インフィニット・ストラトス 『罪の王冠』(リメイク版) 作:超占時略決
Side セシリア
杠桜華がわたくしの手によって撃ち抜かれ、地面に身体を打ち付けた衝撃で砂埃が舞う。その様子を冷静に見ていて思いましたの。ほんとうに…ガッカリですわ、と。
わたくしは少々、彼に期待していました。
彼に何度も何度も無視されたせいで頭に血が上ってましたが、戦っていく内に苛立ちよりも期待感が高まったのです。
何故なら、わたくしの射撃を何度も容易く避けるからですわ。例え『スターライトmkIII』一丁しか使わずとも、わたくしの射撃は正確。初心者を相手に一発当てる事なんて造作もないことですわ。
しかし、彼は避け続けた。ですから、わたくしはブルー・ティアーズ出したのです。武器すら出すことが出来ない彼がどこまで魅せてくれるのかを…
結果は見ての通り。わたくしは未だ空を飛び続けるのに対し、彼は地面に堕ちた。
「噛み応えはあれど、味のないガムにわたくしは興味がありませんわ。早く
わたくしの言葉に対し、彼からの反応がない。意識がなくなればその時点で試合が終わってしまいますので、未だ何かあるのでしょうか?いや、そんなことある筈ーー
ブォオオオオオオンッ!!
その時、一筋の光の柱が地面から昇った。柱が昇ったときに生まれた衝撃波が、わたくしを後方へと吹き飛ばさんとするも、何とかそれに耐えることができました。
「な、何ですの…?」
目の前にある巨大なエネルギーの柱は、わたくしの理解の範疇を軽く越えたものだった。光は収束しつつありますが、あんな膨大なエネルギー量を放つものなど聞いたことありませんわ!?
そして、収束した場所に彼、杠桜華がいました。それはまるで物語に出てくる勇者の様に、天に長い
Side 桜華
『装備欄ー
意識が朦朧としながらも、目の前の光景に手を伸ばした。それが僕に残された最後に記憶なんだけど、いつの間にか太刀の様に長くて滑らかな刀身の剣を手にして立ち上がっていた。
漸く、漸く武器が使えるようになった…もう、今は満足感しかないよぉ。
それにしても、この剣すっごく似てるんだよね。さっき僕に流れ込んできた記憶に出てきた、いのりとそっくりな子から取り出せる剣と…もしかして、さっきの記憶と何か関係があるの?
「あら、まだ戦意が残ってましたのね?」
そうだ、未だオルコットさんと戦ってる最中だったね。短い時間に色んなものを見たせいか、オルコットさんと戦ってた時が遥か昔のように感じる。
「僕にもやっと武器が出せたよ、オルコットさん」
「それは良かったですわね。ですが、もう
そんな声と共にまた四つのティアーズがまたパージされた。
さっきまでの僕なら逃げ回るこおしか出来なかった。だけど、今の僕には剣がーー剣?
剣ってアレだよね近接武器だよね?近接ってことはとどのつまり接近しないと意味がないよね?てことは、相手が遠距離タイプだったら近づけるまで避け続けないといけない…
Oh My God !!今この武器を渡されても意味ないじゃん!剣一本でどう太刀打ちしろと!と、とと取り敢えず回避ッ!
襲い掛かる四つの直線に慌てて避ける僕。そうして、中断されていた戦いが始まるけど、僕は足りない頭を悩ませ続けていた。
どうするどうする?何でか知らないけどエネルギーが若干回復したから、時間稼ぎは出来るけど根本的には何も解決してないよね!?
どうやって、四つのフィンと一丁の銃を切り抜けばいいんだろう?避けきれないレーザーに剣を当てて凌ぐってのを試しにやってみたけど全然上手くいかないし、そのせいで少しエネルギーが減っちゃったし…
こんな方法、剣を握ったことがない僕には絶対出来ないよ。けど、他の方法って言われても剣一本じゃそれ位のことしか…いや、待てよ。
確か、この剣はさっき見た剣とそっくりなんだよね…まさか!?この剣にはあの剣と同じこと、ピアノ線の波が剣を振ったと同時に出てくるんじゃ…
「やらないとやられる…!」
キィインッ!
僕は一番近いフィンに向かって剣を振るった。どうやら僕の予想が当たったみたいで、剣からは衝撃波を模したピアノ線が伸びていき、ティアーズを鮮やかに真っ二つにした。
Side セシリア
「な、何ですって!?」
ブルー・ティアーズが一基、彼が振るった剣から伸びた、細い線が連なったように見えるエネルギー波によって簡単に破壊された。
驚きの余りブルー・ティアーズの操作を手放してしまい、その隙を彼は瞬時に突きましたわ。
「いけっ!」
キィイイインッ!!
剣を横に薙ぎ払う。たった一つの動作で、ブルー・ティアーズを三基を落としたのです。恐らく、あの剣は自分が振るった方向にエネルギー波を伸ばすこおが出来るだけでなく、ある程度コントロール出来るのでしょう…
「無茶苦茶ですわっ!!」
思わず声を荒げてしまいましたけど、誰だって荒げるに決まってますわ!
最初の様子だと、彼は出来ることを知らずにやってのけたのでしょう。そんな彼が二度目には異なる位置に存在するブルー・ティアーズを、それも三基を一回で破壊するなどありえませんわ!
こ、こうなったらアレを使うしかありませんわね…
「来ないで…来ないで下さいまし!」
錯乱した風を装い、スターライトmkIIIの引き金を何度も引きますけど、彼は簡単に避けます。それもそうでしょう。彼はブルー・ティアーズを入れた攻撃を経験しているのだから。
次第に彼との距離がじわりじわりと近づくのを感じながら、わたくしは今か今かとチャンスを待っています。
「これで終わーー」
「ブルー・ティアーズは六基ありましてよ!!」
彼がわたくしとの距離を詰めようと突進してきたのを見て、追尾ミサイル型のブルー・ティアーズを二発発射しました。
彼にはミサイルに当たる未来しかないですわ。何故なら、あのミサイルはBT兵器。わたくしの意思で動かすことが出来るのですから。
勝利を確信しました。彼にミサイルを防ぐ手立てが無い。そして、ミサイルに当たれば残り少ないシールドエネルギーが〇になる。
「おおああああっ!」
彼は驚きの声をあげれも回避行動を取らず、何故か剣先をミサイルに向けます。その行動に対して頭に疑問符が付きますが、疑問は直ぐに解消されることになった。
何と、彼を守るように剣先からエネルギーシールドが現れて、ミサイルを弾いたのですわ。
まるで、夢物語でも見ているではないかと思いたいのですが、目の前で起こる現実にわたくしの理解が追いつかず…
「はぁああああああッ!!」
キィイインッ!!
「きゃあああああっ!!」
わたくしはなす術も無く彼に切り捨てられました。視界の端に映るシールドエネルギーの残量がみるみる減っていくのを眺めていると、『騒動系に異常あり』との警告が出たと同時に、わたくしはISのコントロールを失いました。
ISのコントロールを失った今、わたくしが辿る道は一つ。それは死ですわ。
ISには『絶対防御』があるといっても絶対に安全、とは言えない。異常が出れば絶対防御が発動しない、なんてケースは多いですわ。そして、地上から大きく離れた場所から堕ちればわたくしの身体は…
わたくしの目からは涙が自然と溢れ、宙へ飛んでいく。死が間近に迫ってくる中、思い出すのはわたくしの目標であり、最も尊敬しているお母様の顔ばかり。ああ、お母様。セシリアがこんな所で死ぬのをお許しください。
わたくしはそっと目を閉じました。
「間に合ぇええええッ!!」
これから来るであろう大きな衝撃を待っていましたら、全身が暖かい何かに強く包まれました。
わたくしの身に何があったのかと思いゆっくりと目を開けると、桜色の髪を靡かせ、ちらりと見える切れ長な睫毛に紅い瞳。その瞳は宝石のように美しく、目が離せない。
「煙を上げて落下してたけど、大丈夫ですか?」
「杠…桜華…?」
「はい、何ですか?」
惚けた言葉に普通に返す杠桜華。
今ここでわたくしの状況を確認しますわ。目の前には彼の顔があります。初めて彼の顔をしっかりと見ましたけど、特に瞳が素敵ですわ。こんな綺麗な瞳を持つ人が他にいるでーーこほん。
そして、全身が暖かい何かに強く包まれています。この二つから導き出されるのは…ほ、ほほ抱擁っ!そそそれも!殿方から情熱的な…!
「は、離して下さいましぃぃぃぃ!!」
身体が熱くなっていくのを感じながら、ぐちゃぐちゃになった頭の中を整理しよう試みるも、思うように思考ができません…一体、わたくしはどうなってしまいましたのッ!?
Side 桜華
オルコットさんが落ちた時はかなり焦ったけど、戦いは僕の勝ちという結果で幕を下ろした。
正直、今日の勝利はヴォイドのお陰だったよ。だってさ、剣がビックリするぐらい僕に馴染んだんだ。最後には「あれ?この武器使ったことあるくね?」みたいな感覚に陥ったし、どこかで使ったことがあるのかなぁ?
だけど、もしそうだとしたら僕に記憶がないのは可笑しいし…まさか、十年以上前に使ったとか!…いや、それはないよ僕。五、六歳の子供がこんな大層な武器を振り回す機会なんてあるわけないよ。
「いい、何時までこのままの体勢なんですの!?」
「ご、ごめんなさい!今すぐ降ろします!!」
剣のことに思考を持っていかれたせいで、今の状況をすっかり忘れてた。
試合が終わって、落ち着いて考えてみるとオルコットさんには失礼なことをいっぱいしちゃってるなぁ…ワザと無視したり、オルコットさんは有名人なのに全く知らなかったり、意図的じゃないとはいえ頭突きしちゃったし…
それに、今日は戦ってる時に軽くおちょくってるような口の聞き方をしちゃったよね…これはまた怒鳴られても言い返せない。
どうしよう?先に謝っておいたほうがいいのかな…でも、何の因果かオルコットさんに勝ってしまったわけだけど、勝者がいきなり謝罪するのって「馬鹿にしてるのですのッ!?」って言われそうだしなぁ…
いや、やっぱり謝っておこう!僕が悪いのには変わりないからね。
「オルコッーーあれ?」
オルコットさんに声をかけようにも、既にオルコットさんの姿はなかった。僕ってば、オルコットさんが行っちゃったことに気づかない位考えごとをしてたのか…
『杠、早くピットに戻ってこい』
『は、はい!』
とりあえず、千冬さんに従ってピットに帰ろう。オルコットさんに謝りにいくのは後でもいいかな?
ー杠桜華vsセシリア・オルコットー勝者:杠桜華