インフィニット・ストラトス 『罪の王冠』(リメイク版) 作:超占時略決
Side 桜華
むしゃコラむしゃコラ…
僕の目の前には小柄な怪物が居る。
女の子に対して失礼なもの言いなのは十分分かってはいるけど、僕はさっきから驚きを禁じ得ない。そう、目の前のほんわかそうな女の子、布仏さんにだ…
ことの始まりはこのパーティが始まる二十分前に、食堂に着いた僕に布仏さんが話しかけてくる所から始まる。回想スタートっ!
ドスッ
「ねえ〜、ゆずリン」
突然、僕は背後に何かがぶつかって、ほわんとした声音と共に誰かに身体をぎゅーっとされる。
この話しかけ方と微妙なセンスのあだ名はまさか…身体から手を引き剥がしてから後ろを振り向くと、制服を改造して袖をながーくしていて何時もほんわかにっこりな布仏さんが居た。
「布仏さん、話しかけるときに毎回タックルしてくるのはやめてほしいな…」
「てひひひひ。そりゃあ、ゆずリンが抱きつきやすいからだよ〜。
それより〜、セッシーに勝っちゃったね〜。おめでとー、だ〜いど〜んで〜ん返しってやつだね〜」
抱きつきやすいって、そんなの初めて言われたよ…それに、女の子が男に言うセリフなのか?
そんなことは置いといて、セッシーってまさかセシリアのことなのかな?多分そうだと思うけど、この子のあだ名って何処か微妙だよな…今回はネッシーのパクリみたいなあだ名だし。
「あ、ありがとう、ございます」
「それでね〜、かいちょ〜を紹介した私は何かご褒美的なものが欲しいのだー!」
「そりゃあ、先輩のお陰なのは分かるけど布仏さんは何もーー」
「お菓子とかお菓子とかお菓子とか!」
「ぼ、僕をそんなほんわかした表情で見ても奢らないよ…」
「だめ、なの…?」
今にも泣き出しそうです!と主張する潤った目をこれでもかと見せてくる。目尻には涙が溜まっていて、何時零れ落ちるかが分からない。
女の子の涙を男に使うなんて反則じゃないのかな?こんな状態の布仏さんを放っておいたら、間違いなく泣くだろう。
そして、僕は明日からほんわか女子を泣かせた鬼畜男子として堂々のメジャーデビュー。はぁ…
「はい…是非奢らせてください」
「やった〜〜!!ねぇ、どれくらい食べてもいいの?」
えっ、待って今の…嘘泣きなの?嘘でしょ…!嘘泣きっていう搦め手までしてそんなにお菓子が欲しいのか、この子は。
実は、布仏さんは大物…?ほんわかした雰囲気で皆を騙しているの…?
「どれくらい、でしょうね?えーっとーー」
「お腹いっぱいになるまでがいい!」
元気よく可愛らしく言うけど、この暴挙を僕は許す訳にはいかない。
大体だよ?僕は布仏さんから難癖を付けられて、女の子っていう武器を使われて無理やり奢らされている立場なんだ!これはいわばカツアゲですよ!
僕はカツアゲなんかに屈しない…!男の立場が弱くなって早十年、男はどれだけ女の子に奢らされてきたか。その数は数え切れない程だろう。
だがしかし!僕は世界で二人しか居ない男性IS適合者、つまり女の子と同じ立場の人なんだ!だから、僕は勇気を振り絞って堂々と布仏さんの言葉を斬らせてもらーー
「ゆずリ〜ン、だめ?」
くぅーっ!か、可愛い…だと!?泣き顔で責めるのではなく純真無垢を演出することで、僕の中に眠れる保護欲をそそろうという魂胆か…
ふっ、布仏さんよ!甘い甘過ぎるわぁぁぁぁ!!魂胆が分かれば耐えることなど造作もないこーー、そ、そんな目で僕を…僕を見ないでぇぇぇぇ!!
「だめじゃ、ないです…」
結局、布仏さんに負けてしまった…でも、一つ気づいたんだ。女尊男卑の時代がくる以前の時代から、男は女の子にものを奢っていたってことを。
まぁ、そんなわけで布仏さんにお菓子を奢るハメになったんだけど、食べっぷりが凄い。もう胃袋に怪物でも飼っているの!?て言いたくなるスピードでお菓子、チョコレートやポテトチップス、スナック菓子、アイスクリームなどなど様々な種類のものと僕の財布のお金、野口さんが消えていく。
「信じられませんわ!?」
思わず、セシリアの口調を無意識に真似るぐらい驚いている。そして、当の本人はと言うと…
「何かジュースがほしいな〜!なんちって!」
新たな注文を所望してきた。いや、もう良いんだけどね!ここまで来たら、布仏さんがどこまで食べるか楽しみになってきたんだからね!
次はジュースか…布仏さんにもMiコーヒーを飲んでもらおうか。決して、僕以外の人が微妙って言ってたから布仏さんに飲んでもらって少しでも食欲を奪おうだなんて思ってないよ?ほんとだよ?
「はい」
「ありがと〜、ゆずリン!」
百点満点の笑顔、一二〇円です。買えるのは小銭と野口さんだけ。
くだらないことを考えている間に布仏さんはMiコーヒーに手を伸ばし、プルタブを弾いた。プシュっと音が鳴った後、ごくごくと勢いよく飲んで、ぷはぁーって言った後に一言。
「美味しいよ〜このコーヒー!!もう一本買ってきて〜」
な、何だと…Miコーヒーをもう一本買ってこい、だと!?そ、それってもしやMiコーヒーの美味しさに布仏さんが気づいたッ!?
「ハイ!喜んで買ってきます!!」
「し、信じられませんわ…」
僕達の存在に気づいたセシリアがさっきまで僕が座っていた席の横に立って、この光景をまじまじと見ながら言った。今では開いた口が塞がらない状態に陥っている。
僕も分かるよ。布仏さんがここまでお菓子に執着があるなんて思いも寄らなかったよね?
「あんなものを飲みたいだなんーー」
「よし、セシリア。君にはMiコーヒーの魅力をたっぷりと味わってもらうために僕が奢ってあげるよ。Miコーヒーなしじゃ生きていけない身体になるまで、ね」
「ヒィィッ!?」
「おーい、桜華!何やってるんだよ?って、お菓子食ってるの、のほほんさんだったんだ…」
このパーティの主役である一夏が、隣に篠ノ之さんを連れて僕達に声をかけてきた。
ちっ、
「ヒィィッ!!」
「如何した?セシリア」
「何でもありませんわ…おほほほほ」
どうしたんだろう?セシリアの顔が真っ青になって、身体がぶるぶると震えてるけど大丈夫かなぁ?まぁ、本人が大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうけど。
それよりも、のほほんさんって…布仏本音さん、のほとけほんねさん、のほ…ほんさん、のほほんさん!!おおっ!?のほほんとした雰囲気の
「僕はのほほーーごほん。布仏さんにお菓子を奢らされたから、その食べっぷりを見てるんだ」
思わず、僕ものほほんさんって言いそうになるぐらいしっくりくるあだ名だったよ。布仏さんもしっくりくるあだ名を一つぐらい言ってくれないかなぁ?
「これはね、正当な報酬なんだよ〜オリムー」
オリムーってまさか一夏のことだよね…やっぱり微妙だなぁ。もっとこうさ、あるじゃーん?いっちーとかいっちかーとかさ。
あーっ!最後のはただ名前を呼んでるだけだったー!ゆずリンミステイクッ!!
「そ、そうなんだ…桜華もこっち来いよ?楽しいぜ」
「パス。僕は目立ちたくないんだ。普通の学園生活を送るために」
「いや、桜華さんの状況的にそれは無理だと思いますわよ?」
「やっぱりそうだよね…」
「アハハハハ…」
陰でひっそりとしたいタイプなのに、あれよあれよとここまで来てしまった。
もう、一生分目立ったよね?四月ニ日から僕の情報が解禁されて顔写真付きで全世界に晒されたし、携帯電話には知らない番号から電話が鳴りっぱなしだし…
中学のときの友達、弾にメールで報告したら『一夏共々爆発しろぉぉぉ!!』って返ってくる始末。藍越学園、行きたかったなぁ…
「はいはーい!新聞部でーす!噂のクラス代表者を取材しに来ました!あっ居た、織斑君みぃーっけ!」
そんな声と共にこちらに近づくのはリボンの色を見る限り二年生の、カメラを首にぶら下げた新聞部を名乗る女の子だ。
「はい、こんばんわ。私の名前は
「は、はぁ…」
「ついでに杠君も!逃げないでね?」
「は、はい…」
僕が逃げる選択肢を取る前に先に潰された。もうね。嫌な予感しかしないよぉ…ぐすん。
「えっとー、まず最初は織斑君!クラス代表おめでとう!んで、代表になった感想は?」
「が、頑張ります…」
「面白くないなぁ…なんかないの?俺に触れると火傷するぜ、的な」
「自分、不器用ですから」
「前時代的だねぇ〜。まあいいや、面白くないから適当に捏造しとくか」
嫌な予感が的中した瞬間だった。一夏も項垂れてるし、僕も標的にされるんだよね。はぁ…
「じゃあ、次はオルコットさん!杠君と戦ってみてどうだった?」
嘘、だろう…?一夏→セシリアって流れだと、ラストは僕ってこと、なのか。何このプレッシャー。
「えーっとですね…まず桜華さんと何故戦う流れになったのかについてからお話させてーー」
「長くなりそうなんでいいや」
「あ、貴方ねぇ!!」
「織斑君に惚れたってことにしよう!」
「それは違いますわ!?どちらかと言われますと桜華さんの方が…」
セシリアが最後の辺り早口で言ったけど、なんて言ったんだろうね?全く聞き取れなかったよ…
「へぇ、そうなんだ。じゃあ最後は杠君!君には幾つか質問するね?」
無視しよう。こういう輩には無視が一番効くはずだよねうんそだ予想にキマッーー
「質問するね?」
「はい…」
はぁ…もうね、ため息しかでません。
「じゃあ、まずはオルコットさんと戦った感想は?」
いきなりハードですなぁ。まぁ、セシリアにも同じ質問してたから聞かれるかなー、なんて思ってたけどね…
セシリアからの視線がすんごいの。そりゃあ気になるのは分かるけど、見過ぎだから!そんなに見たら僕の身体に穴が空いちゃうよ!!
「つ、強かったです!僕じゃあ言葉に表せないほど本当に強くて、何度も心が折れそうになりました。勝てたこともまぐれだったと思いますし…」
「何で心が折れなかったの?」
この人は…ぐいぐいきすぎじゃないかな?それにセシリアだけじゃなくて、一夏と篠ノ之さんも「私、気になります!」みたいな視線を向けてくるし。
けど、どう返したらいいんだろうか?まさか無意識に口走った箇所を聞かれるなんて思いもよらなかったし…あっ、そうだ。
「僕はある人に言われたんです。いつまでそこに立ち止まってるつもりって。僕は多分、心の何処かで諦めていたんです。僕以外の色んなもののせいにして…
だけど、僕はもう立ち止まるのをやめたんです。例え地面に這いつくばったとしても、逃げるよりはましだって思ったので」
「そうなんだ…」
うん、嘘は言ってないよね?実際に(茶番でだけど)楯無に言われたし。それに千冬さんの勘違いを解くより、勘違いし続けてもらう方が長生きできますしおすし。
「なんだか変な話をしちゃいましたね、ごめんなさい。適当に捏造しちゃってください」
「え、ええ。じゃあ最後に織斑君に何か一言!」
「一夏は土壇場で力を最大限出せる人間だと思います。ですから僕は信じてます。代表戦にも勝てるって…」
照れた一夏はちょっと、いやかなり気持ち悪いけどこれは心の底から思ってることなんだ。
何というか、時折人が変わってるんじゃないのかって疑いたくなるぐらい変わるんだよね。しかも、その変わるタイミングは狙ってるのかって言いたくなるぐらい重要な場面だし…
「ありがとう。じゃあ、最後に専用機持ち3人の写真を一枚ちょうだい?」
その声を聞き、一夏を中心にして僕、一夏、セシリアの順で並んた。セシリアは何故か僕の隣で写真に写りたいって言ってたんだけど、黛さんがセシリアの耳元で何かを言ったら、セシリアが目にも留まらぬ速さで動いてこの並びになった。
黛さんが何を言ったのか気になるけど、知らない方がいい気がするから、そのことに触れないでおこう…知っちゃったら、もう後戻りできないと思うし、ね。
「じゃあいくよー?1+2×1-1÷1はー?」
「「「「「イチぃぃぃぃぃ!!!」」」」」
パシャッ!!
「セシリアだけには独り占めをさせないよ!」
「そうだそうだー!」
カメラのフラッシュが光るまでの間に皆が僕達の後ろに立って、写真に映り込んだみたいだった。
ていうか、1+2×1-1÷1って2じゃないの?あれ、これってもしかしてツッコンじゃだめなやつですか…はい、ごめんなさい。
「ま、クラス写真としてならいいか。じゃ、またね〜」
こうして黛さんは去っていった。ふぃー、そろそろ僕も帰りましょうかnーーうん、右腕が若干重い?
右腕を見ると、背筋を伸ばしたせいでぷらんぷらんとぶら下がっている布仏さんの姿が。
「の、布仏さん!いつの間に!?」
「てひひひひ」
「の、布仏さん!貴方ねぇ!!」
「わぁ〜、逃げろ〜」
「待ちなさい!!」
ぬるぬると人の隙間を縫っていく布仏さんを、人を威圧で退かしながら追いかけるセシリアは側から見るとシュールだった。
暫く、二人を見ていると僕の周りには人が居なくなり、少し静かになった。どうやら、一夏の周りにまた、女の子が大勢で殺到しているようだ。
パーティのノリに任せて一夏にドキッ!アピール大作戦!?的な雰囲気を感じる。一夏、ファイト!僕は先に帰るから、後は若いモン同士で、ね?
とことこと食堂を離れていく。途中、一夏の声が聞こえたのは気のせいでしょ?
寮の部屋に着くと、バタバタしながら部屋を整理してる楯無が居た。「何やってるの?」て聞くと…
「引っ越しよ!」
「はい?」
「桜華くんには今日から、隣の部屋で生活してもらいます」
若干イライラしている楯無から告げられたのは、平穏な時間が確保されるという吉報だった。
あれ、ちょっと可笑しいよね?いや、アレだよ?引っ越し自体は何も可笑しくはないけど、分かった。僕が引っ越しするのに楯無がバタバタしてるからだ!
何でバタバタしてるの?えっ、その鞄って僕がこの部屋に暮らせって言われたときに持ってきた奴だよね。てことは、だよ。
「まさか、さっきまで整理してるのって僕の荷物かな?」
「そうよ。この『SMグッズtoday!』ていう本とか『今週のお姉さん』ていう本とかを桜華くんの鞄にーー」
「それは僕の荷物じゃなぁぁぁぁい!!」