ワーロック Journey of warlocks   作:ざらめ屋敷

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第一章 〈01〉合流

夜が更け空が明るくなってきた頃、赤毛の女は路上に陣取るとバックパックを後ろに

置きジーンズのポケットからおもむろにオカリナを取り出しゆっくりと息を吹き込む。

どこか悲しい音色が早朝のイギリスに響く。

その音色はどこか人を不安にさせるものだった。そのためか通行人の中にチラチラと

オカリナを吹く赤毛の女性を迷惑そうな顔をして見る人もいた。

が、オカリナの音色はどこか悲しい音色から軽快な音へと変わりつつあった。

赤毛の女は目を瞑り集中する。

オカリナに息を一定のリズムで吹き込み、それに合わせて塞ぐ穴も変えなくてはなら

ない。赤毛の女が演奏している曲はもう終盤に差し掛かっていた。

この曲の終盤はテンポが速くミスする事が多い。そのため緊張と不安に押しつぶされ

そうになる。しかし、そんな心配は無用とばかりに無事演奏を終える。

赤毛の女はオカリナからそっと口を離し、ゆっくりと目を開ける。

と同時にいつの間にか集まっていた聴衆のたくさんの拍手が彼女を迎えた。

赤毛の女とオカリナが奏でる音色に魅了された多くの通行人が足を止めて彼女の演奏に

聞き入っていたのだ。

赤毛の女は深々とお辞儀をするとバックパックから桐の箱を取り出し、聴衆の前に

置いた。聴衆は次々にお金を桐の箱に入れていき目的地へ向かう。

やがて、先程までオカリナを演奏していた赤毛の女を食い入るように見つめる一人の男

だけが残った。

男は彼女が、お金が入った桐の箱をバックパックにしまうのを見届けてから68ポンド

(約1万円)を落とした。それを赤毛の女が拾うのを見ながら男が言った。

 

「あいつらは君の素晴らしい演奏聞いておきながら、少ししか金を落とさなかった。

 でも僕は違う。君の演奏をちゃんと評価できる」

 

赤毛の女は68ポンドを拾ってから言い放った。

 

「それはどうも。でも価値観も評価も人によってそれぞれよ。他人の価値観、評価に

 ケチつけた挙句、金で女を釣ろうなんざ救いようのない男だね...」

 

男は馬鹿にされたことに苛立ちを覚えたが、顔には出すまいと笑って見せた。

赤毛の女は男の顔を見てから楽し気に笑うと

 

「ポーカーフェイスをするならもっと練習してからにしな。まあこれ以上言うとアンタ

 のポケットに入ってる折り畳み式のナイフで刺されそうだし黙ってあげるよ」

 

男は逆上し赤毛の女に脅し文句をわめきながらナイフを向けたが、背後から聞こえて

きたクラクションによって脅し文句はかき消されてしまった。

 

「おーい迎えにきたぜ、お嬢様?」

 

男の背後から、別の男が赤毛の女に話し掛ける。

男が振り向くと黒い革ジャンにダメージジーンズを着た青年が立っていた。

 

「お呼びがかかった。なに?ナイフを向けられた時の護身術でも

 教えてもらってるの?」

 

黒い革ジャンの男は赤毛の女とナイフを持っている男を交互に見てから言った。

 

「ばかっどう見たらそう見えのよ。あとお嬢様やめてって言ってるでしょ」

 

赤毛の女はバックパックを背負うと、黒い革ジャンの男が乗ってきた65年式GTOの

トランクにバックパックを載せてから

 

「ほらパリス行くよ。運転手がいなくてどうするのさ...」

 

パリスと呼ばれた黒い革ジャンの男は呆れたと言わんばかりにため息をつくと

赤毛の女を脅していた男の方に振り返り

 

「ところでおたく、どうして蛇なんて持ってんの?」

 

パリスの言葉を聞いて反射的に自分の手を見た男は絶叫した。ナイフが白い蛇になって

いたのだ。

パリスは白い蛇を振り払おうと必死になっている男を一目見てから笑い混じりに

 

「罰当たりめ」

 

と今は使われていない言語である〈アクロ語〉で囁いた。

パリスが運転席に座ると赤毛の女が興奮気味に言った。

 

「アンタいつの間にかあんな術身に着けたの?」

 

パリスは後部座席で蛇を振り払おうと必死になっている男を面白そうに見ている

赤毛の女、ラワールをルームミラーで見ながら

 

「日本のシャーマンにならった」

 

と返答した。パリスは車のキーを差し込み、エンジンをかける。

 

「それじゃ我らがリーダー、ジェネルを迎えに行きますか」

 

とアクセルを踏もうとした瞬間、後部座席のラワーズがパリスを止めた。

 

「待って。あの男の動画撮りたい」

 

「どうして?」

 

「Twitterにあげるから」

 

「.....」

 

パリスはアクセルから足を話すと男に同情した。ラワーズはヒトの不幸を見て

喜ぶ癖がある。こうなったラワーズを誰も止めることが出来ないことを知っていた

パリスはラワーズが満足するまで待つことにした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・

 

 

「ねえねえこれ見て、さっきの男の動画リツイートが89もついたよ!!」

 

運転しながらどう見ろと...パリスは心の中でぼやきながら車を走らせていた。

結局あの男の動画を撮るために10分も路上駐車する羽目になってしまった。

我らが主である〈フサルク〉が待っているというのに道草を食っていたなど知られたら

どんな目にあわされるか...

 

「ん?あっジェネルから電話だ」

 

パリスが道草がばれたときのための言い訳を考えているとラワールのスマートフォンに

ジェネルから電話がかかってきた。

 

「はっ!?なんでそんなところにいるの?はいはい、わかりましたよーだ」

 

ラワールはスマートフォンを胸ポケットにしまうと、パリスに渋々話かけてきた。

 

「ねえパリス...今からA-2に向かってちょうだい.....」

 

「はっ?何言ってんだこれ以上遅れたら〈フサルク〉に何言われるかわからないぞ?」

 

パリスは怒気を孕んだ声でラワールに反論したが、ルームミラーから見たラワールの

目そのものは真剣だった。

 

「ジェネルがA-2に来てくれって言ってるのよ。〈フサルク〉の件なら大丈夫だって

 言ってたわ」

 

ラワールの言っている意味が分からなかったが、どっちにしろジェネルを回収して

〈フサルク〉の元へ行かないとならない。パリスは交差点を右に曲がりA-2に向けて

車を走らせた。

A-2とは隠語である特定の場所を示している。それは...

 

「ねえパリス、A-2って何処だっけ?」

 

パリスは声が震えないように答えた。

 

「あそこは貧民層の連中のたまり場だ...そして.....」

 

パリスは一息ついてから吐き捨てる様に言った。

 

「〈食屍鬼〉と〈食屍鬼〉が崇拝する神〈モルディギアン〉の住み家だ」

 

ラワールはパリスの言葉に血の気が引いた。〈食屍鬼〉は別に怖くはない。

幾度となく戦い生き残ってきたラワールにとって〈食屍鬼〉は恐怖の対象としては

物足りなかった。しかし〈モルディギアン〉の名前をパリスが発した瞬間

全身の血が凍った気がした。

〈モルディギアン〉とは〈ゾシークの終焉〉と呼ばれる予言に登場する暗黒神であり

人類を統制すると言われている。

この予言を聞いたときラワールはよくある終末論だなと高をくくっていたが、

どの神話や口伝にも同じパターンの終末論が存在していることに気づき焦りを

覚えていた。が、所詮予言だと言い聞かせその事実を無視した。

しかし、ラワールは後に〈ゾシークの終焉〉を予言したのが紀元前1万500年前

現在グリーンランドと呼ばれている地方にいた〈ポラリオンの紅白巫女〉であることを

知り自分の愚かさを憎んだ。

何故ならラワールは〈ポラリオンの紅白巫女〉を尊敬しており自分の理想の人物像でも

あったからだ。〈ポラリオンの紅白巫女〉の予言を目をそらして無視したという事は

〈ポラリオンの紅白巫女〉への最大の冒涜であった。

 

「おいっおいラワール!!」

 

ラワールが一人回想にふけっているとパリスの名前を呼ぶ声が邪魔してきた。

回想を邪魔され怪訝な表情を隠さずパリスを睨むと、逆に睨み返されラワールは

委縮した。

 

「ジェネルは何処だ?」

 

一瞬パリスの質問の意味が分からなかった。しかし窓の外を見渡し車がA-2で止まって

いることを察した。ラワールはパリスにさぁ?と手を上げ首を振り仕草で返答した。

パリスはため息交じりにイギリス英語で

 

「今日は厄日だ」

 

とつぶやいた。パリスはやれやれと言わんばかりにシートに深々と座りなおした瞬間

大きな衝撃がパリスとラワールが乗っている65年式GTOを襲った。

 

「いい加減にしてくれよ...」

 

「ちょっと待ってパリス。今の衝撃下から来なかった?」

 

怒りで我を忘れかけていたパリスと違い、ラワールは先程の衝撃を冷静に分析して

いた。

 

カタンッ

 

何か重いものを持ち上げた様な音を聞きとったパリスとラワールは音のした方へ顔を

向けた。見るとマンホールの蓋が外れており、ゴムの様な皮膚とかぎ爪を持った黒い

人影がマンホールの穴から出てきた。マンホールの穴から出てきた黒い人影は

マンホールの穴の中に手を突っ込みマネキンを持ち上げた。

いやマネキンではない。あれは人だ。そのことに気づいたパリスはホルスターに

しまってある拳銃を急いで取り出そうとしたがラワールが後部座席から身を乗り出し

拳銃を抜こうとした手を止めた。

 

「バカっ何すんだよラワール!!人が、人が〈食屍鬼〉に襲われるんだぞ!!」

 

「バカはどっちだ、あの〈食屍鬼〉が持ち上げてる人をよく見てみな!!」

 

ラワールに言われた通り〈食屍鬼〉が持ち上げてる人を見てみると、よく知っている

人物だった。

 

「ジェネル!!」

 

ジェネルは〈食屍鬼〉に持ち上げられマンホールの穴から脱出すると腰に巻いている

ポーチから紫色の液体が入った試験管を取り出しマンホールの穴の中に投げ込んだ。

そして〈食屍鬼〉がマンホールの蓋を蹴ってマンホールに蓋をした数秒後に地下から

爆発音と複数の悲鳴が聞こえた。

その音を聞いたジェネルと〈食屍鬼〉はハイタッチをすると

 

「ありがとう、タカハシ」

 

と〈食屍鬼〉に日本語でお礼を言いパリスとラワールの乗っている65年式GTOの後部

座席に乗り込んだ。

 

「うわっ臭いっ!!」

 

と喚くラワールに

 

「そりゃあ下水に居たからな...いた理由は聞くなよ?」

 

とジェネルは端的に返した。

ジェネルはトレンチコートの袖を鼻に近づけ臭いをかぐと不快な顔をしてから

 

「お気に入りのコートだったのに...」

 

と母国語のフランス語で呟いた。

 

「それじゃ〈フサルク〉の元に向かいますよ」

 

パリスは徐行しながら車を出した。

 

「すまん。行く前にシャワー浴びてはダメか?」

 

パリスは返事の代わりにアクセルを踏み込み猛スピードで集合場所へ車を走らせた。




パリスはイギリス人、ラワールはアメリカ人、ジェネルはフランス人です。

彼らは感情的になると母国語でしゃべる癖があるので、そういうところもチェック
しながら読むと面白いかもです。
他にも今は使われていない古代の言語で仲間の陰口を言ったりなど愉快なメンツです。
今後のどんな会話(陰口)が飛び交うか...見ものですねw
例えばパリスが〈アクロ語〉でラワールの悪口を言った結果、ラワールは〈アクロ語〉が分からなくてもジェネルは〈アクロ語〉が分かるのでパリスがお前のことこう言ってたぜなんてラワールに報告されたらパリスはどうなることやら...

それにしてもこんな長文を書いたのは初めてです...疲れました。
次回は三人の主である〈フサルク〉の元へ行きます。
さんざん待たせたようですが大丈夫なんですかね?
...まあ待たされて怒らない人なんてそういないと思うんですがね

では待て次回!!

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