生き残り大尉の使い魔 作:シータが座ったァァア!!
気分で投稿しています。
——さて、状況を掴もうか。
良い心地のベッドに寝かされていた青年はふとした拍子に目を覚まし、すぐさま周りを確認した。
回りには何やら液体の入った小瓶やら、包帯やら何やらが入った木棚や自身が横になっているものと同じベッド、小さなイスのようなものもある。
そして、その小さなイスに座っている頭が可哀そうな中年男性。彼は誰だろうか。
なんとかしてコミュニケーションを取ろうと思ったが……残念な事に、嫌な記憶が蘇ってきた。彼は自分とは違う謎の言語を喋る。まるで礁賊の意味不言語のように。コミュニケーションは取れないのだ。
「……ん、ああ、目が覚めましたか。どうですか、体調は?」
と、思ったが。どうやら話自体は通じるらしい。通じるならば通じるでさっきの時点でちゃんと喋って欲しいものだ。
ひとまず青年は此処が何処か尋ねる事にした。
「此処ですか? ここはトリステイン魔法学院です。そして貴方はここの生徒によって使い魔に召喚された人間、と言った所ですね」
……使い魔だと? それに魔法とはどういう事だ。
彼の言葉を聞いた瞬間そう問いただした。使い魔というのは青年でも分かる。魔女とかが使役しているコウモリとか、そういう類の奴だ。
そして彼は今、魔法学院と言った。使い魔の事といい魔法学院と言い、まさかここは魔法を学ぶ学校とでも言うのか。
「ええ、その通りです。私たちはメイジですから、当然ですよ」
またしても意味不明なワードが飛び出してきた。
メイジ、知らない言葉だ。恐らくだが、魔法使いに類似する言葉だろうと言うのは、この場所から何となく分かる。
が、納得は出来ない。魔法があるなど。そんな不思議世界に何故自分が迷い込まなければいけないのだと。
怒りが沸点し、自分の体温が急激に上昇するのが感じる。それはさながら、マグマを噴射しようとしている火山のようだ。
「……!!」
しかし、熱量の暴走は止まる事が無い。身体中が焼けるように熱く、酸欠のような症状が続く。それは青年が冷静さを取り戻した今でも変わらない。
そう、この熱量の暴走は怒りによるものでは無い。他の何かが、青年の身体を焼き壊そうとしているのだ。
「だ、大丈夫ですかッ!?」
青年の異変を感じ取った中年はすぐさま液体の入った瓶を手に取り、青年の衣服を脱がせ始める。
深碧のオーバーコートを脱がし、中に着ているワイシャツ他諸々も脱がせるとそこには、驚愕の事実が待っていた。
青年の胸元に中年男性——コルベール教員でも見た事が無いルーンがぎっしりと、何重に繋がり交差して刻まれているのだ。しかも、見るからに痛々しい血の赤文字で描かれており、更にはそこから血滴がポタポタと垂れ溢れている。
「……!! ちょ、ちょっと待っていて下さい!! 今すぐ水メイジを連れて来ますッ!!」
自分の所持する薬では効き目がない、返って逆効果だと判断したコルベールはすぐさま部屋の入り口の方へと駆け出す。
綺麗な作りのドアを乱暴に開けて、ドアの一片が勢いよく壁に激突する。しかしその際に発せられた音が青年の耳の中に入る事は無い。
何故なら青年の頭の中はグチャグチャになっていたから。
「……ッ!」
意味不明の言語に、知りもしない魔法などの知識、体術の使い方など、知りもしない知識や既に体得している知識など、種類様々な知識が脳内にインストール、すぐさま投影される。
脳内に映し出された無数の画面が一瞬になって消えていく。が、その瞬間に青年の頭に急激が痛みが走り、その情報が強制的に叩き込まれる。
しかし、悲劇が終わらない。画面は消えるとすぐさま新しい画面が登場。此方もすぐさま消え去り、脳味噌にダメージを当たえて1秒しないで消え去る。そしてまた画面が出てくる。
中年男性が何かを連れて来ると言っていたが、それを頼りに出来るような余裕は既に、青年には無かった。
——意識が薄れていく……
青年の視界が徐々に歪んで行く。フラフラと頭が揺れ出し、それを抑えようと右手を動かす。が、その頼みの綱である右手、右腕までも言う事を聞かずにブルブルと揺れるだけ。
何も出来ないと理解した青年は、抵抗することを辞めた。自分は何か、大きな何かに取り憑かれているのだと、理解したから。
最後に意識が消え失せる前、青年は静かに自身を此処へ連れて来た、名も姿も知らぬ他人を呪った。