじゃないの?

まぁいっか。そこは一夏だし、何とかやるだろうね。

 

「一夏、お疲れ様」

 

「ほ、ほほ箒!やっぱり俺ヤバいじゃないか!」

 

「ええい、さっきからうるさいぞ、一夏!男だったらそんな過去のことを気にするな!」

 

僕が労ったせいで一夏と篠ノ之さんが揉める。その光景を横目に近づいてくる千冬さんに身体を向ける。

 

「良くやったな。杠」

 

「ありがとうございます。千冬さん」

 

「織斑先生だ。勝ったからって鍛錬は怠るなよ?今回の勝利はオルコットの油断から生まれたものだからな」

 

千冬さんに出席簿で軽く頭を叩かれた。叩かれたところを触ると、何故かほんのり暖かかった。

 

「はい、これからも頑張ります」

 

これで先輩との茶番が千冬さんにバレることはないし、頑張って戦ったから千冬さんに言わせっぱなしってことにもなってないよね?

ふわぁあ、それにしてもほんとに疲れたよ。疲れてるせいか視界がぐにゃぐにゃと歪んでいる。あっ、オルコットさんに謝りにいか…な…

僕の意識は唐突にぷつりと切れた。

 

 

 

 

 

Side 一夏

 

「では次の試合だがーー」

 

バタンッ!!

 

何かが落ちた音が俺達がいるピットの中に響いた。音がした方向を見ると、桜華が倒れてーー

 

「桜華!大丈夫か!!」

 

急いて桜華の元へ向かい、その身体を抱える。顔はさっき見た時より赤くなり、体温が高い状態だった。

 

「しっかりしろ!!」

 

「静かにしろ、織斑」

 

「何でだよ千冬姉!?」

 

バシィンッ!!

 

「織斑先生だ」

 

そんなことはどうでもいいよ!!桜華が倒れたんだぞ!?如何して千冬姉はそんなに冷静にいられるんだよ!!

 

「ムニャムニャ…あーたらしいー朝がきたー……」

 

えっ、桜華…?お前何言ってってまさか、寝てるだけなのか?

 

「眠っているだけだこいつは。疲れたんだろう。全く、手間のかかる…」

 

こんなことを言っているけど、千冬姉はとても優しげな表情をしていた。いつもその表現をしてたら直ぐにでもけっッッ!!

 

バシィイン!!

 

「直ぐにでも、何だ?」

 

「いえ、何でもありません…」

 

ナチュラルに心を読むのやめてくれよ…心を読まれるのって考えてることが分かりやすいって言われてるみたいで結構傷つくんだよ。

俺が心を読まれたことに対して凹んでいる中、桜華のふわふわした歌が異様に耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 桜華

 

「ん…んぐぐっ」

 

目が覚めると僕は最近見慣れた天井が見えた。そう、寮の部屋だったんだ。

ふむ、思い出せる最後の記憶がピットの中ってことは、意識がぷつんと切れたのかな?その後、一夏か千冬さんに運ばれてここに寝かされた、と。

ところで、今何時?そ〜ねだ〜いた〜いね〜⤴︎って十九時半か…うーん、微妙。ISスーツが汗を吸ったせいかぬめっとしてるからシャワーを浴びたいんだけど、そうすると食堂が閉まっちゃう。

いや、多分この部屋に食料の一つや二つある筈だろうから、シャワーを先に済ませよう。スッキリした後にごはんを食べたいしね。

そう思い、ベッドから起き上がった僕は脱衣所のドアに近づいて、ドアノブを捻って手前に引いた。

脱衣所には風呂上がりなのだろうか、体をタオルで拭いている先輩がいた…やや赤みを帯びた肌、照れた先輩の表情。これを見て唾を飲み込んだのは果たしてイケナイコトだろうか?

 

「えっーーきゃあああ!!」

 

「ご、ごめんなさい!!!」

 

バタンッ!

 

先輩の声を聞いて我を忘れたことに気づいた僕は、直ぐにドアを閉めてよろよろとその場に尻餅をついた。

見てしまった。いや、目に焼き付けてしまったと言ったほうが正しいか。無意識に先輩の身体を隈なくじっくりネットリと観察し、脳に鮮明に記録してしまった。

僕ってば、こんなにもエロかったのか…無意識だろうが、女の子の裸を観察して記録するなんて…

そんなことを考えてると脱衣所から髪を乾かしていないのか、何時もの跳ねている髪がしっとりとしていてYシャツしか着ていない、顔が真っ赤ですごい怒ってそうな雰囲気の先輩が出てきた。

カッターシャツを見ていると、さっき記録した先輩の身体が透けて見えるように感じる。ヤバい、先輩を直視できない…!!

 

「桜華くーー」

 

「ち、ち違うんです!!そ、そのさっき起きて服もそのままだったから汗を流そうと風呂に入ろうとしただけで、そんなせ、先輩の裸を覗こうとしてわざとやったわけじゃないんです!それで、その、あの……」

 

「言い訳は良いの」

 

「申し訳ございませんでした」

 

僕は人生で初めて土下座をしている。こういうスケベなやつは一夏専門だよね?けど、僕は一夏と違ってかっこよくないし…僕、ここで死ぬのかな?

 

「まあ、もう仕方ないわ。許してあげる」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

えええええ!?嘘、ほんとに許して貰えたのか?少し顔をあげて先輩を見ると、顔は赤いままだけど何時も通りの先輩だった。

僕は頭を上げた後、先輩のやや左の方を見る。僕の態度に疑問を持ったのか先輩は僕の見る方を見るけど、そこには何も変わったところはない。

そう、そこには何もない。僕は未だに先輩を直視できないだけだ。僕の目の前で仁王立ちされると、すらっと伸びる生足からYシャツを着てるのに何も着ていないように見えるだけ…ごくりんこ。

 

「桜華くん。目が獣みたいになってるわよ?」

 

「そ、そんなことないですよ!何で僕の目が野獣みたいに爛々としないといけないんですか!?」

 

「知ってる?女の子って男の子からの視線に敏感なのよ?」

 

バ、バレてる!?ヤバい…このままだとよりにもよってからかい上手の更識さんに変態認定を喰らうっ!それだけは防がないと!?

 

「ぼ、僕はさっきのことなんかこれっぽっちも覚えてませんよ?ええ覚えてませんとも!」

 

「私の目を見て同じことが言えるかしら?」

 

くっ!?この人は僕の状況を分かっててやってるに違いない…!けど、先輩の目を見ないと変態のレッテルを貼られてしまう。それは嫌だ!

 

「ええ、言えますとーー」

 

「どうかしたかしら?」

 

「な、なな…なんて格好をしてるんですかッ!!」

 

先輩は僕が見ていないうちにYシャツのボタンを二つほど外していた。そのせいで、先輩の豊満で今すぐ飛び込んで顔を埋めーー一体僕は何をッ!?これじゃあほんとにへへ変態じゃないかァァァァァ!!

 

「桜華くんのス・ケ・ベ」

 

「嫌ァァァァァァァァァァ!!!」

 

スケベ【名詞】(男性が)異性に対して異常に好奇心を示すこと、及びそうした人。

頭の中をその言葉が駆けずり回る。一度自分がそれだと自覚してしまうと、生涯をかけて逃れることができない。

そして、ここはどこだ?世界でISを学ぶことができる唯一の学校。つまり、九割九分が女の子、つまりそこら中に好奇心を擽られるものがある…

 

「オワタ…僕の学校生活」

 

童貞野郎って罵られるんだろうなぁ…変態が何で学校にいるの?とか言われるんだろなぁ…貴方のこと、軽蔑しますわとか机に書かれるんだろなぁ…ウワァァァァ!!

 

「このことはお姉さんの心の中にしまっておいてあげる」

 

何て心の広い人なんだ…!まさか、先輩って実は天使、じゃないのか!?

いや、先輩は天使なんかじゃなかった。心の底まで黒く染めた悪魔だ。悪魔じゃなかったら明朝体で『ドスケベ』と書かれた扇子をこれ見よがしにあおいだりしないよ!

 

「ところで、先輩は今日の結果ってどうなったか知りませんか?」

 

「君がエッチなことを『ところで』の一言で済ませるんだ?」

 

先輩はこの話を終わらせるつもりは毛頭ないみたいだ。そして、目的は多分僕を揶揄うことだろう。

先輩の裸を見てしまった罪は一体何時間の揶揄いで済むのか、いや何日間揶揄われ続けるのかが分からない。背に腹はかえられないよね…

 

「僕が出来ることなら何でもするんで許して下さい…」

 

「へぇー、()()()、ね。この話はお終いにしましょ♩」

 

そう遠くない未来にこの発言に後悔するんだろうけど、それは未来の僕に頑張ってもらおうかな?だから、今はこのことを忘れよう!

改めて先ずは、僕対一夏の戦いについてだけど、どうやら僕が倒れたせいで棄権って事になって、一夏の不戦勝になったみたい。

そして、残っている組み合わせの一夏対オルコットさんはこれまた一夏の不戦勝だったらしい。どうやら、オルコットさんがISの予備パーツを準備してなかったから棄権したとか。

 

「って事は、クラス代表は一夏がやるんですか?」

 

「そうらしいわね。試合成績だけ見れば彼がトップだもの」

 

ばばっと開かれた扇子には『不戦勝も立派な勝利』と丸文字で書かれていた。伝えたいことは分かるけど、わざわざ扇子に書く意味が分からないよ…

それはおいとくとして、良かったぁ…クラス代表になんてなっちゃったらサヨナラ!静穏な生活。こんにちは!皆から注目される日々!ってなってただろうね…それだけは勘弁して欲しいよ。

 

「話は変わるけど君、私と同い年なんでしょ?」

 

「え、ええ。そうですけど…今何でそれを?」

 

先輩と同い年なのに学年が違うのには理由があるんだ。その理由は少し長くなるから簡単にまとめると…

十年前に大きな事故に遭う僕→事故の日から約半年間目覚めなかった→何故か事故以前の記憶が飛んじゃった僕→では、半年間様子を見ましょう。

この流れで、僕は小学校一年生を七歳のときにやったから年齢と学年でズレがあるんだ。

 

「そうね。私と話すときは敬語を辞めて頂戴」

 

「ちなみに拒否権は…?」

 

「さっき何でもするって言ってなかったっけ?」

 

ま、まぁこれくらいだったら何てことないかな?敬語を辞めるだけでさっきのことを胸の内にしまってくれるならラッキーだよ!

いや、待てよ。この世に顕現した悪魔がこれだけで終わらせるはずが…

 

「次はー」

 

「ちょっと待ってくだ…待って!次って何!?」

 

「別に一つだけとは誰も言ってないわよ?」

 

「くっ!」

 

血の気がさーっと引いていき、首筋から汗が一筋流れる。くそっ!こんなことになるんだったら何でもするなんて言わなければよかった!!せめて一つだけとか言っておくんだった!!

 

「私のことは楯無と呼びなさい!!」

 

ほんとに悪魔だ…変態なことを自覚してしまった直後に距離を縮めて、僕を揶揄いまくってくるに違いないよぉ。

それに、先輩を下の名前で呼んでしまったら殺される…先輩のファンの人達に。これだけは頑として断らないと!

 

「い、いや…そんないきなり呼び捨てとか無理だから!」

 

「たっちゃんでも可」

 

「あだ名とかもっと難易度高いからぁ!!」

 

僕に死ねと!死ねとおっしゃるのですかあなたはぁ!!

 

ピーンポーン

 

突然、部屋のインターホンが鳴った。これは神様が僕にくれたチャンス!この場から逃げ出す口実にこれを利用する手はないッ!!

 

「は、はーい!」

 

急いでドアの方に向かう。先輩が止めようとしないところを見るに、今回は見逃してくれるんだろう。

いつ何時先輩の気が変わるのか分からない。出来るだけ早くしないと…

 

「また後でね」

 

あーきーこーえーなーいーなー。

 


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