インフィニット・ストラトス 『罪の王冠』(リメイク版)   作:超占時略決

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第5話 誤解を誤解とバレないために

Side 桜華

 

あの日から一週間が経って、今日はクラス委員長を決める戦いの日。僕は更衣室の椅子に座って闘う順番が来るのを待っている。

予定では一戦目に一夏vsオルコットさんをして、二戦目にオルコットさんvs僕、三戦目に僕vs一夏、つまり総当たり戦となっている。

この一週間、安息の地が皆無に等しかった。授業中は常に誰かの視線を感じて気が抜けず、放課後は更識さん、先輩にISでフルボッコ。最後にやる大爆発は何回食らっても慣れることはなかったよ…

そして、ボロボロの身体を引き摺りながら部屋に戻ると、先輩が居るんだよ…どうやらね、先輩と僕は相部屋らしくずーっと揶揄われ続けてね、もう僕ちゃん枕を毎日濡らしたよ。

先輩ってのは、僕が先輩からISを教わる立場だから更識さんから先輩に変えたんだ。先輩は「楯無って呼びなさい」って言ってきたけど、僕がそれを全てスルーしました。

だってね、生徒会長を呼び捨てにしたら刺されかねないからね?いや、ほんとなんだよ!布仏さんから聞いたんだけど、先輩はロシアの代表らしくて学園中でモテまくりんらしいんだ!

そんな先輩を、僕みたいな奴が呼び捨て!しかも下の名前をなんてしたらもう…想像するのも怖いくらいの恐怖を体感させられそうだよ。

 

「試合前だってのにやる気が微塵も感じないわね」

 

「先輩…」

 

誰かの話をすればその人が現れるって言うけど、ほんとに現れるんだね。まぁ、今回はちょっと違うんだけど。

 

「男の子なんだから気合いを入れなさいな」

 

「だけどですね、『ヴォイド』には武器が使えないんですよ…」

 

僕のIS、ヴォイドって言うんだけど一つ欠陥というか、欠点があるんだ。

それはね、武器が未だに何一つ使えないんだ。ヴォイドも合計二十時間ぐらいは動かしたけど、武器にかかったロックが解除されないんだ…

そのロックの解除方法を解析すればいいって思うじゃない?ところがどっこい、ヴォイドは外部からの干渉を全く受け付けないんだよ。

そのせいで、ロックの解除方法はさっぱり分からない→戦闘を経験すればいけんじゃね?→そうね、特訓の量を増やしましょう!って流れになってしまって、ねぇ。辛いよぉ…

 

「やる前から諦めるの?この一週間の特訓は何?地面に這いつくばるのが嫌だって思って特訓したんじゃないの!?あなた何時までそこで立ち止まってるの!?」

 

「そ、そんなこと言われたって…仕方ないじゃないですか。僕は僕なりに頑張ってきました!それでも、まるで及ばないんだよ…」

 

「やってみないと分からないじゃないの!このバカ!」

 

パチンッ!

 

肌と肌がぶつかる音が更衣室中に響きわたる。僕は頬を抑えながら先輩を睨む。だけど、先輩は僕の視線をものともせず颯爽と更衣室から出る。

先輩が言ったことは正論だ。そんなことは分かっているよ…だけど!武器がないんじゃどうすることだって出来ないじゃないか…!

悔しさの余り、僕はその場に崩れ落ちた。そして、目からは涙がポロポロと流れてくる。どれだけ拭おうとも、涙は止まることはない。

 

「くそぅ…クソぉぉぉぉぉ!」

『杠、織斑の専用機が来るのが遅れてい……』

 

モニターに映る千冬さんとばっちり目が合った。

あっ、ヤバイ…涙を流しながら声を荒げている僕。この状況を見られてしまった…しかも、千冬さんに。

 

『…涙を拭ってからでいい』

 

モニターが真っ暗になった。静寂が更衣室を支配する中、更衣室の自動ドアが開いた音が聞こえる。視線を向けると、口元を必死に押さえた先輩の姿が…

 

「先輩…これ絶対勘違いされましたよね…?さっきの茶番がガチと取られましたよね?」

 

そう、さっきのは暇な時間を潰すための演技、茶番なんだよ。

肌と肌がぶつかる音?そんなの先輩の手と手だよ!僕の涙はって?そんなの目薬をさしたに決まってるじゃないか!

 

「お、おつかれさププッ!?アーハッハッハッハッ!!」

 

「先輩のバカァァァァァ!!」

 

止めどなく流れる目薬を袖でぐしぐしと拭きながら、僕は全力で走る。

千冬さんの誤解をどうやって解いたら良いんだ?アレは暇潰しの為にやった茶番ですぅー!って正直に言うべきか?けど、それを言っちゃうと絶対にぶっ飛ばされて気絶コースまっしぐらだよね…

 

「杠、如何した?体調でも悪いのか?」

 

「い、いえ。大丈夫です…」

 

気がついたら、僕は第一アリーナのピットに着いたみたいだ。僕は平気そうに答えたけど、ガラスに反射して映る僕の顔は酷く歪んでいる。

そりゃそうだよ。千冬さんの誤解を解く手立てが思いついてないし、これからオルコットさんと戦わないといけないし…

あーあ、一週間前に戻らないかなぁ。今ならもっと上手くオルコットさんと接して、闘わないといけないノリを回避するのになぁー。

 

「桜華、よく聞け。私はお前とあまり一緒に時を過ごしていないが、分かることがある。

お前に悩み過ぎる癖があるということだ。たまにはがむしゃらに突っ込んでみろ」

 

千冬さんが僕の頭を包みこむ。千冬さんから伝わる暖かさは僕の心を解きほぐし、安らかな感情で一杯にーー

って!そうじゃないでしょ!何でも良いから千冬さんの誤解を解かないと!珍しく千冬さんが優しくしてくれてるのに…いや、待ってよ。

もし、さっきのが演技だってバレるとすると、千冬さんは僕にした行為を恥ずかしがって僕をボコボコに…いや、ボコボコなんて言葉よりも上の暴力をされるに決まってるよね?

 

「大丈夫だ、これまでやってきたことをぶつけてみろ。負けたら負けたときに考えたらいいんだ。そうして次に活かせばいい。

お前はまだ学生だ。敗北も良い経験となるだろう」

 

「あ、ありがとうございます!お陰で頑張れる気がします。では、いってきます。千冬さん」

 

千冬さんには誤解を解かないことに決めた僕は、腹を括った。

ヴォイドには武器がない。それは変えようもない事実。だけど、頑張るって言ったからには、無様な闘いは出来ないよね。

千冬さんが見てる。先輩だって、一夏だって見てる筈だ。よし、気合いを入れろ、僕!

もしかしたら、ひょんなことから武器が使えるようになるかもしれないんだ。なら、その時まで攻撃を只管避け続けてやる!

ヴォイドを展開して、カタパルトに脚をはめる。山田先生の声とリンクして、目の前に表示される数字が一つずつ小さくなる。

 

「杠桜華、出ます!」

 

カウントが〇になるとカタパルトが動いて、僕を高速でアリーナへと飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 千冬

 

「行きましたね」

 

「ああ」

 

私は麻耶の言葉に相槌を打つ。それにしてもあいつめ、会った時と比べて随分良い顔を見せるようになったじゃないか。あの様子だと、番狂わせもあり得るかもしれんな。

一夏もあの様な顔付きをして欲しいものだな。いや、あいつにそれを求めるのは酷か…

 

「何だかさっきの織斑先生、お母さんみたいでしたね!」

 

「私は身内ネタでからかわれるのが嫌いだ」

 

ゴつんッ!!

 

私の右拳は反射的に麻耶の頭を捉えていた。

 

「い、痛いですよ〜。織斑先生」

 

今のは麻耶が悪い。何年も連れ添っていて、それが分からない訳がない。

 

「やってくれよ…桜華」

 

私の言葉は吹き荒れる風と共にどこかへと流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 桜華

 

 

ピットから出ると、両手に大きなライフルを握ったオルコットさんが高い地点に居た。僕は蒼いISに身を包むオルコットさんの所まで危なげなく飛翔し、目の前でピタリと止まる。

 

「あら、逃げずに来ましたのね。てっきり来ないものと思いましたわ」

 

「僕も出来たら逃げたかったんだけどね…」

 

千冬さんにあそこまで言わせたんだ。それで逃げてしまったら後が怖すぎる。

それに、頑張るって言っちゃったしね。自分の言葉には嘘をつきたくないよ。

 

「それが貴方の専用機ですか…凄い小さいですわね、ふふっ」

 

オルコットさんが笑うのも無理はない。ヴォイドはそれぐらい小さい。生身の人間と大きさが少ししか変わらないヴォイドは、オルコットさんの乗るIS、『ブルー・ティアーズ』と比べると大人と子供だ。だけど…

 

「例え小さかろうと、僕の大事な専用機なんです…笑わないでください」

 

普段の僕なら絶対に言い返さなかっただろう。だけど、今は本気でオルコットさんに勝とうと思っているから言い返す。

こんなことも言い返せないようじゃ、勝てるものも勝てないよね。

 

「生意気ですわね。ですが、貴方にわたくしから最後のチャンスを差し上げますわ。

もし、今までの非礼をここで詫びて、泣いて土下座をすれば許してあげてもよくってよ?何てったって、私が勝つのは自明の理なんですから」

 

「確かに僕じゃあどう足掻いたってオルコットさんには負けるかもしれない。下手すると何も出来なくて地面を這いつくばるだけになるかもしれない…

でも、僕はもう決めたんだ。君と戦うって」

 

「そうですか…ではーー」

 

ヴォイドからライフルで狙われていることが告げられる。

 

「お別れですわね!!」

 

僕達の会話を待っていたかのようなタイミングでブザーが鳴り響き、試合が開始された。

そして、僕はライフルから溢れる光で身体を撃ち抜かれ…

 

「あら、避けれたのですね」

 

撃ち抜かれることなく余裕を持ってレーザーを避けることが出来た。まぁ、あんなに撃ちますよ感を出されたら、避けれない方が可笑しいよね。

 

「俺にもISをつきっきりで教えてくれた人がいたからね!」

 

この言葉から十五分の時が流れた。オルコットさんは執拗にライフルだけで攻めるも、僕は全弾回避出来ている。

これもひとえに先輩との特訓のお陰だね。試合が終わったらMiコーヒーでも奢ろうかな?

そういえば、前に先輩がMiコーヒーを僕からくすねて飲んだとき「不味い!」って言ってたよね…むっ、何だか腹が立ってきた。

おっと、そんなことばっかり考えてたらレーザーに当たりかけた。ていうか、レーザーライフル一丁だけで僕を当てれると思ってるその過信が間違いだよね?

一夏の家に居候してからというもの、色んなゲームを買ってプレイしては売ってを繰り返した僕からするとヌルゲーにも程があるよ。

そりゃあ、先輩には苦汁を舐めさせられまくったけど、ハイパーセンサーを十全に使える様になった今の僕に死角なしだよ!

 

「随分と避けるのがお上手ですわね。ところで、武器は出さないのですか?」

 

「出したくても出せないんだよねーこれが」

 

オルコットさんの言葉に軽口で返す僕。

何だろう?もしかしたら、戦いになると性格が少し変わっちゃうのかな?普段だとこんな人を煽る台詞は吐かないのに…いや、ゲームしてたときには吐きまくってたか。

 

「貴方はそうやってまたわたくしを…!ですが、お遊びはおしまいですわ。

踊りなさい!セシリア・オルコットと第三世代兵器(ブルー・ティアーズ)の奏でる円舞曲(ワルツ)に!」

 

ブルー・ティアーズの背部に付いている四つのフィンがパージされたかと思うと、僕目掛けて飛んでくる。

これが先輩が言ってた第三世代兵器って奴なんだ。イメージインターフェイスがどうちゃらこうちゃら…もう、わっけわかんないよ!

それにしても、四つのフィンの名前は『ブルー・ティアーズ』って言うみたいだね。俺が乗るブルー・ティアーズのブルー・ティアーズが火を吹くぜ!的な?言い辛っ!?

びっくりする位くだらないことを考えていると、ブルー・ティアーズ略してティアーズの先端部が光りだす。あっ、もうこれ先が読めたよ。レーザーが出るんでしょ?

僕は前もって回避すると、予想通りレーザーが僕の元居た場所を貫く。成る程ね、今からレーザーの砲門が五つになるんだ…

キツくないですかこれは?確かにさっき、ハイパーセンサーを十全に使えるとかほざきましたよ?けどね、ただ見えてるだけで身体が追いつかないの。

何とか避け続けるも、次第にボロが出始めたのかレーザーがかすり始める。そして、ついにーー

 

「あああああッ!?」

 

僕の身体に一筋の光が貫通した。

その後は集中力が切れたのか、光が身体を何度も通過していく。最初は六五〇もあったシールドエネルギーも、残す所一二七。

絶対絶命。僕は現状を打破しようと足掻くも、結果は誰もが予想した物に近づいていく…

くそッ!もうどうする事も出来ないの…!?此処までやったなら絶対に勝ちたい!勝ちたいよぉ!!

勝ちたい。心の底からそう願う気持ちがが届いたのか、ヴォイドからこんなメッセージが表示された。

 

『コレハチカラ。ヒトノココロヲツムイデカタチヲナスツミノオウカン…

アナタハコノウンメイヲセオウカクゴガアル?

YES/NO』

 

い、一体このメッセージは何なの?頭にはこのメッセージのことで一杯になり、それはオルコットさんに大きな隙を与える事になる。

 

「頂きましたわ!」

 

「あぁああああ!!」

ズカァンッ!!

 

身体に五つのレーザーが貫いた衝撃に、思わず声を荒げる。そして、僕はヴォイドに乗っていることを忘れてしまい、コントロールを失って地面に墜落した。

ああ、頭がすっごく痛い…それに、身体の節々も悲鳴をあげている気がする。もう、諦めようかな?僕、頑張ったよね?だってさ、オルコットさんに第三世代兵器を使わせたんだよ!初心者にしてはかなり食い下がった方なんじゃないかな。

眼を閉じる。ヴォイドからアラームが鳴りっぱなしだけど、そんなことは頭の外にやってただただ、考えるのを放棄した。

何秒、いや何分そうやって目を瞑っていたかは分からない。だけど、沸々と心の底に芽生えた勝利への渇望が意識を手放さないでいた。

 

『コレハチカラ。ヒトノココロヲツムイデカタチヲナスツミノオウカン…

アナタハコノウンメイヲセオウカクゴガアル?』

 

脳内に再生されるメッセージ。メッセージの内容は全く理解出来ない。でも、オルコットさんに勝てるのなら…何だってやってやる。

ボロボロになった右腕を動かし、YESをタップした所で僕は力尽きてしまう。だけど、YESをタップしたせいか走馬灯の様に知らない景色、知らない人の記憶が瞼の裏に映し出されていく。

 

『ーーいのり、さん。

ーー俺達は淘汰されるものに葬送の歌を送り続ける、故に葬儀社。

ーーいのり、君を信じてもいいかな?

ーーいのり、今助けにいくよ。

ーー集はなれるよ、王様に。

ーー僕が、この世界の王になる。

ーーでも、私が好きなのは…集が人だから。悲しいくらい、人だから…

ーー僕は、今こそ僕を曝け出す!

ーーいのり、一緒にいこう』

 

瞼の裏に流れる光景に()()()を覚えつつも、走馬灯が白い光に包まれる。

そろそろ、ほんとに限界だよ。何かあるなら、早く…そう思っていると、白い光が段々晴れてきた。その先にある光景に対して、僕は…

 

『ーー桜華(シュウ)、私を使って…』

 

手を伸ばした。

 


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