生き残り大尉の使い魔 作:シータが座ったァァア!!
青年が次に目を覚ましたのは、またしてもあのベット部屋だった。先ほどと違う点と言えば、窓辺から月明かりが注いでいる事と、中年男性の他にピンク色の少女がいる事だろう。
ひとまず、先ほど中年男性に声を掛ける。
「……! 目が覚めたのですね、ミスタッ!!」
言っておくが青年の名前はミスタではない。となるとミスタとは青年の、または男性に対する仮称なのかも知れない。
心底嬉しそうな表情をしている中年男性に、とりあえずは大丈夫だと伝える。
「そうですか、それは良かった……!!」
「……」
だんまりを貫くピンク色の表情が優れないが、今は無視しておく。
それよりも、と言って青年は話題を切り出した。自身が使い魔として呼び出された魔法は『コントラクト・サーヴァント』で合っているか、と。
すると中年男性は驚いたような表情で返す。
「なんと、そこまで分かっているのですか。平民でありながらそこまでの知識を……って、え?」
そこまで至って中年男性は考えを改める。
自身は今までこのピンク色の少女——ルイズが使い魔として召喚したこの青年は、あくまで平民だと思っていた。
しかし、呪文の種類までもを当てられるとなると、話は別だ。この青年は何処かのメイジである可能性がある。下手に出るのはマズい。
「あんた、なに者? 今朝まで意味不明な言葉だったのに今はちゃんと喋べれてるし」
しかし、そんなコルベールの危惧は目の前の少女、ルイズには分からなかった。あくまで青年は平民だと思っていたからだ。
しかし、青年はルイズの言葉には答えない。彼は彼で、目の前の事柄に夢中だったから。具体的には、自身の目の前に展開するウインドウに。
——これは……なんだ?
目の前に表示される画面に青年は、深い違和感を感じた。画面に表示されるは何かの訓練施設や機械工場が立ち並ぶ街並み。そしてこの街並みに青年は懐かしみを覚えていた。何しろ目の前のこれは、自分が今までいた基地の、航空写真と一致していたから。
懐かしみに負けてそのウインドウへと手を出した。
「!? な、何するのよッ!」
手を伸ばした方向、画面の後ろ側にて例のピンク少女が騒いでいるが、青年には関係ない。構わず手を伸ばした。
すると……半透明のそのウインドウに、青年に手が触れた。これは、青年が触れることが出来るのだ。
それと同時に知識が浮かび上がる。これは、どのように使うのか。
早速実行しようと手を動かすが。
「……!!」
何故かピンク少女に指先を噛まれた。これには流石の青年も悶える。指が、指がぁ! と何処かの大佐と同じような行動は流石に、取らなかった。
痛みを我慢しながら少女を深く艶い真黄の瞳で見つめる。いわゆるジト目という奴だ。
「な、何よ! 使い魔のくせに文句あるの!?」
少女は強気な姿勢は崩さない。ビクビクしながらも、プライドが許さない、という事か。
何となく、青年は彼女に仲間意識を持った。それと同時に、ワクワク感も湧いて来た。
故に、青年は答える。使い魔の件、宜しく頼むと。
「え? えっと……あ、当たり前よ! 主人だもの!」
彼女の強気な姿勢を心頼もしく感じ、ぽろっと笑顔が溢れ出す。こんな楽しそうな奴は、自分たちの所でもちゃんとやっていけそうだな、と。
青年はふと窓辺の方を見つめた。その先には真っ赤に輝く赤の月と、真っ青に輝く青の月、現実ではあり得ない2つの月があった。
——俺は、ここにいるぞ……
それは、誰に向けてのメッセージなのか、誰にも分からない。